塩基性薬物(フリー体)の経口吸収率予測

2020-09-16
塩基性薬物(フリー体)の経口吸収率(Fa)は胃内での溶出に大きく影響を受けます。そこで今回紹介する論文では、胃内での溶出を記述する簡単な式が導入されています(Fd式)。胃内での塩基性薬物(フリー体)の溶出を考える際には、溶出薬物による胃酸の中和を、溶解度(bulk pH)および溶出速度(surface pH)の両者について、計算に組み込む必要があります。これらを考慮することで、固有溶解度とpKaから胃内での溶出を予測し、既に検証済みの小腸吸収モデル(当ブログ”本当の予測性とは?”参照)と組み合わせることで塩基性薬物(フリー体)のFa予測に成功しています。また、同時にPPIやH2ブロッカーなどによる胃内pH変動がAUCに与える影響の予測にも成功しています。

Matsumura, N., Ono, A., Akiyama, Y., Fujita, T., Sugano, K. (2020). Bottom-Up Physiologically Based Oral Absorption Modeling of Free Weak Base Drugs. Pharmaceutics, 12(9), 844.
https://www.mdpi.com/1999-4923/12/9/844
(オープンアクセスです)

今回、食後の胃の時間平均pHは 2.7に設定されています。従来、食後の胃pHはpH5以上に上がるとされていました。確かに一時的にはpH5以上に上がるのですが、文献を精査してみると、食後の(遅い)胃排泄速度と比較して、pHは速やかに通常のpH2.0程度に戻ることが分かります。したがって、薬物は食後であっても低pHの環境で溶解すると考えられます。まあ、よく考えれば、食後にペプシンが働くのですから、pHが下がるのは当たり前ですよね?また、食後でもPPIの同時投与で吸収率が大幅に低下する例が複数報告されています(論文中のRef参照)。

論文中にも記載しましたが、複雑なモデルでは全く予測できてこなかった塩基性薬物のFaについて、簡単なFd式tとFa式の組み合わせで予測できてしまいます。複雑な式は、たとえ本質を踏み外していても、実測データにパラメータフィッティングを行えば、いとも簡単に予測性が良いように見せかけることができます(実際には、カーブフィッテイングであり予測ではありません)。それでは、”本当の予測”にたどり着くことは出来ませんでした。やはり、簡単なモデルから出発するのが、モデル化のイロハだと、自分は思います。