Vd_Fおよびkelのフィッテイングについて
2026-01-11
このブログでは、これまで数回にわたり、化合物毎のパラメータフィッティング(middle-out approach)の問題点を議論してきました。経口吸収の律速段階を構成するパラメータ群の中から、1つでもパラメータフィッティングした場合、すべての誤りはフィッティングで隠蔽されてしまうのでした。
それでは、経口吸収部分はボトプアップで予測したものをそのまま使い、それ以外の薬物動態プロセスを経口投与後の血中濃度推移に対してフィッテングした場合は、どうなるのでしょうか?
このことを考えるために、以下の思考実験をしてみましょう。
この思考実験では、
(1) 経口吸収部分はボトプアップで予測した値としてkaを固定しました。
(2) kelおよびVd/Fをフィッテングしました。
シミュレーション結果は、臨床データに対して良好な一致を示しました。このことから、kaが正しかったと言えるでしょうか?
以下の解説を見る前に、考えてみてください。
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(解説)
この思考実験では、仮想患者(virtual patients)の臨床データは、以下のka, kel, および, Vd/Fを基にして、乱数(正規分布、CV = 20%, N = 8)で発生させています。
血中濃度推移は、1次の経口吸収速度を伴う1-compartmentモデルで計算してあります。
ka = 0.020 min-1
kel = 0.010 min-1
Vd/F = 3.0
(投与量は、1.0としました。)
つまり、これらが真の値です。
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1AKkNowjGoi9Jb2NUc0ZKdepWzMEb77xB/edit?usp=drive_link&ouid=110964385240660873593&rtpof=true&sd=true
一方で、先ほどのフィッテングでは、
ka = 0.0050 min-1 (この値は固定)(真の値から4倍ずれている)
kel = 0.035 min-1 (フィッテイングで求めた)
Vd/F = 0.57 (フィッテイングで求めた)
このことから、たとえkaの予測値が4倍ハズレていても、kelとVd/Fのフィッテングによりkaのハズレは隠されてしまい、良い一致が得られてしまうことがわかります。
したがって、上図の結果から、kaを経口吸収の部分が正しかったとは言えません(正しいとも間違いとも言えません。)。(*)
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それでは次に、kelは正しい値を用いて、Vd/Fだけを経口投与後の血中濃度推移に対してフィッテングした場合を考えてみましょう。
ka = 0.0050 min-1 (この値は固定(この値は4倍間違い))
kel = 0.010 min-1 (今度は、この値を正しい値で固定。例えば、経口投与後4時間以降の半減期から算出するなど。。。)
Vd/F = 1.3 (フィッテイングで求めた)

この場合、さすがに良好な一致とは言えませんが、それでもCmaxは合わせることができます。Tmaxについては合わせることができませんが、Tmaxは採血時間の間隔に左右されるため、臨床試験で正確に求まる値ではないです。(なお、Tmaxは、kaとkelのみで決まります。詳しくは薬物動態の教科書をご覧ください。)
したがって、Cmaxが合っているからといって、kaが正しかったとは言えません。
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以上のことから、経口投与後の血中濃度推移に対して、Vd/Fやkelをフィッテングしてしまった場合には、経口吸収部分が正しいか?間違いか?については何も言えません。
経口吸収部分について判断するには、静脈内投与の血中濃度推移データから算出したkelとVdが必要です(さらに、FhはCLhから計算し、Fgについては例えば1と仮定することが必要)。(**)
静脈内投与の血中濃度推移データから算出したkelとVdを用いた場合は、kaの間違いが、以下のようにはっきりとわかります。

このことは従来から教科書にも載っているように、絶対バイオアベイラビリティー(F)の計算には、経口投与と静脈内投与の両方のデータが必要ということと同じです。これは、生物薬剤学の基礎中の基礎ですが、それでもPBBMやPBPKを使用していると忘れてしまうことが多いようです。それほど、パラメータフィッティングは幻惑を起こしやすいです。
大変残念ながら、Vd/FあるいはFgFhを、経口投与後の血中濃度推移のみから求めているPBBM/PBPK論文が非常に多いです。
これらの論文では、経口吸収モデルの正しさについて、何も示唆することはできません。
(*)仮想被験者を乱数で生成していますので、たとえ真の値を用いた場合でも、臨床データとは完全には一致しません。つまり、ばらつきが大きい経口投与後の血中濃度推移データに対して、その平均値を射抜くような完璧な予測は、臨床データのばらつき故に、不可能です。
Obtained by fitting all parameters to virtual Cp-time data
ka = 0.023
kel = 0.0080
Vf/F = 2.9
(**)膜透過性が高いことが確実な場合では(Caco-2 Papp > 10 x 10-6 cm/sあるいはLog DpH6.5 > 2など)、溶液投与あるいはそれに準ずる場合(Do < 1)のAUCがあれば、Fa予測性については検証できると考えられます。しかし、この場合でも慎重さは必要です。Cmaxについては、分布相の影響も考えられます。
それでは、経口吸収部分はボトプアップで予測したものをそのまま使い、それ以外の薬物動態プロセスを経口投与後の血中濃度推移に対してフィッテングした場合は、どうなるのでしょうか?
このことを考えるために、以下の思考実験をしてみましょう。
この思考実験では、
(1) 経口吸収部分はボトプアップで予測した値としてkaを固定しました。
(2) kelおよびVd/Fをフィッテングしました。
シミュレーション結果は、臨床データに対して良好な一致を示しました。このことから、kaが正しかったと言えるでしょうか?
以下の解説を見る前に、考えてみてください。
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(解説)
この思考実験では、仮想患者(virtual patients)の臨床データは、以下のka, kel, および, Vd/Fを基にして、乱数(正規分布、CV = 20%, N = 8)で発生させています。
血中濃度推移は、1次の経口吸収速度を伴う1-compartmentモデルで計算してあります。
ka = 0.020 min-1
kel = 0.010 min-1
Vd/F = 3.0
(投与量は、1.0としました。)
つまり、これらが真の値です。
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1AKkNowjGoi9Jb2NUc0ZKdepWzMEb77xB/edit?usp=drive_link&ouid=110964385240660873593&rtpof=true&sd=true
一方で、先ほどのフィッテングでは、
ka = 0.0050 min-1 (この値は固定)(真の値から4倍ずれている)
kel = 0.035 min-1 (フィッテイングで求めた)
Vd/F = 0.57 (フィッテイングで求めた)
このことから、たとえkaの予測値が4倍ハズレていても、kelとVd/Fのフィッテングによりkaのハズレは隠されてしまい、良い一致が得られてしまうことがわかります。
したがって、上図の結果から、kaを経口吸収の部分が正しかったとは言えません(正しいとも間違いとも言えません。)。(*)
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それでは次に、kelは正しい値を用いて、Vd/Fだけを経口投与後の血中濃度推移に対してフィッテングした場合を考えてみましょう。
ka = 0.0050 min-1 (この値は固定(この値は4倍間違い))
kel = 0.010 min-1 (今度は、この値を正しい値で固定。例えば、経口投与後4時間以降の半減期から算出するなど。。。)
Vd/F = 1.3 (フィッテイングで求めた)

この場合、さすがに良好な一致とは言えませんが、それでもCmaxは合わせることができます。Tmaxについては合わせることができませんが、Tmaxは採血時間の間隔に左右されるため、臨床試験で正確に求まる値ではないです。(なお、Tmaxは、kaとkelのみで決まります。詳しくは薬物動態の教科書をご覧ください。)
したがって、Cmaxが合っているからといって、kaが正しかったとは言えません。
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以上のことから、経口投与後の血中濃度推移に対して、Vd/Fやkelをフィッテングしてしまった場合には、経口吸収部分が正しいか?間違いか?については何も言えません。
経口吸収部分について判断するには、静脈内投与の血中濃度推移データから算出したkelとVdが必要です(さらに、FhはCLhから計算し、Fgについては例えば1と仮定することが必要)。(**)
静脈内投与の血中濃度推移データから算出したkelとVdを用いた場合は、kaの間違いが、以下のようにはっきりとわかります。

このことは従来から教科書にも載っているように、絶対バイオアベイラビリティー(F)の計算には、経口投与と静脈内投与の両方のデータが必要ということと同じです。これは、生物薬剤学の基礎中の基礎ですが、それでもPBBMやPBPKを使用していると忘れてしまうことが多いようです。それほど、パラメータフィッティングは幻惑を起こしやすいです。
大変残念ながら、Vd/FあるいはFgFhを、経口投与後の血中濃度推移のみから求めているPBBM/PBPK論文が非常に多いです。
これらの論文では、経口吸収モデルの正しさについて、何も示唆することはできません。
(*)仮想被験者を乱数で生成していますので、たとえ真の値を用いた場合でも、臨床データとは完全には一致しません。つまり、ばらつきが大きい経口投与後の血中濃度推移データに対して、その平均値を射抜くような完璧な予測は、臨床データのばらつき故に、不可能です。
Obtained by fitting all parameters to virtual Cp-time data
ka = 0.023
kel = 0.0080
Vf/F = 2.9
(**)膜透過性が高いことが確実な場合では(Caco-2 Papp > 10 x 10-6 cm/sあるいはLog DpH6.5 > 2など)、溶液投与あるいはそれに準ずる場合(Do < 1)のAUCがあれば、Fa予測性については検証できると考えられます。しかし、この場合でも慎重さは必要です。Cmaxについては、分布相の影響も考えられます。