10th PCF-Jについて

2022-10-09
今回のPCF-Jは、広義のIVIVCがテーマです。

In vitroデータからのin vivo予測について、第一線の研究者にご講演をいただきます。

In vitroデータからのin vivo予測においては、多くの場合、in vitroデータと数理モデルを組み合わせて、in vivoを予測します。

今回、講演を依頼する際に、組織委員として留意した点は、in vivoデータに対して化合物毎にパラメータフィッテイング(以下、フィッテイング)を行っていないことです。また、もし行っていた場合、得られた血中濃度推移は「記述」であり、「予測」ではないことを明示していることです。

フィッテイングの罠は、たとえどんなに優秀な研究者であっても、それを知らなければ陥ってしまいます。逆に、私のように劣等な頭脳の持ち主でも、しっかりと「教育」を受けていれば、陥ることはありません。
(惑星ごとの)フィッテイングゆえに、人類は2000年以上、天動説を信じていました。現在では、小学生でも地動説が正しいと知っています(1600年ごろに人類の脳が突然変異して賢くなったわけではありません。ギリシャ時代にも優秀な方は多数いました。)。

予測と記述の違いや、過剰学習(自由度/パラメータ数)については、数理モデルの教科書には必ず記載されている基本事項で、罠にはまりやすいので注意喚起されています。薬学であれば、QSARの教科書には必ず記載されています。

フィッテイングが特に恐ろしいのは、モデル内の他のパラメータの誤りをも同時に隠蔽して見えなくしてしまうことです。それをもって、「正しい”予測”が出来た」という発表をしてしまうと、モデルのすべてのパーツが正しいと言っていることになります。そうすると、発表者は、その後、誤りを認めることが出来なくなってしまいます。なぜなら、「どうして誤ったパラメータを用いて正しい”予測”が出来たのか?」と疑われてしまうからです。特に、非開示部分(ブラックボックス)がある場合には、捏造と疑われてしまっても仕方がありません。
したがって、一度フィッテイングで得られた結果を、”予測”として発表してしまうと、その研究者はそれを取り下げることはありませんし、パラメータの誤りを認めることはありません。(説得を試みるのは、かえって事態を悪化させます。Back-fire効果と呼ばれる心理状態になり、信者はますます盲信するようになるからです。)

天動説の信者が、地動説を受け入れることはなかったようです。
https://oekakids.hateblo.jp/entry/2016/11/10/001656

もちろん、パラメータフィッテングを行っていなくても、たまたま偶然、予測値と実測値が近くなってしまうことがあります。また、完璧に正しいパラメータがわかるまでモデリングを行うわないというのでは、科学が進歩しません。そこで大切なのが、モデルの開示と系統的検証です。

まぐれ当たりかどうかを調べるには、バイアスがかからないように選択された多数の実測データで検証を行う必要があります(系統的検証,systematic validation)。
また同時に、第3者が検証できるように、モデル式とパラメータをすべて開示する必要があります。

GUT frameworkでは、モデル式とパラメータをすべて開示し、系統的検証を行っているのは、みなさまご存知の通りです。

パラメータフィッテングの不幸な被害者を減らしていくには、とにかく教育しかありません。
今回のPCF-Jで、正しい理解が広がればと思います。

以前もブログもご参照下さい。
https://www.c-sqr.net/c/pcfj/reports/447954
https://www.c-sqr.net/c/pcfj/reports/449614
https://www.c-sqr.net/c/pcfj/reports/453261