薬物の溶出性は、わずかpH0.4の差でも大きく変化する?!

2021-05-10
胃の生理的条件を反映した薬物の溶出試験には、pH 1.2の試験液が用いられています。しかし、pH 1.2は、実際の胃よりも低いpH条件(酸性の強い)です。また、胃のpHは個体間差も大きいことが知られています。そこで、胃の生理的pH条件の範囲で、薬物の溶出性がどのように変化するのか?調べてみました。

Yoshikawa, T., Oki, J., Ichikawa, N., Yamashita, S., & Sugano, K. (2021). Small differences in acidic pH condition significantly affect dissolution equivalence between drug products of acidic drug salt. Journal of Drug Delivery Science and Technology, 102546.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1773224721002264

今回は、ジクロフェナックナトリウムの製剤を用い、pH 1.2, 1.6, および2.0で溶出試験を実施しました。

結果、わずかpH0.4の差でも、製剤間で溶出の同等性が大きく変化することが分かりました。ジクロフェナックのpKaは4.0ですので、pH 3以下では平衡溶解度が、ほぼ同じになります。にもかかわらず、製剤間でこのような大きな差が出る原因として、固体表面での液-液層分離(Lquid-liquid phase separation)という現象が関与していると考えられました。

解離性薬物の場合、塩にすることで水溶性が向上するため、多くの医薬品原薬は塩になっております。しかし、塩によっては溶出性改善効果が低い場合もあり、その原因には不明な部分も多いのが現状です。
塩原薬は古くから利用されてきましたが、その溶出には、まだわからない部分が大きいです(現在、経口吸収PBPKモデルに用いられている溶出理論では、塩の溶出を適切にとらえることはできません。ご注意ください。)。

また、生物学的同等性を考える際、pH 1.2における溶出性評価だけでは不十分なケースもあると考えられます。

ジクロフェナックナトリウム以外ではどうなるのか?現在、様々な薬物で実験中です。結果を、お楽しみにしてください。