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  「愛しい人2部」第7部

2015-09-24
ペ・ヨンジュン
キム・へス   主演





「愛しい人2部」第7部








二人が
愛し合うことは
当たり前


私たちは
家族になる


家族

それは複雑で

それは温かい・・・














【第7章 新しい風】




店:骨付きカルビの上3人前でございまあ~す。
テジ:サンキュ! ここに置いて。


テジョンの壮行会とテスの出産激励会を兼ねてやってきた焼肉店で、ジュンスはテジョンの前に置かれた皿を見て驚く。


ジ:おまえ、そんな高いの、頼んだの?
テジ:え? なんでも好きな物食べていいって言ったじゃない。
ジ:言ったけど・・・少しは遠慮しろよな。
テジ:ケチだなあ。

テ:お兄さん、ここのところ、ちょっとお金がないのよね。(ジュンスを見る)
ジ:・・・。
テジ:え? 仕事がうまくいってないの? (心配そうな顔をする)
ジ:仕事は順調だよ。少し必要経費がかさんだだけだ。
テジ:そう。


正直ここのところ、テスの出産準備、実母の男の入院費、母への心づけと、出費続きだった。


ジ:もう頼んじゃったんだから、食べろよ。(無愛想に言う)


テジョンとテスがうれしそうに顔を見合わせる。


テジ:いただきま~す。
テ:いただきま~す。

ジ:ねえ、なんでおまえ・・・。そっちに座ってるの?


ジュンスが、向かい側にテジョンと並んでいるテスを見た。


テ:こっちのほうが食べやすいんだもん。
ジ:ふ~ん。(ちょっと不機嫌そうに見つめる)

テジ:ケンカでもしてるの?(二人の顔を見る)
テ:そうじゃないの。私が食べ過ぎるってうるさいの。しょっちゅう、目を吊り上げて、監視してるのよ。それで、産後もこのまま太ってたら、浮気するって脅すの。恐いでしょう?
テジ:(笑う)この人が浮気するはずないじゃない。
テ:そうお?

テジ:だって、こういう顔したことなかった人だよ。テスさんを見る目が違うもん。
ジ:何を言ってるんだか。(嫌そうに焼肉を焼く)
テジ:大丈夫だよ、テスさんに惚れてるんだから。
テ:・・・・。(ジュンスを見つめる)

ジ:やなやつらだなあ・・・。欠食児童が2人揃っちゃって・・・。仕方ない! オレも食べるか!
テジ:よっしゃ! そう来なくちゃ! アニキ、ここ、クレジット利くよ!
ジ:おまえねえ・・・。(テジョンを見る)

テジ:テスさん、隣に座ってあげてよ。一人にしておくと、寂しくて泣いちゃうから。(笑う)
ジ:なんだよ。(ちょっと赤くなる)


テスがうれしそうにジュンスの隣に移る。
ジュンスがちょっと横目でテスを見つめる。


テジ:やっぱり、うれしそうじゃない。
テ:ホントだ! (ジュンスの顔を覗き込む)


ジ:もうこのメンバーとは来たくないな。
テジ:よし! 追加しよう! ねえ、テスさん! 何食べたい?

ジ:おい、仲間に入れろよ!
テジ:じゃあ、未来のパパ、どうぞ。(メニューを渡す)まずはスポンサーのご意見を伺おうね。(テスを見る)
テ:そうね!(テジョンを見る)

ジ:(メニューを受け取りながら)やっぱり、ツルんでる・・・。(悲しそうに言う)
テ:そんなこと、ないわよ!(笑う) パパ、どれがいい?(一緒に見る)


テスに言われて、ジュンスが幸せそうに笑った。







楽しい食事が進んだところで、テジョンが財布から紙を出した。


テジ:子供部屋のタンスは、赤ちゃんが生まれたら、ここへ電話を入れて。(領収書を渡す)
ジ:ありがとう。(受け取って見る)
テジ:値段は男女一緒なんだ。あとは、男の子か女の子か電話で言ってもらえばいいから。
ジ:わかった。サンキュ!
テ:すごく素敵なのよ。
ジ:ふ~ん。(うれしそうにテスを見る)

テジ:それから・・・実はね、アニキ・・・。マリさんがやっと退院して、仕事に復帰するんだ。
ジ:・・・。
テジ:オレ、マリさんの病院に、定期的に様子を見に行ってたんだ。
ジ:そうか・・・。
テジ:あの人、寂しがり屋だから・・・。でも、最近は、事務所に届くファンレターを見て、ファンの皆が自分のことを恋しがって待ってくれているってことに気づいて、気持ちが落ち着いてきたんだよ。
ジ:ふ~ん・・・。長かったなあ・・・一年以上入院してたんだ・・・。


テジ:あれだけのこと、しちゃったからね・・・。今は元気だよ。ただ、普通の人よりは、心が弱い・・・。
ジ:・・・。

テジ:それでね、復帰第一弾として、雑誌「She」で撮りおろしの写真集を出すんだって。今、カメラマンを探してるらしいよ。


テスがちょっと心配そうな顔で話を聞いている。


テジ:なんか、編集者のキムさんから聞いたんだけど、いい人がいないんだって。
ジ:たくさんいるだろ、カメラマンなんて。
テジ:皆、それぞれ色があるじゃない? マリさんが売り出してファンを掴んだのってアニキの写真だからさ。もちろん、アニキじゃない人をということで探しているらしいけど。カメラマンも名がある人って癖があるからね。

ジ:そうか・・・。いい人は・・・いると思うよ。

テジ:まあ、そういう話さ。だから・・・これからはどっかですれ違うかもしれないってこと。
ジ:うん・・・わかった・・・。


テ:ジュンス・・・会ってみたい?
ジ:えっ?

テ:会いたいかなと思って・・・。
ジ:・・・わからないよ、急に言われても・・・。
テ:そうね・・・。


テジ:昔に比べたら、ずいぶんしっかりしたと思うよ。気持ちの揺れが・・・うん・・・落ち着いてきた・・・。
ジ:そうか・・・。

テ:・・・。食べよ。(ジュンスを見る)マリさんも退院できて・・・。皆、新しい生活を始めるお祝いね。
ジ:・・・。(テスを見る)だめだよ、おまえは、あと2枚ぐらいでやめなくちゃ。
テ:え~え!

テジ:テスさん。テスさんがグレちゃえば。結構、ぽっちゃりした美人て、好きな人、多いよ。
テ:う~ん・・・そうね!
ジ:・・・。おまえねえ・・・。(テスの顔を覗くように見る)

テジ:ほら、心配そうな顔した!(笑う)
テ:ホント!(笑う)

ジ:(うんざり!)やっぱり、この二人はイヤだ! もう一緒に来ないぞ!
テ:パパ~。私とは来てね!(顔を覗き込む)
テジ:パパ~。オレとも来てよ。(顔を見て笑う)

ジ:もう絶対イヤだ!(呆れる)



3人は大きな声で愉快に笑った。













その夜、ベッドの中で。
寝そべっているテスの足元に、ジュンスが座って、テスのふくらはぎを揉んでいる。



テ:マリさん。挨拶に来るかな・・・。
ジ:さあ・・・。
テ:足の裏も揉んで・・・。
ジ:注文が多い客だな・・・。
テ:うん。(微笑む)

テ:どう思う?
ジ:何が?

テ:マリさん、来るかなあ・・・。


ジ:さあ・・・。おしまい!
テ:うん、ありがとう!




ジュンスが洗面所へ行って戻ってきて、テスの頭を引き寄せるように腕枕して寝る。




テ:ねえ・・・。(マリのことを話したい)
ジ:このシャンプー、いいニオイだね。(テスの髪を嗅ぐ)
テ:そう? 変えてみたの。 よかった?
ジ:うん・・・いい感じ。
テ:そうお? ジュンスが気に入ってくれて、よかったわ。
ジ:うん・・・。


ジ:もうすぐだね。


ジュンスがお腹を触る。


テ:私の入院中に何かあると、ヤダな・・・。
ジ:? 大丈夫だよ。

テ:そうお?
ジ:撮影の仕事は、予定日前後合わせて、2週間休んだから。
テ:そんなに?
ジ:だって、出産に立ち会うことになってるじゃない。
テ:それはそうだけど・・・。予定通りにその時期に産めるかなあ?
ジ:だめな場合もある?
テ:早まることがあるから・・・。
ジ:そうか・・・。でも、遠出はしないから、なんとかなるよ、きっと。
テ:そうね。
ジ:そんなすぐには生まれないだろ?
テ:たぶんね。初めての自然分娩だから、よくわからない・・・。
ジ:ふ~ん、まあ、そうか・・・。テスにとっても、初めての出産なんだ・・・。
テ:そうよ・・・。(微笑む)



ジュンスがテスを引き寄せる。



テ:ああ、早く、仰向けとか、うつ伏せで好きなようにゴロゴロ、寝たい!
ジ:ふん、そうだな。(笑う)
テ:もう飽きちゃった、この体勢。横向きだけって、結構疲れるのよ。(笑う)
ジ:もう少しの我慢・・・。でも、今度は寝られなくなるな。
テ:そうよ、パパ。 だから、私が入院中、一人でゆっくり寝ておいたほうがいいわよ。最後の眠りだから・・・。
ジ:・・・あ、クギを刺したな。
テ:え?

ジ:一人でゆっくりって・・・。
テ:ホントだ。(笑う)



ジ:でも、きっと一人だと寂しいだろうな・・・。
テ:でも、だめよ・・・。
ジ:このシャンプーでテスを思い出すように、誰かに・・・。
テ:でも、だめよ・・・。自分の頭のニオイで我慢してね。
ジ:(笑う)わかったよ。さあ、寝よう。これって貴重な眠りなんだろ?
テ:そうよ。オヤスミ、パパさん・・・。
ジ:オヤスミ・・・。

ジュンスが抱いているテスの額にキスをした。












テジョンがニューヨークに旅立って、一週間。
いよいよテスの出産も近づいてきた。

風呂場には乾燥機も付いて、今年の長雨もなんとか乗り切っている。

子供部屋には、長逗留するであろう、テジョンの母親のための布団も用意した。

あとはテスの陣痛がくれば、OK.。








朝食を食べながら、ジュンスが部屋に飾られた大きなカレンダーを見ている。


ジ:結構、待つ態勢に入ると、まだかまだかって感じになるよなあ・・・。
テ:ホントね。今までに比べてここ2、3日ってすごく長く感じるもん。

ジ:そうだ、まだまだ先だと思おう。
テ:そうね・・って言っても、気持ちが切り替えられないわ。だって、先生が言ったのよ。子宮口が2センチ開き始めてるから、これは早くなるなあって。

ジ:テスが頑固なのを知らないんじゃない?(笑う)
テ:ひど~い。でも、ちょっと期待しちゃったわね。きっと、予定日通りなのよ。(笑う)
ジ:そうだな。といっても、あと2週間だからな。できれば来週に入ってからがいいなあ。休みに入るからさ。
テ:そうねえ・・・パパから、この子に頼んでよ。
ジ:そうするよ。(笑う)・・・シンジャ先輩も順調かな?
テ:テジョンさん、会ったってメールくれたわよね。
ジ:何事もなく、いってくれるといいけど。
テ:そうね。











テジョンが時計を見ると、午後1時半。
まだ、シンジャが現れない。
携帯を出して、電話をしようとする。



シ:テジョン!


シンジャがやってきた。
髪をよりベリーショートにして、パンツ姿で颯爽と歩いてくる。


シ:ごめ~ん!
テジ:どうしたの? 遅刻だよ。
シ:ごめん!
テジ:何時に待ち合わせしたの?
シ:確か、12時半ね。
テジ:今は?
シ:ええっと、1時半。ちょうど1時間ね。
テジ:1時間、どうしたの?
シ:遅刻しちゃったの。


テジ:何してたの?
シ:ごめん・・・。美容院へ行ってたのよね。
テジ:ふ~ん・・・。


シ:ホントに悪かったわ。お昼、奢るから・・・。
テジ:何? ハンバーガー? ホットドッグ?
シ:ホットドッグ! あそこのオジサンの店で、買いましょう。



テジョンが笑った。


シ:なあに?
テジ:そんなことだろうと思ったよ。
シ:仕方ないわよ。お互い、安く済ませたいんだから。
テジ:あれ、奢ってくれるんでしょう?
シ:あ、そうだった。(笑う)なら、余計、ホットドッグへの道を行かなくちゃ。




露天のホットドッグ屋で、ホットドッグを買って、二人は、近くのビルに寄りかかる。



シ:ねえ、「ダヴィンチ・コード」見た? (食べながら)
テジ:まだ。 (食べながら)
シ:じゃあ、それにしない?
テジ:いいよ、それで。
シ:じゃあ、そうしよう。


テジ:(食べながら)その髪型、似合ってるよ。
シ:ホント? よかった。ちょっと切り過ぎたかなと思ったから。
テジ:颯爽としていて、いいよ。なんか、お腹が大きくてもカッコいいよ。

シ:ありがとう。もう5ヶ月に入ったんだ。これからどんどん大きくなるわ。
テジ:そうなんだ。テスさん、もうパンパンだったよ。
シ:でしょうね。あの二人の子だから、きっと大きいのよ。
テジ:そうだね。




テジョンの横髪がサラサラと風になびいて、口元にかかる。

シンジャが手を伸ばし、髪を直して、テジョンの耳にかける。



テジ:(やさしい目をして)ありがとう。
シ:うううん・・・。(見つめる)



二人はニューヨークの気持ちのよい風に吹かれて、ホットドッグを食べている。


食べ終わったテジョンがシンジャの顔を見て、微笑む。


シ:なあに?
テジ:子供みたい・・・。(笑う)
シ:何よ?



テジョンがシンジャに顔を寄せて、シンジャの唇の脇をちょっと舐めた。



テジ:ケチャップがついてたよ。
シ:やだ。ホント? やんなっちゃうな。(笑って口を拭く)


テジ:行こうか?
シ:うん。




一歩、歩いて立ち止まる。テジョンがシンジャの靴の紐が解けているのに気づく。



テジ:全く!



テジョンが屈んで、シンジャの靴の紐を結ぶ。



テジ:紐靴なんてやめなよ。これから、履きにくくなるし、ヒールも少し低くしたほうがいいよ。
シ:だけど、このNo Nameってすごく流行ってるのよ・・・。



そう言いかけて、シンジャはテジョンを見つめて笑った。



シ:テジョン!
テジ:なあに?
シ:あなた、やっぱり、コッキリに似てるわ。(笑う)
テジ:似てないよ。

シ:そうかなあ・・・。でも、私はあなたのほうが好き。
テジ:そう? それはよかった・・・。(見つめる) 行こう!
シ:うん!



シンジャがテジョンの腕に捕まった。

二人は顔を見合わせて笑った。




今日もニューヨークの空は快晴。

二人に幸せを呼び込むように、爽やかな風が吹いている。










ジ:はい、もしもし。「スタジオ・コッキリ」。・・・ああ、キムさん・・・。
キ:その声の感じからいくと、もう察しがついてるの?
ジ:答えは、NOだよ。
キ:冷たいな・・・。
ジ:当たり前だろ?
キ:まあね・・・。それはそれとして・・・。
ジ:なんだよ?

キ:会いたいんだって。
ジ:・・・ムリ。
キ:やっぱり、だめか。
ジ:もうすぐ、子供が生まれるんだよ。こんな時期に会いたくないんだ。
キ:だよね・・・。
ジ:悪いけど、カメラは他の人を当たってよ。
キ:わかった・・・。
ジ:会うのもね。テスが心配するから。
キ:・・・うん、わかった・・・。ジュンちゃんに迷惑なのはわかってたんだ。悪かったね。
ジ:うん・・・。
キ:じゃあ、また。





ジュンスは受話器を置いた。
編集者のキムさんからの電話だった。


マリが自分に会いたいという。



会って何を話す・・・。

元気だったか?
オレは結婚して、もうすぐ子供が生まれるよ。


それで、いいのか?


かつての男だったカメラマンに笑顔を作り、撮影してもらえるとでもいうのだろうか・・・。

それも心中しそこなった男に・・・。
自分を捨てた男に・・・。




ジュンスは、スタジオの窓を開ける。
外は大雨だ。


梅雨の真っ只中。


あいつはオレに会って、何を話したいのだろう。









翌日、テスは出産前に髪を少し切ると言って、美容院へ出かけた。


確かに今の髪の長さでは、産後がたいへんかもしれない・・・。


つい、この間も、狭い風呂場で、ジュンスがテスの髪を洗った。



テ:ねえ、美容院だと、「お痒いところはありませんか?」って聞くのよ。
ジ:何でそこまでするの? 痒いところは、自分で擦れよ。
テ:やってよ、気持ちがいいから。(にこやかに言う)この辺をよろしく。(指差す)

ジ:(シャンプーを泡立てながら)人の頭って小さく感じるね。自分の頭だと、結構大きい気がするけど。
テ:それって、おもしろいよね。



ジュンスがテスの髪をどんどん洗っている。



テ:ねえ、赤ちゃんの沐浴も手伝ってね。
ジ:暇だったらね。
テ:うん・・・。ジュンスは手が大きいから、きっと上手にお風呂へ入れられるわ。それで、少し大きくなったら、パパと一緒にお風呂へ入るの。
ジ:暇だったらね。
テ:うん! 




テスは、きっとジュンスなら、楽しみながら、子供と一緒に風呂に入ってくれると思う。

前の夫には、そういうところがなかった。
いつも、テスは母子カプセルの中へ閉じ込められ、一人奮闘していた。



ジ:流すよ。
テ:うん。


ジュンスがシャワーでテスの長い髪を流す。
その手つきがやさしくて、テスは気持ちよさそうに身を任せた。



そうやって、頑張って長い髪を保ってきたテスだが、結局本日、「肩くらいまで切るわ!」と宣言して出かけていった。








ジュンスが、スタジオのデスクで仕事をしていると、ドアが開いた。



ジ:お帰り!



返事がない。

ジュンスが顔を上げると、そこに、マリが立っていた。



マ:こんにちは。ご無沙汰してました・・・。
ジ:ああ・・・。

マ:今、いい?
ジ:・・・うん・・・。
マ:誰か来るの?
ジ:いや、もうすぐテスが帰ってくる・・・。


マ:そう・・・結婚したのよね?
ジ:ああ。
マ:おめでとう。・・・このスタジオも雰囲気は変わった・・・。ああ、階段が変わったのね・・・。それに・・・あれ、給湯室なくなったの? 
ジ:ああ、現像室にしたんだよ。ここのほうがやりやすいから・・・。
マ:そうなんだ・・・。


マ:全体的に明るい感じになったわね。
ジ:そうか?
マ:うん。





ドアが開いて、テスが入ってきた。



テ:もうたいへん! ジュンス、スコールみたいな雨になっちゃった! もうズブ濡れ!



そう言って、中へ入ると、女性が立っている。



テ:お客様?



マリが振り返った。



マ:ご無沙汰しています。
テ:マリさん・・・。お久しぶり・・・。

ジ:今、来たんだよ。
テ:そうなの・・・。



マリがテスをしっかりと見る。

テスのお腹がふっくらとしている。

一瞬、マリは息が苦しくなった。



テ:どうぞ、座って。今、コーヒーを入れるわ。
マ:お構いなく。
ジ:テスのコーヒーはおいしいから、飲んでいって。それに外は雨なんだろ?
テ:そうなの、急にきちゃったわ。少し止むまでここにいたほうがいいわ。私、2階へ行くから・・・。マリさん、ごめんなさい。こんなにズブ濡れになっちゃったから、ちょっとシャワー浴びてきてもいい? その間にコーヒーを入れるわ。
マ:・・・。


ジ:そうしたら?
マ:じゃあ、お言葉に甘えて・・・。
ジ:座ったら、このデスクが空いてるよ。
マ:ええ。




テスが2階へ行き、マリはジュンスの前へ座った。



マリはかつての記憶の中のマリより、少し大人びて、顔も面長になっていた。
少し、憂いがあるが、前よりは、しっとり落ち着いていた。


マリはジュンスの前に座る。


ジュンスは穏やかな顔をしていた。
しかし、顔にはところどころ、細かな細い線の傷跡があった・・・。

あの時に作った傷だ。


でも、ジュンスの笑顔はやさしかった。



ジ:ずいぶん、長い間、頑張ったんだね。
マ:ええ。途中、病院を出たり入ったり・・・。でも、もう大丈夫ってお医者様が言ってくれて、仕事に復帰することができたの。
ジ:うん・・・。「She」で、写真集を出すんだって?
マ:うん。復帰第1弾ね。ファンの人がね、写真集を待ってくれてるの。


ジ:うん。よかったな。
マ:ありがとう。あんなひどい事しちゃって来られた義理じゃないんだけど・・・。だけど、これから芸能界でやっていくのに、ジュンスに知らん顔ではいけないと思ったの。ちゃんと、謝らなくちゃって。
ジ:うん。


マ:これからはしっかり仕事をやっていくつもり・・・。テジョンに励ましてもらって、元気になった。私にはたくさんのファンがいて、私を待っているんだよって、テジョンが教えてくれたの。
ジ:そうか・・・あいつ、今、ニューヨークだよ。
マ:うん。聞いた・・・。テジョンみたいに自由に生きたいな・・・。まずは、仕事を頑張るつもり。
ジ:そうだな。




2階から、テスが降りてきた。



テ:お待たせ。アイスコーヒーにしたわ。どうしようか・・・。こっちで皆で座る?



打ち合わせ用のテーブルに、アイスコーヒーを置いた。


ジュンスがちょっと躊躇したが、自分の席から立って、テーブルまで歩く。


何気なく、ジュンスを見たマリの顔色が変わった。

ジュンスは軽くではあるが、左足を引きずる。

マリは胸がいっぱいになって、涙が出てしまう。



テ:マリさん?
マ:ジュンス・・・。ごめんなさい・・・。本当にひどい事しちゃった・・・。私はこんなに元気なのに・・・。今もまだ、ジュンスは傷だらけで・・・。本当に、本当にごめんなさい!



ジュンスもテスも一緒に胸がいっぱいになった。


確かに、まだジュンスは足を引きずる。でも、これもいつかは痛みが取れるだろう・・・。
いや、多少のことが残ったとしても、今、最愛の人を得て、順調に家庭を築いている。


このくらいの怪我がなんだ。
そんなものは、もう乗り越えている・・・。



ジ:マリ。もういいんだよ。オレは今、幸せにやっている。だから、もう忘れていいんだ。



テスも頷いた。


今だ、ジュンスは、あの事故を思い出して、夢に魘されて一人起き上がることがある。
でも、それをマリに言ったところでどうなるのだろう。

マリがまた、精神を病んでいくだけだ。



テ:私たち、これでもすごく幸せなの。だから、心配しないで。
マ:そんなやさしくしないで・・・。
テ:本当にそうなの・・・。たぶん、誰よりも幸せなんだから。
マ:・・・・。

ジ:マリ。おまえには、まだまだ未来が開けているじゃないか。もっと大きなスターになれよ。
マ:うん・・・。そうね・・・。でも、簡単に自分を許しちゃだめだわ・・・自分を甘やかしちゃ。これからだって、もっとたいへんな事があるもの・・・。その時は、ジュンスの事を思い出す。そして、どれだけ、自分がバカだったかを・・・。そうやって、少し大人になる・・・。だから、この事は絶対忘れちゃいけないのよ・・・。


ジ:うん・・・そうか・・・。


テ:マリさん、キレイになったわ。きっと、心が顔に出ているのよ。これからきっと、いい仕事がたくさんできるわ。



マリはテスを見つめた。

やっぱり、この人だった。ジュンスを救ったのは・・・。

私とは違う温かな愛で、人を包むのだ。




マ:自分なりに頑張って生きてみます。
ジ:頑張らなくても、マリらしく生きればいいんだよ。
マ:はい。





マリは新しい道を歩み出した。

躓きながらでも、今度はちゃんと、地に足をつけて生きるつもりだ。



ジュンスが救ってくれた命だもの・・・。





一雨過ぎて、また太陽が顔を出し、マリは笑顔を残し、帰っていった。












それから2、3日して、早朝、テスがハッとベッドから飛び起きる。



ジ:どうしたの?
テ:ねえ・・・。
ジ:お腹が痛いの?
テ:うううん・・・。なんか・・・。
ジ:・・・。
テ:なんか、私、生臭くない?
ジ:・・・わからないよ。
テ:生理の時みたいなニオイしない?
ジ:ごめん。それもわからない。
テ:そうだったんだ。あれって、自分しかわからなかったんだ・・・。なんか、そんなニオイがするの、今・・・。
ジ:ふ~ん。
テ:もうすぐ始まっちゃうのかな・・・。


ジ:ニオイでわかるの?
テ:なんか原始的だけど、そんな感じがする・・・。ちょっと動物的だけど・・・動物だもんね。
ジ:うん・・・。大丈夫?
テ:まだ、陣痛もないし。今のうちに、シャワー浴びとくね。急に陣痛がくると、いけないから。
ジ:オレも起きてる?
テ:ジュンスはまだいいわよ。だって、まだ始まってないもん・・・。これ、動物的カンよ。(微笑んで、時計を見る)午前5時か・・・。今日は一日、長いのかな・・・。
ジ:頑張って、ママ。
テ:うん! じゃあ、パパ。ちょっとシャワー、浴びてくるね。




テスは起き上がって、バスルームの方へ歩いていった。



いよいよ、出産のときが近づいたようだ。









第8回へ続く・・・。







マリは、ジュンスに会って、許しを乞うた。

そして、ジュンスの体に、傷を残したことを知り、心を痛める。


でも、
ジュンスにとっても、テスにとっても、

それは終わったことだ。



二人は今、明るい未来に向かって、走り出している。