コロナ禍と持病について

2020-11-20
コロナ禍と持病について
(心臓カテーテル手術への決断)

 2020.11.20 宮川 徹
はじめに
 中高年になりますと、大多数の方々が何らかの持病を持っていらっしゃると思います。長い人生においては「無病息災」が理想ではありますが、逆に持病を持っていることで定期的に通院し、健康確認(診断)してもらえることから、「一病息災」という言葉が現れるのが現代の医療事情とも言えそうです。今回はコロナ禍の中、一つの持病を持つ私が、手術を決断するに至った経緯をお話ししたいと思います。

1 持病の発症 
 始まりは40代(2000年代)の頃でした。定期健康診断にて「心臓肥大」の傾向があるということで、経過観察になりました。特に自覚症状があるわけでもなく、自衛隊の艦船勤務もそのまま続けていました。
 50代になり、東京の市ヶ谷で勤務しているときの健康診断で、初めて「閉塞性肥大型心筋症」という具体的な病名が告げられました。心臓は血液を全身に送るための、ポンプの役目をしていることは皆さんもよくご存じと思います。心臓から全身に血液を送り出す吐出口付近が肉厚となり、吐出口が狭くなっていく病気です。進行すると血圧の上昇、不整脈、失神、希に突然死という症状が出てきます。この時点で競技的な要素を伴うようなマラソン等の運動は止められてしまいました。しかしながら血圧が多少高い以外はこれといった自覚症状もなく、定期的な通院と投薬による治療が始まりました。
 
2 心房細動(不整脈)の併発
 自衛隊定年後も定期通院と投薬治療は続いていました。そして60代になった2018年、東京の私立中高等学校で警備員を勤めていましたが、春先の4月下旬、インフルエンザに罹患してしまい自宅にて療養していました。38℃以上の高熱が3~4日続いたため、体力がかなり消耗していました。床に入っていた明け方の5時頃、突然心臓が締め付けられるような痛みとともに動悸が激しくなりました。我慢できないほどの痛みであったため、妻を起こして救急車を呼んでもらい、救急病院にて治療が始まりました。
 最初は点滴による投薬治療でしたが、改善の兆候が見られないため、D/Cという、心臓に電気ショックを与える治療で何とか元に戻してもらい、2日間程の入院で退院することができました。
 病名は発作性の「心房細動」(不整脈)であり、その後は経過観察ということで、通常の生活が続いていました。ところが翌年の夏、炎天下で地元町内のお祭り準備中に同様の症状にて発症し、同じく救急車にて病院へ搬送され、同様の治療にて復帰しました。(下図参照)
 この時、発作が2回目であったことから担当医師に勧められたのが、心房細動を根治するための手術である「カテーテル心筋焼灼術(アブレーション)」というものでした。この時説明を受けたのが心房細動による二次的な被害の危険性についてです。心臓が不整脈を起こすことによる心臓内の微細な振動により「血栓」が発生し、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす可能性が大きくなるというものでした。医師からは血栓防止の薬等を処方してもらい、引き続き経過観察で定期的な通院により確認してもらっていました。

3 心臓カテーテル手術の決断
 年が明けて2020年2月、心房細動の発端がインフルエンザや炎天下での作業等、体調が著しく低下したときに起きていることから、新型コロナウィルスへの罹患が発端となって心房細動が再発することを懸念し、手術の実施を決断するに至りました。
 当初は4月中旬に手術を行う予定でしたが、新型コロナウィルスへの対応で緊急事態宣言が発令されたことにより、病院の対応が急を要さない手術については延期という事態になりました。結局、手術ができたのは緊急事態宣言解除後の6月下旬の事でした。

4 心臓カテーテル手術とは?
 「カテーテル心筋焼灼術(アブレーション)」とは、心房細動(不整脈)を引き起こす異常な電気信号が発生している心臓(主に左心房)の内壁部分をカテーテルの先端で焼灼し、異常電気信号の伝達を抑え込むというものです。具体的には、左心房には左右の肺から2本ずつ、計4本の肺静脈が繋がっており、肺で酸素を取り込んだ血液を心臓へ送り込む役目をしています。心房細動を引き起こす異常電気信号のほとんどが、これら4本の肺静脈が左心房に繋がった接続部の周囲から発生していることが、過去の症例から分かっています。そのため、肺静脈の左心房内開口部を囲むように焼灼することで、異常電気信号が心臓内壁を伝搬していくことを遮断するわけです。
 心臓の内壁を焼く手術なんて、昔であれば胸部を開放し、心臓も内部を開放しなければならないような大手術と考えるべきでしょう。しかし医学療法の発達により、医療機器の小型化、可視化が進み、患者の血管からカテーテルを挿入することで治具を心臓に到達させ、患者の身体外部から遠隔で心臓内部の治療が可能となったのです。
 手術のための入院期間は、患者身体への負担が軽いため4日程度で済みます。費用の総額は約240万円と高額でしたが、健康保険の限度額認定のおかげで負担額は6万円程度でした。なお負担額の実費については、定年後に入っていた医療保険で、ほぼ相殺することができました。

おわりに
 手術後5ヶ月以上が経過しましたが、1ヶ月検診、3ヶ月検診と何れも異常は無く、現在の処は通常の生活ができています。しかしながら単発で実施するアブレーションによる不整脈完治の成功率は約7割であり、私のように元々心臓に持病がある者は約5割程度までに低下するそうです。そのため、多くの患者が複数回の手術を実施して根治を期すようです。また、老化による身体機能の低下に伴い再発することもあり、生活習慣病と脱水症状を防止するための生活に努めることが大切です。