主な活動場所
飯能市市民活動センター

 呪いの言葉は「馬鹿!」「グズ!」「ノロマ!」

2018-08-24
「馬鹿!」「グズ!」「ノロマ!」
これは私が小さい頃に、実際に母親からしょっちゅう投げつけられていた言葉です。
それはもうヒステリックに、吐き捨てるように言うのです。
「お姉ちゃんなんだから、しっかりしなさい!」もありました。

こういう類いの言葉、世のお母さんたちはけっこう口にしていますし、言われても全然平気な子どももいます。
でも、私の感受性のアンテナは高性能らしく(笑)、全てマトモに受け止めてしまいました。
何をやっても怒られて、褒められた記憶がありません。
抱っこされた覚えもない…

よく、第一子の長女はワリを食うと言われますが、その通り。
2歳年下の弟は要領も良かったので、怒られる前に上手に逃げてしまう。
母は弟の方が可愛かったんです。後年、自分でそう言っていました。

幼稚園の頃、「父の日」に向けて「お父さんの絵」を描くことになりました。
当時、父親は仕事で忙しく、休みの日は疲れて寝ていました。
私が一番よく見る父親は、寝ている父親だったんです。
だからそのまま、画用紙の真ん中に大きく布団を描いて、顔だけ出して寝ている父親を描いたのです。
父親参観の日、母親が一人で来ました。
全員の絵が張り出されていましたが、みんなの絵はお父さんの顔が大きく描かれていました。
寝ている父親の絵なんて私の1枚だけ。
帰り道、私は母親に怒鳴りつけられました。「あんな絵を描いて! 恥ずかしいったらありゃしない!」
私は、よく見る父親の姿を描いただけなのに…
どうしてこんなに怒鳴られなくちゃいけないの?
今でも思います。笑いながら「あんたは正直だねえ。ホントにああだもんね」くらいのこと言ってくれても良かったじゃない…

年中さんか、年長さんの頃だったか…
ある日突然、ドモリになりました。
「悪いことするとおまわりさんが連れに来るからね!」といつも母親に脅されていた私。
何をして怒られていたのか記憶にないのですが、まさにその時サイレンが聞こえてきて私は大泣きしたらしい…
泣き疲れて寝てしまい、起きた時にはすっかりドモッていたのでした。
ドモリの矯正施設に通ったものの、効果は出ませんでした。
不思議なことに小学校に上がったら治ってしまい、今では不自由ありません。
よく喋ってうるさいくらいかも…(笑)

小学校高学年の頃、お菓子作りに夢中になった時期がありました。
クッキーやケーキ、シュークリーム、あんこのお団子、などなど。
日曜日になるとよく作っていました。上手く出来ないと、次に作るときはまた工夫して。それが楽しかった。
ある日、母親に怒鳴られました。
「あんたがお菓子ばかり作るから、ガス代が高くなってしょうがない!」
それっきり、実家でお菓子を作るのはやめてしまいました。
「お菓子作りって楽しそうだね〜。でも、ガス代があんまり高くなると大変なんだけど…」
そんな言い方なら、私だって考えたのに…

一事が万事、そんな風でした。
ねえ、どうして、せっかく伸び始めた芽を容赦なく踏みつぶすようなことばかりするの?
私のこと、そんなに可愛くないの? キライなの?

「そんなの、うまく行きっこない!」
「失敗したら、どうするの?」
母親が口にするのは、そんな言葉ばかり。

「お姉ちゃんなんだから、しっかりしなさい!」の呪縛もありました。
母親の言う通り、しっかりしたら、私のこと褒めてくれるのかな?

しっかりしなくちゃ!
シッカリしなくちゃ!
シッカリシナクチャ…

失敗なんかしたら、褒めてもらえない。
絶対うまくやらなきゃダメなんだ!
期待されたことは完璧にやらなくちゃ!

いつもいつも緊張していたはずです。
すごい「寒がり屋」でした。
そりゃそうですよね。そんなに緊張してたら、身体も心も冷え切っていたでしょうから。

中学に上がると、女の子たちの間ではお互いに髪の毛をとかしたり三つ編みにするのが流行りました。
オシャレに目覚める年頃ですからね。
髪を伸ばしていた私も「三つ編みしてあげるよ」と言われました。
他の女の子たちを見ていて、人に髪をとかしてもらうのは気持ち良さそうだな〜と思っていました。
三つ編みもいいな〜と思っていました。
でも私は「いいのいいの、私はいいの」と言って断ってしまいました。
本当はやってほしかった…
三つ編みしてほしかったのに。

母親に優しく髪をとかしてもらったことなどありませんでした。
だから、どんな反応をしていいのか分からなかったのです。
変な反応したら笑われそうだし、ドギマギするばかりで…
優しくされそうになると、逃げ出したくなる。
おかしいですよね、私。

「しっかりしなくちゃ!」ということは、「甘えたらいけない!」でもあるわけです。
子どものうちに充分甘えたり、優しくされた経験をしないで育つと、どこかいびつな人間に育ってしまうのかもしれません。

私はすっかり「甘え下手」になっていました。

人の好意を上手に受け入れられるのが「甘え上手」
相手に寄りかかる「甘ったれ」とは違います。
私はまだまだ、上手に甘えるのがヘタみたい。

しっかりしていて、スキがなく、甘え下手。
そんなの男の人からしたら、さぞかし付き合いにくくて可愛げがないでしょうね(笑)
女友だちにしても同じこと。
人といい関係を作るには、「甘え上手」も大事なポイントみたいです。

カウンセリングを重ねて、当時の自分の心のカラクリが見えてきました。
だいぶ落ち着いて振り返ることができるようになりました。
母親は悪人ではないけれど…
自分の中の不安を私に投げつけていたのです。
それは繊細な子どもにとっては、呪いをかけられたも同じこと。

介護施設に入所中の母親は、私がこんな事を書いているとも知らず、この時間は良く眠っているのでしょうね(笑)
話のネタをいろいろ提供してくれているわけで、私は感謝しなくちゃいけないのかも(笑)

黙って私の髪を撫ででくれるようなステキな恋人ができて、私がゆったり甘えられるようになった時、呪いが本当に解けるのかもしれません。

(大西 アンリ)