炭酸緩衝液を用いたpHシフト試験(パドル法)の開発と腸溶性製剤評価への応用

2023-04-14
腸溶性製剤やpH依存性の溶出を示す製剤の評価では、胃から小腸へのpH変化を反映した溶出試験が必要になります。しかし、炭酸ガスバブリング法の場合、この試験は難しいようです。

落し蓋法を用いれば、炭酸緩衝液を用いたpHシフト試験が、簡単にできます。

Matsui, F., Sakamoto, A., & Sugano, K. (2023). Development of pH shift bicarbonate buffer dissolution test using floating lid and its feasibility for evaluating enteric-coated tablet. Journal of Drug Delivery Science and Technology, 104438.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1773224723002903

炭酸緩衝液を用いて腸溶性製剤の評価を行うと、各社の製剤間で、崩壊時間に大きな差がありました。さらに、同一ロット内でも差がありました。
このような差は、現在の局法リン酸緩衝液中では、見られません。

落し蓋法は、直観的に、「pHをしっかり維持できないのではないか?」と思われている場合が多いのですが(論文中でもそのように”憶測”で引用された例がありました。)、実際には、しっかりとpHを維持できます。
あまりにも簡単な方法なので、そのように疑われてしまうのかもしれませんが、実際にはとても上手く行きます。

炭酸という言葉から、炭酸飲料をイメージされる場合が多いのかもしれませんが、炭酸飲料中の炭酸濃度は3000-4000 ppm程度(68- 91 mM)であり、消化管内の濃度と比べてかなり高い値です。
消化管内濃度程度(10-15 mM)の場合、1気圧では、炭酸の気泡は発生しません。実際、皆さんのお腹で、気泡はブクブクとは出ていないですよね?(常にゲップばかりしてはいませんよね?)

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なお、薬物や添加剤の影響でpHが変化するのは、緩衝能の問題であり、消化管内と同程度の低緩衝能の緩衝液であれば、リン酸緩衝液でも同様にpHが変化します。
このようなpH変化が生体で起こるのかについては、専門家の間でも意見が分かれていますが、私は、一時的(数分程度?)には、そうなるのではないかと思います。小腸のpHは、血液中と異なり、厳密にはコントロールされておらず、ばらつきが非常に大きいですので、即時に頑健にpHを維持できるメカニズムでは無いのでは?思います。このあたり、今後研究が進むと良いなと思います。
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