「愛しい人2部」第8部・最終回
2015-09-24
ペ・ヨンジュン
キム・へス 主演
「愛しい人2部」第8部(最終回)
二人が
愛し合うことは
当たり前
私たちは
家族になる
家族
それは複雑で
それは温かい・・・
【第8章 家族】
ジ:どう? その後、変化ない?
午前6時30分。ジュンスが起きてきて、ダイニングテーブルに着いた。
テ:うん。大丈夫そう。でも、お印はあった・・・。だから、今日か明日には始まると思う。
テスは普段通りに朝食の支度をしている。
ジ:そうか・・・。明日だといいなあ。明日から休みに入るからさ。もう一日待ってほしいよ。
テ:でも、すぐには生まれないから、大丈夫よ。だいたい陣痛が始まってから、8時間とか、すごい人だと丸一日とか。
ジ:苦しそうだなあ・・・。(顔をしかめる)よく我慢できるよね、女の人は。
テ:仕方ないわ。産まないわけにはいかないんだから。
テスがテーブルに出したサラダからプチトマトを摘んで食べる。
ジ:なんか余裕だね。(笑う)
テ:だって、皆がやってることだもん。きっと大丈夫よ。(微笑む)
ジ:うん・・・。でも、無理はするなよ。(真面目な顔をする)
テ:うん。
ジュンスがリビングに行って電話をする。
ジ:あ、お袋。おはよう・・・。うん? まだ。でも、今朝、お印があったんだって。テスがたぶん、今日明日だろうって。今日はうちにいるの? ・・・そう・・・。
テ:なんだって?
ジ:老人会の慰問だって・・・。(電話に戻る)今日まで、オレも仕事が入ってるんだ。そっちも今日までなの? そうか・・・。仕方ないな・・・。うん・・・。病院の場所と電話番号知ってるよね? うん、わかった・・・じゃあね。
テ:コーラスの慰問の日なの?
ジ:そうだって。今日までの予定だったって。困ったなあ・・・今日は皆いないわけだ・・・。(ちょっと考える) ねえ、早めに入院できないの?
テ:陣痛が一時間置きにならないと、家へ帰されちゃうのよ。
ジ:そんな冷たいなあ。
テ:でも、皆が早く行ったら、病院が満杯になっちゃうでしょ?
ジ:まあね・・・。
テ:大丈夫よ。すぐは生まれないだろうし。ジュンスだって、そんなには遅くならないでしょ?
ジ:うん・・・たぶんね・・・。今日の子、すぐ泣いちゃう子だからなあ・・・。早く切り上げたいんけど・・・。泣くと、気持ちが収まるまで、また少し待たなくちゃならないだろ?
テ:なんで泣くの? セクハラしてないでしょうね?
ジ:まさか! 勝手に泣くんだよ。感受性が強いんだ。良くても悪くても泣ける・・・。だからといって、全部泣いてる写真ってわけにはいかないだろ?
テ:まあねえ・・・。コーヒー飲む?
ジ:うん。
テ:何時に出発?
ジ:7時半には出る。
テ:車、気をつけてね。もし生まれそうでも、スピードなんか出さないでよ。
ジ:わかってる・・・。
テ:ジュンスが来るのを、気合で待つから!
ジ:(笑う)そうして!
出かける前に、ジュンスがテスの荷物をスタジオの入り口のベンチまで運び、何かあったら、絶対タクシーを呼ぶようにと言い残して、ロケへ出かけた。
お印はあったものの、テスにはまだ何の変化もなかった。
もしかして、あれって、違ったのかな・・・。
ジュンスもお母様も気にしてるわよね・・・。
違ったら・・・やだな・・・。
でも、皆明日以降のほうがいいんだから、まあいいか。
テスは部屋に掃除機をかけ、おやつをつまんで、ベッドに寝転んだ。
少し寝てみるが、やはり兆候はない。
それでももう暢気に寝ている気にはなれなくて、起き上がる。
トイレ掃除をして、ついでに洗濯をして、これは乾燥機にかける。
窓の外を見る。
梅雨らしく雨が降っている。
ああ、長いなあ、今日は・・・。期待しちゃうと、だめよね・・・。
一日が待ち遠しくて長く感じる・・・。
もう一回、荷物の点検をしておこうかな・・・。
テスは、普通に階段を下りようとした。
階段の途中で、急にお腹が収縮した。
あ!
テスはちょっと気が動転して、階段を踏み外すが、手すりに捕まって、尻もちをつく。
いったあ~い!
もう!
少し、お腹の収縮が収まるのを待つ。
ああ、よかった。階段を絨毯敷きにしておいて・・・。
下まで落ちたら、たいへんだった。
あれ、今のが陣痛?
これが陣痛でいいのかしら?
痛いってわけじゃないのね・・・。
あ、時間を見なくちゃ。
テスは階段で打ったお尻を抑えながら、スタジオへ降りて、時計を見る。
11時10分ね・・・。
これって本当に陣痛でいいのかな・・・。
テスは、病院へ電話を入れる。
テ:ええ、収縮した感じで、痛くはないんです。
病:たぶん、それは陣痛の始まりですね。ええとお印が午前5時半ですね・・・。では、陣痛の間隔を測っていただいて、一時間置きになったら、こちらへいらして下さい。
テ:これって、これから痛くなるんですか?
病:(笑う)そうですよ・・・。なんともいえない、じわっとした感じから、どんどん深い収縮に変わって、痛くなってきますから・・・。ああ、一時間置きといっても、あまりに陣痛が強く痛いようなら、心配ですから、早めに来て下さいね。
テ:わかりました・・・。
ふ~。
やっぱり、痛くなるんだ・・・。
昼になったら、ジュンスに電話を入れておくかな・・・。
ジ:お、いい感じだね。少しアゴを上げてごらん。うん、かわいいよ。そこから、右へ動いて。あ、いい感じ・・・。
ジュンスのポケットの携帯が震えている。
ジュンスが時計を見ると、12時を過ぎている。
ジ:じゃあ、この辺で、休憩にしようか・・・。
ジュンスは携帯を持って、撮影している山のロッジのベランダに出る。
こちらは、ソウルと違って晴れている。
ジ:もしもし?
テ:ジュンス、とうとう陣痛が来たみたい。
ジ:大丈夫? 痛い?
テ:まだ痛くないの。お腹が収縮してる感じで。陣痛かどうかわからないから、さっき病院で確認した。やっぱりそうだって。
ジ:ふ~ん・・・。そのまま、痛くないといいねえ。
テ:(笑って)そうはいかないみたい。やっぱりこれがだんだん痛くなるらしいわ。じわっときて、深い痛みに変わっていくんだって。
ジ:・・・聞いてるだけで痛いなあ・・・。そうか・・・。午後からの撮影を2時ごろには終わらせて・・・それから、車で2時間はかかるなあ・・・。(時計を見ながら計算する)
テ:大丈夫。まだまだだって。間に合うわよ。
ジ:うん・・・。途中で電話を入れながら、帰るよ。
テ:なんかあったら、病院から携帯に電話入れてもらうから。
ジ:うん。2時過ぎにはお袋の慰問も終わるから、状況によっては、あっちの携帯に電話して。
テ:うん、そうする。
ジ:じゃあ・・・。(小さな声で)・・・頑張ってね・・・。
テ:(ちょっと笑う)うん・・・。
テジョンが三脚に乗って、シンジャの部屋で電球を取り替えている。
テジ:はい、古いの。(渡す)
シ:サンキュ! (新しい電球を渡す)
テジ:(しっかりと留めて)よし、できた!
テジョンが三脚から降りる。
シ:ありがとう。
テジ:他に直すとこ、ない?
シ:う~ん、今のとこ、大丈夫。
スリップ姿のシンジャがキッチンのほうへ歩いていく。
シ:テジョン、なんか飲む?
テジ:うん。ところで、この間の写真、どうした?
シ:現像したわよ。見る?
テジ:うん・・・。
シ:デスクの上。
シンジャが冷蔵庫の中を覗きながら言う。
テジョンはシンジャのデスクの方へ行き、写真の束を見つける。
テジョンは、白のTシャツに、トランクスである。
テジ:あ、これ? (キッチンのほうに見せる)
シ:そうお。
テジ:(写真を手に取って)いいじゃない。よく撮れてるね。
シ:好きなの、取ってて。
テジ:いいの?
シ:うん。
シンジャがコーラ片手にやってくる。
テジ:「写真、ソン・シンジャ」って入れてもらうから。
シ:そうお? (微笑む)
テジ:オレのエッセーにシンジャの写真なんて、いいコラボじゃない? (笑う)
シ:ホント。好きなものが似てるから、テジョンのイメージが掴みやすい。やりやすかったわ。コーラ、飲む?
テジ:まだ、コーラ飲んでるの?
シ:だって、好きなんだもん。
テジ:ホントに妊婦にしては、体に悪いことが好きだよね。
シ:そうでもないわよ。(笑って意味ありげにテジョンを見つめる)
シ:はい、コーラ。
テジ:サンキュ! でも、シンジャの写真は文が浮かぶんだなあ・・・。自分で撮ったみたいに撮りたいタイミングがバッチリだからさ。
シ:テジョン! 私も、あなたのイラストが好き! 文章も大好き!
テジ:そうお? ありがとう!
シンジャがベッドのあるほうへ歩いていく。
シ:ねえ、この枕、ちょっと柔らかくなかった?
テジ:そうだね。枕は韓国のほうが頭に合ってるよ。
シ:女も韓国のほうがいいでしょ?
テジ:・・・なんだよ、それ? (ちょっと嫌な気分になる)
シ:こっちの子とどっちがいい?
テ:バカみたい・・・オレはそういう人間じゃないよ。(見つめる)
シ:ごめん・・・。
テ:そんな、軽く言わないでよ。オレはそんな遊び人じゃないよ、わかってるでしょ?
シ:わかってる・・・。
テジョンがじっとシンジャを見つめる。
シンジャが、テジョンの目に追い詰められたような顔をした。
シ:好きでなきゃ、しないこと、わかってる・・・。
テ:それで。 感想は? (じっと見つめて言う)
シ:え?
テ:そういう男と寝た感想・・・。
シ:・・・。(胸が痛い)
シ:テジョン。
テジ:何?
シ:ここで一緒に暮らさない?
テジ:どうして?
シ:二人でいたいの・・・。
テジ:オレは、3ヶ月したらソウルへ帰るよ。それでもいいの?
シ:ええ。
テジ:君が一番たいへんなことに、君を置き去りにしていくんだよ。
シ:それでもいい。
テジ:君は・・・。(じっと見つめる)君が高校生の時にオレが生まれたんだよ。だから、そんな君を一生愛せるかどうか、わからない・・・。
シ:それでもいい・・・。
テジ:オレはまだ子供だから、君の生まれてくる子供を愛せないかもしれない・・・。それで、君を置き去りにするかもしれない・・・。
シ:それでもいいの。私は今、あなたといたいの。
テジ:シンジャ・・・。
シ:あなたが好きなの・・・。どうしようもないほど・・・。こんな年上のくせに・・・。あなたに甘えたいの。あなたに抱かれていたいのよ・・・。
テジ:シンジャ、オレも君が好きだよ。でも、保障できないんだ、ずっと愛していけるかどうか・・・。
シ:・・・。それでもいい・・・。昨日今日って、一緒に過ごして・・・テジョンと離れているなんて、考えられなくなっちゃった・・・。今までで、一番好きなの。テジョン、あなたが一番好き・・・。キライなところなんて、一つもないの・・・。
テジ:オレの言ってること、わかるよね?
シンジャがテジョンに近づいてテジョンの顔を撫でる。
シ:なんでこんなに好きなんだろう・・・。こんな、今頃、出会うなんて・・・。お腹が大きくて・・・こんな年上で・・・いいとこ、ないよね。
テジョンがシンジャをやさしく見つめる。
そして、テジョンもシンジャの頬を撫でる。
テジ:全くいいとこないよ。めちゃくちゃ年上のくせに、大雑把だし、やさしくないし、自分勝手だし・・・。
シ:ごめん・・・。
テジ:なのに・・・。・・・。オレも君が好き。おかしいね・・・ちっともいいとこなんかないのに。
シ:一緒にいて・・・。今だけでもいい・・・。あなたが好きでいてくれる間だけでもいい・・・。
テジ:なんだよ・・・。そんな言い方して・・・。自分勝手な言い方ばっかりして・・・。
シ:ごめん・・・。でも、ここにいてほしいの・・・。
テジ:全く! とんでもない女に引っかかったな・・・。かわいげがないくせにかわいくて・・・やさしくないくせにやさしくて・・・。誰のものにもなる気がないくせに、オレを好きだって言って・・・。一緒にいてって言って・・・。我儘ばかり・・・。
テジョンがシンジャの頬を触っていた手で、アゴを掴んで、少し上げる。
テジ:でも、好きだよ。すごく・・・君が好き。・・・・君が一番好き。
テジョンがシンジャのアゴをもっと上に上げ、キスをする。
そして、シンジャを抱き締める。
シンジャもテジョンの頭を抱くように、ギュッとテジョンを抱きしめる。
テジ:(シンジャの顔を覗きこむ)困った人だね・・・君は。いつまで続くんだろう・・・。いいよ。少しずつ更新していこう・・・。(髪を撫でて、顔を見る)二人が本当に好きでいられるか・・・本当に暮らしていって、楽しいか。
シ:うん・・・。あなたとなら、暮らせる・・・。あなたとなら、愛し合える。きっと・・・ずっと。ずっと愛し合える。
テジ:ホント? (顔を覗きこんで笑う)
シ:ホント・・・。(微笑み返す)
テジョンの唇がシンジャの唇を塞ぎ、シンジャを強く抱きしめた。
シンジャの手がテジョンの髪の中に入り、髪をくちゃくちゃっと掻き揚げて、抱きしめた。
ジュンスの撮影も順調に進み、このままいけば、午後2時には終わりそうだ。
スタイリストがジュンスのところへやってきた。
ス:どうしよう・・・。透けるシャツはイヤだって、泣いた・・・。
ジ:・・・そう・・・。キャミは?
ス:それもイヤだって・・・。胸が透けて見えるのは全部イヤだって。・・・待つ?
ジ:・・・仕方ないね・・・。いつものことだろう?
ス:うん・・・。
ジュンスは、ロッジのベランダへ出て、腕時計で時間を確認すると、ふうっとため息をついて、遠くを眺めた。
テスは、もう一度シャワーを浴びて、いよいよ入院する時期を待っていた。
時計が2時半を指して、さっき感じた陣痛より心なしか腰が重くなってきているような気がする。
電話が鳴った。
テス:もしもし。(受話器を持ってソファに座る)
母:テスさん?
テス:あ、お母様。
母:どうお? 今、慰問が、終わったところなの。陣痛はあった?
テ:ええ。11時過ぎから。まだちゃんとした周期では来てないんですけど。
母:そう・・・始まっちゃったのね。・・・それは心配ね。ジュンスはまだなんでしょう?
テ:ええ、たぶん、4時か5時近くになっちゃうと思うんです。
母:そう・・・どんな感じで痛いの?
テ:さっきから、腰がず~んて重くなってきていて。
母:ふ~ん。それって男の子かもね。お腹も尖っていたし・・・。だいたい男の子は腰に来るって言うから。テジョンの時もそうだったし。
テ:そうなんですか? だと、ジュンスが喜ぶわ・・・。
母:まあ、当てにはならないけど。(笑う)ねえ。腰は重いなんて、入院したほうがいいんじゃない? 思ったより早いかもしれないわよ。
テ:そうですか?
母:うん。もう行きなさい。行っちゃったほうがいいわ。
テ:でも、まだ一時間置きじゃなくて・・・。
母:行ったほうがいいわよ。これからタクシー呼んで行きなさい。私もこれから病院へ行くわ。
テ:でも、追い返されちゃうかも・・・。
母:私が掛け合うわ。いずれにしても、病院へ行ってたほうがいいわ。一人でいて動けなくなると、マズイわよ。
テ:はい。
母:じゃ、病院で会いましょう。私は、一時間くらいかかっちゃうかもしれないけれど。
テ:はい・・・。
電話を切って、立ち上がろうとすると、大きな波がやってきた。
やだ、まだ、早すぎるって・・・。
うう~ん、ジュンス・・・。動けない・・・。助けて・・・。
ジ:よし! お疲れ様でした~。
やっと撮影が終わった。
アイドルの女の子が途中で泣き出したので、撮影時間が延びてしまった。
終わってみれば、胸まで見せてくれて・・・自分の予想外の展開だった。
女とは不思議な生き物だ。
ジュンスは、機材を片付け、携帯でテスに電話を入れる。
ジ:もしもし。テス?
テ:ジュンス? 今、病院。
ジ:もうすぐ?
テ:まだだけど、結構、大きい波が来る・・・。仕事、終わったの?
ジ:うん。予定より遅れちゃったけど、今終わった。大丈夫?
テ:今は平気だけど。お母様がさっさと病院へ行きなさいって言うから来ちゃったの。
ジ:よかったね、入院できたんだ。
テ:うん。タイミングよく、破水しちゃったの。(笑う)
ジ:危なかったな・・・。
テ:ホントに。待合室で待ってる間だったの。タクシーの中だったら、たいへんだったわ。(笑う)ちょうど病室が空いたから、今はベッドの上よ。これで安心でしょ?
ジ:そうだね。
テ:ジュンス。オンドルの部屋よ。一緒に泊まれるよ。
ジ:そう? 当たりだね。じゃあ、これから向かうから。頑張って!
テ:うん。ジュンスも気をつけてね。スピード出しちゃだめよ。
ジ:わかってる!
病室は、三種類あって、デラックスな個室、子どもなど家族も寛げるオンドルの部屋、それに、二人用のベッドの部屋がある。
今回、オンドルの部屋を申し込んでいたが、人気のある部屋なので、混んでいたら、二人部屋になると言われていた。
ここが取れると、家族も泊まれて、ここから出勤していく夫もいる。
きっと今日はジュンスも泊まるだろう。
彼は寂しがり屋だから・・・。
でも、よかった・・・。
それにしても、腰が重くて痛い・・・。
ジュンスは、車を飛ばして、なんとか2時間以内に病院についた。
駐車場に車を止め、カメラバッグに、下着と洗面用具を入れてある小さなバッグを押し込む。それを肩から提げて、病室へ急ぐ。
ジ:テス?
病室を覗くと、テジョンの母がいた。
ジ:お袋。来てくれたの? (荷物を降ろす)
母:ああ、ジュンス! よかった! かなり、痛いみたいなの。もうすぐ、陣痛室へ移るんだって。
ジ:そう・・・。テス、大丈夫?
テ:ああ、ジュンス。
ジ:痛いの?
テ:かなり・・・。腰が重くて痛いの。陣痛の波がすごくて目まいがしそう。
母:ジュンス。腰を擦ってあげたら? 私、ちょっと出てきていい? なんか買ってきてほしいもの、ある?
ジ:特にはないよ。
母:あなた、なんか食べてきたの?
ジ:まだ。
母:じゃあ、軽いもの買ってくるわね。
ジ:ありがとう。
母が部屋を出ていった。
ジ:(笑う)お袋、気を利かせてくれたね。どう、どの辺が重いの?
テ:うん、腰全体。
ジ:ちょっと横を向いてごらん。
テ:うん。
ジュンスがテスの腰を擦る。
テ:ジュンス。
ジ:何?
テ:さっき、あまりに陣痛が痛くて、泣きそうになっちゃった。
ジ:そんなに? (腰を擦っている)
テ:うん。でも、相手がお母様だったから、泣けなかった。ジュンスだったら、もう泣いちゃってたわ。
ジ:じゃあ、お袋の付き添いのほうがいいね。
テ:うん、甘えないで、ちゃんと我慢して産めそう。
ジ:代わってもらおうか?
テ:うん。ねえ、もっと擦って。
ジ:(笑う)やっぱり、甘えちゃうんだね。
テ:うん・・・。次回は泣くかも。(笑う)
ジ:頑張って。
テ:カメラの準備は?
ジ:うん、するよ。
テ:じゃあ、そっちをやって。
ジ:いいの?
テ:今のうちよ。10分以内でやってね。
ジ:わかった。(笑う)
ジュンスはカメラをバッグから取り出して、フィルムを入れて、準備する。
ジ:しかし、ここ、当たりだね。ここに布団を敷いて、今晩は泊まるよ。
テ:うん。ジュンスももう休みでしょ? うまく当たったね。来客用のシャワールームもあるのよ。
ジ:へえ、すごいね。
テ:ただし、食事なし。本当は、それがほしいよね。
ジ:うん。いいよ、食事は近くに食べにいくから。
テ:うん。
テ:ジュンス、来て・・・。一緒にヒッヒッフーして。
ジ:うん。
ジュンスがカメラを置いて、テスの横へ行った。
それから、しばらくして、ナースが病室へやってきた。
ナ:ヤンさん、どう?
テスにつながっている装置を見る。
ナ:いい感じで陣痛の波が来てるわね。普段はこの辺で陣痛室なんだけど、今日は混んでるの。だから、この後、直接、分娩室に入ってね。
テ:歩けるかしら?
ナ:ご主人に抱っこしてもらって。(笑う)
ジ:え?
ナ:車椅子もあるから、大丈夫よ。(笑う)でも、病室取れてよかったわね。後から来た人なんか処置室で寝てるのよ。今日は混んでるわ。
テ:大丈夫なんですか?
ナ:それがいつも大丈夫なの。うまく回っちゃうのよ。じゃあ、もうすぐね。また、すぐ回ってくるけど、なんかあったら、ここのブザー押してね。
テ:はい・・・。
ナースが出ていく。
ジ:なんか大量生産って感じだねえ。
テ:ホント。でも、出産の時間て、潮の満ち引きと同じだって言うじゃない? 結局皆今頃に産気づいちゃうのよね、きっと。
ジ:すごいね、それこそ、神秘の世界だね。
テ:ジュンス・・・。
ジ:どうしたの?
テ:もう我慢できなくなっちゃった・・・。産みたいって感じ・・・。すごく腰が割れそうに痛い・・・。
ジ:おい!
ジュンスが近くのブザーを押した。
テスは、結局、ナースの予想通り、ジュンスに抱かれて、やっとの思いで分娩室に入った。
今、テスは分娩台に斜めに腰かけるように座っている。
ジュンスが、分娩室用の割ぽう着とキャップをかぶって、カメラを持って入ってきた。
テスに額や髪が濡れている。
ジ:大丈夫?
テ:・・・うん・・・。
助産婦がやってくる。
助:あ、お父さん? 今、先生が会陰切開したので、もうすぐね・・・。頭の大きさを測ったら、ずいぶん大きな赤ちゃんね。お母さん、頑張らないと。
ジ:そうですか・・・。(心配そうにテスを見る)
助:たぶん、3800くらいはあると思うわ。二人とも大きいものね。仕方ないわね。
ジ:ええ。
助:先生がお父さんの写真、楽しみにしてたわよ。先生もかっこよく撮ってあげてね。
ジ:ええ。(笑う)
テ:うう~ん・・・。
助:う~ん、まだだめよ!息まないでね。ヒッヒッフーして。あ、お父さんも一緒に呼吸してあげてね。
ジ:あ、はい!
ジュンスは緊張感でいっぱいになる。カメラを肩にかけて、テスの横へ行く。
テスの手を握る。
テスが苦しそうに喘ぎながら、ジュンスと一緒に呼吸して息みを逃している。
助産婦がテスの状態を見る。
助:うん。いいわね。全開したし、頭が見えてきたわよ。もう一頑張りね。もうちょっと待ったら、いよいよ産むからね。
テ:はい。(苦しそうな顔で答える)
助:手は、こっちの棒を握って。そのほうが力が入るから。お父さん、カメラの準備してね。
ジ:あ、はい!
ジュンスは、カメラのファインダーを覗いてみる。
自分の熱と息で、ファインダーが曇る。
自分でも、おかしいほど、緊張している。
テ:うう~ん。
助:(実習生のナースに)先生、呼んできて。隣で出産終えたはずだから。
実:はい。
助:お母さん、あと一回待ってね~。いい感じだから。もう赤ちゃんはすぐそこよ。
テ:はあ・・・。
ジ:・・・。
医師が入ってきて、様子を見る。
医:異常はないね。じゃあ、次でいくよ。お母さん、いいね?
テ:はあ、はい・・・。
医:あ、お父さん。今日はお世話になります。(笑う)よろしく。
ジ:あ、はい!
ジュンスがカメラの準備をする。
息で曇る、ファインダーを拭きながら、覗く。自分の額からもテスと同様に汗が流れている。
テスの汗を実習生が拭いている。
医:さあ、いこう。息んでえ~。
テ:うう~ん。
医:もっと・・・集中して・・・。
テ:うう~ん。
医:今度こそ、いくよ。もう赤ちゃんの頭が回って出てこようとしているからね。
テ:はい!
医:はい!息んでえ。
助:ほら、息んで。
テ:あ~ん・・・。
テスが最後の力を振り絞る。
ジュンスはテスの顔から、先生、助産婦、赤ちゃんの出てくる様子を連写していく。
パシャパシャパシャパシャ!
パシャパシャパシャパシャ・・・!
カメラの音の中で、テスの中から、大きな真っ赤な赤ん坊が出てきた。
医師の手で取り上げる。
生まれたての赤ちゃん。
初めて見るその姿は、ジュンスの目には不思議な存在だ。
今までの赤ん坊のイメージとは全く違う、赤くて得体の知れない生き物のようだ。
これが本当の出産したばかりの赤ん坊か・・・。
ジュンスの中で、複雑に感動が入り乱れる。
赤ん坊が大きな声で泣いた。
その声を聞いて、安堵からか、テスの大きな目から、涙がこぼれ落ちた。
赤ん坊は、新生児の台に乗せられ、体をチェックされている。
テスは放心状態でそれを見ている。
そんなテスをファインダーの中からジュンスが見つめた。
次にテスが顔をしかめて後産をした。
ジ:痛いの?
テ:うん・・・なぜかこっちのほうが痛い気がする・・・。
ジ:へえ・・・。(笑う)
医師による会陰縫合が終わると、助産婦がキレイになった赤ちゃんをテスのところへ連れてきた。
そして、テスの胸の上に置いた。
助:はい、お母さん。初めまして・・・。ボクちゃんですよお・・・。
テ:ああ・・・。
テスが我が子の顔を覗いた。
テ:ありがとうございます・・・。(また涙がこみ上げる)ああ・・・パパにそっくり・・・。寝顔がパパにそっくりよ・・・。
ジュンスはファインダーの中から、二人を覗き、連写する。
助産婦が実習生に何か言って、実習生がジュンスのところへ来た。
実:お父さん。お写真、お撮りします。
ジ:え?
実:赤ちゃん、抱いてください。私がシャッターを切ります。
ジ:・・・。
助:お父さん、ご苦労様。はい!
助産婦がジュンスのほうへ赤ん坊を渡そうとする。
ジュンスはカメラを実習生に渡し、赤ん坊を抱く。
そして、カメラに向かって笑う。
パシャパシャ、パシャパシャ!
ジュンスはもう一度、自分と対面するように、赤ん坊を抱きなおす。
首の辺りを大きな手で支え、しっかりと向き合う。
ジュンスの手の中の小さな命。
ジュンスとそっくりな顔をして、ちょっとクシャっと顔をしかめて寝ている。
ジュンスは赤ん坊をじっと見つめた。
今、この世に生を受けて、自分に会いに来た我が子。
ジュンスの目から、涙が零れ落ちた・・・。
パシャ!
カメラの音がした。
慌しくも、ジュンスとテスの時間は流れている。
この愛しい存在が来てからは、二人の生活も楽しい活気がある。
寝室の二人のベッドの横には、ベビーベッドが置かれている。
でも、それは一人で寝るときだけで、普段は、二人のベッドの真ん中を陣取っている。
そして、夜中、ベッドの上で、テスは寝ぼけ眼で、母乳を飲ませながら、自分も寝ている。
昼は、ベビーベッドのキャスターを押して、彼はリビングで寝ている。
夜になれば、最愛のパパが帰ってきて、お風呂へ連れていってしまう・・・。
ジュンスは沐浴も上手だった。
手が大きくて器用だから、テスが見ていても、安心だ。
3ヵ月になった今は、パパと一緒にお風呂を楽しんでいる。
パパは、テスが怖くてできないような、荒々しい洗髪もしている。
テスと一緒の時は、シャンプーが目に入らないように、注意しながら洗ってあげているのに、パパのダイナミックな洗髪では、シャンプーも目に入っているはずなのに、ちっとも泣いたりしない・・・。
全く、エコひいきだ!
二人の写真の飾り棚もかわいい息子、ジュンソンの写真がいっぱいだ。
ただ一つ・・・。
特別な写真・・・。
それは、大きなパネルになって、壁に貼ってある。
割ぽう着にキャップを被ったジュンスが息子ジュンソンの顔をじっと見つめている写真だ。
その写真はちょっとブレているが、二人のお気に入りだ。
ジュンスがなんとも言えない顔をして、我が子を見入り、涙を流している。
ちょっと気恥ずかしい写真ではあるが、それを見るたびにジュンスは言う。
ジ:あの実習生さん。ナースにするには勿体ないな。カメラマンのほうが合ってるのに。
テ:ジュンスったら! スカウトしないでよ。あちらさんは、カメラマンなんて浮き草稼業より、人の命を救う仕事につきたいんだから。親御さんに恨まれるわ。
ジ:そうかなあ・・・。(写真を見る)感性がいいけどなあ・・・。
テ:ねえ、ジュンス。あのナースさんて、実は分娩室付きのカメラマンさんだったりしてね。人は見かけによらないから。(笑う)
ジ:かもね!(笑う)
ジュンソンがいる。
それだけで幸せが倍増したような気持ちになる。
二人は今すっかり、親家業に満足している・・・。
今日は、久しぶりに、テジョンの母親が遊びに来て、ジュンソンをあやしている。
彼女は産後の手伝いに2週間逗留し、それからは、月に1、2回の割合でジュンスたちを訪ねている。
テスがジュンソンの重湯を用意している。
母がジュンソンを抱いてあやしている。
テ:テジョンさん、ソウルに帰られたんですか?
母:この間、帰ってきたんだけど、また、行っちゃったの。
テ:どうして?
母:あっちで、しばらく暮らすって。なんでも、お友達と部屋をシェアしたからって。まあ、あの子の仕事ってどこにいてもできるんだけど・・・。今は、イラストよりその横に書いた文章のほうがおもしろいって、仕事がエッセー主体になってきちゃったから。どこでも書けるのよね。
テ:そうなんですか。
母:でも、私は怪しいと思ってるの。あの子、顔が輝いてたもん。恋してるのかもね。
テ:確かめたんですか?
母:うううん。そんなことしたら、怒られそうでしょ? (笑う)まだ27だもん。これで決まるかどうかもわからないから・・・。それに、あの子って自由人だから。よくわからないわ。(笑う)
テ:テジョンさんて、いい人ですよね。きっと皆に好かれるタイプなんでしょうね。
母:そうね。でも、あれで好みはうるさいのよ。簡単には恋をしないの。不思議でしょ? あんな軽やかそうなのに、簡単に恋はしないの。でも、今度は本気かしら・・・。まだ、わからないわね。
テスが渡した重湯を、母がスプーンで少しずつ、ジュンソンの口へ運ぶ。
母:よく食べるわねえ。重湯が好きなの? そう・・・しゅきなのお~。(抱いているジュンソンを見る)テスさん、この子、食欲、旺盛ね。(笑う)
テ:そうなんです。おっぱいもぐいぐい飲んで、たまに歯茎で噛むから痛くて。
母:そうお。(顔をまた見る)あなたはパパさんにそっくりねえ・・・。パパみたいにハンサムさんになるのかしらねえ。
テ:(微笑む)・・・。
母:私、あの子の赤ちゃんの頃って知らないでしょう。だから、こうやって、ジュンソンを見てると、幸せ・・・。ジュンスを赤ちゃんの時から、育てたような気になってくる・・・。そんな楽しみがあるわ・・・この子には・・・。
テ:・・・。
母がジュンソンの小さな手に自分の人差し指を持たせる。
母:私ね、昔、保母をしてたの。それで、主人の再婚の相手にって白羽の矢が立ったのね・・・。お見合いをして・・・初めて会ったジュンスはとても礼儀正しいかわいい子だった・・・。おとなしくて・・・私に対してやさしくて・・・。ある日ね。キムの家に用事があって、家へ行く途中、公園の近くを通ったの。ジュンスが遊んでた・・・。あの子、腕白坊主だったのよ。他の子を引き連れて、遊んでたわ・・・。その時の顔って、私の知らない顔だった・・・。それでね、ああ、この子は、新しいお母さんになる人に嫌われないように、いい子に振舞っているんだなあって思ったの。そうしたら、ものすごく、ジュンスが愛しくなって、お母さんになってあげたいって思っちゃったの。・・・確かに、お父さんもいい人だったけど・・・おばあちゃんがとても癖のある人だったから・・・たいへんそうに思えて、この結婚をどうしようか、ホントは迷っていたのよ・・・。きっとジュンスのお母さんもこの人と折り合いが悪かったんだろうなって・・・。それなのに、あの時のジュンスを見て決めちゃった。おかしいでしょう?
テスは、この母の話を聞いて、涙が止まらなくなった。
母:あらあら、そんなに泣かなくてもいいのに・・・。まあ、今はすぐ泣けちゃうのよね。私もそうだったわ。テジョンを生んだ後。(微笑む)ジュンスは今の今までいい子で・・・。本当に親思いのいい子なの・・・。この前ね、あなたが入院中にここへ来て、掃除をした時、そこの写真たての中に、ジュンスのお母さんの写真を見つけたの。
テスはドキッとする。
母:それで、それを眺めていたら、ちょうどジュンスが来たから、「これ、飾ったのね?」って言ったら、無愛想に「ああ」って・・・。「お母さんのこと、許せたのね?」って言ったら、「ああ」って。それから、「お袋のことは一番に思ってるから。でも、これはオレを産んでくれた人だから。その事実は変えられないだろう?」って言ったの。だから、私は「いいのよ。あなたが本当のお母さんを許せたこと、うれしく思うわ」って言ったの。
テ:どうしてですか?
母:だって、人って自分の生まれを知ることって大事でしょ? ルーツって言うの? それが人を作っている根底にあるじゃない。自分の人生の根源を認めることって大切かなって。ジュンスも、自分のすべての歴史を認めたわけだから、きっと人間的に成長したんじゃないかなって。ちょっとイヤだったものも認めるって大事よね。
テ:ジュンスにそう言ってあげたんですか?
母:ええ。あの子、「ありがとう」って、私を抱いてくれたわ。それがすごくうれしかったの。
テスは涙が流れて仕方がない。
ジュンスはちょっと斜に構えたように見えても、とても温かなのは、この人がたくさんの思いやりの中で育ててくれたからだ。
テ:お母様、ありがとうございます。私からもお礼を言わせてください。
母:そんな・・・。でも、そう言ってくれてうれしいわ。テスさん。だから、私、この子をこうやって抱いていると、ジュンスが本当に自分の子になっていくような気がして、すごくうれしいのよ。かわいいわ、とっても・・・。(ジュンソンを見つめる)
テスは母のやさしい笑顔を見て、この子が自分たち夫婦とこの母を本当の家族へと導いているのだと思った。
一つの命が皆を繋げていく・・・そんなことに気づいて、テスは幸せな気持ちになっていくのを感じた。
ジ:さあ、パパとお風呂へ入るぞ!
ジュンスがロケから帰るとすぐに、荷物をおいて楽しそうにジュンソンのところへやってきた。
テ:パパ、お帰り! 待ってましたよ~。ねえ、ジュンソンとママで、パパを待ってたよねえ。
ジ:おいで。(ジュンソンを抱く)待ってた? パパも急いで帰ってきたよ。
テ:じゃあ、パパ、よろしくね!
ジュンスが湯船で、腕の中にジュンソンを抱えて浮かべている。
ジュンソンは気持ちよさそうに浮かんでいる。
テ:気持ちよさそうね。
バスタオルを持ったテスが息子の顔を覗く。
ジ:このまま、寝ちゃいそうだな。
テ:ホントね・・・。いいなあ。
ジ:何が?
テ:私もパパと入りたい。
ジ:バカ。
テ:もう全然一緒に入ってないね・・・。
ジ:そうだな・・・。
二人の目が合って、ジュンスが笑った。
ジ:じゃあ、そうっとジュンソンを寝かせよう・・・。
テ:うん。
テスはうれしそうに笑って、ジュンソンをバスタオルの中へ受け取る。
ジュンソンはあくびをして、目を瞑る。気持ちよさそうに、寝息を立て始める。
テスは静かに運び、ジュンソンを起こさないようにそうっと着替えをさせて、ベビーベッドの中へ寝かしつけた。
ベビーベッドの高い柵を留めて、ジュンソンの顔を見る。
テ:しばらく、いい子にしているのよ・・・。パパとママの時間だからね・・・。いい子で寝ててね・・・。ほんの少しだけ、パパをママにちょうだいね・・・。
テスは寝室を静かに抜け出して、バスルームへ向かった。
脱衣所で、さっと服を脱いでバスルームに入る。
ジュンスが暑そうにバスタブの縁に座っている。
テ:パパ、お待たせ。
ジ:もう熱くて、茹っちゃうよ。
テ:ごめん。
テスがジュンスの後ろに立った。
ジュンスが後ろを振り向くふりをして、テスを抱きかかえ、ジャボンっとバスタブの中へ二人で落ちた。テスは頭から濡れて、ジュンスに抱きついた。
テ:もう! もういきなり入るんだもん、ジュンスったら!
ジ:(笑っている)驚いた?
テ:もう、あんなとこに座って、わざとらしいんだから!
ジュンスが濡れた長い髪を掻き分け、テスの顔を出す。
テ:もう遊ばないで。
ジ:じゃあ、どうするの?
テ:今は、大人の時間よ・・・。
ジ:いいよ、その気なら・・・。でも、ジュンソンみたいには浮かべてあげられないよ。おまえは重いからさ。(笑う)
テ:もうバカ・・・。(笑う)
二人で楽しそうに見つめ合う。
ジュンスがテスを抱いた。
ジ:・・・。(笑う)
テ:なあに?
ジ:幸せ?
テ:ふふ~ん。そうね・・・。(笑ってから、じっと見つめる)
ジ:たまにはいいよね・・・。
テ:うん・・・。
ジ:二人きりも・・・。
テ:うん・・・。
ジ:・・・。
ジ:よし! 沈めるぞ!
テ:やだ~。
ジュンスが思いきりテスに覆いかぶさった。
テ:やだっ! やだったら!
ジ:どこでだったら、いいの? ベッドだったらいいの?
テ:・・・・うううん・・・。(笑う)どこででも・・・。ジュンスならいいの・・・。
ジ:じゃあ・・・。覚悟して!
ジュンスが思いきり、テスにお湯をかけた。
テス:もう、もうやだ! もう、パパ、やだ!
ジ:ごめん・・・。
テ:もう、許さないから! ふざけてばっかり!
ジ:ごめん・・・。
ジュンスがテスの髪を後ろへ流す。
テ:もう、ひどい!
ジ:ごめん・・・。久しぶりに、髪、洗ってやるよ・・・。
テ:もう、絶対許さない・・・。
ジ:体も洗ってやるよ。
テ:もう意地悪なんだから・・・。
ジ:ごめん・・・。(抱く)
テ:・・・。
ジ:幸せだから、許して・・・。(やさしく言う)
テ:もう、絶対許さない・・・。(甘く言う)
ジ:ねえ・・・。(顔を覗く)
テ:もう・・・はい、スポンジ。ちゃんと洗ってね・・・。
ジ:うん・・・。
スポンジを受け取りながら、ジュンスがテスを見て、はにかんだように微笑む。
テ:もう、なあに~? (ちょっと赤い顔をする)
そして、テスを抱く。
ジュンスの唇がテスの顔に近づいた。
テスはうれしそうに腕をジュンスの首に巻きつけ、幸せそうにジュンスにキスをした。
あなたの存在が私の人生を彩る。
私はあなたを見つめ、二人の明日を生きる。
いつだって
あなたがいて・・・
いつだって
私たちの心は一緒だ。
THE END
キム・へス 主演
「愛しい人2部」第8部(最終回)
二人が
愛し合うことは
当たり前
私たちは
家族になる
家族
それは複雑で
それは温かい・・・
【第8章 家族】
ジ:どう? その後、変化ない?
午前6時30分。ジュンスが起きてきて、ダイニングテーブルに着いた。
テ:うん。大丈夫そう。でも、お印はあった・・・。だから、今日か明日には始まると思う。
テスは普段通りに朝食の支度をしている。
ジ:そうか・・・。明日だといいなあ。明日から休みに入るからさ。もう一日待ってほしいよ。
テ:でも、すぐには生まれないから、大丈夫よ。だいたい陣痛が始まってから、8時間とか、すごい人だと丸一日とか。
ジ:苦しそうだなあ・・・。(顔をしかめる)よく我慢できるよね、女の人は。
テ:仕方ないわ。産まないわけにはいかないんだから。
テスがテーブルに出したサラダからプチトマトを摘んで食べる。
ジ:なんか余裕だね。(笑う)
テ:だって、皆がやってることだもん。きっと大丈夫よ。(微笑む)
ジ:うん・・・。でも、無理はするなよ。(真面目な顔をする)
テ:うん。
ジュンスがリビングに行って電話をする。
ジ:あ、お袋。おはよう・・・。うん? まだ。でも、今朝、お印があったんだって。テスがたぶん、今日明日だろうって。今日はうちにいるの? ・・・そう・・・。
テ:なんだって?
ジ:老人会の慰問だって・・・。(電話に戻る)今日まで、オレも仕事が入ってるんだ。そっちも今日までなの? そうか・・・。仕方ないな・・・。うん・・・。病院の場所と電話番号知ってるよね? うん、わかった・・・じゃあね。
テ:コーラスの慰問の日なの?
ジ:そうだって。今日までの予定だったって。困ったなあ・・・今日は皆いないわけだ・・・。(ちょっと考える) ねえ、早めに入院できないの?
テ:陣痛が一時間置きにならないと、家へ帰されちゃうのよ。
ジ:そんな冷たいなあ。
テ:でも、皆が早く行ったら、病院が満杯になっちゃうでしょ?
ジ:まあね・・・。
テ:大丈夫よ。すぐは生まれないだろうし。ジュンスだって、そんなには遅くならないでしょ?
ジ:うん・・・たぶんね・・・。今日の子、すぐ泣いちゃう子だからなあ・・・。早く切り上げたいんけど・・・。泣くと、気持ちが収まるまで、また少し待たなくちゃならないだろ?
テ:なんで泣くの? セクハラしてないでしょうね?
ジ:まさか! 勝手に泣くんだよ。感受性が強いんだ。良くても悪くても泣ける・・・。だからといって、全部泣いてる写真ってわけにはいかないだろ?
テ:まあねえ・・・。コーヒー飲む?
ジ:うん。
テ:何時に出発?
ジ:7時半には出る。
テ:車、気をつけてね。もし生まれそうでも、スピードなんか出さないでよ。
ジ:わかってる・・・。
テ:ジュンスが来るのを、気合で待つから!
ジ:(笑う)そうして!
出かける前に、ジュンスがテスの荷物をスタジオの入り口のベンチまで運び、何かあったら、絶対タクシーを呼ぶようにと言い残して、ロケへ出かけた。
お印はあったものの、テスにはまだ何の変化もなかった。
もしかして、あれって、違ったのかな・・・。
ジュンスもお母様も気にしてるわよね・・・。
違ったら・・・やだな・・・。
でも、皆明日以降のほうがいいんだから、まあいいか。
テスは部屋に掃除機をかけ、おやつをつまんで、ベッドに寝転んだ。
少し寝てみるが、やはり兆候はない。
それでももう暢気に寝ている気にはなれなくて、起き上がる。
トイレ掃除をして、ついでに洗濯をして、これは乾燥機にかける。
窓の外を見る。
梅雨らしく雨が降っている。
ああ、長いなあ、今日は・・・。期待しちゃうと、だめよね・・・。
一日が待ち遠しくて長く感じる・・・。
もう一回、荷物の点検をしておこうかな・・・。
テスは、普通に階段を下りようとした。
階段の途中で、急にお腹が収縮した。
あ!
テスはちょっと気が動転して、階段を踏み外すが、手すりに捕まって、尻もちをつく。
いったあ~い!
もう!
少し、お腹の収縮が収まるのを待つ。
ああ、よかった。階段を絨毯敷きにしておいて・・・。
下まで落ちたら、たいへんだった。
あれ、今のが陣痛?
これが陣痛でいいのかしら?
痛いってわけじゃないのね・・・。
あ、時間を見なくちゃ。
テスは階段で打ったお尻を抑えながら、スタジオへ降りて、時計を見る。
11時10分ね・・・。
これって本当に陣痛でいいのかな・・・。
テスは、病院へ電話を入れる。
テ:ええ、収縮した感じで、痛くはないんです。
病:たぶん、それは陣痛の始まりですね。ええとお印が午前5時半ですね・・・。では、陣痛の間隔を測っていただいて、一時間置きになったら、こちらへいらして下さい。
テ:これって、これから痛くなるんですか?
病:(笑う)そうですよ・・・。なんともいえない、じわっとした感じから、どんどん深い収縮に変わって、痛くなってきますから・・・。ああ、一時間置きといっても、あまりに陣痛が強く痛いようなら、心配ですから、早めに来て下さいね。
テ:わかりました・・・。
ふ~。
やっぱり、痛くなるんだ・・・。
昼になったら、ジュンスに電話を入れておくかな・・・。
ジ:お、いい感じだね。少しアゴを上げてごらん。うん、かわいいよ。そこから、右へ動いて。あ、いい感じ・・・。
ジュンスのポケットの携帯が震えている。
ジュンスが時計を見ると、12時を過ぎている。
ジ:じゃあ、この辺で、休憩にしようか・・・。
ジュンスは携帯を持って、撮影している山のロッジのベランダに出る。
こちらは、ソウルと違って晴れている。
ジ:もしもし?
テ:ジュンス、とうとう陣痛が来たみたい。
ジ:大丈夫? 痛い?
テ:まだ痛くないの。お腹が収縮してる感じで。陣痛かどうかわからないから、さっき病院で確認した。やっぱりそうだって。
ジ:ふ~ん・・・。そのまま、痛くないといいねえ。
テ:(笑って)そうはいかないみたい。やっぱりこれがだんだん痛くなるらしいわ。じわっときて、深い痛みに変わっていくんだって。
ジ:・・・聞いてるだけで痛いなあ・・・。そうか・・・。午後からの撮影を2時ごろには終わらせて・・・それから、車で2時間はかかるなあ・・・。(時計を見ながら計算する)
テ:大丈夫。まだまだだって。間に合うわよ。
ジ:うん・・・。途中で電話を入れながら、帰るよ。
テ:なんかあったら、病院から携帯に電話入れてもらうから。
ジ:うん。2時過ぎにはお袋の慰問も終わるから、状況によっては、あっちの携帯に電話して。
テ:うん、そうする。
ジ:じゃあ・・・。(小さな声で)・・・頑張ってね・・・。
テ:(ちょっと笑う)うん・・・。
テジョンが三脚に乗って、シンジャの部屋で電球を取り替えている。
テジ:はい、古いの。(渡す)
シ:サンキュ! (新しい電球を渡す)
テジ:(しっかりと留めて)よし、できた!
テジョンが三脚から降りる。
シ:ありがとう。
テジ:他に直すとこ、ない?
シ:う~ん、今のとこ、大丈夫。
スリップ姿のシンジャがキッチンのほうへ歩いていく。
シ:テジョン、なんか飲む?
テジ:うん。ところで、この間の写真、どうした?
シ:現像したわよ。見る?
テジ:うん・・・。
シ:デスクの上。
シンジャが冷蔵庫の中を覗きながら言う。
テジョンはシンジャのデスクの方へ行き、写真の束を見つける。
テジョンは、白のTシャツに、トランクスである。
テジ:あ、これ? (キッチンのほうに見せる)
シ:そうお。
テジ:(写真を手に取って)いいじゃない。よく撮れてるね。
シ:好きなの、取ってて。
テジ:いいの?
シ:うん。
シンジャがコーラ片手にやってくる。
テジ:「写真、ソン・シンジャ」って入れてもらうから。
シ:そうお? (微笑む)
テジ:オレのエッセーにシンジャの写真なんて、いいコラボじゃない? (笑う)
シ:ホント。好きなものが似てるから、テジョンのイメージが掴みやすい。やりやすかったわ。コーラ、飲む?
テジ:まだ、コーラ飲んでるの?
シ:だって、好きなんだもん。
テジ:ホントに妊婦にしては、体に悪いことが好きだよね。
シ:そうでもないわよ。(笑って意味ありげにテジョンを見つめる)
シ:はい、コーラ。
テジ:サンキュ! でも、シンジャの写真は文が浮かぶんだなあ・・・。自分で撮ったみたいに撮りたいタイミングがバッチリだからさ。
シ:テジョン! 私も、あなたのイラストが好き! 文章も大好き!
テジ:そうお? ありがとう!
シンジャがベッドのあるほうへ歩いていく。
シ:ねえ、この枕、ちょっと柔らかくなかった?
テジ:そうだね。枕は韓国のほうが頭に合ってるよ。
シ:女も韓国のほうがいいでしょ?
テジ:・・・なんだよ、それ? (ちょっと嫌な気分になる)
シ:こっちの子とどっちがいい?
テ:バカみたい・・・オレはそういう人間じゃないよ。(見つめる)
シ:ごめん・・・。
テ:そんな、軽く言わないでよ。オレはそんな遊び人じゃないよ、わかってるでしょ?
シ:わかってる・・・。
テジョンがじっとシンジャを見つめる。
シンジャが、テジョンの目に追い詰められたような顔をした。
シ:好きでなきゃ、しないこと、わかってる・・・。
テ:それで。 感想は? (じっと見つめて言う)
シ:え?
テ:そういう男と寝た感想・・・。
シ:・・・。(胸が痛い)
シ:テジョン。
テジ:何?
シ:ここで一緒に暮らさない?
テジ:どうして?
シ:二人でいたいの・・・。
テジ:オレは、3ヶ月したらソウルへ帰るよ。それでもいいの?
シ:ええ。
テジ:君が一番たいへんなことに、君を置き去りにしていくんだよ。
シ:それでもいい。
テジ:君は・・・。(じっと見つめる)君が高校生の時にオレが生まれたんだよ。だから、そんな君を一生愛せるかどうか、わからない・・・。
シ:それでもいい・・・。
テジ:オレはまだ子供だから、君の生まれてくる子供を愛せないかもしれない・・・。それで、君を置き去りにするかもしれない・・・。
シ:それでもいいの。私は今、あなたといたいの。
テジ:シンジャ・・・。
シ:あなたが好きなの・・・。どうしようもないほど・・・。こんな年上のくせに・・・。あなたに甘えたいの。あなたに抱かれていたいのよ・・・。
テジ:シンジャ、オレも君が好きだよ。でも、保障できないんだ、ずっと愛していけるかどうか・・・。
シ:・・・。それでもいい・・・。昨日今日って、一緒に過ごして・・・テジョンと離れているなんて、考えられなくなっちゃった・・・。今までで、一番好きなの。テジョン、あなたが一番好き・・・。キライなところなんて、一つもないの・・・。
テジ:オレの言ってること、わかるよね?
シンジャがテジョンに近づいてテジョンの顔を撫でる。
シ:なんでこんなに好きなんだろう・・・。こんな、今頃、出会うなんて・・・。お腹が大きくて・・・こんな年上で・・・いいとこ、ないよね。
テジョンがシンジャをやさしく見つめる。
そして、テジョンもシンジャの頬を撫でる。
テジ:全くいいとこないよ。めちゃくちゃ年上のくせに、大雑把だし、やさしくないし、自分勝手だし・・・。
シ:ごめん・・・。
テジ:なのに・・・。・・・。オレも君が好き。おかしいね・・・ちっともいいとこなんかないのに。
シ:一緒にいて・・・。今だけでもいい・・・。あなたが好きでいてくれる間だけでもいい・・・。
テジ:なんだよ・・・。そんな言い方して・・・。自分勝手な言い方ばっかりして・・・。
シ:ごめん・・・。でも、ここにいてほしいの・・・。
テジ:全く! とんでもない女に引っかかったな・・・。かわいげがないくせにかわいくて・・・やさしくないくせにやさしくて・・・。誰のものにもなる気がないくせに、オレを好きだって言って・・・。一緒にいてって言って・・・。我儘ばかり・・・。
テジョンがシンジャの頬を触っていた手で、アゴを掴んで、少し上げる。
テジ:でも、好きだよ。すごく・・・君が好き。・・・・君が一番好き。
テジョンがシンジャのアゴをもっと上に上げ、キスをする。
そして、シンジャを抱き締める。
シンジャもテジョンの頭を抱くように、ギュッとテジョンを抱きしめる。
テジ:(シンジャの顔を覗きこむ)困った人だね・・・君は。いつまで続くんだろう・・・。いいよ。少しずつ更新していこう・・・。(髪を撫でて、顔を見る)二人が本当に好きでいられるか・・・本当に暮らしていって、楽しいか。
シ:うん・・・。あなたとなら、暮らせる・・・。あなたとなら、愛し合える。きっと・・・ずっと。ずっと愛し合える。
テジ:ホント? (顔を覗きこんで笑う)
シ:ホント・・・。(微笑み返す)
テジョンの唇がシンジャの唇を塞ぎ、シンジャを強く抱きしめた。
シンジャの手がテジョンの髪の中に入り、髪をくちゃくちゃっと掻き揚げて、抱きしめた。
ジュンスの撮影も順調に進み、このままいけば、午後2時には終わりそうだ。
スタイリストがジュンスのところへやってきた。
ス:どうしよう・・・。透けるシャツはイヤだって、泣いた・・・。
ジ:・・・そう・・・。キャミは?
ス:それもイヤだって・・・。胸が透けて見えるのは全部イヤだって。・・・待つ?
ジ:・・・仕方ないね・・・。いつものことだろう?
ス:うん・・・。
ジュンスは、ロッジのベランダへ出て、腕時計で時間を確認すると、ふうっとため息をついて、遠くを眺めた。
テスは、もう一度シャワーを浴びて、いよいよ入院する時期を待っていた。
時計が2時半を指して、さっき感じた陣痛より心なしか腰が重くなってきているような気がする。
電話が鳴った。
テス:もしもし。(受話器を持ってソファに座る)
母:テスさん?
テス:あ、お母様。
母:どうお? 今、慰問が、終わったところなの。陣痛はあった?
テ:ええ。11時過ぎから。まだちゃんとした周期では来てないんですけど。
母:そう・・・始まっちゃったのね。・・・それは心配ね。ジュンスはまだなんでしょう?
テ:ええ、たぶん、4時か5時近くになっちゃうと思うんです。
母:そう・・・どんな感じで痛いの?
テ:さっきから、腰がず~んて重くなってきていて。
母:ふ~ん。それって男の子かもね。お腹も尖っていたし・・・。だいたい男の子は腰に来るって言うから。テジョンの時もそうだったし。
テ:そうなんですか? だと、ジュンスが喜ぶわ・・・。
母:まあ、当てにはならないけど。(笑う)ねえ。腰は重いなんて、入院したほうがいいんじゃない? 思ったより早いかもしれないわよ。
テ:そうですか?
母:うん。もう行きなさい。行っちゃったほうがいいわ。
テ:でも、まだ一時間置きじゃなくて・・・。
母:行ったほうがいいわよ。これからタクシー呼んで行きなさい。私もこれから病院へ行くわ。
テ:でも、追い返されちゃうかも・・・。
母:私が掛け合うわ。いずれにしても、病院へ行ってたほうがいいわ。一人でいて動けなくなると、マズイわよ。
テ:はい。
母:じゃ、病院で会いましょう。私は、一時間くらいかかっちゃうかもしれないけれど。
テ:はい・・・。
電話を切って、立ち上がろうとすると、大きな波がやってきた。
やだ、まだ、早すぎるって・・・。
うう~ん、ジュンス・・・。動けない・・・。助けて・・・。
ジ:よし! お疲れ様でした~。
やっと撮影が終わった。
アイドルの女の子が途中で泣き出したので、撮影時間が延びてしまった。
終わってみれば、胸まで見せてくれて・・・自分の予想外の展開だった。
女とは不思議な生き物だ。
ジュンスは、機材を片付け、携帯でテスに電話を入れる。
ジ:もしもし。テス?
テ:ジュンス? 今、病院。
ジ:もうすぐ?
テ:まだだけど、結構、大きい波が来る・・・。仕事、終わったの?
ジ:うん。予定より遅れちゃったけど、今終わった。大丈夫?
テ:今は平気だけど。お母様がさっさと病院へ行きなさいって言うから来ちゃったの。
ジ:よかったね、入院できたんだ。
テ:うん。タイミングよく、破水しちゃったの。(笑う)
ジ:危なかったな・・・。
テ:ホントに。待合室で待ってる間だったの。タクシーの中だったら、たいへんだったわ。(笑う)ちょうど病室が空いたから、今はベッドの上よ。これで安心でしょ?
ジ:そうだね。
テ:ジュンス。オンドルの部屋よ。一緒に泊まれるよ。
ジ:そう? 当たりだね。じゃあ、これから向かうから。頑張って!
テ:うん。ジュンスも気をつけてね。スピード出しちゃだめよ。
ジ:わかってる!
病室は、三種類あって、デラックスな個室、子どもなど家族も寛げるオンドルの部屋、それに、二人用のベッドの部屋がある。
今回、オンドルの部屋を申し込んでいたが、人気のある部屋なので、混んでいたら、二人部屋になると言われていた。
ここが取れると、家族も泊まれて、ここから出勤していく夫もいる。
きっと今日はジュンスも泊まるだろう。
彼は寂しがり屋だから・・・。
でも、よかった・・・。
それにしても、腰が重くて痛い・・・。
ジュンスは、車を飛ばして、なんとか2時間以内に病院についた。
駐車場に車を止め、カメラバッグに、下着と洗面用具を入れてある小さなバッグを押し込む。それを肩から提げて、病室へ急ぐ。
ジ:テス?
病室を覗くと、テジョンの母がいた。
ジ:お袋。来てくれたの? (荷物を降ろす)
母:ああ、ジュンス! よかった! かなり、痛いみたいなの。もうすぐ、陣痛室へ移るんだって。
ジ:そう・・・。テス、大丈夫?
テ:ああ、ジュンス。
ジ:痛いの?
テ:かなり・・・。腰が重くて痛いの。陣痛の波がすごくて目まいがしそう。
母:ジュンス。腰を擦ってあげたら? 私、ちょっと出てきていい? なんか買ってきてほしいもの、ある?
ジ:特にはないよ。
母:あなた、なんか食べてきたの?
ジ:まだ。
母:じゃあ、軽いもの買ってくるわね。
ジ:ありがとう。
母が部屋を出ていった。
ジ:(笑う)お袋、気を利かせてくれたね。どう、どの辺が重いの?
テ:うん、腰全体。
ジ:ちょっと横を向いてごらん。
テ:うん。
ジュンスがテスの腰を擦る。
テ:ジュンス。
ジ:何?
テ:さっき、あまりに陣痛が痛くて、泣きそうになっちゃった。
ジ:そんなに? (腰を擦っている)
テ:うん。でも、相手がお母様だったから、泣けなかった。ジュンスだったら、もう泣いちゃってたわ。
ジ:じゃあ、お袋の付き添いのほうがいいね。
テ:うん、甘えないで、ちゃんと我慢して産めそう。
ジ:代わってもらおうか?
テ:うん。ねえ、もっと擦って。
ジ:(笑う)やっぱり、甘えちゃうんだね。
テ:うん・・・。次回は泣くかも。(笑う)
ジ:頑張って。
テ:カメラの準備は?
ジ:うん、するよ。
テ:じゃあ、そっちをやって。
ジ:いいの?
テ:今のうちよ。10分以内でやってね。
ジ:わかった。(笑う)
ジュンスはカメラをバッグから取り出して、フィルムを入れて、準備する。
ジ:しかし、ここ、当たりだね。ここに布団を敷いて、今晩は泊まるよ。
テ:うん。ジュンスももう休みでしょ? うまく当たったね。来客用のシャワールームもあるのよ。
ジ:へえ、すごいね。
テ:ただし、食事なし。本当は、それがほしいよね。
ジ:うん。いいよ、食事は近くに食べにいくから。
テ:うん。
テ:ジュンス、来て・・・。一緒にヒッヒッフーして。
ジ:うん。
ジュンスがカメラを置いて、テスの横へ行った。
それから、しばらくして、ナースが病室へやってきた。
ナ:ヤンさん、どう?
テスにつながっている装置を見る。
ナ:いい感じで陣痛の波が来てるわね。普段はこの辺で陣痛室なんだけど、今日は混んでるの。だから、この後、直接、分娩室に入ってね。
テ:歩けるかしら?
ナ:ご主人に抱っこしてもらって。(笑う)
ジ:え?
ナ:車椅子もあるから、大丈夫よ。(笑う)でも、病室取れてよかったわね。後から来た人なんか処置室で寝てるのよ。今日は混んでるわ。
テ:大丈夫なんですか?
ナ:それがいつも大丈夫なの。うまく回っちゃうのよ。じゃあ、もうすぐね。また、すぐ回ってくるけど、なんかあったら、ここのブザー押してね。
テ:はい・・・。
ナースが出ていく。
ジ:なんか大量生産って感じだねえ。
テ:ホント。でも、出産の時間て、潮の満ち引きと同じだって言うじゃない? 結局皆今頃に産気づいちゃうのよね、きっと。
ジ:すごいね、それこそ、神秘の世界だね。
テ:ジュンス・・・。
ジ:どうしたの?
テ:もう我慢できなくなっちゃった・・・。産みたいって感じ・・・。すごく腰が割れそうに痛い・・・。
ジ:おい!
ジュンスが近くのブザーを押した。
テスは、結局、ナースの予想通り、ジュンスに抱かれて、やっとの思いで分娩室に入った。
今、テスは分娩台に斜めに腰かけるように座っている。
ジュンスが、分娩室用の割ぽう着とキャップをかぶって、カメラを持って入ってきた。
テスに額や髪が濡れている。
ジ:大丈夫?
テ:・・・うん・・・。
助産婦がやってくる。
助:あ、お父さん? 今、先生が会陰切開したので、もうすぐね・・・。頭の大きさを測ったら、ずいぶん大きな赤ちゃんね。お母さん、頑張らないと。
ジ:そうですか・・・。(心配そうにテスを見る)
助:たぶん、3800くらいはあると思うわ。二人とも大きいものね。仕方ないわね。
ジ:ええ。
助:先生がお父さんの写真、楽しみにしてたわよ。先生もかっこよく撮ってあげてね。
ジ:ええ。(笑う)
テ:うう~ん・・・。
助:う~ん、まだだめよ!息まないでね。ヒッヒッフーして。あ、お父さんも一緒に呼吸してあげてね。
ジ:あ、はい!
ジュンスは緊張感でいっぱいになる。カメラを肩にかけて、テスの横へ行く。
テスの手を握る。
テスが苦しそうに喘ぎながら、ジュンスと一緒に呼吸して息みを逃している。
助産婦がテスの状態を見る。
助:うん。いいわね。全開したし、頭が見えてきたわよ。もう一頑張りね。もうちょっと待ったら、いよいよ産むからね。
テ:はい。(苦しそうな顔で答える)
助:手は、こっちの棒を握って。そのほうが力が入るから。お父さん、カメラの準備してね。
ジ:あ、はい!
ジュンスは、カメラのファインダーを覗いてみる。
自分の熱と息で、ファインダーが曇る。
自分でも、おかしいほど、緊張している。
テ:うう~ん。
助:(実習生のナースに)先生、呼んできて。隣で出産終えたはずだから。
実:はい。
助:お母さん、あと一回待ってね~。いい感じだから。もう赤ちゃんはすぐそこよ。
テ:はあ・・・。
ジ:・・・。
医師が入ってきて、様子を見る。
医:異常はないね。じゃあ、次でいくよ。お母さん、いいね?
テ:はあ、はい・・・。
医:あ、お父さん。今日はお世話になります。(笑う)よろしく。
ジ:あ、はい!
ジュンスがカメラの準備をする。
息で曇る、ファインダーを拭きながら、覗く。自分の額からもテスと同様に汗が流れている。
テスの汗を実習生が拭いている。
医:さあ、いこう。息んでえ~。
テ:うう~ん。
医:もっと・・・集中して・・・。
テ:うう~ん。
医:今度こそ、いくよ。もう赤ちゃんの頭が回って出てこようとしているからね。
テ:はい!
医:はい!息んでえ。
助:ほら、息んで。
テ:あ~ん・・・。
テスが最後の力を振り絞る。
ジュンスはテスの顔から、先生、助産婦、赤ちゃんの出てくる様子を連写していく。
パシャパシャパシャパシャ!
パシャパシャパシャパシャ・・・!
カメラの音の中で、テスの中から、大きな真っ赤な赤ん坊が出てきた。
医師の手で取り上げる。
生まれたての赤ちゃん。
初めて見るその姿は、ジュンスの目には不思議な存在だ。
今までの赤ん坊のイメージとは全く違う、赤くて得体の知れない生き物のようだ。
これが本当の出産したばかりの赤ん坊か・・・。
ジュンスの中で、複雑に感動が入り乱れる。
赤ん坊が大きな声で泣いた。
その声を聞いて、安堵からか、テスの大きな目から、涙がこぼれ落ちた。
赤ん坊は、新生児の台に乗せられ、体をチェックされている。
テスは放心状態でそれを見ている。
そんなテスをファインダーの中からジュンスが見つめた。
次にテスが顔をしかめて後産をした。
ジ:痛いの?
テ:うん・・・なぜかこっちのほうが痛い気がする・・・。
ジ:へえ・・・。(笑う)
医師による会陰縫合が終わると、助産婦がキレイになった赤ちゃんをテスのところへ連れてきた。
そして、テスの胸の上に置いた。
助:はい、お母さん。初めまして・・・。ボクちゃんですよお・・・。
テ:ああ・・・。
テスが我が子の顔を覗いた。
テ:ありがとうございます・・・。(また涙がこみ上げる)ああ・・・パパにそっくり・・・。寝顔がパパにそっくりよ・・・。
ジュンスはファインダーの中から、二人を覗き、連写する。
助産婦が実習生に何か言って、実習生がジュンスのところへ来た。
実:お父さん。お写真、お撮りします。
ジ:え?
実:赤ちゃん、抱いてください。私がシャッターを切ります。
ジ:・・・。
助:お父さん、ご苦労様。はい!
助産婦がジュンスのほうへ赤ん坊を渡そうとする。
ジュンスはカメラを実習生に渡し、赤ん坊を抱く。
そして、カメラに向かって笑う。
パシャパシャ、パシャパシャ!
ジュンスはもう一度、自分と対面するように、赤ん坊を抱きなおす。
首の辺りを大きな手で支え、しっかりと向き合う。
ジュンスの手の中の小さな命。
ジュンスとそっくりな顔をして、ちょっとクシャっと顔をしかめて寝ている。
ジュンスは赤ん坊をじっと見つめた。
今、この世に生を受けて、自分に会いに来た我が子。
ジュンスの目から、涙が零れ落ちた・・・。
パシャ!
カメラの音がした。
慌しくも、ジュンスとテスの時間は流れている。
この愛しい存在が来てからは、二人の生活も楽しい活気がある。
寝室の二人のベッドの横には、ベビーベッドが置かれている。
でも、それは一人で寝るときだけで、普段は、二人のベッドの真ん中を陣取っている。
そして、夜中、ベッドの上で、テスは寝ぼけ眼で、母乳を飲ませながら、自分も寝ている。
昼は、ベビーベッドのキャスターを押して、彼はリビングで寝ている。
夜になれば、最愛のパパが帰ってきて、お風呂へ連れていってしまう・・・。
ジュンスは沐浴も上手だった。
手が大きくて器用だから、テスが見ていても、安心だ。
3ヵ月になった今は、パパと一緒にお風呂を楽しんでいる。
パパは、テスが怖くてできないような、荒々しい洗髪もしている。
テスと一緒の時は、シャンプーが目に入らないように、注意しながら洗ってあげているのに、パパのダイナミックな洗髪では、シャンプーも目に入っているはずなのに、ちっとも泣いたりしない・・・。
全く、エコひいきだ!
二人の写真の飾り棚もかわいい息子、ジュンソンの写真がいっぱいだ。
ただ一つ・・・。
特別な写真・・・。
それは、大きなパネルになって、壁に貼ってある。
割ぽう着にキャップを被ったジュンスが息子ジュンソンの顔をじっと見つめている写真だ。
その写真はちょっとブレているが、二人のお気に入りだ。
ジュンスがなんとも言えない顔をして、我が子を見入り、涙を流している。
ちょっと気恥ずかしい写真ではあるが、それを見るたびにジュンスは言う。
ジ:あの実習生さん。ナースにするには勿体ないな。カメラマンのほうが合ってるのに。
テ:ジュンスったら! スカウトしないでよ。あちらさんは、カメラマンなんて浮き草稼業より、人の命を救う仕事につきたいんだから。親御さんに恨まれるわ。
ジ:そうかなあ・・・。(写真を見る)感性がいいけどなあ・・・。
テ:ねえ、ジュンス。あのナースさんて、実は分娩室付きのカメラマンさんだったりしてね。人は見かけによらないから。(笑う)
ジ:かもね!(笑う)
ジュンソンがいる。
それだけで幸せが倍増したような気持ちになる。
二人は今すっかり、親家業に満足している・・・。
今日は、久しぶりに、テジョンの母親が遊びに来て、ジュンソンをあやしている。
彼女は産後の手伝いに2週間逗留し、それからは、月に1、2回の割合でジュンスたちを訪ねている。
テスがジュンソンの重湯を用意している。
母がジュンソンを抱いてあやしている。
テ:テジョンさん、ソウルに帰られたんですか?
母:この間、帰ってきたんだけど、また、行っちゃったの。
テ:どうして?
母:あっちで、しばらく暮らすって。なんでも、お友達と部屋をシェアしたからって。まあ、あの子の仕事ってどこにいてもできるんだけど・・・。今は、イラストよりその横に書いた文章のほうがおもしろいって、仕事がエッセー主体になってきちゃったから。どこでも書けるのよね。
テ:そうなんですか。
母:でも、私は怪しいと思ってるの。あの子、顔が輝いてたもん。恋してるのかもね。
テ:確かめたんですか?
母:うううん。そんなことしたら、怒られそうでしょ? (笑う)まだ27だもん。これで決まるかどうかもわからないから・・・。それに、あの子って自由人だから。よくわからないわ。(笑う)
テ:テジョンさんて、いい人ですよね。きっと皆に好かれるタイプなんでしょうね。
母:そうね。でも、あれで好みはうるさいのよ。簡単には恋をしないの。不思議でしょ? あんな軽やかそうなのに、簡単に恋はしないの。でも、今度は本気かしら・・・。まだ、わからないわね。
テスが渡した重湯を、母がスプーンで少しずつ、ジュンソンの口へ運ぶ。
母:よく食べるわねえ。重湯が好きなの? そう・・・しゅきなのお~。(抱いているジュンソンを見る)テスさん、この子、食欲、旺盛ね。(笑う)
テ:そうなんです。おっぱいもぐいぐい飲んで、たまに歯茎で噛むから痛くて。
母:そうお。(顔をまた見る)あなたはパパさんにそっくりねえ・・・。パパみたいにハンサムさんになるのかしらねえ。
テ:(微笑む)・・・。
母:私、あの子の赤ちゃんの頃って知らないでしょう。だから、こうやって、ジュンソンを見てると、幸せ・・・。ジュンスを赤ちゃんの時から、育てたような気になってくる・・・。そんな楽しみがあるわ・・・この子には・・・。
テ:・・・。
母がジュンソンの小さな手に自分の人差し指を持たせる。
母:私ね、昔、保母をしてたの。それで、主人の再婚の相手にって白羽の矢が立ったのね・・・。お見合いをして・・・初めて会ったジュンスはとても礼儀正しいかわいい子だった・・・。おとなしくて・・・私に対してやさしくて・・・。ある日ね。キムの家に用事があって、家へ行く途中、公園の近くを通ったの。ジュンスが遊んでた・・・。あの子、腕白坊主だったのよ。他の子を引き連れて、遊んでたわ・・・。その時の顔って、私の知らない顔だった・・・。それでね、ああ、この子は、新しいお母さんになる人に嫌われないように、いい子に振舞っているんだなあって思ったの。そうしたら、ものすごく、ジュンスが愛しくなって、お母さんになってあげたいって思っちゃったの。・・・確かに、お父さんもいい人だったけど・・・おばあちゃんがとても癖のある人だったから・・・たいへんそうに思えて、この結婚をどうしようか、ホントは迷っていたのよ・・・。きっとジュンスのお母さんもこの人と折り合いが悪かったんだろうなって・・・。それなのに、あの時のジュンスを見て決めちゃった。おかしいでしょう?
テスは、この母の話を聞いて、涙が止まらなくなった。
母:あらあら、そんなに泣かなくてもいいのに・・・。まあ、今はすぐ泣けちゃうのよね。私もそうだったわ。テジョンを生んだ後。(微笑む)ジュンスは今の今までいい子で・・・。本当に親思いのいい子なの・・・。この前ね、あなたが入院中にここへ来て、掃除をした時、そこの写真たての中に、ジュンスのお母さんの写真を見つけたの。
テスはドキッとする。
母:それで、それを眺めていたら、ちょうどジュンスが来たから、「これ、飾ったのね?」って言ったら、無愛想に「ああ」って・・・。「お母さんのこと、許せたのね?」って言ったら、「ああ」って。それから、「お袋のことは一番に思ってるから。でも、これはオレを産んでくれた人だから。その事実は変えられないだろう?」って言ったの。だから、私は「いいのよ。あなたが本当のお母さんを許せたこと、うれしく思うわ」って言ったの。
テ:どうしてですか?
母:だって、人って自分の生まれを知ることって大事でしょ? ルーツって言うの? それが人を作っている根底にあるじゃない。自分の人生の根源を認めることって大切かなって。ジュンスも、自分のすべての歴史を認めたわけだから、きっと人間的に成長したんじゃないかなって。ちょっとイヤだったものも認めるって大事よね。
テ:ジュンスにそう言ってあげたんですか?
母:ええ。あの子、「ありがとう」って、私を抱いてくれたわ。それがすごくうれしかったの。
テスは涙が流れて仕方がない。
ジュンスはちょっと斜に構えたように見えても、とても温かなのは、この人がたくさんの思いやりの中で育ててくれたからだ。
テ:お母様、ありがとうございます。私からもお礼を言わせてください。
母:そんな・・・。でも、そう言ってくれてうれしいわ。テスさん。だから、私、この子をこうやって抱いていると、ジュンスが本当に自分の子になっていくような気がして、すごくうれしいのよ。かわいいわ、とっても・・・。(ジュンソンを見つめる)
テスは母のやさしい笑顔を見て、この子が自分たち夫婦とこの母を本当の家族へと導いているのだと思った。
一つの命が皆を繋げていく・・・そんなことに気づいて、テスは幸せな気持ちになっていくのを感じた。
ジ:さあ、パパとお風呂へ入るぞ!
ジュンスがロケから帰るとすぐに、荷物をおいて楽しそうにジュンソンのところへやってきた。
テ:パパ、お帰り! 待ってましたよ~。ねえ、ジュンソンとママで、パパを待ってたよねえ。
ジ:おいで。(ジュンソンを抱く)待ってた? パパも急いで帰ってきたよ。
テ:じゃあ、パパ、よろしくね!
ジュンスが湯船で、腕の中にジュンソンを抱えて浮かべている。
ジュンソンは気持ちよさそうに浮かんでいる。
テ:気持ちよさそうね。
バスタオルを持ったテスが息子の顔を覗く。
ジ:このまま、寝ちゃいそうだな。
テ:ホントね・・・。いいなあ。
ジ:何が?
テ:私もパパと入りたい。
ジ:バカ。
テ:もう全然一緒に入ってないね・・・。
ジ:そうだな・・・。
二人の目が合って、ジュンスが笑った。
ジ:じゃあ、そうっとジュンソンを寝かせよう・・・。
テ:うん。
テスはうれしそうに笑って、ジュンソンをバスタオルの中へ受け取る。
ジュンソンはあくびをして、目を瞑る。気持ちよさそうに、寝息を立て始める。
テスは静かに運び、ジュンソンを起こさないようにそうっと着替えをさせて、ベビーベッドの中へ寝かしつけた。
ベビーベッドの高い柵を留めて、ジュンソンの顔を見る。
テ:しばらく、いい子にしているのよ・・・。パパとママの時間だからね・・・。いい子で寝ててね・・・。ほんの少しだけ、パパをママにちょうだいね・・・。
テスは寝室を静かに抜け出して、バスルームへ向かった。
脱衣所で、さっと服を脱いでバスルームに入る。
ジュンスが暑そうにバスタブの縁に座っている。
テ:パパ、お待たせ。
ジ:もう熱くて、茹っちゃうよ。
テ:ごめん。
テスがジュンスの後ろに立った。
ジュンスが後ろを振り向くふりをして、テスを抱きかかえ、ジャボンっとバスタブの中へ二人で落ちた。テスは頭から濡れて、ジュンスに抱きついた。
テ:もう! もういきなり入るんだもん、ジュンスったら!
ジ:(笑っている)驚いた?
テ:もう、あんなとこに座って、わざとらしいんだから!
ジュンスが濡れた長い髪を掻き分け、テスの顔を出す。
テ:もう遊ばないで。
ジ:じゃあ、どうするの?
テ:今は、大人の時間よ・・・。
ジ:いいよ、その気なら・・・。でも、ジュンソンみたいには浮かべてあげられないよ。おまえは重いからさ。(笑う)
テ:もうバカ・・・。(笑う)
二人で楽しそうに見つめ合う。
ジュンスがテスを抱いた。
ジ:・・・。(笑う)
テ:なあに?
ジ:幸せ?
テ:ふふ~ん。そうね・・・。(笑ってから、じっと見つめる)
ジ:たまにはいいよね・・・。
テ:うん・・・。
ジ:二人きりも・・・。
テ:うん・・・。
ジ:・・・。
ジ:よし! 沈めるぞ!
テ:やだ~。
ジュンスが思いきりテスに覆いかぶさった。
テ:やだっ! やだったら!
ジ:どこでだったら、いいの? ベッドだったらいいの?
テ:・・・・うううん・・・。(笑う)どこででも・・・。ジュンスならいいの・・・。
ジ:じゃあ・・・。覚悟して!
ジュンスが思いきり、テスにお湯をかけた。
テス:もう、もうやだ! もう、パパ、やだ!
ジ:ごめん・・・。
テ:もう、許さないから! ふざけてばっかり!
ジ:ごめん・・・。
ジュンスがテスの髪を後ろへ流す。
テ:もう、ひどい!
ジ:ごめん・・・。久しぶりに、髪、洗ってやるよ・・・。
テ:もう、絶対許さない・・・。
ジ:体も洗ってやるよ。
テ:もう意地悪なんだから・・・。
ジ:ごめん・・・。(抱く)
テ:・・・。
ジ:幸せだから、許して・・・。(やさしく言う)
テ:もう、絶対許さない・・・。(甘く言う)
ジ:ねえ・・・。(顔を覗く)
テ:もう・・・はい、スポンジ。ちゃんと洗ってね・・・。
ジ:うん・・・。
スポンジを受け取りながら、ジュンスがテスを見て、はにかんだように微笑む。
テ:もう、なあに~? (ちょっと赤い顔をする)
そして、テスを抱く。
ジュンスの唇がテスの顔に近づいた。
テスはうれしそうに腕をジュンスの首に巻きつけ、幸せそうにジュンスにキスをした。
あなたの存在が私の人生を彩る。
私はあなたを見つめ、二人の明日を生きる。
いつだって
あなたがいて・・・
いつだって
私たちの心は一緒だ。
THE END