そのMiddle-out approach、大丈夫ですか?(7) DDI予測の本質は?

2023-12-08
それでは、現在、Middle-out dynamic PBPK modelが上手くいくとされている、薬物相互作用の予測(DDI予測)は、どういったものなのでしょうか?

ここでまず、「実験データ」と「観察データ」の違いについて考えてみましょう。
「実験データ」:意図的に実験条件を設定して(介入して)、実験を行い、得られた結果です。
「観察データ」:ありのままの状態を観察して得られるデータです。

わかりやすいのは、臨床試験と疫学研究との違いです。臨床試験では、介入因子以外の背景因子は同じになるように、ランダム化が行われます。そして、介入の有無の「差」から、効果の有無を判定します。現在、この方法が、最も信頼性の高い「エビデンス」とされています。一方、倫理上あるいは費用などの点で、臨床試験が出来ない場合、疫学的な研究手法が採られます。

Middle-out PBPK modelにおいては、臨床データを「実験データ」として用いている場合と、「観察データ」的に用いている場合とがあります。DDI予測の場合、モデル構築に強力かつ特異的な代謝阻害剤(例:ケトコナゾール)による介入試験のデータを用いていますので、前者になります。

実際、DDI予測では、
(1) ある代謝酵素(例:CYP3A)について、強力かつ特異的な代謝阻害剤(例:ケトコナゾール)による介入の有無の条件で、臨床試験を実施。
(2) それらのデータの「差(あるいは比)」から、その代謝酵素の寄与率(fm)を逆算(fm(back-calculate))。
(3) fm(back-calculate)から、別の阻害剤とのDDIを予測
(4) その代謝酵素に関与する別の阻害剤を用いた臨床試験データで予測性を検証
(5) 様々な薬物について、その酵素によるDDIを予測
(6) 予測値に基づく臨床での意思決定

ところで、前々回のブログで考察した例では、介入部分以外の背景因子の部分 (by + cz +d)は、引き算の過程で打ち消されていますので、結局のところ、モデル全体からax部分を抜き出して、モデルを構築しています。
https://www.c-sqr.net/c/pcfj/reports/543159

そうすると、DDI予測に必要なのは、複雑なPBPKモデル全体ではなく、一部分だけなのではないか?と考えれます。さらに、DDIは一般にAUC比で評価されることを考えると、クリアランスの部分だけで良いのではないか?となります。(AUC = Dose/ CLなので、分布容積はAUCに関係ないのでしたね?)
実際、CR/IR法、あるいは、in vivo mechanistic static modelと呼ばれる方法で、DDI(AUC比)をかなり良い精度で予測できることが知られています(いくつかの近似を更に加えています)。

https://www.ddi-predictor.org/tools/references

非常に複雑なPBPKモデル全体を使うのと、クリアランスの部分だけを抜き出した簡単な計算式を使うのと、どちらが良いのか?私個人としては、簡単なモデルを使う方が良いと考えています。理由は、
・両者で予測性は変わらない。
・計算を誰でも簡単に再現し、チェックすることが出来る。
・Middle-outに伴う誤謬が、簡単なモデルでは無い。

https://www.c-sqr.net/c/pcfj/reports/522046

Gomez-Mantilla, J. D., Huang, F., & Peters, S. A. (2023). Can Mechanistic Static Models for Drug-Drug Interactions Support Regulatory Filing for Study Waivers and Label Recommendations?. Clinical Pharmacokinetics, 62(3), 457-480.

https://link.springer.com/article/10.1007/s40262-022-01204-4