主な活動場所
平常時は、①「研究会」として講演会やシンポジュウムを、共栄火災株式会社本社ビル等で開くほか、②協同組合運動の現場を視察、会報を発行。この5月から、メールマガジン=メルマガも発信しています。

 会報; 最新118号抜粋

2021-01-25
協同組合懇話会会報 NO.118   2021. 5. 20  
   
 発行 協同組合懇話会 代表委員 今尾 和実  
       〒105−0003 港区新橋1-8-6共栄火災ビル 
        電話・FAX 03−3593−0488
        Email:kyoudokonwakai@kkh.biglobe.ne.jp

〜〜〜目次〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
論壇  大きな疑問 岡山 信夫
1月研究会講演 
*農福連携:その未来と協同組合への期待 
    日本農福連携協会会長 皆川 芳嗣
*農福連携の可能性 農福商工連携と農生業へ 
    日本農福連携協会顧問  濱田 健司
協同組合の日 記念講演 日本の生協の事業と活動
  ~協同組合間の連携      日本生協連会長 本田 英一
2020年「納めの会」記念講演
  回顧 コロナと農と協同と 日向 志郎  
中山間地域農協の移動購買車事業活動の展開
  東京農大名誉教授  白石 正彦・・・19
登録品種の自家増殖に許諾制を導入
 ~ 改正種苗法をめぐる4つの論点     松澤 厚
第41回通常総会、「協同組合記念日の集い」を開催       
<コラム> 人新世で地球と人類は破滅するのか?/
      ストリートチルドレンから教わった助け合いの心
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論壇  大きな疑問 岡山 信夫 (農林中央金庫OB)

「大きな疑問が一つある。……邪が栄えて正が虐げられるという、ありきたりの事実についてである……」とは孔子の高弟、子路の話である。
 私には大きな疑問が多くある。
 何故、2008年リーマンショック、11年東日本大震災、12年国際協同組合年など市場優先・資本優先の政策運営を見直す契機があったにもかかわらず、軌道修正されないばかりか13年初から再開された経済財政諮問会議などの主導により新自由主義の色彩をより強めることになったのか?
 何故、諮問会議のメンバーは「総合的・俯瞰的」でなく、いつも同じ主張の人ばかりなのか?  
この人達が好んで使う「異次元」とか「非連続」という空疎な言葉で、実体を軽視し、研究蓄積を無視し、根拠のない数字を「KPI(Key Performance Indicator)」にしようとするという無軌道が何故許されるのか?
 何故、SDGsの17色のバッジをつけて、原発の必要性をしたり顔で話せるのか? 東京電力福島第一原子力発電所事故が明らかにしたとおり、原発は持続可能性の対極にあり最悪の環境汚染・生活破壊を引き起こす。脱原発を決定したドイツ倫理委員会は「核分裂性物質の拡散を避けることを完全に達成することは、その源泉を最終的に閉じ、他のエネルギー源と取り替える場合にのみ果たしうる」と断じているが、そのとおりである。
 何故、わが国の農業協同組合は海外からの評価が高く、国内ではそれほどでもない(というか、しばしば実体無視で批判の対象にされる)のか?
 第22回JA全国大会(2000年)で決定された「21世紀を『競争』という枠組みでとらえるのではなく、『共生』を基本とすべきである」とする基本方針が色あせることはない。いつの世にも競争はある。競争がある以上、競争に敗れる側の悲哀が社会の進化には底流する。「自己責任」という冷たく狡猾な言葉で突き放してはならない。
 協同組合懇話会の活動が、様々な疑問について考える機会になり、ゆるやかな変化ながら、共生の社会を目指す方向に少しずつ変えようとする力につながれば幸いである。


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2021年1月 研究会講演
農福連携:その未来と協同組合への期待 (基調講演)
      ㈱農林中金総合研究所理事長、
       日本農福連携協会会長 皆川 芳嗣

1.私が何故、農福連携に関わることに・・・
 私が農福連携に何故関わることになったか、からお話ししたいと思う。私は家族に知的障がいを持つ息子がいるということで、当事者でもあったのだが、みなさんと同様に職業人生のなかでは、家の事情で仕事が左右されたり選んだりということはなかった。
 仕事と家の事情とは分断されていたということだが、息子が通う支援学校の状況、さらには支援学校を卒業した後どうなるかということを見ていると、社会的に居所(いどころ)がない人たちがいるんだな、ということに気付かされざるを得ない。そういうことで問題意識を少しずつ持ち始め、「農福連携」に徐々に関わるに至った。
 本省勤務においては直接この課題に関わる機会はなかったが、関東農政局長を1年半務めた時期がよいきっかけになった。管内(栃木県)にこころみ学園という施設があり、視察する機会を得た。いきいきと働く障がい者の姿を見、そこで生産されるワインの評価が高い(手作りによるきめ細かい生産で高い評価を得ている)とお聞きした。また、休日を含め管内いろいろなところに行ったが、なかでも榛名山麓で園芸療法をされている近藤さん(フラワービレッジ倉渕生産組合)を訪ねた際には、障がい者に農業に携わってもらう様々な取り組みを見せていただき、農福連携への思いを強くした。このような経験から、農福連携を先進的に進めていた中国農政局の取組みを参考にして関東農政局に農福連携協議会を立ち上げるに至った。
 関東農政局から林野庁に異動後も、関わりを維持したいとの思いがあった。林野庁では、木材利用の促進を政策として進めていたが、高齢者施設、幼稚園、そして障がい者の生活の場が木質環境であることが様々な面で望ましいということがわかっており、それらの施設での利用促進に注力した。
 次官時代には農福連携にさらに踏みこむ決定的な出会いがあった。次官会議の際、私の隣に厚生労働省の村木厚子さんがいらっしゃったのだ。会議の都度、いろいろな話をさせていただいたが、村木さんも農福連携に強い関心を持たれ、「一緒にやろう」ということになる。まずは、役所の中庭で農福連携の農産物等を売る「農福マルシェ」を始めることとした。大臣にも参加してもらう等、いろいろ工夫もして多くの人に関心を持ってもらえたと思う。こうして、このような活動が、のちに日本農福連携協会の設立につながった。

2.2018 年、(一社)日本農福連携協会設立
 2018年に一般社団法人日本農福連携協会が全国の農福連携に関わる団体を包括するプラットフォームとして設立された。前身の「全国農福連携推進協議会」では次に研究報告される濱田健司さんが代表をされていたが、広告塔のような役割も担うということで私が会長、村木さんが副会長となった。もともと、社会福祉系の方々が多くいらっしゃったのだが、農のサイドでより活動しやすいよう、農の世界での認知度をアップさせよう、ということで私が会長職をやるということになった。濱田さんには顧問となっていただいている。
 協会の活動を支える有力な存在が県知事たちのネットワークだ。若い知事たちには高い意識がある方々がいて、頼もしい存在となっている。

3.2019年,農福連携推進会議の発足と
 農福連携等推進ビジョンの策定
 関係各省にも連携の輪が広がり、2019年4月に農福連携推進会議が発足した。この会議は「福祉分野等との連携における農山漁村の再生への取組推進について、実効ある方策を検討するため」とされ、議長は菅官房長官、副議長は厚生労働・農林水産両大臣、構成員として法務・文部科学・厚生労働・農林水産各省の幹部職員が入り、民間有識者として農福連携に取り組む社会福祉法人の方々や農業法人代表、経団連、全中(中家会長)などの方々が入り、私と村木さんも有識者メンバーとなった。
 文科省は障がい者教育を所管しているが、18歳を超えると障がい者の面倒をみる人がいなくなるというのが、今までのケースだった。「福」という面でみると、「福」が足りないことで、様々な社会事象が起きる。場合によっては犯罪につながることもあり、犯罪者として刑務所に入る、あるいは少年院に入る、ということが不幸にして生じている。どうしてそうなってしまうのか。原因をたどると、教育とか福祉の問題もあってそこに至ってしまった、ということが多いのではないか。
 生まれ落ちたときから犯罪者、などという人はいない。社会のサポート・教育で十分にカバーされなかった結果、という面がある。法務省がこの会議に入っているのは、とくに矯正行政・保護行政という法務省が関係する分野でこの会議に関わって行こう、という考えによるものだ。
 このような経緯で、内閣官房、農林水産、厚生労働、文部科学、法務という関係省庁が入った推進会議ができた。そこに前述のとおり福祉界、農業界、経済界からも有識者が加わり、まさに省庁の壁を越えた検討の場ができた。

4.福祉サイドの状況
 福祉サイドの「福」を障がい者としてとらえ、どれぐらいの人数の方々が対象になるかをみてみよう。かつては、身体障がい者の方が中心だったが、知的障がい者があり、精神障がい者が加わり、ということで徐々にそのとらえ方が広がってきている。現在障がい者手帳を持っていらっしゃる方々は約960万人といわれている。
 障がい者の類型は時代に応じて追加されてきた。例えば最近まで「学習障がい」は障がい者類型に明確には入っていなかった。そのような観点で「障がい」を広くとらえると、「障がい」を持っている方々は身近に結構多くいらっしゃるということが見えてくる。
なお、「福」を障がい者に限定せずにさらに広くとらえると、高齢者も「社会への出番がない」、「生活面での支障を抱えている」という点から、その対象となるかもしれない。
 障がい者が社会参加するにあたって、一番大切なものは何かというと、「働く場がある」ということだ。
 日本の場合、国の制度としては「障害者の雇用促進に関する法律」や「総合支援に関する法律」などにより、改善の努力がなされてきた。例えば、雇用義務について順次拡大され、民間企業の障がい者雇用率は当初1.5%だったものが現在は2.2%、令和3年3月以降は2.3%に上がる。それに伴い、就業者も増えてきているということだが、残念ながら65歳までの生産年齢人口においてもまだ100万人単位で職に就けていない方々がいるのも事実である。
 仕事の中身をみると、近時は工業系、事務系とも障がい者が働く場が狭くなっていると言える。かつて、例えば印刷業などはその関連の仕事が障がい者雇用の場になっていた。ところが、各事業所に高性能プリンターが導入され、帳合い作業なども機械でできることとなった結果、障がい者が担ってきた仕事がなくなっている。工業においても高度な電子制御の機械導入が進み、その操作などは障がい者の仕事としては難しい面がある。工業系・事務系の職場においては企業経営サイドからみて障がい者に働いてもらいにくい状況になっているのだ。そこで、障がい者に働いてもらえる新しい仕事として農業や関連産業の分野への関心が高まってきた。
 先ほど述べたように3月から障がい者雇用率が2.3%に上がる。どういう仕事をやってもらうか、多くの企業で総務担当の方々の課題になっていると思う。

 5.農業サイドの状況
 農業サイドの状況だが、高齢化と人口減少の影響が著しい。今回のセンサスを見ても就農者平均年齢が上がり、就農人口は減少している。本日の日本農業新聞で取り上げられていた「技能実習生がコロナ禍で今後どうなるか」という問題もある。昨年春にも見られたことだが、収穫時期に実習生がいないと収穫も放棄せざるを得ないという状況に陥る。
 労働力不足ということが、産地規模の縮小につながり、さらには収穫時の調整作業とか包装作業などにも影響する。日本の強みである高品質な農作物、果樹、野菜、花の産地でそういう状態が増えている。
 福のサイド、農のサイドの両方から連携を求める素地があるということだ。農業サイドでは、社会福祉法人を政策の対象にし、認定農業者や農地保有適格法人として認定するケースが出てきている。さらには、人口減少が著しい中山間地域において最後の担い手として社会福祉法人の存在があるという例もある。ノウフク・アワード2020の中にもそのような法人があった。
 そのような中で2019年6月に「農福連携推進ビジョン」ができた。

 6.「農福連携推進ビジョン」の内容
 「農福連携推進ビジョン」では実情・課題を3つに整理している。1つは、「農福連携が知られていない」、2つには「農福連携に踏み出せない」、そして3つ目は「農福連携が広がらない」という整理だ。これをどうするかについての対処方針が盛り込まれている。
 まず、「知られていない」ということだが、農業サイドでは「障がい者に農業ができるのですか」とおっしゃる方が結構まだ多くいらっしゃる。さらに「農業経営の足かせになるのではないか」という意識の方もいらっしゃる。そのような疑問に最も明確に答える実例が浜松の園芸農家である「京丸園」。鈴木さんという経営者がこの20数年で障がい者雇用を増やし、かつ生産性を上げているという農業経営だ。2019年には日本農業賞大賞および農林水産祭で天皇杯を受賞されている。
 私も休日にはスーパーに買い物に行くことがあるが、京丸園のブランドで「ミニちんげん」「姫ちんげん」という小さなチンゲンサイが売られている。小さいチンゲンサイの方が障がい者が収穫しやすく、味もいい、見た目もいい、ということで主力商品になっている。農福連携の中から新商品が誕生した好例だ。
 また、「知られていない」の対策として広報にも取り組む。「とれたて笑顔」という2分半のテレビ番組を農林水産省広報として昨年12月まで毎日曜日12時54分からTBSで放映した。TOKIOの城島さんが出演、各地の農福事例を紹介した。また、「ノウフク・アワード」もひろく多くの方々に農福連携を知ってもらう機会になると考えている。
 次に「踏み出せない」ことについてだが、農業経営のサイドでは障がい者に会ったことがない人も多い。「障がい者に誰がどのように農業技術を教えればいいのか、自信がない、わからない」とおっしゃる方が多いのだ。ここのところを克服するための様々な取り組みを行うことにした。例えば、農業版ジョブコーチの仕組みの構築や、農福連携を学ぶ取組みの推進などである。
 さらに「広がらない」という点については、社会的認知度を上げていくための様々な取組みを始めている。その取組みのひとつに2020年3月に設立された「農福連携等応援コンソーシアム」がある。経済団体、農林水産業団体、福祉団体その他の関係団体、地方公共団体、関係省庁等の様々な関係者が参加し、国民的運動として農福連携等を応援する主体として設置されたものだ。このコンソーシアムで「ノウフク・アワード2020」や「ノウフク・シンポジウム」を主催している。
 先に述べた「農福連携推進ビジョン」では、農福連携に取り組む主体を2024年末までに新たに3000創出するという数値目標を入れた。かなり大きな目標だが、我々も知恵を出し、コンソーシアムのメンバーにも様々な知恵を出してもらっているという状況だ。
 また、「農の広がり」として、林業や水産業にも広げようとしている。例えば林業においては木材加工や林業種苗の分野で、また水産ではとくに水産加工業で参画を進めようという議論が進められている。
 「福の広がり」という点では、農福の「福」の対象は障がい者だけではない、ということがある。高齢者、社会での居所(いどころ)が難しい人、触法の人、刑期を終えて出所した人など、様々な人が対象になる。
 山本譲司さん(元政治家)が書いた「獄窓記」という本に、受刑者のなかには何らかの障がいを持った人の割合が多い、ということが書かれていた。社会の居所に悩む人が犯罪を起こしてしまい、刑期を終えて社会に出ても支援なく、再び刑務所に戻ってくる、これを「負の回転ドア」というそうだ。そういうことをなくすために様々な取り組みを始めている。村木さんもこのことについては、ご自身が無実の罪で拘置されたご経験もあり、強い思いを持っておられる。

 7.基本計画の改定,農協改革,SDGsと農福連携
 昨年春に改定された「食料・農業・農村基本計画」について、私が評価している点は、「担い手」の概念を狭くとらえるのではなく幅広いものとしていること、「農村地域社会」について正面から取り組もうとしていることだ。農村地域社会の課題の解決に向けたひとつの重要なテーマとして農福連携を挙げている。地域共生社会にむけた農業農村の果たす役割があるだろうということで、少し充実して書いているので、ぜひそこのところは応援いただきたい。
 次に農協改革についてだが、今年は法改正後の5年後見なおしのタイミングになっている。ただ、准組合員の問題については、一定の方向が出ている。そこで終わりではなく、地域経済社会において、農協が重要な役割を担うという意味においても、農協は農福連携に積極的に取り組んでもらいたい。
 SDGsについて大事なことは、環境問題だけでなく社会をどうしていくかということだ。「誰も取り残さない」参画、を重視した開発目標だが、まさに農福連携を推進していくことが、SDGsが目指した共生社会に近づく具体的なステップではないかと思っている。

 8.JAに期待すること
 JA兵庫中央会の機関誌「協同」2月号に「兵庫の農業、農村の未来と農福連携」という記事を書いた。その中に県内・各JA管内に就労支援施設(A・B)、特別支援学校、老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅がいくつあるか、という表を載せた。県中央会と県庁の協力をいただいて作成したものだ。これは、JAが様々な形で農福連携に関わるときに、その相手方がどこにどれだけ存在するかを整理したものだ。各JAの管内には連携する相手が必ず存在するということがわかる。
 就労支援施設(A・B)だけにとどまらず、特別支援学校等を表に含めたのは、「参画」を重視した農村政策に深く関係しているからだ。特別支援学校の生徒が利用するような福祉農園、さらには老人ホームの近くに福祉農園を作ることができるのではないか。生産緑地を巡る2022年問題をかかえる都市農協では、福祉型農園を組合員に作ってもらい、それを貸してもらうという取組みが、問題解決の一つになるのではないかと考えている。
 最後に「JAに期待すること」だが、私は「農業だから」「農村だから」できることが多くあると思っている。農業・農村の触媒作用によって様々な課題の解決につながるという典型事例が農福連携だと考えている。
 さらにその解決のためのいろんな手段をJAは持っていると思うので、その資源を活用して役割を発揮してもらいたい。また、本年は3年ごとのJA大会があるが、その中でも高らかに農福連携を謳っていただけるよう、声を大にして働きかけていきたいと思っている。
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農福連携の可能性 農福商工連携と農生業へ
     JA共済総合研究所主席研究員
        日本農福連携協会顧問  濱田 健司

 農水省、厚労省の理解を受けて
 農福連携すなわち「障がい者が農業生産を行う」という話をしても、当初、否定の嵐でした。福祉・農業・行政・研究者からも「無理」という反応でした。しかし、この試みは将来、農業を支えるだろうと思っていました。
 2015年に農水省や厚労省と関係団体と私と話し合い「障がい者が農業生産を行う」という取組みを農福連携と定義し、取組みを全国に普及していくこととしました。同年6月22日に農水大臣、厚労大臣も挨拶に来る農福連携キックオフセレモニーとなる全国規模の「農福連携マルシェ」を我が国で初めて開催しました。農林水産省の駐車場で、全国で先進的な取組みを行ってきた4つの事業所が障がい者の生産した農産物や加工食品を持ち込み、パネル展示やマルシェ(市)を開催しました。テレビ局や新聞などのマスコミ取材もあり大いに盛り上がりました。
 この時、買い物にいらした厚労省事務次官であった村木厚子さんから「この取り組みをブームにしてはいけないわね」と言われました。私も農福連携が一つの事業として続いたとしても今後無くなる可能性もあると思っていたので、ブームで終わらせないため農水省や厚労省に組織をつくって欲しいと考えるようになりました。そこで就任時に農福連携を積極的にすすめると発言された農水省の末松広行事務次官に何度もお願いしたところ、ついに2021年10月に農水省において農福連携の室が設置されることとなりました。
 2回目の全国マルシェは厚労省が中心になって、2016年5月29~30日に有楽町駅前広場で開催されました。出店者は全国から農福連携に取り組む障害福祉サービス事業所や中間支援団体などの16団体。このとき厚労大臣だけでなく農水大臣や総理夫人にもお越しいただくことができ、公私共にいろいろな方々の縁が繋がって、さらに大規模に開催することができました。
 マルシェを開催した時の厚労省の担当官がある日、私のところに「閣議決定で日本再興戦略2016に農福連携を組み込みました」と報告してくれました。再興戦略の「多様な働き手の参画/障がい者の活躍促進」に「障がい者、難病患者、がん患者などの就労支援をはじめとした社会参加の支援に引き続き重点的に取り組む。障がい者については職場定着支援の強化や農業分野での障がい者の就労支援(農福連携)などを推進するとともに、障がい者の文化芸術活動の振興等により、社会参加や自立を促進していく」また、「介護離職ゼロに向けた取り組み/障がい者、難病患者、がん患者などの活躍支援」でも「障がい者の身体面・精神面にもプラスの効果がある農福連携の推進」が組み込まれました。これはマインドで繋がる素晴らしい連携関係であると共に、思いもよらぬ嬉しい行動でした。

「キョードー者」と障害福祉サービス
 農福連携は狭い意味では「障がい者が農業生産を行う」という取組みですが、より広い意味でいうと、「農」と「福」の広がりによる連携、これらにさらに+α(プラスアルファー)による連携があります(詳細は後述)。私は「福」の人々を「キョードー者」という言葉で定義しています。これは社会的弱者や社会的に不利な立場というネガティブな意味ではなく、共に生き共に支えあうことを志向する方々が参加・参画するということを意味します。「農」も林業や水産業、さらに農業生産だけでなく付随する様々な活動にも幅を広げていくことが必要であると考えています。
 障害者総合支援法における就労系の障害福祉サービスには4つの事業形態があります。「就労移行支援(標準利用期間2年)」「就労継続支援A型(利用期間制限なし)」「就労継続支援B型(利用期間制限なし)」「就労定着支援(利用期間3年)」の4つです。
 就労継続支援A型は、支援者による一定のサポートを受けることで働ける方が対象となります。雇用契約を結び、賃金は最低賃金以上となります。B型については、支援を受けても比較的障がいの程度が重いことから思うように働くことが難しい方が主として対象です。そのため、賃金は非常に低いのが現状です。農福連携は主としてこのA型とB型で取り組まれています。
 次に農福連携取組みですが、4つのタイプがあります。
① 事業所内型:障害福祉サービス事業所(社会福祉法人、NPO法人、一般社団法人、株式会社等)が自己所有する農地や借りた農地で農業を行う。
② 作業受委託型:農業法人等が農繁期や不足する労働力を補うために障害福祉サービス事業所へ作業を委託する。主に事業所外の農業法人等の農地で作業を行う(こうした障害福祉サービスを「施設外就労」という)。
③ 雇用型:農業法人等で障がい者と雇用契約を結び障がい者が一般就労を行う。
④ 企業等雇用型:障がい者を本社において、または特例子会社を設立して雇用し農業を行う。

 農福連携~鹿児島県の例 運転や残業も
 鹿児島県南大隅町の社会福祉法人白鳩会は、敷地の総面積は45ha。ここがすごいのは、社会福祉法人が農事組合法人根占生産組合を作ったこと。40年くらい前、白鳩会は知的障がい者の生活・訓練の場を、その数年後には就労の場として根占生産組合を作りました。社会福祉法人では約230人の利用者=障がい者、約120人のスタッフ。農事組合法人には知的障がい者15人位、健常者8人位がいます。バブル崩壊後やリーマンショック後も経営規模を拡大しており、障がい者の生活支援や就労の機会を増やしただけでなく、南大隅町における職員の雇用を通じて健常者の雇用を増やすことにも繋げています。
 前述のA型事業、B型事業における作業としては、単に農産物を作るだけでなく、加工や販売まで行っています。生産した大豆で豆腐を作ったり、販売まで行っています。農事組合法人は社会福祉法人と共に、茶7ha、ニンニク5haをはじめ、ブルーベリー、ハウスや水耕栽培、花なども作っています。毎年子豚を2000頭そして肉牛も育て出荷し、さらに屠畜後にハムやソーセージも作り、販売しています。
 私が訪問した時、茶畑では中程度の知的障がい者の方もきちんと挨拶もするし、ましてや大型機械も操縦していたことから、大変な驚きであったことを覚えています。また製茶工場では繁忙期には24時間体制で操業していましたが、ある時とある中程度の知的障がい者の方が、職員に対して職員が残業しているように「僕にも残業させてください」と言ってきたんですね。この話も衝撃的でした。一般的には中程度の方が残業させてくれというはありえないと考えられてきたからです。普通の事業所での勤務は9時から16時位まで。しかも平日のみですが、その方は365日、夜中も働きたいと言ってきたのです。
 この瞬間に私は「障がい者はできない」というのは誰が決めたのだ、これは健常者である僕らが勝手に思い込み、決めつけたのだと思うようになりました。だから障がい者の方であっても社会でもっと役割を持ってもらうことができると思うようになりました。障がい者の方を守るだけでなく、権利を守るだけでなく、チャレンジできる環境をつくっていくことが重要だと思いました。
 また私はこの白鳩会を見て、農福連携はいけると確信したのです。農業には色々な作物があり、色々な生産方法がある。つまり一人ひとりのさまざまな特性や希望や心身状態に応じた作業があることから、多様な障がい者の方も従事できると考えたのです。もちろん外で働くことが難しい方もいたり、すべての障がい者の方が農業にむいていたり、好きなわけではありません。ですから無理して取り組んでいただく必要はありませんし、取り組む場合はその方に合わせて取り組んでいただければ良いと思っています。ですが、一方で農業にはこれまで考えていた以上にすごい可能性があると感じました。さらに面白いのは障がい者の方が一般的に働いている工場や施設内より、外に出て体を動かし、土や風や動植物と触れ合う農業は癒しがあり、働きやすい側面があります。そして農作業によって障がいの程度や心身の状況が改善する効果も認められており、こうした農の有する福祉力は素晴らしいといえます。
 養豚では365日いつ子豚が生まれるかわからないのですが、今では土日だろうがシフトで365日働くようになりました。出産時にはスタッフが子豚を取るところはやりますが、そのほかの対応は障がい者が全て行っています。
 また、障がい者の方が(機械等作業車の)運転もします。運転は、法人の所有地内ですのでOKです。理事長は障がい者の方に運転免許を取って欲しいと思いましたが、残念がら学科が通らないと断念しました。でも万が一のときの保険にはしっかり入っています。最初の頃は機械を操縦するときにはスタッフが一緒について、覚えるまで健常者の何倍も時間をかけて向き合います。それで障がい者の方も操縦できるようになるといいます。
 このほか白鳩会は鹿児島市内にはおしゃれなアイスクリーム屋さんを出店したり、潰れた豆腐工場を引き取って豆腐を作って販売しています。またカフェを出したりしています。このような取組みをみると、農福連携のさらなる可能性をうかがうことできます。

 農福連携 ~高知・広島県の事例
 高齢者の農福連携に関してリタイヤ農業者型農業として、高知県越知町に総務省集落支援員制度を活用した事例があります。役場内の関係各部署が話し合い、2016年度より山間地域にある限界集落(高齢化率50%以上)の「中大平地区」における高齢者の介護予防と地域農産物の振興を目指し、野菜づくりの支援を行っています。元々農業に従事していた高齢者や家庭菜園などをしていた高齢者が、町による集落支援員の配置などで運搬・販売等の支援を受けることで、再び一般の野菜や伝統野菜などの販売のための生産に取り組めるようになりました。
 地区内21世帯のうち8世帯(約20人)が参加し、毎週水・日曜の朝に生産した野菜を持ち寄り、値決め、バーコード貼りなどを行い、軽トラックに積み込み、出荷しています。売上は2017年度が約190万円、2018年度約340万円。より品質の高い商品もつくるようになりました。生産された農産物は主として直売所での販売商品およびふるさと納税の返礼品として出荷されています。
 介護予防型農的活動としては、高知県の社会福祉法人香美市社会福祉協議会における「菜園クラブ」の活動があります。厚生労働省の一般介護予防事業・地域介護予防活動を活用し、2013年より介護保険事業における介護予防対策として実施。男性も参加しやすいメニューとして農的活動を行っています。
 市から事業委託を受けた社協が農地を借り、1区画5×6mの30区画に分け、市の広報誌で参加者を募ったところ、農業経験のない定年退職者が集まりました。地域の有機農家の指導を受け、通年で栽培を行っています。月2回農家が指導し、毎週月・木曜の午前中は社協のスタッフ4 人が、交代で対応や菜園管理をし、参加費は無料で、農機具は自分で用意します。28 世帯・28 人(うち男性12人)が登録・参加。参加者は60 歳以上(複数人利用の場合、1人が60 歳以上が要件)で、60~80 歳代が参加しています。
 月~土曜8:30~17:00の間は自由に出入りができ、生産や収穫できますが、農販売はできません。一部の区画は社協がサツマイモを植え、収穫時には若者サポートステーションセンターからニートや引きこもり状態の方5名ほどが参加することもあります。また参加者の一部が独立し、農業生産と販売を開始しています。
 介護サービス型農的活動としては、広島県三次市の社会福祉法人優輝福祉会の活動があります。三次市の運営していたビニールハウスを2019年より継承し、トマト栽培と生産したトマトの加工そして販売にも取り組んでいます。社会福祉法人が地域の遊休施設を再生し、高齢者や障がい者の方の活躍する場とし、介護サービスにおけるデイサービス事業と障害福祉サービスにおける就労継続支援B型事業の利用者が、共に定植や栽培管理等を実施。当法人では要介護認定高齢者を「プレミアムチャレンジャー」とし、さまざまな作業に従事してもらい、地域通貨を支払い、高齢者のやる気を引き出しています。また障がい者の方が高齢者施設の給湯にかかる木質バイオマス利用・木材伐採等に従事しています。

 JAの総合事業こそ農福+α連携で
 農福連携の「農」には単なる農業生産だけではなく、農の広がりとしては林業、水産業、エネルギー産業、商業、工業など含まれます。わかりやすく言えば昔の「お百姓さん」です。昔は海や川で魚を獲り、家の材のため山で木を伐り、炭を焼き、蚕を育て織物にして売り、漬物を作り売ったりしていました。
「福」の障がい者は約1000万人いますが、福の範囲を広げれば65歳以上の高齢者は約3600万人。生活保護受給者は200万人超。生活困窮者、引きこもりも入れるとその数は5000万人を超えるといえます。しかし、こうした方々は皆、福祉サービスを受ける対象者として位置づけられています。実はここが「福」の中に入ってきます。
 2019年度に厚労省の老健局から高齢者の農福連携のモデルを作って欲しいと頼まれて、4つのタイプを構築しました。それが前述した「介護サービス型農的活動」。JAが運営する介護サービスにおけるデイサービスセンターや老人ホームなどで取り組めるものです。そしてさらに前述した「介護予防型農的活動」です。これについては早速、毎日新聞が取り上げてくれました。
 2020年度は、厚労省の社会援護局から頼まれて「生活困窮者の農福連携モデル」を作ろうと思っています。これはまだモデルはできていませんが、既に日本農業新聞に取り上げていただき、その取組みに対して10件くらい問い合わせがあるなど反響がかなりありました。今、いろいろな作り込みをしている最中です。全農にも協力していただき、もっと良いモデルを構築できないかと思っています。それから法務省が3年位前から私に相談し、触法者の農福連携、農業での再犯防止をできないか、また、法務省の食堂で触法者の生産した農産物を食材として提供できないか、などとさまざまな事業・取組みを検討しています。このようにして農福連携の取組みの幅を、どんどん広げていければと思っております。
 障がい者が農業生産を行う農福連携は、農福+α連携という展開も期待されます。例えば「農福商工連携」です。農産物を作るだけでなく、加工したり、販売したりすることでより多くの多様な方々が活躍できますし、地域全体で農福+α連携ができるようになります。農家が作った農産物を障がい者による事業所が加工し、販売は別の企業が行うことができます。また、障がい者が作った農産物を地域のJAが販売したりできます。地域巻き込み型でできるのです。
 一般に地域において6次産業化に取り組むとき、うまく行かない事例が多いそうです。これは補助金やお金だけで繋がる利害関係だけで取り組むため、その資金がなくなれば取組みが消えてしまうためだそうです。しかしそこに「福」が入ると、皆の優しさや想いで繋がっていきます。つまり福が接着剤となり「農福商工連携」にしていくと、農福連携は6次産業化に貢献し、かつ福祉の振興、農業の振興だけでなく、地域の振興に繋げることもできます。さらに日本の農村を支える地方創生の内実にもなっていくでしょう。あるいは半農半X、エシカル消費の内実にもなっていくといえます。
 農福連携を進めることで実はいろいろなものが見えてきます。オランダを訪れたとき、農家は農産物を作ってその対価を得るだけではなく、サービスを提供して、その対価を得ていました。例えばレストラン、宿泊、観光などにおけるサービスの提供だけでなく、一番驚いたことはある農家が障がい者に福祉サービスをして、障がい者からその対価を得ていたのです。これを見たとき、今後の日本の農業は、単にモノを生産し大規模で効率化を目指すあるいは海外輸出、高付加価値化というものだけでなく、こうしうたサービスを提供していく農業があっても良いと思うようになりました。これは小農の今後のあり方を示すといえます。私はモノとサービスを提供する新しい農業を「農生業(のうせいぎょう)」と定義しています。これは私の壮大な妄想ですが、将来的に農水省が経産省に吸収されるのであれば、経産省ではなく厚労省と合併して農生省になったらいいのではないかとなどと思っています。
 前述したとおり、これからは「福」の方々を社会的に不利な立場にある方や社会的弱者としてネガティブに捉えたくありません。この方達も福祉サービスを受けますが、受けながらも社会や地域や産業のためにモノやサービスを提供していただくことができるのですから。つまり本当は共に支える関係にあるはずなのです。ですから私は「キョードー者」という定義しています。こうした方たちが本当に「キョードー者」として出てくると福祉という言葉も消えていくし、社会的弱者という言い方も消えていくでしょう。実はこの発想のベースは日本の固有の考え方、八百万(ヤオヨロズ)の神々の精神にあります。すべてはいのちであり、私とあなたは一緒なのです。ですから、最終的には農福連携という言葉も消えてもいいと思っています。
 ですが、今広がる農福連携が次に目指さなければならないことは単に農業と福祉の課題を解決しそれぞれが輝くだけなく、地域そして社会を輝かせることです。私は全ての方々が地域で共に生き、助け合う、そういう社会を作っていきたいと思います。それには農福連携から農福商工連携、農福+α連携が重要な取組みとなります。この+α連携には商工以外にも農福教育連携、農福介護連携、農福医療連携などさまざまな形があります。そういうものをそれぞれの地域においてそれぞれの形で取り組むのです。そうするとそれは地方創生の内実になっていくでしょう。

 最後にもうひとつ。JAと農福連携の関係性について述べます。最近、政府の規制改革会議で問題にしているのはJAの総合事業などですが、総合事業ですので一つの事業で例え儲けが出なくても、他の事業が支えることこそが実は大切だと思うのです。営利企業はすぐにそのような部門は切り捨ててしまいますが、JAはその部門を他部門が支えることができるのです。
 これは見方を変えると、総合事業によって地域のあらゆる課題に対してJAだからこそ地域を支える、そして支え合うことができるのです。協同組合の基本理念は「一人は万人のために、万人は一人のために」です。これは八百万の精神に通じるものです。したがって農業協同組合とは農業×協同組合であり、まさに農福連携といえるのです。JAも基本理念に立ち返り、地域における農を基盤とした協同組合の役割を果たし、農福連携の支援や取組みを共に進めていただければと思います。農福連携は、多くの気づきと学びをもたらしてくれるでしょう。
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2021年3月「協同組合の日」記念講演
日本の生協の事業と活動 ~協同組合間の連携
    日本生活協同組合連合会 代表理事会長
         (JCA代表理事副会長)本田 英一

 Ⅰ.生協の今 事業と活動
 日本の生協のビジョン
 生協は、人と人とがつながり、笑顔があふれ、信頼が広がる新しい社会の実現をめざしています。そのために生協の総合力を発揮し、事業と活動の領域を着実に拡大しています。「選択と集中」の世の中にあって生協の総合力は異色な存在だと思います。そのなかで増収・増益をはかり、店舗黒字生協を増やすことをめざしています。
 また、事業と活動をとおして、地域やくらしの課題に取り組むこととしています。事業は商品力を強化し、店舗・宅配・配食・福祉・共済・子育て支援・葬祭・そして組合員の多様な参加の場をつくり地域や暮らしの課題に取り組んでいますが、その目的は組合員の暮らしのためなのです。
 全国の会員生協の事業概況
 2019年度 はつぎのとおりです。
*組合員数 2,961万人 (前年比101.3%)
*総事業高 3兆5,494億円 (前年100.4%)
*単位生協は地域生協、職域生協、学校・大学生協等の購買生協、医療福祉生協、共済生協・住宅生協など。
各地の生協は、地域や事業ごとに連合会をつくり、共同で事業や活動を行つています。地域生協の事業概況(2019年度) はつぎのとおりです。
*事業高 2兆8,956億円 (前年比100.7 % )
*経常剰余率 1.16%、
*宅配 1兆8,417億円 (前年比101.5%)、うち個配1兆3,297億円(前年比102.6%)、
*店舗 8,965億円(前年比99.4%)。
 宅配は生協の事業の柱です。組合員から注文を受け、毎週同じ曜日の同じ時間に、職員がトラックで組合員宅を訪問。グループ単位に配達する班配と、個人宅に配達する個配があります。
店舗は、全国で約900店舗。大型店から小型店まで組合員の「ふだんのくらし」を支えています。
 共済は、ケガや病気、災害など、くらしの「もしも」を保障します。
 福祉は、介護保険事業を中心に、訪問介護やデイサービスなどを展開。
 *職員数 (主要59生協)正規3万2千人、定時8万6千人、 障害者雇用率は平均2.95% (法定雇用率を上回っているのは59生協のうち50生協) 
 生協の加入率
 全国加入率で、地域生協組合員数は2,270万人 (前年比101.7%)です。世帯加入率は 38.1%ですが、地域差があります。加入率50%超の道県は、宮城県、北海道、兵庫県、福井県、岩手県です。45%超は、宮崎県 奈良県、京都府、香川県、愛媛県です。逆に20%未満の県も1県あります。

 Ⅱ.社会的取り組み/事業,活動を通じて
 ふだんのくらしを支えるインフラ
 地域社会に貢献では、宅配事業所数は約700カ所、宅配配送車は 約2万5千台、一日当りお届け件数は約115万力所、一日当りお届け点数は約1,721万点 2018年度末店舗数965店舗となっています。
 住民のライフラインに
 買い物が不便な地域の組合員ニーズに応えて、山間部、離島を含め広域で食材を配達しています。買い物不便な地区では、住民のライフラインになっています。
 「地域見守り協定」から「包括連携協定」へ
 「地域見守り活動」では102生協が1,146市区町村(全市区町村の65.8%)と協定を締結。また、福祉・子育て・まちづくりなど幅広い分野にわたる包括連携協定は、10生協が10道府県と締結しています(2020年3月現在)。
 子育て家庭を事業・活動の両面で支援
 子育て家庭等への宅配手数料の減免は69生協が実施。利用組合員者全体の14.9%が利用 (2019年度)しています。子育て中の親子が集える「子育て広場は55生協が実施し12万組の親子が参加。子育ての不安や悩みで孤立しがちな親子が交流しているのです。
 高齢者障がい者への支援
 組合同士が助け合う活動で 「くらしの助け合い」は63生協・連合会で実施。活動に参加している組合員は2万3千人です。
孤立しがちな高齢者の居場所作りの活動としては「お食事会・サロン活動」があります。店舗の会議室等を活用し定期的に開催しています。食事会は約1.3千回、3万食、 サロン活動は約4千回、5.4万人が参加しました。
 配食事業は高齢者中心に夕食弁当等を配達し安否確認の役割もはたしています。48生協で1日約14.5万食です。
 社会的弱者、貧困問題への取り組み
 「子どもの貧困」に関する研究会を設置、課題及び生協としてできる取り組みについて、次の提言をとりまとめ、実施しています。
①子どもの貧困の現状や私たちの地域の状況を学び、共感する人を増やす、一人ひとりが参加できる機会をつくる。
②地域で子どもの育ちを見守る・支える取り組みに、生協の強みを生かして積極的に関わる。
③地域の中にネットヮークとつながりを広げ、地域の総合力で子どもの成長を支える取り組みを。
 生活困窮者への支援
 全国で11生協が生活相談事業、貸付事業に取り組み、2019年度で生活相談5,079件、 貸付893件の実績でした。
 フードバンク活動等への取り組み
 40生協が活動し食料品等を提供。子ども食堂への協力は39生協に広がっています。コープふくしま、いばらきコープ、パルシステム茨城、コープこうべ、コープさが 等など生協による子ども食堂を運営する事例もあります。
 奨学金制度改善
 学習会やアンケートを実施。日本生協連は、全国大学生協連とも連携しながら取り組んでいます。
 地域における防災・減災の取り組み
 阪神淡路、東日本の2つの大震災の経験を活かし、地域防災に取り組んでいます。
 頻発する自然災害の被災地支援
 大規模な災害が連続して発生し、地域のくらしや生協の事業に、大きな影響を与えています。全国の生協は様々な場面で支援に取り組み、被災地の復 興に貢献しています。
 環境・エネルギーヘの取り組み
 2030年温室効果ガス削減目標について「2030環境目標検討委員会」を設置し、生協が目指すべき目標水準を設定しました。
全国の生協に自生協の削減計画の策定と実践を呼びかけ、2030年目標C02総排出量を2013年比40%削減、2050年目標C02総排出量を2013年比90%削減としました。
 再エネ導入推進、自然冷媒機器導入、次世代車両導入率の向上など再生可能エネルギー発電 太陽光、風力、小水力、バイオマス発電などは、生協グループ合計で408カ所で129MW供給しています。電気小売り事業は累計7.8億kwhを23.5万人が契約しています。
さらに、平和とよりよい生活のための活動では、幅広い世代が参加しています。
 倫理的(エシカル)消費に対応したコープ商品では、「社会」「地域」「環境」「人々」の視点で推進しています。これに対応したコープ商品は全体の2割・約883億円。2020年以降は「海・森・プラスチック」を重点テーマに商品開発・改善を進めています。
 コープSDGs行動宣言を通常総会で採択では、
 「商品とくらしのあり方を見直し」「地球温暖化対策を推進し、再生可能エネルギーを利用」「飢餓や貧困をなくし子どもたちを支援」「核兵器廃絶と世界平和の実現」「ジェンダー平等」など7つの取り組みを進めています。

Ⅲ.コロナ禍の生協の事業と活動
 宅配事業の業績状況
 ①まず利用人数が増加しました。3月の第1週、一斉休校となり、巣ごもりが顕著になつた直後から宅配事業は急伸。3月の第2週の利用人数は昨年と比べて105%超でした。例年は、GWや夏休み期間は落ち込むのですが、5月も8月も利用状況は高止まりでした。
 ②また、受注金額と利用単価が急伸しました。背景には、新規急増、既存ユーザーの利用頻度 UPなど新旧双方の購入金額増が大きく影響しました。8月には帰省・行楽の自粛で利用単価は、昨年+12%増でした。3月と8月の平均で+560円増でした。
 ③新規加入者の増加と受付困難状態もみられました。緊急事態宣言が発出された4月以降は物量抑制のため、生協によつては加入受付保留も発生しました。
 ④コロナ禍に新規加入された組合員は野菜・豚肉・魚切身など生鮮食品の利用が高く、従来のユーザーは、基礎調味料・加工食品・紙製品・洗剤などドライ商品の利用が高い傾向にありました。
 ⑤各層別に利用状況をみると、子育て層は、昨年に比べ農産品の利用が大きく伸びました。フアミリー層(40~55歳)も、生鮮 (農・水・畜産)の利用が多くなつています。 店舗利用者が宅配事業に流入したのだと思われます。従来ユーザーは、昨年とほぼ同じ傾向でした。日用消耗品の利用が増えました。シニア層 (55~70歳)は、他の層に比べ日配品の利用が高い傾向がみられました。
 ⑥また、大きな特徴として、デジタル化の加速があげられます。2020年のインターネット経由の生協への加入者数は13万9339人で前年より5万4750 人、前年比255%も増えました。
 現場で起きていたこと
 物流、商品調達、宅配を支える「仕組み」で生じた問題 ――
 後方物流では、商品仕分キャパォーバーの問題がありました。セット時間延長で納品遅れや欠品が発生しました。また、人手不足の問題もあり、委託配送費・派遣採用など経費が増加しました。
 商品調達では、マスク、除菌衛生用品、巣ごもり需要が高まつた粉もの、製菓材などの調達は長期にわたり調達困難が続きました。
商品仕分けキャパ由来の「欠品」への対応は、首都圏、近畿、九州を中心に商品企画調整を行ない、取引先にも迷惑をおかけすることとなりました。
 宅配事業の現場では、配達車両で接触する部分の徹底した消毒など、感染対策に必要な事項を配達するメンバーと繰り返し共有し、お届けに当たつては、商品の置き場を組合員に毎回確認するなど丁寧に対応しました。
 地域支援の取組み
◇学校の一斉休校にともない発生した給食余剰食品の販売促進。
◇販売が低迷した地元産品の販売促進協力。
◇生活困窮者・ひとり親家庭・学生などに対する。食品提供を行うフードバンクへの食品提供や活動への協力 。
◇医療現場などに対して組合員が手作りしたマスク等の寄付。例えば、コープデリ連合会は産直八千代牛乳を販促し、酪農家を応援しました。茨城生協連は「2020春休み緊急子ども支援プロジェクト」、おかやまコープは西日本豪雨被災者へ手作りマスクを寄付しました。
 組合員のくらしの変化
 在宅勤務が始まり、家族や家庭のあり方にも影響を及ぼしています。食への意識、健康な生活の見直しがはじまっています。
 こうしたなか、生協では「4つの危機認識」と「検討すべき10の課題」をあげています。危機とは「くらしの危機」「経営の危機」「事業継続危機」「つながり危機」です。
 検討すべき10の課題
①協同組合の連携を強め、たすけあい、つながりの価値を社会に発信していきます
②厳しい状況にある大学生協や医療生協などの事業と活動を、協同の力で支えます。
③生活様式の変化対応と感染症リスクを想定し、商品と事業のありかたを見直します。
④高まり定着する利用ニーズに応えられる、宅配事業のリノベーシヨンをすすめます。
⑤今回の対応を振返り、パンデミックを想定した事業継続計画を全国生協と定めます。
⑥緊急事態に対応した新しいガバナンス (機関運営等)について総合的に検討します。
⑦組合員の活動や取引先との交流など、ITなどの活用も含め新たな場を創造します。
⑧在宅やリモート会議などの社会的定着をふまえ、新しい働き方の検討をすすめます。
 また、組織課題として、
⑨集合・集中方式の連合会運営と会議開催を見直し、実効性の高い運営をつくります。
⑩日本生協連における働き方改革を促進する為、諸制度や業務機能を再整備します。

Ⅳ.協同組合間連携の事例
 提携には次の型があります。
1.産直型 事業場の取引から地域の保全、生産者保護、 援農、移住まで発展型が最も多いです。
2.事業連携型 協同組合が協同で事業を展開しています。協同組合間協同の理想形です。望ましい形ですが、容易ではありません。
3.地域共生・地或連携型 これが協同組合間協同の理想形です。
コープながの,JAあづみとの「ふれあい農園」
地域共生・連携型の事例とし、年間を通じた農業体験で職能教育・農業理解を深めている取り組みを紹介します。これは生産者と消費者が農作業を通して食の大切さを一緒に考えることをめざして平成6年にスタートしました。
 JAの青年部と女性部が圃場を提供し管理指導しています。JA組合員の畑でコープながの組合員とその家族が年間を通じ農業体験します。JAが力を入れる食の安全、地産地消や食農教育に対しコープながの組合員に共感と賛同が多く、2019年に25年目を迎えました。
プログラムでは農作業だけでなく年2回の交流会もあり、コープながの組合員がJA女性部の活動に参加するなど交流が深まつています。
後継者の組合員や准組合員、JA役職員でも農業を知らない人が増えているため、平成30年度より、生協組合員だけでなく]Aあづみの組合員、役職員と その家族へも参加対象を広げました。こうした活動で、地域農業の維持・振興の環境を醸成しています。
 店舗の共同運営
 みやぎ生協とJAグループは1970年から続く産消提携をどう発展させるか協議し、みやぎ生協とエーコープ東北・JA全農みやぎ・地域のJAが共同運営するA&COOP新松島店が2015年に、2018年には角田店がオープンしました。共同運営が目指すものは、 双方の強みを活かした店舗の魅力増、業務効率化、経営資源集約、協力し地域づくりに貢献、競合から協同組合陣営を守る、ということです。
 この事業の成果は、客数が1600人/日と両店合計より減少しましたが、売上は13.2億円と上回りました。客単価はコープ東北の同規模店で最大です。新松島店は、開店4か月目以降、黒字を確保しています。
 JA静岡経済連と生協パルシステムの「協業」
生協パルシステム静岡・同生協連合会は18年10月より、買物支援のため宅配事業を「協業」しました。JAは組合員に生協の宅配サービス利用を勧めます。つまりJA組合員が生協へ加入します。と同時に、首都圏を含むパルシスムテム生協全体での県内農産物の直接販売や消費の拡大を図っています。
JA静岡経済連は1990年からJA組合員向けの宅配サービスを実施していましたが、「生協の商品は豊富。JA組合員が生活の利便性を高められる」として、生協の宅配に切り替えることとしました。経済連はJA組合員からの宅配希望の窓口や利用代金の回収を担います。当初は、県西部の3JA(遠州中央、掛川、遠州夢咲)800名から始め、県内の他JAにも広げて、中山間地での配送も準備しています。同様の取り組みは、新潟県や神奈川県(いずれも2019年4月より)の一部JAとパルシステム生協などとの間でも始まっています。
 地域の困りごと解決
 生協・医療生協とJA・社会福祉協議会(島根県)の事例に 有償助け合いシステム「おたがいさま」があります。2002年にスタートし、「誰でもいつでも。どんなことでも」おたがいさまの心で助け合いの輪をひろげようという活動です。コーディネーターは、利用者の家を訪ね、困りごとに共感し、よく聴いて、応援者に結び付けます。
 この仕組み、流れはーー 多くの困りごとを発見する(多様な依頼に応える必要性)→ 他の組織との連携に発展 (医療生協、JA、社会福祉協議会)させる→「地域つながりセンター」を2014年設立し、連携し「 地域ケア連携推進フォーラム」、子ども食堂、フードバンク等を実施し協同活動を広げます。こうして「おたがいさま」を全県に広げています。
 高齢者の仕事づくり・まちづくり
 ワーカーズコープと中国労働金庫+JA広島中央会の「協同労働プラットフォーム」事業 (2014年から開始)です。広島市から委託→ ワーカーズコープがJA中央会、労働金庫、生協連合、労福協などの協力のもと、高齢者による地域の課題解決を支援します。連絡会をつくり、年2回の意見交換と運営支援案を議論しています。
 この活動の成果ですが、2019年7月現在、支援を受け19団体が設立されています。4年間で107の団体・個人から相談がありました。小さな共同体が増え住民の参画・自治が始まったのです。各協同組合が持つ力が発揮され、協同労働の必要性が認識されています。
 コロナでの学生、子ども支援
 JAふくしま未来が学生に米を贈呈し、アルバイトの機会を提供している事例です。福島大学は困窮する学生の声を受け、包括連携協定を結ぶJAふくしま未来に相談しました。4月下旬、全学生4,355名の意向を調査し、4月24日、困窮度が高い学生300名、寮生480名、留学生60名向けの米(550袋、1.1トン)がJAから贈呈されました。学生からは「人と人の支え合い助け合いを強く感じます」「アルバイトも無くなり、食費を切りつめて生活していたので助かりました」などのメッセージが50通以上届きました。
さらに、働き手が不足する農家とアルバイト希望の大学生のためマッチング。5月20日、学生20名が農家6戸へ援農を開始、品目は桃とリンゴ、梨、ブドウなどです。JAの営農指導員が技術指導を行ないました。7~8月にはJA共選場や直売所で働く取り組みを企画、250名を募集しました。
 コメの消費拡大と子ども食堂の支援
 連合北海道と北海道農民連合で構成する「食・みどり・水を守る道民の会」は新型コロナウィルス感染拡大に伴い余剰が生じているコメ消費拡大と農業支援、子どもたちと学生などへの支援を目的に「コメ消費拡大プロジェクト」を始めました。売り上げの5%が支援金となり、北海道生協連や協同組合ネット北海道メンバーも参加する「子ども食堂北海道ネットワーク」を通じてコロナ禍で困っている子どもや学生などへの支援米として寄付されました。
 子ども食堂北海道ネットワークは地域における食を通した子ども達の居場所の一つとして開設され、様々に協働し運営されている「こども食堂」「地域食堂」が安全に運営されることを願い、学習、交流、情報共有を進め、こども食堂・地域食堂のネットワーク化を促進し、子ども達が安心して暮らせる地域社会を築く事を目的として設立されたネットワークです。
 同ネットワークには協同組合ネット北海道の構成メンバーである、北海道生協連、北海道労働金庫、JA北海道中央会およびJA、コーブさっぽろ、こくみん共済COOPが支援団体として参加しています。ワーカーズコープは各地の子ども食堂の運営団体として参加しています。「子ども食堂の支援」は協同組合ネット北海道の共通推進テーマである「地域づくり」の柱となっています。
 協同組合がめざすもの
 最後に「協同組合がめざすもの」ですが、各協同組合がそれぞれのスローガンをもっています。JAは「安心して暮らせる豊かな地域社会」、全漁連は「漁業者の生活向上、漁村地域の発展」、森林組合は「健康で安心、豊かな住生活を支えていく」、全労済は「豊かで安心できる社会づくり」と。
 生協は「誰もが安心して暮らせる地域社会づくり」を目指しています。

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回顧 コロナと農と協同と 2020年は何を問いかけたのか 
 2020年協同組合懇話会「納め会」講演 要旨
   日向 志郎 (日本農業新聞OB)

1、五輪の代わりにやってきたコロナの恐怖と混乱
 ◇新型ウイルスは日本の弱点を狙う
 災害は弱いところを襲う。コロナは格差に喘ぐ貧困層、ひとり親、学生などを直撃。さらに長年弱体化政策の医療体制を直撃した。だが最大の弱点は政治。安倍首相は習近平氏の国賓招待や東京五輪を優先したのか当初は入国制限もせず。2月末に官房長官にさえ相談なしに全国小中高の一斉休校を突如宣言。学校現場を大混乱させた。ひとり親は仕事を休むか子供をとるか途方に暮れた。
 小林喜光前経済同友会代表幹事が座長の「民間コロナ臨調」は「最悪のことも含めあらゆるパターンの想定を怠っていた」と政府を批判。なのに、安倍氏は感染がおさまりかけた5月下旬、「わずか1ヶ月半で今回の流行をほぼ収束させることができた。日本の感染対応は世界において卓越した模範だ」と自賛、周囲をあきれさせた。
 ◇要は科学(命)より経済、予算抑制 ? そして選挙
 誰が命名したか「アベノマスク」。有り難みの割には莫大な経費、ウサン臭い仲介企業と散々な評判。安倍首相は「休業補償を行なっている国は世界に例がなく日本は最も手厚い支援をしている」と得意の虚言を吐きつつ国民一人10万円給付を決定。
 どうしたら国民受けするか考えた作戦。その路線を引き継いだ菅首相も「移動で感染するというエビデンスがない」と専門家の意見も無視し、GoToトラベルを推進。しかし、これが第3波への拡大が明確になり、内閣支持率が急落するや一転、キャンペーンを中断。国民に十分説明せずも窮地に立つとコロッと変わる菅首相のわかり易い性格が判明。
 ◇頼るべきはやっぱり自助と共助 公助頼りなし
 国民には公助よりまず自助、共助を勧めた菅氏。PCR検査は進まず、休業補償も不十分。国に期待せず、自らの力で命を守る必要を実感。

2、コロナで浮き彫りの日本社会の劣化
 ◇なぜ医療従事者を差別するのか
 コロナ感染者の治療にあたる医療従事者は文字通り命がけ。だが、その従事者の家族や子供らが職場や学校で不当な差別や嫌がらせ、いじめを受けた。
 医療従事者は家族への感染を避け、帰宅しない人も。いじめの張本人が感染したらどんな顔で治療を受けるのか。なぜそんな人がいるのか。思いやりがなくなりつつある日本社会の劣化を思う。
 ◇GDP世界3位の国貧困と冷酷
 コロナ禍が浮き彫りにした深刻な一つは格差・貧困の実態。就業人口の4割が非正規雇用者。1,200万人が年収200万円以下で、ひとり親家庭の47%が収入200万円未満。パートにも出られず100万円未満の家庭もNPO法人調査で11%も。うち34%のひとり親は食費にも困るという。
 国民生活基礎調査の18年調査によると子供の7人に1人が貧困状態。非正規雇用が増えたのは03年3月に派遣労働(非正規)を認める派遣法改正で企業を自由勝手にしたため。
 主導したのは総務相の竹中平蔵氏。その時の副総務相が菅義偉現首相。非正規雇用は労働者保護廃止、福祉・公共サービスの縮小、自己責任を基本にした小さな政府志向など新自由主義路線の結果。国民購買力は上がらず、給与も低迷。1994年−2018年を対象にしたOECD加盟13ヵ国の名目賃金上昇率はメキシコ500%以上、韓国200%以上、米国100%も日本だけがマイナス4・54%。コロナはこんな経済の低迷を直撃した。
 ◇メデイアの萎縮・弱体化とミスリード
 安倍政権以降、メデイアへの懐柔と圧力が強まっている。メデイアは正確で迅速な情報提供のほかに国民から委託された権力のチェックや監視の役割があるのだが、圧力からあえて政府に好意的に報道し、意図的にミスリードし、読者や視聴者を裏切るかのような場面も。
首相が任命する経営管理委員会が会長を選ぶNHKはさらに厳しい。政府のコロナ対応をチェックすることは山ほどあるが、メデイア間で論調にかなり差があるのも目立った。菅政権に移行しても同様。

3、コロナが変える
 ◇オンライン、リモート、テレワーク
 コロナは人同士の意思の伝達を阻害する性質を持つ。だが、これに対抗したのがSNS。「農水省職員、学給停止で行き場を失った牛乳消費でユーチューブに投稿」「関係人口オンライン交流がカギ」「山梨で就農移住希望者リモート座談会」「農水省/約3000の行政手続きを22年まで全てオンライン化」など、会議や商談、「オンライン収穫ツアー」とか色々なイベントまで、リモートまたはテレワークで開いたというニュースが目立った。実際に集まっての場合とは臨場感が当然違うが、安いコストで意思疎通はできた。
 ◇エッセンシャルワーカーへの視線
 コロナで脚光を浴びたのはエッセンシャルワーカー。社会を支える不可欠な仕事にあたる人のことだ。
マクロン仏大統領は4月、「トラック運転手、農家、教職員、配送業者、レジ係、ごみ収集員、警備員、清掃員、医師・看護師、公共交通機関の職員に感謝」と演説。これら人々の社会的地位が見直されたことは間違いない。
 ◇食料・医療の体制充実
 コロナでマスクや医療用ガウンなど医療資材の不足が浮き彫りに。日本の医療体制の脆弱さに、公衆衛生の立て直しを求める声。他方、マスク不足を機に不安が高まったのが食料。多くの人から「食料でなくて良かった」の声が続出。欧米やアジアでコロナによる食料の輸送網が寸断、季節労働者の移動もストップし農作業ができない状態に。ロシアや東ヨーロッパ、インドなどで小麦の輸出規制を始めるなど自国のための食料確保の動きが30か国近くで顕在化した。
 ◇地方移住、田園回帰へのまなざし
 ふるさと回帰センターへの19年度の移住相談が49400件余と過去最高だったが、20年はさらに田園回帰志向が強まった。コロナで都市の過密が敬遠され、テレワークで東京にいなくても仕事できることが現実に。内閣府の首都圏居住者1万人アンケートで半数が地方暮らしに関心あり。やりたい仕事は1位が農業・林業。総務省の住民基本台帳人口移動報告でも東京脱出が現に猛烈に進む。

4、2020年が発したメッセージ
 ◇コロナと気候変動は食料・農業を襲う
 6月の環境白書は「もはや単なる気候変動ではなく、人類や全ての生物の生存基盤を揺るがす気候危機だ」と初めて危機に言及。国際的シンクタンクの研究者は「気候変動で穀物生産が15%以上減る確率は30年に2倍、50年に4倍。自国の生産基盤の強化を」と強調。台風の接近はこの20年で1・5倍に増加、国連によると直近20年の気象災害は8割増。農業地帯の7割、13億人の農業者のリスク。これと並行し、コロナは労働者の移動を妨げ、農作物生産を阻害し、収穫物の輸送を遮断、食料供給網を混乱させた。食料供給リスクにどう備えるかを提起している。
◇経済成長、自由貿易至上主義、効率化一辺倒、グローバリズムへの信仰、無理強いの規制緩和、市場原理優先・自己責任主義の見直し(新自由主義からの決別)
 コロナが炙り出した脆弱な公衆衛生行政、非正規雇用の拡大やひとり親の不安定な生活への直撃で浮き彫りになった格差・貧困問題の深刻化、マスクや食料の海外依存などグローバル貿易のリスク、福祉行政の縮小と社会不安の高まりなど、長年にわたる新自由主義政治の点検、見直しが迫られている。
 ◇J Aなど協同組織への期待
 JCA(日本協同組合連携機構)が20年3月にまとめた「協同組合統計表」によると延べ組合員数は1億561万人で、1世帯平均1.8組合に加入。「コロナ禍でもJAや農家の直売所は緊急宣言下でも野菜がある。農家と直売所に感謝」との声が相次いだ。11月の厚生労働白書も「地域の助け合いにJAは貢献を」と評価。鳥取県湖陵高校2年生が「JAのことをもっと知りたい」と中央会に要望。相互扶助や協同組合と株式会社との違いなどを学んだ。JAは地域の活性化、維持、助け合いには不可欠な組織と期待高まる。
 ◇地方移住、関係人口、小さな拠点の維持・定着への貢献(地域起し協力隊、企業・協同組合間提携による就業機会の創出)
 都市住民が地方の町や集落で地元民との交流や伝統行事への参加で関係人口となる人が増えている。総務省の地域おこし協力隊は代表例。19年4月時点で全国の集落の34.7%(2万1900集落)をサポート。そんな人たちにJAは応援者になって欲しい。武田総務相は24年度に8000人を派遣したいとしているので、JAはぜひ様々な形で頼れる存在になって欲しい。地域にとって非常に大きなポイントだ。
 また、JAごとに協同組合間の連携や企業との提携で事業や組合員サービスの向上を図る動きも活発化している。20年中でも農中と三菱地所がCO 2排出規制で提携(6月)、生活クラブ生協と全農パールライス連携で米5トンを福祉施設に寄付(同)など様々な企業との提携をする時代に。全農はトヨタと電気自動車を核にした地位域作りで提携し、温暖化防止への貢献を目指す一方、8月には大手旅行会社のJTBと労力支援で連携することも決めた。コロナが労働力の融通で混乱をもたらした経験を踏まえた。北海道では道内18団体で協同組合ネット」を設立(同)。11月には全農と日清製粉が国産麦振興で提携した。

 5、アフターコロナの行方
 ◇パラダイム(時代の支配的な物の見方)は変化する?
 感染症によるパンデミックはほぼ100年ごとに起きていて、その度ごとに終息後社会的変革が起きている。1918年から20年にかけてのスペイン風邪後には20年には国際連盟が発足、米国で初の女性参政権が認められた。39万人が亡くなった日本でも平塚らいてうらが新婦人協会設立。
 さらに1820年には産業革命が始まった英国でコレラが大流行。1720年にはフランスからペストが蔓延した。ペストでは荘園制が崩壊し、国王による中央集権制が進んだ。コレラによって公衆衛生の考え方が生まれた。
 ◇脱新自由主義、SDGs、協同労働、ジェンダー平等
 社会学者の大澤真幸氏は戦後75年は25年ごとにパラダイムが変わってきたとみる。25年前の1995年は阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件、村山談話発表、戦後初の銀行経営破綻(兵庫銀行、木津信用組合)、新食糧法で米販売自由化などがあった。
1970年には大阪万博、三島由紀夫割腹自殺が起きた。気候変動やトランプ大統領の退陣、SNSの進化、国連提唱のSDGsの進展や協同労働という新たな就業形態、ジェンダー平等などの考え方や風潮は確かな時代の流れになりつつあるが、コロナ後のパラダイムの変化は果たして起きるのか。

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人新世で地球こ人類勝破滅するのか?
 
 宇宙飛行士の野口さんのお話だつたと記憶するが、「宇宙から見る地球は愛しくかけがえの無い美しさだ」とのことである。人工衛星から撮影された地球は本当に美しい。自然循環の自己回復力 (レジリエント)を持つ地球上に生命を授かり、宇宙時間の一瞬を過ごす私たち人間はなんと幸せな生き物だろう。人を愛し、人と語らい楽しい生の営みを自分たちの世代だけで享受し、地球を汚し尽くして後世に引き継ぐのは大罪である。
 地球が後戻りできない環境変化を来しつつある。人間の営みが環境を破壊し、南北極の氷を溶かし、アルプスの氷河を後退させ水害、干ばつ、森林火災など世界中の異常気象被害をもたらしている。地層の変化にもそれが現れているとのことである。人間が地球から自己回復力を奪いつつある。45億年の歴史のほんの最後の瞬間であるが、20世紀後半以降の今の時代を「人新世」というとのことである。(『世界』5月号「人新生とグローバルコモンズ」参照)
 地球環境の危機をまともに見ず、グレタさんの発言見くだしたトランプ(プーチンも)が退場し、バイデ ン大統領になって、少しは世界が環境問題にまともに向き合う状況になったと思いたい。ところが「人新世の資本論」(斉藤幸平著・集英社新書)が懇話会常務委員会で話題になって読んだら安閑としていられない気分になった。
 ◆ 資本主義で豊かさと民主主義は実現されるのか ?
 学生時代 にマルクスの「資本論1巻」だけはローザ・ルクセンブルグの「資本論注解」片手に読んで、「価値の二重性」に感銘を受けた。資本の自己増殖は必然的で人々を苦しめるものであると納得した。 しかし、スターリニズムを見て「共産党宣言」のプロレタリア革命 は幻想ではないか? ソ連邦とベルリンの壁が崩壊し、東欧がEUに加盟して、中国の国家社会主義を除いて世界はほぼ資本主義一色になった。マル クス主義・社会主義は崩壊し、実証的に資本主義の勝利に終わったと考えていた。私たちはフランス革命の「自由・平等・友愛」の理想社会は資本主義経済の中で政治的に民主主義を追求することによって実現するというのが大まかなコンセンサスであると思ってきたのではないだろうか ?
 日本ではサッチャリズム、レーガノミックスの影響を受け、中曽根時代か ら新自由主義という流れが一貫して続き、この間「官公労=総評」の労働運動が破壊され、社会党が解散し、自民党政権と財界が一体となって公社・公団の民営化、大学や政府研究機関の独立行政法人化、官庁の統廃合を進め、小泉・安倍長期政権で規制改革が完成形に近づいた。公共部門の営利企業への明け渡しである。小選挙区制と相まって 自民党の中ですら政策議論が低調になり、「民主主義」の形骸化が進んでいる。一時民主党政権になつても農協 。農業団体の自由貿易抑制の要求は抑えつけられた。私は無力感を抱きながら、ろくな活動もせず、細々と共生社会を守るグループの一員として生きるという価値観で余生を過ごしている。
 ◆『人新世の資本論』を読んで
 著者斉藤幸平は「資本主義は経済成長が必然的にその矛盾が来たして革命をもたらす原動力になるというマルクスの理論の影響もあり、既存の左翼政党も経済成長を否定できていない」とし、資本論を書いた時期と異なる後期のマルクス自然科学研究を踏まえた論述を紹介・検討している。それ らを踏まえた うえで、第 2章で気候ケイ ンズ主義すなわちグリーン・ニューディールは地球の環境限界 (プラネタリー・バウンダリー)の中で実現できるか、ということについて環境学者ヨハン・ロックストロームの検証を紹介 している。それによれば、地球環境の破壊は不可逆的になりつつあり、結論は残された10年と、2050年までに不可能であることを紹介している。すなわち経済成長をしながら温暖化防止目標の達成は不可能であるとしている。
 ◆ 経済成長路線と決別,協同組合の出番
「資本主義は人間だけでなく、自然環境からも略奪するシステムで、負荷を外部に転嫁することで成長を続ける。先進国はクリーンを実現したわけでなく、途上国に転嫁してきただけである」。SDGsでは「先進技術を駆使してC02や窒素化合物を濃縮して押さえ込むなど、いわゆるグリーン・ニューディールによってカーボンゼロを実現するということも含め、経済成長を前提としており、結局そのしわ寄せを外部に押しつけることとなる」としている。
 したがって経済成長路線と決別し、脱成長コミュニズム路線でしか地球を維持できない。そのためにはグローバルに「コモンズ」を作り上げ、「コモンズによる豊かさ」「ラディカルな潤沢さ」を実現すべきだと主張している。グローバルコモンズの担い手として、①ワーカーズ・コープのような協同組合による参加型社会、②バルセロナの市民が主役となった気候正義・フェアレスシティネットワーク、③食糧主権を掲げて国連の「小農の権利宣言」を実現したビア・カンペシーナ「La Via Campesina(小農の国際組織)」等をあげている。
 ◆ 強大なグローバル企業に対峙出来るのか ?
 米国のロビー活動すなわちグローバル企業による政府の取り込み、日本の経団連と政権との強固なつながり等の結果、国際的な貿易協定は国民の利益よりも大企業の利益が尊重されている。その証左として私たちはTPP交渉におけるISDS条項が「企業が国家を訴える権利保障」であることを学んだ。
 TPPに反対する農協の国民的運動は日本政府に押しつぶされた。希望の星、スペインのモンドラゴンでも創始者アリスメンデリエタのまな弟子たちが作ったという歴史のある家電製造協同組合「ファゴール」がリーマンショック後の不況で経営破綻し解散したとのことである。
 果たして、協同組合が筆者の言うようにグローバル企業と対峙し、「脱成長のコミュニズム路線の主役になれる」のだろうか? 皆さんとともに語り、考え合いたいものである。
                   (代表委員 今尾和實)

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ストリートチルドレンから教わった助け合いの心

 世界からみると日本人は助け合いの心が弱いのか? …… 1992年国連リオ地球サミットでのセヴァン・スズキ (当時12歳)さんのスピーチは強烈なインパクトだった。 ―-―「あなた方 。大人に、生きかたを変えていただくため、カナダから来ました。環境運動してるのは私自身の未来のためです」と訴える彼女の言葉に多くのひとがうなずいた。ユーチューブでは伝説のスピーチと称されている。
 彼女は父親とよくバンクーバーで釣りをしたそうだ。そこで、体中ガンでおかされた魚に出会い問題意識を持ったという。――「子供の私にはどうしたらいいかわかりません。でもあなたたち大人に知ってほしい。解決策なんてないことを。どうやって直すかわからないものを壊し続けるのは、もうやめてください。」と国連で訴えた。
 そして次の言葉に、国連の会場はふるえたそうだ。――「わたしの国での無駄遣いは大変なものです。買っては捨て買っては捨て…。物があ余つているのに南半球の国々と富を分かち合おうとは しません。二日前、ブラジルでストリートチルドレンと出会いショックを受けました。1人の子供が私たちにこう言いました。『ぼくが金持ちだったらなあ、家のない子すべてに食物と着る物と薬と住む場所とやさしさをあげるのに…』 家もない子供が分かち合うことを考えているのに、すべてを持っている私たちがこんなに欲深なのはどうでしょう。戦争のために使われているお金を、もし貧しさと環境のために使えば、地球はすばらしい星になるでしょう。あなた方大人のやっていることで、私たちは泣いています」
 日本人は「親切で礼儀正しい」「真面目」「協調性」「従順」「おとなしい」「我慢強い」などのイメージが強いが、ブラジルのストリートチルドレンほどの助け合いの心を持ち合わせていないのかもしれない。大いに反省させられた。
 ◆ 日本的? いじわる行動
 国際比較してみると、日本人の助け合いの心には興味深い傾向がみえてくる。大阪大学社会経済研究所の実験によると、日本人は他国よりも顕著に「いじわる行動」をする。すなわち「自分が損してでも他人をおとしめたいという嫌がらせ行動」をとる。実験は、お互いにお金を出資して公共財 (道路)を作ろうというゲーム。プレイヤー同士がお互いにどんな行動をとるかによって自分の損得が決まるようになってお り、心理的な駆 け引きが観察できる。
 この実験で日本人に顕著な傾向がみえた。他の人が出し抜いて利益を得ようとすると、躍起になって、 自分が損をしてでも足を引っ張ろうとする。他国ではこのようないじわる行動は見られなかったという。
 ゲームが進んでいくと協力的になるが、「ここで協力せずにいじわるをしていると仕返しされそうで怖い」という心理が働いたようだ。要するに「日本人は他人が得するのを許せないので意地でも他人の足を引っ張る。協力的な姿勢になるのは自分も同じように足を引っ張られるのが怖いから」と言える。
 他人が得するのを許せないので win-winな考え方ができない。そして自分が損していると相手も損すべきだと考えるので lose-loseになってしまう。結果的にお互いを潰し合う。例えば職場では、誰かがいい思いをしていると「あいつはダメだ」と吹聴したり、人を祝福や称賛できない人たちがいる。芸能人や有名人のスキャンダルがもてはやされるのも日本特有だ。人よりもいい思いをしているので有名人はターゲットになりやすいようだ。
 ◆ 困つている人を救うべきだとは思わない
「困っている人を救うべきか」意識調査の国際比較がTBSテレビ「サンデーモーニング」で紹介された。そこでは「救うべきだと思わない」と答えた人の割合は、日本人は38%で、競争社会のアメリカの28%よりも高くかった。「救うべきと思わない」人の割合は、ドイツ 7 %、イギリス 8 % 、イタリア 9 %、中 国 9 %……。
 また、「新型コロナの感染は自業自得だと思う」と答えた人の割合も日本は高かった。坂本治也関西大学法学部教授は指摘する。イギリスのNPO/Charltles Aid Foundationが公表したレポート WOrld Giving lndex 2018/1では、寄付やボランティアの頻度を基に世界各国の共助」レベルのランキングが示されている。調査対象となった世界 144カ国の中で、日本の順位は 128位。先進国として最低ランクだ。
 同調査は、過去1か月の間に、① 困っている見知らぬ他者の手助けをした者の割合が23%(世界 142位 )、② 慈善団体に寄付した者の割合が18%(99位)、③ ボランティア活動に時間を割いた者の割合が23%(56位)だ c
 日本人は困つている他者に対して冷たいのかもしれない。生きづらさを感じる日本人も多い。自殺対策白書によると先進7か国の中で唯一、若年層の死因 1位が「自殺」となっている。何かと自己責任の世の中だが、協同の重要性を再認識したい。 (編集部 今村良一)

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協同組合懇話会◆会報◆ 
 117号一部抜粋 2021年1月発行



協同組合懇話会 20年度第1回研究会 講演会要旨
コロナ・ショックと新しい食料・農業・農村基本計画
 
              東京大学大学院教授 鈴木 宣弘  

Ⅰ.貿易協定で日本の食が危ない ――――――――――――
 ◆輸出規制に耐えられる食料自給率を
 コロナの蔓延で3~6月に世界19カ国が食料の輸出規制をした。輸出規制は簡単に起こりうることが今回も明白になった。輸出規制は国民の命を守る正当な権利だから、止めさせるのは困難。米国の食料貿易自由化戦略の結果として食料危機は発生し、今行うべきは貿易自由化に歯止めをかけ、各国が自給率向上政策を強化することだ。
 FAO・WHO・WTOは貿易自由化と同時に、なお一層の食料貿易由化も求めている。輸出規制の原因が貿易自由化なのに解決策は貿易自由化だ、とは論理破綻も甚だしい。コロナ・ショックに乗じた「火事場泥棒」的ショック・ドクトリン(災禍に便乗した規制緩和の加速)だ。それなのに日本はコロナ問題を隠すように日英協定まで上乗せしようとしている。
 ◆たたみかける貿易自由化の現在地
 TPP11は米国とのFTA(2国間交渉)を避けるために必要、と国民に説明したが、本当は日米交渉とセットだったから嘘をついたのをごまかそうと、何とTAG(物品貿易協定)という捏造語を作った。だが、ペンス副大統領がFTAをやると演説して、慌てた官邸が文字を替えてと頼み込んだ。
 ただそんな時こそ土産が必要で、例えばF-35を100機買うから何とか頼むとなり、国民を欺いて我が身を守るために、さらに国益が差し出されていく悪循環が止まらない。中国が買わないと言う使えもしないトウモロコシを約600億円で買うことになった。尻拭いとは言えないから、これは害虫被害のせいだとなっている。
 EUとの貿易協定はTPPがダメになった時に、格好がつかないからTPP以上に譲っていいから早く決めろという官邸の指示で譲った。TPP11に日米、日EU、日英協定も加わり、既に、あれだけ大騒ぎしたTPP以上のものになっている。
 ◆自動車関税撤廃は約束されたのか
 今回の日米協定を日本は「ウイン・ウイン」と言っているが、米国がTPPで約束した自動車関税の撤廃は日本にとって唯一の重要な利益だったのに、反故に。農産物も譲らされ、ただ失っただけ。トランプ大統領の選挙のため日本が一所懸命貢いでいる構造だ。
 日本政府は米国との協定を批准するにあたり、文書を公表せずに「米国は自動車関税を撤廃すると約束した」と言ったが、署名後に英文だけ出してきてバレた。合意文書は関税撤廃とは読めない。なぜ「ない」ものを「ある」としたかと言えば、自動車関連の約40%が抜けると関税撤廃品目カバー率が史上最低の前代未聞の国際法(90%ルール)違反協定となるため。25%の自動車関税に脅されて「犯罪者に金を払って許しを請う」交渉をしたあげく、日米共犯でWTO違反に手を染めた。
 ◆繰り返される詭弁にもならぬ詭弁
 安倍政権は「経産省内閣」と言われるように総理の取り巻き官僚が経産省出身で、自動車を所管する官庁。従来にも増して自動車を守るため、食と農を差し出そうという構造が強まっている。
 霞ヶ関の幼児化がひどい。2014年4月のオバマ大統領訪日時は牛肉関税引き下げで安倍総理と寿司屋で「にぎって」いたことがわかった。甘利大臣が米国側と必死に交渉して「頭髪が真っ白になるまで頑張った」ように見えたが、実はもともと白い頭髪を黒く染めておいてだんだん白くしていったのだとか。交渉で頑張ったけど、この程度で踏み止まったから許してくれという猿芝居。現場農家の苦しみはどうでもよく、いかに米国や官邸の指令に従って国民を騙し、自分の地位を守るのが全てのように見える。3/11の大震災の2週間後「やったあ、これでTPPが水面下で進められる」と喜んだのは内閣官房。新内閣は国民のために働く内閣を宣言したが、じゃあ今まで誰のために働いていたのか。
 ◆第2ステージは全てが対象に
 USTR(米合衆国通商代表部)が示した交渉目的は22項目。米国は、新NAFTA(北米自由貿易協定)で、食の安全基準(SPS)を貿易の妨げにしてはならないことをTPPよりも強化し、遺伝子組み換え食品の貿易円滑化に重点をおいた条項もTPPより強化しており、これが日米協定のベースになる。
 米国は食品の安全性について「科学主義」を押し付けている。それは「仮に死者がでていようとも因果関係が証明できるまでは規制してはいけない」という主張だ。日本にとっては、食料の安全保障の「量だけでなく、質の食料安全保障の危機」となっている。
 ◆まず月齢制限撤廃と防カビ剤表示
日米交渉ではまず決まるのがBSE月齢制限撤廃と収穫後(ポストハーベスト)農薬の防カビ剤表示である。日本はBSEに対応した月齢制限を20カ月齢から30カ月齢までTPP交渉参加の「入場料」として緩めたが、今回の交渉では国民には伏せて、米国から全面撤廃を求められたら即座に対応できる準備をし、2019年5月に撤廃した。米国の実態は検査率が非常に低いため感染牛が出て来ない。また、屠畜での危険部位の除去もきちんと行われていないので、米国からの牛肉にはリスクがある。
 もう一つ、収穫後農薬;防カビ剤などは禁止だが、米国産果物や穀物のカビに対し、日本車輸入を止めると脅され、1977年、輸入レモン、グレープフルーツ等の柑橘類に防カビ剤OPP(オルトフェニルフェノール)を収穫後にかける「食品添加物」として散布を認めた。今度はさらに、輸入したパッケージにOPPやイマザリルの食品添加物使用を明記するのは、米国産に不利となり、不当な米国差別だからやめろと迫っている。
 ◆米国人が食べない危険な食品が日本に
 米国産牛肉には乳がん細胞を増殖させるエストロゲンなどの成長ホルモン剤が肥育時に投与されている。欧州では「米国の牛肉は食べずに、オーストラリアの牛肉を食べよう」と言う人が少なくない。オーストラリアはEU向け輸出牛に成長ホルモン剤を使わないが、日本向けには遠慮なく使う。日本は国内では非認可だが輸入はザル状態。
ただ米国国内でもホルモン・フリーの商品は通常の牛肉より4割ほど高いが、これを売る高級スーパーや飲食店が5年前くらいから急増している。一方、日本人では、2020年1月に日米貿易協定が発効したら、その1月だけで前年同月比で1.5倍に米国産牛肉が増えている。米国でもホルモン・フリー化が進み、ホルモン牛肉は日本向けになるのか。
 ◆成長促進剤を餌にした牛肉や豚肉
 ラクトパミン(成長促進剤)入りの餌で育てた牛・豚肉も問題がある。これは人間に中毒症状も起こすとして、ヨーロッパだけではなく中国やロシアも輸入を禁止。日本では国内使用は非認可だが、輸入は素通りになっている。
 米国乳製品で、M(モンサント)社開発のGM(遺伝子組み換え)牛成長ホルモン;rBGHまたはrbSTは、ホルスタインへの注射1本で乳量が2~3割も増える。米国は「夢のような」ホルモンを「絶対安全」として1994年に認可した。ところが、数年後には乳がん、前立腺がん発症率が7倍、4倍になったと学会誌が掲載。今では、米国のスターバックスやウォルマートやダノンでは「うちは使っていません」と宣言した。日本は非認可だが輸入は素通りだ。
 米国の消費者は「不買」運動で、安全・安心な牛乳・乳製品の調達を可能にし、M社はrbSTの権利を売却。消費者が拒否すれば、危険なものは排除できる。日本はなぜそれができず、世界中から危険な食品の標的とされるのか。消費者・国民の声が小さいからだ。
 ◆米国産の小麦、トウモロコシ、大豆も
 米国農家は、発がん性に加え腸内細菌を殺し様々な疾患を誘発すると疑われている除草剤グリホサートを、小麦に直接散布して枯らして収穫している。さらに輸送時には、日本では収穫後の散布が禁止されている農薬の防カビ剤;イマザリルなどを噴霧している。米国農家は研修に来ていた日本の農家に「これは日本人が食べるから」と話したという。
 グリホサートは日本の農家も使っている、という反論があるが、日本の農家はそれを慎重に雑草にだけかける。米国は、大豆、とうもろこし、小麦に直接かける。問題は、米国からの輸入穀物に残留したグ リホサートを日本人が世界で一番摂取していることである。
 農民連分析センターによれば、日本で販売されている大半の食パンからグリホサートが検出されているが、「国産」明記の食パンからは検出されていない。しかも、米国で使用量が増えているとして日本人の小麦からのグリホサートの摂取限界値を6倍に緩めた。日本人の命の基準は米国の使用量で決まるのか。
 米国農務省や穀物協会の幹部は「トウモロコシと大豆は家畜のエサだから遺伝子組み換えにした。日本人は一人当たり、世界で最も多く遺伝子組み換え作物を消費している」と言った。我々は家畜なのか。小麦も牛肉も乳製品も果物も、安全性を犠牲にすることで安くした「危ないモノ」は日本向けになる。日本では、まさか小麦にグリホサートはかけないし、乳牛にrBSTも肥育牛にエストロゲンも投与しない。国産の安全・安心なものに早急に切り替えるしかない。世界的に安全基準が厳しくなる中、日本は逆行して、米国の言いなりで、基準を緩め続けている。

Ⅱ.「新たな基本計画」をどう見る ―――――――――――
 ◆「食料自給率」と「食料国産率」
 コロナ・ショックで食料自給が注目される中、日本では「新たな基本計画」では目標水準を53%とする飼料自給率を反映しない新たな食料自給率目標が設定された。名称は「食料国産率」。「自給率45%の達成が難しいから、飼料の部分を抜いて数字上、自給率を上げるのが狙いではないか」という声もある。
従来からの「食料自給率」は、畜産について、食料自給率=食料国産率✕飼料自給率である。
 平成30年度の「食料国産率」と「食料自給率」を比較すると、全体;46%→37%、畜産物;62%→15%、牛乳・乳製品;59%→25%、牛肉;43%→11%、豚肉;48%→6%、鶏卵は96%の国産率でよく頑張っているようだが、飼料の海外依存を考慮すると自給率は12%となる。二つの数字を見ることで国産の頑張りと課題が浮き彫りになる。
コロナ・ショックは、カロリーベースと生産額ベースの自給率の重要性の議論にも「決着」をつけた。すなわち「輸入がストップするような不測の事態に、国民に必要なカロリーをどれだけ国産で確保できるか」が自給率を考える最重要な視点と考えると、重視されるべきはカロリーベースの自給率である。今回のコロナ・ショックでも、穀物の大輸出国が輸出制限に出たことにより、カロリーベースまたは穀物自給率が最終的には危機に備えた最重要指標であることを再認識させた。
 ◆労働力や種子も考慮した自給率議論に
 コロナ・ショックは、日本農業が海外の研修生に支えられている現実、彼らの来日ストップが野菜などの農業生産を大きく減少させる危険を炙り出した。メキシコ、カリブ諸国、アフリカ、東欧の労働力に大きく依存する欧米ではもっと深刻である。
 「新しい基本計画」の食料国産率の議論でも、「野菜の種子の9割が外国の圃場で生産され、自給率80%の野菜も種まで遡ると自給率8%(0.8×0.1)」という衝撃的現実が示された。コロナによる人の移動制限が、日本の種苗会社が海外圃場で委託生産している現場への人員派遣を困難にし、種の品質管理と供給に不安が生じている。
 同様に農業労働力の海外依存度が高まる中で海外研修生の件は、多くの課題がある。一時的な受入れでなく、教育・医療・社会福祉等の待遇を充実させ、家族とともに長期に日本に滞在できるような受入れ体制の検討も必要だ。コロナ・ショックで露呈した労働力と種子の海外依存が今後の不測の事態に備えた具体的課題を浮き彫りにしている。
 食の安全保障には量と質がある。コロナ・ショックは米国産食肉の安さのもう一つの秘密も露呈した。肥育における成長ホルモン投与の他、もう一つ、食肉加工場の劣悪な労働環境での低賃金・長時間労働の強要が、新型肺炎の集団感染につながっている。米国などでは、労働コストを不当に切り詰めて輸出競争力を高め、環境コストを不当に切り詰めるソーシャル・ダンピング、エコロジカル・ダンピングが行なわれている。
 ◆「望ましい農業構造の姿」の変化
 地域の暮らしを非効率とし、拠点都市への人口集中を効率的としたことの間違いを、コロナ・ショックは認識させた。地域の基盤の農林水産業の持続は不可欠だ。小規模な家族農業を「淘汰」して、メガ・ギガファームだけが生き残ることはできない。メガ・ギガファームが生産拡大しても、廃業する農家の生産をカバーしきれず、総生産が減少する。地域も崩壊する。今後、「今だけ、金だけ、自分だけ」のオトモダチ企業が儲かっても、多くの家族農業経営がこれ以上潰れたら、地域コミュニティを維持すること、国民に安全・安心な食料を量的にも質的にも安定的に確保することは到底できない。(地域医療も同じ。診療報酬の削減も進め、医療機関の統廃合を強引に推し進め、各地の医療サービスが低下してきた。)
 「基本計画」で2015年計画と2020年計画を見比べると、担い手の問題で一目瞭然なのは、2020年計画の図の左側はまったく同じ。2020年計画には「その他の多様な経営体」が右に加えられ、「担い手」を中心としつつも、「半農半X」(半自給的な農業とやりたい仕事を両立させる生き方)なども含む多様な農業経営体を、地域を支える重要な経営体として一体的に捉える姿勢が復活した。農水省内の「抵抗勢力」を抑えて、バランスのとれた基本計画がある程度復活したことは特筆に値する。

Ⅲ.種苗法改定で農,林,水産業などを企業に渡す―――――――――
 ◆「非効率」としてショック・ドクトリン
 日本では、これまで頑張ってきた農林漁家を、「非効率」として特定企業に乗っ取らせる法律がどんどんできている。「国家戦略(私物化)特区」ではH県Y市の農地を買収。森林の2法で私有林・国有林を盗伐して(植林義務なし)バイオマス発電に。漁業法改悪で人の財産権を没収して洋上風力発電に。S県H市の水道事業を「食い逃げ」する内外企業グループに。すべて同一企業が絡んでいて、日本の農・林・水(水道も含む)すべてを「制覇」しつつある。
 公益的なもの、共助・共生の精神に基づくものとして維持され、地域で頑張っている事業を、オトモダチ企業の儲けの道具に差し出させるのが、規制改革や自由貿易の本質である。「攻めの農業」「企業参入が活路」と言い、既存事業者を「非効率」としてオトモダチ企業に明け渡す手口は、農、林、漁ともにパターン化している。
 最近の象徴的「事件」はH県Y市の農業特区である。突如、大企業が農地を買うことができるようになった。国家戦略特区は、国家「私物化」特区である。政権と近い特定の企業・事業体がまず決まっていて、その私益のために規制緩和の突破口の名目でルールを破って自分だけに規制緩和するからおいしい。のちに問題になった獣医学部新設問題と同じ構造である。
 農業委員会や漁業調整委員会の任命制によって農業や漁業参入を狙う企業が委員になるのも見え見えだ。民有・国有林の「盗伐」合法化、漁業では漁協(漁家)への優先権を剥奪し、山も海も資源管理のコストは負担せずに、儲けだけをオトモダチのものにして、周りや国民にツケを回す。水道(コンセッション方式)も同じだ。
 ◆「攻めの農業・林業・漁業」の本質は
 特定のオトモダチ企業が既存の農林漁家を農地・山・海から引き剥がし、儲けの道具にするだけだから、仮に少数の「今だけ,金だけ,自分だけ」の企業が短期的に利益を増やしても、地域も国民も疲弊し、社会は持続できなくなる。国民の命に直結するライフラインが狙われている。医療や共済事業への攻撃も日米FTAで本格化するだろう。
 日米FTAでは、米国の農業関連産業、自動車産業、製薬・医療産業、金融保険業界、グローバル種子企業などの利益のために、どれだけ国民の命と暮らしが蝕まれるかを深刻に受け止めないといけない。取り返しのつかないレベルになってしまってからでは手遅れになる。
そもそも、種子法の廃止、農業競争力強化支援法、漁業法、森林の2法、水道の民営化、などの一連の政策変更の一貫した意図は「公的政策による制御や既存の農林漁家の営みから、企業が自由に利益を追求できる環境に変えること」である。「公から民へ」「既存事業者から企業へ」が共通理念であることを押さえてほしい。
 それにしても法的位置づけもない諮問機関(司令塔の未来投資会議、その実行部隊の規制改革推進会議)に、利害の一致する仲間(彼らは米国の経済界とも密接につながっている)だけを集めて、官邸(裏で操る経済産業省)とで、国の方向性が私的に決められ、誰も止められないのは異常すぎる。
 農協共販の弱体化を図った畜安法改定では、官邸に意見した担当局長と課長が更迭された。官邸には「人事と金と恫喝」で反対の声を抑え込む「天才」がいる。海も山も、自分たちが長年守ってきたものを自分たちの手で破壊する法改定を上からの一声で強要される農水官僚の断腸の想いは察するに余りある。
 ◆種子法廃止、種苗法で「公から民へ」
 種苗法は、植物の新品種を開発した人が、それを利用する権利を独占できると定める法律。ただし、農家は自家採種してよいと認めてきた(21条2項)。今回の改定案は、その条項を削除して、農家であっても登録品種を無断で自家採種してはいけないことにした。また、新品種登録にあたって、その利用に国内限定や栽培地限定の条件を付けられるようにした。
 これには、ぶどうの新品種シャインマスカットのように海外に持ち出され、多額の国費を投入して開発した品種が海外で勝手に使われ、それによって日本の農家の海外の販売市場が狭められ、場合によっては逆輸入で国内市場も奪われかねない、という背景がある。しかし、一番やるべき決め手は日本が海外で早く品種登録することで、種苗法で自家採種を抑制するのは補完的な歯止め効果しかないのではないかとの指摘がある。
 むしろ自家採種に制限をかけることが、種子法廃止から始まった「公」から「民」への流れで、グローバル種子企業に譲渡されたコメなどの種を買わざるを得ない状況につながり、結果的に「日本の種が海外に取られてしまう」ことになる。登録品種のうち外国法人による登録は年々増え、2017年にはすでに4割弱(36%)になっている(印鑰智哉氏)という流れを加速する副作用のほうが大きい可能性が懸念されている。
 ◆育種家の利益増は農家の負担増
種苗法改定のもう一つの目的は、すでに廃止された種子法と新たに制定された農業競争力強化支援法によって、公共育種事業の民間への移行を進めたうえで、今回の種苗法改定で、育種家の権限を強め、民間育種事業の拡大を支援することとされている。育種家の利益を増やさないと育種が進まないというが、裏返せば、それは種苗を使用する農家の負担は必然的に増えることを意味する。
日本の種子価格の推移を見ると、民間の種が圧倒的に増えた野菜では、1951年から2018年の間に、種の価格は17.2倍になったのに対して、種子法で公共の種が供給されてきたコメ・麦・豆については、2~5倍に抑制されている。
 ◆歴史的事実から背景を読む
 背景には「種を制する者は世界を制する」との言葉のとおり、種を独占し、それを買わないと生産・消費ができないようにして儲ける動きがある。グローバル種子企業が南米などで展開してきたのと同じだ。「企業→米国政権→日本政権」への指令の形で「上の声」となっている。それは「種子法廃止→農業競争力強化支援法8条4項→種苗法改定」を活用して、「公共の種をやめてもらい→それをもらい→その権利を強化してもらう」という流れである。
 グローバル種子企業への「便宜供与」が、日本では次の一連の措置で行われている。①種子法廃止、②種の譲渡(これまで開発した種は企業がもらう)、 ③種の無断自家採種の禁止(企業の種を買わないと生産できない)、 ④Non-GM=非遺伝子組み換え表示の実質禁止(2023年4月1日から)、 ⑤全農の株式会社化(non-GM穀物の分別輸入は目障りだから買収)、 ⑥GMとセットの除草剤の輸入穀物残留基準値の大幅緩和(日本人の命の基準は米国の使用量で決まる)、 ⑦ゲノム編集の完全な野放し(勝手にやって表示も必要なし、2019年10月1日から)。
 全農の株式会社化もグローバル種子企業と穀物メジャーの要請で農協「改革」に組み込まれた。子会社の全農グレインがNon-GM穀物を日本に分別して輸入しているのが目障りだが、世界一の船積み施設を米国に持っているので買収することにしたが、親組織の全農が協同組合だと買収できないので、米国からの指令を一方的に受け入れる日米合同委員会で全農の株式会社化が命令された。
 消費者庁は「非遺伝子組み換え」表示を実質できなくする「GM非表示」の方針を出した。これも、グローバル種子企業からの要請である。ゲノム編集は、遺伝子喪失・損傷・置換が世界の学会誌に報告されている。しかし、日本は米国に呼応し「GMに該当しない」とした(2019年10月解禁)。消費者は知る権利も失い、何も知らずにゲノム食品を食べることになる。
 GM種子と農薬販売のM=モンサント社と人の薬販売のドイツのB=バイエルン社の合併は、米麦もGM化され、種の独占が進み、病気になった人をB社の薬で治す「新ビジネスモデル」との声さえある。
 ◆対象は少数で影響は小と言うが…
 無断自家採種の禁止の対象となるのは登録品種のみ1割程度で、一般品種の自家採種は続けられると説明されている。しかし、コメの場合、産地品種銘柄における登録品種の割合は全国平均で64%(栽培面積でも33%)と高く、地域別に見ると、青森県99%、北海道88%、宮城県15%など、地域差も大きいとのデータもある(印鑰氏)。
 代々自家採種してきた在来種で品種登録されていなかったら種は自分のものではない。農家が良い種を選抜して自家採種を続けていた在来種が変異して、すでに登録されている品種の特性と類似してきていた場合に、「特性表」だけに基づいて、登録品種と同等とみなされて権利侵害で訴えられる可能性も指摘されている。こうして在来種がさらに駆逐され、F1の種や登録品種の種に置き換わっていくと、青果物だけでなく、コメ・麦・大豆についても、種の値上がりによる生産コストの上昇、品種の多様性の喪失による災害時の被害増大などが懸念される。
 ◆種は誰のものなのか
 「種は誰のものなのか」ということをもう一度考え直してみたい。種は何千年も皆で守り育ててきたものである。それが根付いた各地域の伝統的な種は地域農家と地域全体にとって地域の食文化とも結びついた一種の共有資源であり、個々の所有権は馴染まない。育成者権はそもそも農家の皆さん全体にあるといってもよい。
 種を改良しつつ守ってきた長年の営みには莫大なコストもかかっている。そうやって皆で引き継いできた種を「今だけ、金だけ、自分だけ」の企業が勝手に素材にして改良し登録して独占的に儲けるのは、「ただ乗り」して利益だけ得る行為である。だから、農家が種苗を自家増殖するのは、種苗の共有資源的側面を考慮すると、守られるべき権利という側面がある。
 諸外国においても、米国では特許法で特許が取られている品種を除き、種苗法では自家増殖は禁止されていない。EUでは飼料作物、穀類、ばれいしょ、油糧及び繊維作物は自家増殖禁止の例外に指定されている。小規模農家は許諾料が免除される。「知的所有権と公的利益のバランス」を掲げるオーストラリアは、原則は自家増殖可能で、育成者が契約で自家増殖を制限できる(印鑰智哉氏、久保田裕子氏)。
 もちろん、育種しても利益にならないならやる人がいなくなる。しかし、農家の負担増大は避けたい。そこで、公共の出番である。育種の努力が阻害されないように、よい育種が進めば、それを公共的に支援して、育種家の利益も確保し、使う農家にも適正な価格で普及できるよう、育種の努力と使う農家の双方を公共政策が支えるべきではなかろうか。

Ⅳ.農協改革の真の狙いは何か ―――――――
 ◆郵政民営化から農協改革へ
 かんぽ生命の過剰ノルマによる利用者無視の営業問題が騒がれている。少し前、日本郵政が外資系A社に2,700億円を出資し、近々、日本郵政がA社を「吸収合併」するかのように言われたが、実質は「母屋を乗っ取られる」危険がある。かんぽ生命が叩かれているさなか、「かんぽの商品は営業自粛だが、(委託販売する)A社のがん保険のノルマが3倍になった」との郵便局員からの指摘が、事態の裏面をよく物語っている。
 郵政民営化は、郵貯マネーと簡保の350兆円の運用資金を狙っていた米金融保険業界に応えたもの。郵貯マネーの次なる標的はJAの貯金と共済の155兆円である。つまり、農協改革の目的は「農業所得の向上」ではなく、①信用・共済マネーの分離、②共販を崩して農産物を買い叩く、③共同購入を崩して生産資材価格をつり上げる、④それでJAと既存農家が潰れたら、オトモダチ企業が農業参入すること。規制改革推進会議の答申の行間から、そう読める。
 農産物の「買い叩き」と資材の「つり上げ」から農家を守ってきた農協共販と共同購入もじゃま。だから、世界的に協同組合に認められている独禁法の適用除外さえ「不当だ」と攻撃しだした。ついには、独禁法の厳格適用で農協共販つぶしを始めた。これが「対等な競争条件」要求の実態である。先方の思惑は「解体」だから、JAが自主的に推進している「自己改革」とは「峻別」しなくてはいけない。
 米国は、日本の共済に対する保険との「対等な競争条件」を求めているが、保険と共済は違うのだから、それは不当な攻撃である。相互扶助で命と暮らしを守る努力を国民に理解してもらうことが最大の防御である。
 ◆農産物、農業労働が買い叩かれている
 日本の農産物は買い叩かれている。食料関連産業の規模は、1980年の49.5兆円から、2011年には76.3兆円に拡大している。けれど農家の取り分は13.5兆円から10.5兆円に減少している。農家の農業所得を時給に換算すると、近年やっと最低賃金を上回ったものの、女子臨時職員の時給にも届かない。農業労働が買い叩かれている。食べる側は考えてほしい。
 酪農における農協・メーカー・スーパー間の力関係を計算したら、スーパー対メーカー間の取引交渉力は7対3で、スーパーが優位。酪農協対メーカーは1対9で生産サイドが押されている。だから2008年に餌危機のとき、餌代がkgあたり20円も上がって、生産者が何とかしてくれと言ったけれど、小売大手が駄目だと言って、酪農家がバタバタ倒れた。これは日本が最も顕著だった。
 他の国では小売価格も3カ月のうちに30円も上がって、自分たちの食料を守るシステムが動いた。このシステムが働かないのが日本である。これも「今だけ、金だけ、自分だけ」の「3だけ主義」だ。買い叩いてビジネスができればいい、消費者も安ければいいと。こんなことをやって、生産者がやめてしまったら困るのは国民である。みなで泥舟に乗って沈んでいくようなものだ。
 いまでも買い叩かれているのに、対等な競争条件のために、共販・共同購入への独禁法の適用除外をやめさせるべきだという議論は、大手小売がさらに買い叩いて儲けるための口実で、競争条件をさらに不当にするものである。大手小売の「不当廉売」と「優越的地位の濫用」こそ、独禁法上の問題だ。農業競争力強化支援法=農業・農協弱体化法も「共販・共同購入をやめれば所得増大」と煽っている。戦前の買い叩きと資材つり上げ、高利貸に苦しめられて、勝ち取ってきた歴史を元に戻せと言うのか。

Ⅴ.真に強い農業を構築するには ――――――――
 ◆農業を支える消費者との絆
 スイスの卵は1個60~80円もする。筆者も見てきたが、輸入品の何倍もしても、国産の卵のほうが売れていた。小学生くらいの女の子が買っていたので、聞いた人(元NHKの倉石久壽氏)がいた。その子は「これを買うことで生産者の皆さんの生活も支えられ、そのおかげで私たちの生活も成り立つのだから、当たり前でしょう」と、いとも簡単に答えたという。
 真に強い農業とは、ホンモノを提供する生産者とそれを支える消費者との絆と言えよう。そのキーワードは、ナチュラル、オーガニック、アニマル・ウェルフェア(動物福祉)、バイオダイバーシティ(生物多様性)、そして美しい景観である。
 ◆消費者への補助で生産者を支える
 もう一つのポイントは消費者への支援策。米国の農業予算は年間1000億ドル近い。驚くことに予算の8割近くは「栄養(Nutrition)」、その8割はSupplemental Nutrition Assistance Program (SNAP)と呼ばれる低所得者層への補助的栄養支援プログラムに使われているのだ(SNAPが貧困層や農家でなく食品・製薬・金融業界への支援だとの指摘にも留意)。
 なぜ、消費者の食料購入支援の政策が、農業政策の中に分類され、しかも64%も占める位置づけになっているのか。消費者の食料品の購買力を高めることで、農産物需要が拡大され、農家の販売価格も維持できる。経済学的に見れば、農産物価格を低くし農家に所得補填するか、農産物価格を高く維持して消費者に購入できるように支援するか、基本的には同様の効果がある。米国は農家への所得補填の仕組みも驚異的な充実ぶりだが、消費者サイドからの支援策も充実している。まさに、両面からの「至れり尽くせり」である。これが食料を守るということだ。
 ◆農を守らない日本 
 農業政策を意図的に農家保護政策に矮小化して批判するのは間違っている。農業政策は国民の命を守る真の安全保障政策である。こうした本質的議論なくして食と農と地域の持続的発展はない。米国の言いなりに何兆円も武器を買い増すのが安全保障ではない。いざというときに食料がなくてオスプレイをかじるのか。食料・農林水産業政策は、国民の命、環境・資源、地域、国土・国境を守る最大の安全保障政策だ。
 国民が求めるのは、日米のオトモダチのために際限なく国益を差し出すことではなく、自分たちの命、環境、地域、国土を守る安全な食料を確保するために、国民それぞれが、どう応分の負担をして支えるか、というビジョンとそのための包括的な政策体系の構築である。
 ◆自由化は国民の命と健康の問題
 農産物貿易自由化は農家が困るだけで、消費者にはメリットだ、というのは大間違いである。安全・安心な国産の食料が手に入らなくなる危険を考えたら、自由化は、農家の問題ではなく、国民の命と健康の問題である。つまり、輸入農水産物が安いと言っているうちに、エストロゲンなどの成長ホルモン、成長促進剤のラクトパミン、遺伝子組み換え、除草剤の残留、イマザリルなどの防カビ剤と、これだけでもリスク満載。これを食べ続けて病気の確率が上昇するなら、こんな高いものはない。
 牛丼、豚丼、チーズが安くなって良かったと言っているうちに、気がついたら乳がん、前立腺がんが何倍にも増えて、国産の安全・安心な食料を食べたいと気づいたときに自給率が1割になっていたら、もう選ぶことさえできない。除草剤入り食パンは如実に語る。国産を食べないと病気になる。早急に行動を起こさないと手遅れになる。
 ◆農政で語られるウソとホント
 「世界で最も高関税で守られた閉鎖市場」というのもウソ。―― OECDデータによれば、日本の農産物関税率は11.7%で多くの農産物輸出国の1/2~1/4である。こんにゃくが1,700%ばかり強調して高いというのは間違い。野菜の関税率は3 %程度がほとんどで、極めて低い関税の農産物が9割も占めるのは日本だけだ。自給率38%の国の関税が高いわけがない。
 「政府が価格を決めて農産物を買い取る遅れた農業保護国」というのもウソ。――価格支持政策をほぼ廃止したWTO加盟国一の哀れな「優等生」が日本で、他国は現場に必要なものはしたたかに死守。米加欧は穀物や乳製品を支持価格で買入し援助や輸出に回す。EUは支持価格を引き下げた分を国民に理解されやすい環境直接支払いに置き換え、トータルとしての補助水準を維持している。
 「農業所得は補助金漬け」というのもウソ。――日本の農家の所得のうち補助金の占める割合は3割程度に対し、EUの農業所得に占める補助金の割合は英仏が90%以上、スイスではほぼ100%と、日本は先進国で最低。命を守り、環境を守り、地域を守り、国土・国境を守っている産業を国民みんなで支えるのは、欧米では当たり前。それが当たり前でないのが日本。
 ◆武器としての食料
 米国では、食料は「武器」と認識されている。米国は多い年には穀物3品目だけで1兆円に及ぶ実質的輸出補助金を使って輸出振興しているが、「食料を握ることが日本を支配する安上がりな手段」という認識である。
 ブッシュ大統領は、食料・農業関係者には必ずお礼を言っていた。「食料自給はナショナル・セキュリティの問題だ。皆さんのおかげでそれが常に保たれている米国はなんとありがたいことか。それにひきかえ、(どこの国のことかわかると思うけれども)食料自給できない国を想像できるか。それは国際的圧力と危険にさらされている国だ。(そのようにしたのも我々だが、もっともっと徹底しよう)」と。戦後一貫して、この米国の国家戦略によって我々の食は米国にじわじわと握られていき、いまTPP合意を上回る日米の2国間協定などで、その最終仕上げの局面を迎えている。占領政策はいまも続き、最終局面に入った。
 ◆生消を繋ぐ核は共助組織
 農家は協同組合や共助組織に結集し、自分たちこそが国民の命を守ってきたし、これからも守るとの覚悟を明確に伝え、消費者との双方向ネットワークを作るべきだ。それにより安くても不安な食料の侵入を排除する。消費者もそれに応えて欲しい。それが強い農林水産業である。
 究極的にはJAが正准の区別を超え、実態的に地域を支える人々全体の協同組合に近づくこと。信用・共済などの収益が農業振興を可能にし、それで地域の食と生活が守られ、信用・共済が利用され、再び還元されていく循環だ。兼業農家の果たす役割も注目すべき。協同組合・共助組織と自治体の政治・行政が核になって各地の生産者、労働者、医療関係者、大学関係者、消費者を一体的に結集して市民ネットワークを通じ支え合えば未来は開ける。そして、安全・安心な食と健康な暮らしを守る。
 協同組合は生産者にも消費者にも貢献し、流通・小売には適正なマージンを確保し、社会全体がバランスの取れた形で持続できる役割を果たしている。そして命・資源・環境・安全性・コミュニティなどを守る最も有効なシステムとして社会に不可欠なことを国民に理解してもらおう。市場原理主義から地域や環境の破壊を食い止め、地域の食と暮らしを守る最後の砦は共助組織・協同組合だ。
 ◆アジアと世界の共生に向けて
 日本、中国、韓国などアジアの国々が一緒になり、TPP型の収奪的協定ではなく、お互いに助け合い共に発展できる互恵的で柔軟な経済連携ルールをつくる。多様な農業がちゃんと生き残って発展できるルールを提案しないといけない。それが最終的には完全な貿易自由化を目指すFTAやWTOのゴールを変える力にもなる。米国との対等な関係を築く必要がある。
 協同組合のリーダーは、組織防衛では組織は守れないことを肝に銘じ、組合員と地域の皆さん、ひいては国民の暮らしを守るために、我が身を犠牲にする覚悟を持って邁進することが求められているのではないか。特に、懇話会メンバーには残された人生を捧げてほしい。
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労働者協同組合法が成立

 日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会 統合本部 佐々木政行

 協同労働の「労働者協同組合法」が成立
 2020年12月4日、わが国に「労働者協同組合」という新しい形の協同組合の誕生が決まった。法的枠組みとなる「労働者協同組合法」が、11月24日の衆院本会議に続いて12月4日に参院本会議で可決された。衆院、参院ともに党派を超えた全会一致で賛成を得て、成立したのである。法の施行は成立後から2年以内とされている。日本の協同組合史上、農業協同組合法(1947年)、消費生活協同組合法(1948年)、水産業協同組合法(同)、森林組合法(1978年)に続く5つ目の協同組合根拠法として誕生。画期をなす出来事と言える。
 労働者協同組合(ワーカーズコープ)は、欧米とりわけ欧州では、農業協同組合よりも古い歴史を持つ協同組合である。しかし、わが国では縦割り行政のもとで産業分野別の協同組合はあっても「働く人」の協同組合はなかった。そのため、「協同労働の協同組合」とか「労協(ワーカーズコープ)」を名乗っていても、実際は「特定非営利活動法人」(NPO)とか「企業組合」、「みなし法人」などの法人格を使い分けながらやってきたのだった。
 主な当事者団体としては、一つは戦後の失業対策事業の中から中高年の仕事づくりをめざす「中高年雇用福祉事業団全国協議会」による事業団運動を「よい仕事の追求」という理念で発展させ、労働者協同組合にたどり着いた「日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会」があり、もう一つは生活クラブ生協組合員による、生協事業に関連したさまざまな仕事おこしに取り組んでいるワーカーズ・コレクティブの全国組織「ワーカーズ・コレクティブ ネットワーク ジャパン(WNJ)」を挙げることができる。

 日本の労協(ワーカーズコープ)のこだわり
 ここでは、前者の労働者協同組合(ワーカーズコープ)について紹介したい。先ほども触れたが、仕事づくりの事業団運動から「よい仕事の追求」を通して、さらに欧州の協同組合の実践にも学びながら、1986年に「日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会」に改組し、わが国の労働者協同組合運動(労協運動)の先駆けとして協同労働の道を切り拓いてきたのである。
 「人間らしく働く」ことをめざし、「“雇われ者意識”の克服」を掲げ、働く一人ひとりの主体性を尊重し、仲間どうしとの協同性を育む職場づくりに取り組んできた。それは、いつも「よい仕事とは何か」を問い続けることで、目前の仕事(事業)に埋没するのではなく、周囲の地域・社会と向き合い、地域の人たちとともに協同労働を通じた地域の困りごとや課題解決に向けた必要な仕事おこしにも挑戦する。協同労働という働き方を通して、住民主体のより良い地域づくりをめざした取り組みといえる。
 理念の紹介は、どうしても堅苦しい表現になるので申し訳ない。現実に展開している協同労働の仕事は、デイサービスなどの高齢者介護や福祉関連、保育園や学童クラブなどの子育て支援、病院の清掃や建物管理、公共施設の指定管理、生活困窮者やさまざまな困難を抱えた人の就労・生活支援、生協の物流センターの請負、小規模農林業や廃食油の回収による再生可能エネルギーづくりなどなど、業種は実に多岐にわたっている。
 現在、全国で1万6,000人を超える組合員が就労し、年間事業高は約350億円となっている。法律(根拠法)が無い中で、なぜ労協(ワーカーズコープ)なのか。ポイントは「ひとり1票」の議決権をベースに、出資して組合員となり、組合員自らが働き(労働)、組合員の話合いで経営・運営(全組合員経営)する――ということにこだわってきたのである。

 日本の協同組合組織と日本労協連との出会い
 労協法制定を受けて、新聞などでワーカーズコープが紹介されたが、それでも協同組合懇話会の会員の皆さんは「労協ってなに?」という思いを持つ方が多いかもしれません。でも意外なことに、30年近く前、わが国の既存の協同組合陣営と日本労協連とが、クロスする場面があったのである。
 それは1992年10月、東京で開催された国際協同組合同盟(ICA)の第30回大会。それまでの大会は欧州内だけで開かれ、初めての欧州域外での開催となった。当時ICAに加盟していた日本の協同組合9団体〔全中、全農、全共連、農林中金、家の光、新聞連、日本生協連、全漁連、全森連〕で組織委員会(委員長=堀内巳次・全国農協中央会会長)を作り、職員を派遣して事務局として対応した。
 組織委員会と事務局は、業種・分野を超えたわが国初の協同組合間協同の試みといえる。この時、全国新聞情報農協連(新聞連=日本農業新聞)に勤めていた筆者は、90年4月から同事務局に出向し、参加した。ちなみに東京大会のテーマは2つ。「協同組合の基本的価値」と「環境と持続可能な開発」。前者は前回のストックホルム大会で提起され、東京大会で「協同組合が大事にしなければいけない普遍的な価値とはなにか」について論議を深め、次の95年にマンチェスター(英国)で開く「ICA100周年記念大会」で、協同組合原則の見直しに繋げようという課題だった。
 当時、欧州では大型生協の倒産が相次ぎ、協同組合の基本的な在り方が問い直され、一方、地球規模での環境問題が深刻さを増し、東京大会前の6月にリオデジャネイロ(ブラジル)で「地球環境サミット」が開かれ、東京大会はそれを受けた世界の協同組合セクターによる具体的な取り組みが問われていた。
 その4日間の東京大会の中で、日本労協連のICA加盟が正式に承認されたのである。根拠法が無い日本のワーカーズコープを、世界の協同組合組織=ICAが仲間として認め、迎え入れた。日本の協同組合としてのICA加盟は11番目。組織委員会を作った9団体のあと92年5月に全国労働者共済生協連(全労済)が、それに続いての加盟を果たしたのだ。

 成立した171条の労働者協同組合法とは
 今回成立した労協法の内容を簡単に紹介したい。条文本体は137条あり、附則の34条も加えると合計171条にも。1つの法律として、ボリュームはじつに膨大だ。自民党と公明党の与党協同労働法制化ワーキングチームで11回にわたる実務者協議を開き、日本労協連やWNJの当事者団体の意見をていねいに聞き取ってもらい、条文の細部についても検討。並行して超党派の協同組合振興研究議員連盟を通じて情報共有と意見交換もすすめ、全会派の理解に温度差をなくすように努めた結果でもある。
 目的を記した第一条には、含蓄深いことが謳われている。「各人の生活との調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就労する機会が必ずしも十分に確保されていない現状等を踏まえ」と、働くことに於いて今日の社会状況に問題があることを認めた上で、「組合員が出資し、それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、及び組合員自らが事業に従事することを基本原理とする」(※下線は筆者)と明記した。組合員が「出資」し、事業の経営・運営に組合員の「意見を反映」し、組合員が「従事」することを、労働者協同組合という組織の「基本原理」に据えたのである。
 さらに、この基本原理のうえに必要な事項を定めることで、「多様な就労機会の創出を促し、地域における多様な需要に応じた事業が行われることを促進し、持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的にする」としている。「持続可能で活力ある地域社会の実現」とは、これまでの市場競争原理の下での大量生産・大量消費のグローバル経済のベクトルとは真逆の世界だ。「働く人」が雇う・雇われる関係ではなく、1人ひとりが人間としての尊厳と誇りをもった「人間らしい働き方」を取り戻し、共生と協同の関係をベースにした「人間再生」に向かう道だ。
 このほか特徴的な主なポイントを挙げるなら、①組合は、組合員と労働契約を締結する(組合による労働法規の遵守)、②労協が取り組む事業分野は、労働者派遣事業を除いて制限はない、③組合設立には発起人が3人以上必要だが、届け出制による準則主義(官庁の認可は不要)、④組合の事業に従事する者の4分の3以上は組合員でなければならない、⑤企業組合やNPO法人は、施行後3年以内での移行措置規定が設けられている、⑥出資配当はできない――などが盛り込まれている。

 労協法制定から何を学ぶのか
 労協(ワーカーズコープ)の法制化運動は、1998年10月に開いた「労働者協同組合法制定出陣式」が皮切り。以後、自治体への地道な働きかけを続け、県市町村議会で940を超える意見書採択を実現。さらにICAや国連ILO(国際労働機関)、日本協同組合連携機構(JCA)や労働者福祉中央協議会など、長年にわたって内外の友誼団体からの賛同や支援を受けながら、法制化を勝ち取ったのである。
 労協法の実現は、JAや生協など既存の協同組合にとっても意義あることだと考える。法制化運動を通じて、労協(ワーカーズコープ)という協同組合がJAや生協などの既存協同組合の人たちにどのような見え方をしたのかは、分からない。しかし、私は少なくとも次の3点は、既存協同組合の再活性化のヒントになるのではないかと思っている。
 1つは、協同組合と組合員の関係の在り方を、もう一度見直すきっかけになるのではないか。労協法では、組合員自らが働き、意見反映という形で経営・運営に参加する。実際のワーカーズコープの事業所・現場でも、さまざまな場面で組合員どうしが話し合いを重ね、現場を運営している。シンプルな形で「組合員が主人公」ということが見えるのである。組織が大きくなったJAや生協でも、組合員の求心力を高める方策はまだあるのではないだろうか。
 2つは、既存協同組合の協同事業活動を補完するのに、労協法を活用してワーカーズコープを設立し、提携することが可能になった。地域のさまざまな助け合い活動や仕事おこし、地域づくりの取り組みを、それぞれに合った協同労働の就労の場としてワーカーズコープを立ち上げ、すすめていくのである。労働者派遣事業以外は業種の制限がないので、創意と工夫で柔軟な対応が可能といえる。
 3つは、労協法の制度と仕組みの活用に留まらず、事業団運動から今日の労協運動に引き継いできた「魂」と言えるのが「よい仕事の追求」である。
 自分たちの「くらし」と「地域」を焦点に、絶えず「自分たちの仕事は、誰のための、何の仕事なのか。それは本当によい仕事になっているのか?」を職場の仲間と問い直し、地域に役立つ「よい仕事」に、一歩でも近づく努力をするのである。ワーカーズコープは、毎年1~3月に、事業所単位、ブロック単位、全国単位で「よい仕事研究交流会」を開き、自分たちの実践を紹介し、検証している。
自分たちの協同組合の理念の原点に立って、毎年「自分たちの仕事は、よい仕事になっているか?」という問い直しをすることはとても意義のある事だ。これはJAや生協などでも、参考にすべきことではないかと考える。
 協同組合の「基本的価値」はブレずに保持すべきと思うが、時代の変化に対応して協同組合の運動・事業にも変化と成長が求められているのではないだろうか。その意味で労働者協同組合法の成立を機に、わが国の協同組合運動・事業の質的深化を期待したい。
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日生協創立期の偉大な指導者:石黒武重と奥むめお
            
                岡本 好廣 (日本生協連OB)  


 ◆先生と呼ばれた3人の会長・副会長
 2021年は「日本生協連創立70周年」である。前身は戦前設立されたが、1951年に新しく制定された生協法に則って日本生活協同組合連合会(日生協)が組織された。これまでに多くの会長、副会長を戴いてきたが、初代会長賀川豊彦、三代会長石黒武重、創立以来の副会長奥むめおの三方は「先生」と呼ばれる特別な存在である。
 初代会長賀川豊彦先生はノーベル平和賞や文学賞の候補者になった「世界のカガワ」である。新人職員の私は先生のお宅へしばしばお使いに行き、親しく接してご指導戴いた。
 懇話会の研究会でも当時の様子をお話し、講演録を会報に載せたことがある。賀川先生を直接知る人が少なくなっており、昨年勧められて日生協のOB交流誌に『素顔の賀川豊彦先生を語る』を掲載した。その中の締め括りの5行を示して稿を進めることにする。
 ―― 賀川先生は日本の20世紀を代表する偉人である。偉人であっても神に近い聖人ではなかった。いつも笑顔を絶やさず大声で笑い、茶目っ気たっぷりに行動された。先生をよく知る人は親しみを込めて<大親分>と呼んだ。日生協が先生を初代会長に戴き、現在のような組織に発展したのを誇りに思う。先生もさぞ満足して居られることであろう。――
 今回紹介するのは石黒武重第3代会長と、奥むめお副会長である。

 ◆二度も国を危機から救った石黒武重先生
 石黒先生は1921年に東京帝大法学部を卒業、高等文官試験に合格して農商務省へ入られ、水産局勤務の傍ら水産講習所(現在の東京海洋大学)教授として「漁業法」を講じられた。これは後に『現代法学全集』に納められ、漁業関係者の必読書になった。農林大臣秘書官、産業組合課長、山形県知事(官選)を歴任された後、商工省繊維局長、貿易局長官などを経て官僚最高位の農林次官、組織変更により農商務次官を歴任して退官された。石黒先生が国を二度救われたことは殆ど知られていない。
 第一は1935年、米ルーズベルト大統領が日本の生糸輸出に関税を課そうとしたことへの対策であった。特命を受けてニューヨークに駐在していた石黒先生は、日本の商社、紡績会社の代表を集めて対策を練った。日本の生糸は高級絹製品の原料として米国の織物業界に支持されている。それに関税をかけるのは農民の生活を脅かすことになる。
 日本は対抗手段として輸入している米棉を安いインド棉に切り替えると国務省、農務省へ訴えた。更に上下両院議員に陳情し、報道陣にも働きかけて最終的に関税を撤回させた。現在の自動車輸出にも匹敵する生糸の輸出を守り、日米貿易摩擦を回避させたのである。
 第二は1945年8月戦争終結時の対応である。石黒先生は枢密院書記官長として昭和天皇の終戦の詔勅発布を見届け、過激な陸軍の将校によって自宅を焼かれた平沼麒一郎枢密院議長(元首相)を救い出して匿った。この時平沼議長が殺害されるようなことが起きれば、終戦処理は混乱に陥ったと思われる。
 枢密院は枢密院顧問官と国務大臣によって組織される天皇の諮問会議である。議長は歴代の首相経験者が務め、過去に伊藤博文が4度、山形有朋が3度任命されている。毎回天皇の出席を得て開催される。書記官長はいわば官房長官に当たる。議長の指示のもとに事前に議題を審査し、資料を作成して報告、答弁する重要な役割である。
 平時であれば大変名誉なことだが、先生が就任されたのは戦争終結の僅か2週間前という危機が迫る中でのことである。命に関わることも覚悟しなければならなかった。引き受けられた理由をお聴きしたら、誰かがやらなければならないことだからと云われたが、敗戦が目前に迫っていた時期であり、身を捨てても戦争を終わらせなければならないと決意されてのことだったと思う。
 戦後平沼議長は戦争犯罪者としてGHQに逮捕、収監され、終身刑に処せられたが、保釈中に亡くなられた。先生は政界に転じて、衆議院議員、国務大臣兼内閣法制局長官を始め2つの政党の幹事長を努められたが、終戦時の枢密院書記官長の経歴が災いし、公職追放されて政界を引退された。
 その後請われるままに住まいのある世田谷区の町内会長や消防団長、社会福祉法人の理事長などを務められ、後に「世田谷区名誉区民」に推挙された。生協では地元の砧生協理事長、東京都生協連会長、そして日生協会長になられた。農商務省時代に産業組合課長を務めたことがきっかけになったとお聴きした。

 ◆反生協運動に対する闘いの先頭に立つ
 日本生協連創立前後の社会・経済状況は厳しさを増していた。政府は中小商業者の要請を受けて、次々に反生協の立法や行政指導に乗り出した。その最たるものが「生協の組合員は常に組合員証を携行し、利用に際してはこれを提示しなければならない」というものであった。
 これに対して日生協理事会は1959年2月26日、国会構内の三宅坂の旧参謀本部前の広場に座り込んで反対の意思表示を行った。会長就任前だったが、中央に石黒先生と副会長で参議院議員の奥先生が「生協規制反対のたすき」をかけて座り、全国の代表130人が周りを固めた。折から雪が降り積もり、新聞は「二・二六事件を想起させる」と報道した。
 野党の議員がテントを訪れて「両先生ご苦労様です。われわれは国会で悪法を阻止するよう頑張ります。」と激励された。これが全国の組合員を勇気づけ、多数の反対署名になってその後の運動を盛り上げることになった。
 当時の日生協は赤字続きで、克服できたのは石黒先生の力によるところが大である。特に旧ソ連との協同組合貿易が力を発揮した。東西冷戦の真っただ中で、大手商社はアメリカに気を使ってソ連との貿易に乗り出さなかった。
 石黒先生は賀川会長の要請で日本協同組合貿易株式会社(日協貿)を設立して貿易事業を開始した。先生は現役時代に貿易局長官を経験されたが、1人ではどうしようもない。この時協力してくれたのはニューヨーク時代に世話をした貿易商社であった。その中の1社が3年間実務を代行してくれ、その間に日協貿は一本立ち出来るようになった。
 貿易は日生協を経済的に支える力になった。当時は外貨規制が厳しく、公的用務以外は海外へ行くことは困難であった。しかし、日生協の役職員は日協貿の特別外貨で渡航することが出来て、他の協同組合と国際的な交流を活発に行った。
 この恩恵で私も頻繁に欧米の生協を訪れた。私は日生協最年少の役員として第3代会長になられた石黒先生の直接指導を受けた。月に2回の常勤役員会は先生の方針で、年齢や役員歴に関係なく自由闊達に議論することができた。
 会長から名誉会長になられた石黒先生は1995年97歳で亡くなられた。常勤役員会で私が葬儀の執行責任者に任じられたのは生涯の名誉である。葬儀と告別式は1996年3月9日、日生協と関係団体の合同葬として青山斎場で行われた。国会は重要議案の審議中であったが、歴代の厚生大臣3人をはじめ15人の国会議員が弔問され、参列者は1,200人に及んだ。多くの弔電の中から村山富市総理大臣の弔電が披露された。石黒先生には1967年に内閣から「勲一等瑞宝章」が授与されている。

 ◆消費者運動を広げられた奥むめお先生
 奥むめお先生は石黒先生より1歳年上である。戦前からの女性運動家であり、消費組合の先駆者であった。1928年に「婦人消費組合協会」を設立して、運動の先頭に立たれた。この頃、長女を背中に負ぶって活動されていた写真が残っている。
 戦後「主婦連合会」を設立し、消費者運動を広めるとともに日生協の創立に参加され長く副会長を務められた。第1回全国消費者大会で「消費者は生産過程と消費過程で二重に搾取される」として、「消費者主権」に基づく「消費者宣言」を自ら執筆して発表された。
 一方、政治家として1947年の参議院選挙に全国区で立候補され、記録的な大量得票で当選、緑風会という小会派で良識の府としての主張を続けられた。以後1965年まで3期18年間議席を守られた。1997年101歳で亡くなられるまで、女性の地位向上と消費者の権利擁護のために尽くされた。小柄で目鼻立ちのきりっとした美人で、弁舌もさわやかで、37歳も年上だが、私にとって憧れの人であった。
 日生協副会長として多忙な国会活動の中でも頻繁に理事会に出席された。あまり発言はされなかったが、ここぞという時には舌鋒鋭く意見を開陳された。ある時の理事会でこういうことがあった。
 組合員の組織活動を巡る方針討議で、労働組合が組織した生協の理事が労働者を組織するような運動論を繰り返して主張したのに対して、奥先生が「男のくせに生意気だわよ」と云われた。これには全員びっくりして、当の発言者も黙ってしまった。「生協の組合員は女性が中心であり、台所を知らない男が勝手なことを云うな」ということだったと思う。奥先生の面目躍如である。
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 このように創立期の日生協は3人の優れた指導者のもとで基礎を固め、幾多の困難を乗り越えて今日に至った。3人の指導者に共通するのは「常に未来を切り拓いていく前向きの姿勢」である。いつも笑みを絶やさず、包み込むような人柄が、如何に組織を明るくしてきたか、改めて感じているところである。
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日本は「環境後進国」! ?
   
 日本人の多くは「自分は中流」と考えているが、貧富の格差は広がっている。環境問題についても、日本は自然が豊かで緑が多く、環境が保全されていると思い込んでいる…。
 ◆下落している日本の評価
 しかし、地球温暖化対策に対する日本の評価は、多くの日本人の思い込みに反し、下から数えた方が速いほど低い。
 ドイツの某シンクタンクが毎年公表する世界主要60カ国の地球温暖化対策のランキングでは、2017年が下から2番目、18年が11番目、19年が12番目、20年は11番目と、評価はかなり低い。他のシンクタンクの評価でも、日本は同様に低い。
 昨19年の国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25;マドリードで開催)の記者会見で「どの国が目標引き上げの議論に消極的か?」との質問に、パネリストが「いつものメンツ」とオーストラリア、米国、日本を名指しで批判したという。
 日本政府や産業界は「日本は温暖化対策の優等生」で「日本の優れた革新的技術やイノベーションで解決する」という姿勢だ。それは既に「神話」というべきもので、根拠のない情報を流し続けてきただけだ。
 さらに「これ以上の温暖化対策は不要」「米国や中国がやれば良い」「技術が何とかする(技術で何とかすれば良い)」というのが日本政府の姿勢だ。産業界の多くも同様に開き直っている。加えて日本は、原発事故や放射能汚染の人災としての側面を省みないこと、国土の乱開発、浅瀬や湿地の埋立てが依然として止まらず、生物多様性を破壊し続けていることも、評価を下げた理由といえよう。さらに、これらの環境問題を軽視し続けたトランプ米国大統領の「ポチ」に成り下がったことも、日本の評価・信用を落してしまったようだ。
 ◆かつて温暖化問題で世界をリード
 地球温暖化、気候変動が国際的に問題になったのは、前世紀終盤から。1985年の「オゾン層の保護のためのウィーン条約」、87年の「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」を経て、92年にブラジルのリオデジャネイロ開催の「地球サミット」が開かれた。この「宣言」では、「環境保全や化学物質の安全性などは、具体的な環境への影響や人の健康被害の発生がなくても、因果関係を科学的に証明できなくても、予防的に規制する」という、画期的な「予防的措置」が確認された。この措置はその後の97年の「気候変動枠組条約」の京都議定書などの国際協定や各国の法律などに取り入れられる。
 また、2010年、名古屋で開催された生物多様性保護の国際会議「COP10」では、「海域の10%を海洋保護区にする」という「愛知目標」を決議する。
 同目標達成のため日本政府は直ちに「国家戦略」を閣議決定し、「海洋保護区」選定の基礎資料として321か所の「重要海域」を抽出。新基地建設の埋立て予定の沖縄の辺野古の海や西日本各地の土砂採取・搬出地の殆どが重要海域とされた。(※なお、この公表は2年も遅れた。それには防衛省や外務省が圧力をかけたのではないか、との疑念はぬぐえない。なお、アメリカや中国は、この決議に加わっていない。)
 この頃までは、日本は「環境先進国」を自負していた…。
 ◆ICA東京大会の環境宣言では
 日本の協同組合も環境問題で世界をリードしていた。1992(平成4)年のICA(国際協同組合同盟)の大会は、アジアで初めて東京で開催された。大会では、88年のストックホルム前大会からの検討事項だった「協同組合の基本的価値」を集約・決議した。その大会では同時に、環境問題も初めて取り上げ、「環境と持続可能な開発に関する宣言」(以下「環境宣言」)が採択されている。世界の協同組合が環境問題を共通課題としてとらえたという意味で、この年が「協同組合の環境元年」といえよう。
 このICA東京大会の直前に、前述のブラジルでの「地球サミット」が開かれていた。ICA環境宣言は日本の協同組合のリードで、「地球サミット」の宣言を踏まえたものとなった。
 ICA東京大会の「環境宣言」の概要は、次のとおりだ。①各協同組合の事業や組合員の生活で、自然環境に影響を及ぼす諸問題に優先的に取り組む。②組合員を教育し、持続可能な開発を促進し、政府の政策に影響を与えるため、自らの環境行動計画を策定、強化する。③食糧生産は持続可能な開発の核心的要素。農協、漁協の環境活動を強める。④情報センターの役割を強化し、特別基金を創設する。⑤各国協同組合組織とその国の政府機関は、この目的のために自らの特別環境基金を創設すべきである…。
    *     *
 日本が「環境後進国」と言われるようになった今、日本政府と日本の協同組合が環境問題で世界をリードしたのは一昔前の話のようだが、つい最近のことでもある。今からでも遅くはない。日本と日本の協同組合は持続可能な生活の仕方を追求すべきであると強く主張したい。                  (編集部W)
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