愛しい人 9 最終回
2015-09-21
あなたに出会えたことが
私の人生を彩る
この恋を
貫こう
たとえ
どんな障害が
あっても
私は
この恋に
生きる
だから
あなたも
助けて
愛しい人!
私と
一緒に
生きて
ぺ・ヨンジュン 主演
キム・へス
「愛しい人」9部(最終回)
【第9章 明日に向かって】
今、ジュンスは松葉杖の練習をしている。
入院して20日近くも歩いていなかったので、ケガをしなかった右足さえも、足の裏の弾力性がなくなったように、足が萎えて違和感がある。
ジ:まったく、使わないと人間てすぐにだめになるね。
テ:ジュンス。まだ始めたばかりじゃない。(笑う)若いんだもん。すぐに戻るわよ。
ジ:そうだね。確かに、まだ若かった。(笑う)
テ:そんなに慌てなくてもいいじゃない。もう少ししたら、リハビリ始まるでしょ。
テスは話しながらも、こまめに動いて病室を整理している。
ジ:うん。でも、早くマリに会いに行かないと・・・。あいつ、あれから、ずっと寝付いてるんだろ?
テ:うん・・・。(ジュンスの方を見る)薬が効いているのか、よくわからないけど、なんかぼうっとしたままなの。娯楽室にも出てくるけど、ホンさんが手を引いて出てくるの。それで、ぼうっとテレビを見て・・・。右手の骨折のほうは昨日、ギブスを外してたわ。
ジ:そうか。体のほうはなんとか治ってきてるんだね。
テスは、ジュンスの松葉杖をつく練習をしているのを見る。
昔、自分も軽い骨折をしたことがあったが、それに比べると、ジュンスのケガは重い。
多少、足を引き摺ることになるかもしれない。
ジュンスもそれは覚悟していると言った。
でも、リハビリで頑張るから、応援してとも。
テ:マリさん、あの一件で薬を飲んでいないのがバレちゃったから。周りのチェックが厳しくなったみたい。(ジュンスを見て言いにくそうに)マネージャーのホンさんにちょっと話を聞いたんだけど・・・精神科の病院に預けようかどうしようかって話してるんだって。(ジュンスを上目使いで見る)
ジ:(驚く)そんなバカな。それじゃますますダメになっていくじゃないか!
テ:うん・・・そうね・・・。ねえ、マリさんの家のこと、聞いた?
ジ:家?
テ:うん。ご両親が小学生の時に離婚して、新しいお父さんと暮らしていて、お母さんがそのお父さんに気兼ねして、マリさんを引き取れないんだって。
ジ:・・・・。
テ:なんか、いろいろ考えちゃった。ジュンス、あなたはホントのお母さんじゃないけど、とっても愛されて育ったじゃない。それって、ホントに幸せなことよね。そのお母さんに心配かけたくなくて、今度のことも知らせてないんでしょ? マリさんのとこは、反対だもの・・・。
ジ:そうか・・・。マリはそういうこと、何にも言わなかったから。
テ:言えなかったのね・・・きっと。何か自分の中で引っかかるものがあるんだわ・・・。ジュンスだったら、理解してくれたのに・・・。人って、口には出せない気持ちっていうのがあるから・・・。
ジュンスがベッドに座って、テスを見る。
ジ:おまえも何か言えないことがあるの?
テスがジュンスを見る。そして、笑う。
テ:それはいろいろね・・・。でも、ジュンスとのこれからには関係ないことばっかり。だって、長く生きてるから、仕方ないわ。
ジ:こっちへおいでよ。
テスがジュンスの横に並んで座る。
ジュンスがテスの肩を抱いて、顔を見る。
テ:ジュンスだって、あるでしょ? そういう気持ち・・・。ホントのお母さんへの気持ちとか・・・。でも、それって人にはうまく言えないでしょ?
ジ:(テスの髪を撫でて、髪を見ながら)そうだね・・・。言葉にできない思いか・・・。
テ:うん・・・。(ジュンスを見つめる)
ジ:(テスの顔を見て)オレたちの間のことは、ちゃんと話し合っていこう。そういうものを貯めないように。
テ:うん。そうする・・・。だから、あなたも話してね。・・・マリさんのことも・・・。とても心配しているっていう気持ちも。怒ったり、焼きもちなんて焼かないから・・・。手伝いたいの。二人で一緒に助けたいの。
ジ:テス・・・。ありがとう・・・。愛してるよ。(肩をギュッと抱く)おまえは、ホントにやさしいんだね。
テ:あなたが好きなだけ。あなたを助けたいだけ。・・・それに、マリさんがとても気になるのよ・・・。不思議ね。恋敵なのに・・・。もう24になる人が私の子供であるはずがないのに・・・助けたあの瞬間の彼女の目が忘れられないの。子供みたいだった・・・。あの目って、母親を見る時の目よ。
テスが涙を貯めて、ジュンスを見る。
ジ:・・・。
ジュンスがテスを抱き締める。
ジ:・・・。やさしいね、おまえは・・・。皆を包んじゃうんだ。
テ:ジュンス。(顔をジュンスに向ける)そんなことはないわ。失敗もあるじゃない。大きな失敗・・・。夫は包めなかったわ・・・。まるっきり違ったもん。
ジ:・・・よかったよ、それで。おまえが自由になって、オレの所へ来てくれて・・・。ちょっと相性もあるさ。
テ:・・・うん・・・。
テスは自分からもジュンスを抱き締め、ジュンスの胸に顔を埋めた。
翌日。ジュンスはまだ、松葉杖をうまく使えなかったが、松葉杖を手に持って、テスの押す車イスに乗って、マリのいる病棟まで出掛けた。
マリの部屋の近くで車イスを降り、松葉杖をついて、マリの部屋のほうへ行った。
ジュンスが部屋をノックするが、返事がない。
ジュンスはゆっくりドアを開けて、中へ入っていく。
マリがシーンとした様子で、ベッドに横たわり、遠くの窓のほうを見ている。
ジュンスが松葉杖でゆっくり近づく。
ジュンスの足音に、マリが気がついて、ジュンスのほうを見た。
マ:ジュンス・・・・。(少し驚いて、呟く)
ジ:マリ・・・。
マ:来てくれたの・・・。(涙があふれる)
ジ:うん・・・大丈夫か?
マ:・・・。あんなことしたのに・・・・。来てくれたの・・・。
ジ:どうだ、具合は。
ジュンスは一歩ずつ近づき、やっとマリのベッドに辿りつき、座る。
マリはその様子を見て、ジュンスが思っていたより、重傷だったことに気づく。
ベッドから起き上がって、もう一度ジュンスの全身を見回す。
マ:(目を見張ってジュンスを見る)・・・。ジュンス。
ジ:(顔を見る)元気そうじゃないか。腕は治ったの?
マ:うん・・・まだ、なんとなく違和感はあるけど。
ジ:そうか・・・。よかったな。
マ:・・・。そんな体で来てくれたんだ・・・。
ジ:おまえから来られないだろ?
マ:・・・。(泣けてくる)ごめんね! ごめんね・・・。ジュンス・・・。あなたを、あなたをこんなにしちゃって・・・。
マリはベッドの上を這っていき、ジュンスの顔を撫でる。
マ:ごめんね・・・。愛してるのに・・・。愛してたのに・・・。バカだったね・・・・私・・・・。あなたをこんな姿にしちゃって。・・・いつも心配かけて、苦しめて・・・。愛してほしくて、あなたをいつも苦しめちゃう・・・。
ジュンスがマリを抱きしめる。
ジ:マリ・・・。
マ:あなたは、いつも抱いてくれたのに・・・。私は抱いてあげることができなかったね・・・。自分のことばかりで・・・。
ジ:マリ・・・。
マ:ジュンス、許してね・・・許して・・・・。愛してただけなの、ジュンス、あなたが好きで好きで、それだけで・・・。
ジ:マリ・・・。
マ:でも、もうだめだよね?
ジ:・・・。
マ:もう頼っちゃだめだよね? あなたには、あの人がいるんだもん。私の入る余地はないのよね?
ジ:マリ!
痛々しいマリをジュンスが抱きしめる。
ジ:いいよ。頼っても。
マ:・・・。(ジュンスの顔を見上げる)
ジ:・・・今までみたいには、愛してあげられないけど・・・。わかるね?(じっと見る)
マ:ジュンス・・・。もうあの人のものなのね・・・。(辛そうに見る)
ジ:ごめんよ。
マ:・・・。(下を向いて静かに泣く)もう私のジュンスじゃないのね・・・。ジュンス! 私だけのものじゃないのね・・・。
マリはジュンスに抱きついて、声を立てて泣いた。
子供のように泣きじゃくる。
マリは、二人が恋人として会うのはこれが最後だとわかって、ジュンスに抱きついて、声を立てて泣いた。
廊下で待つ、テスのところまで、マリの泣き声が聞こえてきた。
テスはベンチに座っていられず、立ち上がり、廊下の端まで行って、窓の外を見て泣いてしまう。
誰かが幸せになるということは、誰かを泣かせるということなのか・・・。
今、揺るぎない愛を手をしながらも、不幸のどん底にいるマリを思うと、テスは泣けた。
子供のような愛しか、持てなかったマリ・・・。
いつかマリも幸せになってほしい。
テスは窓に寄りかかって、外を眺めた。
ジ:マリ。(顔をじっと見る)今までみたいに、頼ってもいいんだよ。おまえが自分の足で立っていけるまで・・・。おまえを・・・怒ったりしないよ・・・。
マリはじっとジュンスを見つめる。
ジュンスは変わった。
初め、マリが知ったジュンスではない。
ジュンスは確かに頼れる男だった。でも、もっと硬くて、尖っていてクールなところがあった。
一生懸命擦り寄っても、近づけないところがあって、マリは必死で彼を求めた。
でも、すぐにいなされてしまって、いつもスキのない男だった。
マリは自分の中にあふれるジュンスへの思いと、それをうまく表現できない自分と、マリには理解できない大人の部分を持つジュンスとの間で、大きく揺れ動いた。
どうしようもないジュンスへの思いに、マリがカミソリを持って、ジュンスのスタジオを訪ねた日。
ジュンスは留守だった・・・。
近くのカフェで時間を潰したが、ジュンスは戻らなかった。
そのまま、帰ればよかったのに、今日ジュンスに会わなければ全てが終わってしまうという焦燥感がマリの中で膨れ上がった。
結局、あの、水色のドアの前に座って、ジュンスを待つ・・・。
待っても待ってもジュンスは戻らない。
バッグの中に入っていたカミソリを取り出す。
このまま、ジュンスが帰らなかったら・・・。
あの人には他に愛している人がいるのかしら・・・。
こんなに私が愛しているのに・・・・。
マリは息をすることも苦しくなった。
そして、手首を見つめて、カミソリを一気に引いた。
それから、しばらくして、ジュンスが重いカメラバッグを担いで、仕事から帰ってきた。
暗い街灯の下で、マリが座って寝ていた。
あれから、ジュンスはマリをいつも見守っている。時に離れようとしたことはあったが、ガス栓を捻ることで、彼は戻ってきた。
そして、それからはマリのものになった。
正真正銘、マリだけのものだった。
そのままでよかったじゃない・・・。
でも・・・今、私を抱いているジュンスは少し違う・・・。
マリはジュンスの頬を撫でながら、ジュンスの顔をよく見る。
今のこの人は、あの人のジュンスなんだ・・・。
私の愛していたジュンスとは少し違う・・・。
やさしさにあふれている・・・。
愛に満ちている・・・。
こんな瞳で私を見つめるなんて・・・。
ジュンス、もう私のものではないのね・・・。
マリは両手で、ジュンスの顔を包む。
こんなに愛にあふれているなんて・・・。
私の愛し方が下手だった?
あの人はあの時、私に言った。
あなたの愛が彼を生かそうとしなかったからよ。
いつも、ジュンスを恐怖の淵において、好きな人をいつも苦しめて・・・。
もっとやさしく愛してあげればよかったのに・・・。
脅しなんか使わなくても、彼は愛してくれたのに・・・。
ジュンスはあなたを一生背負っていこうとしてたのに。
かわいそうだわ・・・。かわいそうすぎるわ・・・。
マ:ジュンス、まだ頼ってもいい? あなたはもう私のジュンスじゃないけど・・・。(顔を見つめる)変わった・・・。あなたは変わっちゃったのね・・・。(じっとジュンスを見つめる)
ジ:マリ?
ジュンスにはマリの言っていることがよくわからない。
マ:わかる、私でもわかる・・・。あなたの瞳の中が・・・・。今、とっても穏やかで幸せな愛に包まれていることが・・・。あの人だったんだ・・・。あなたの相手は・・・。私ではダメだったのね・・・。
ジ:ごめん・・・マリ。
ジュンスは、マリをまるで子供を抱くように抱き締めた。
マリが、本当に気持ちが落ち着いて、一人で歩けるようになるには、まだまだ時間が必要だろう。
でも、今のマリはジュンスのありのままの姿を受け入れている。
もう、マリを恋人としては愛せなくなったこと。
そして、違う愛にジュンスが生きていること。
テスとの愛で、ジュンスの心が充足していること・・・。
一つの山は越えたのかもしれない・・・。
でもまだ、道は遠い。
ジュンスがマリの部屋から出てきた。
テスは少し離れたところで、車イスを用意して待っている。
一歩一歩、ジュンスが近づいてきた。
ジュンスが寂しそうに微笑んで、車イスに座った。
テスも何も聞かず、エレベーターのほうへ車イスを押していく。
一人残されたマリはどうしているのだろうか・・・。
ジュンスは部屋に戻っても黙っていた。
静かに、ずっと、窓の外を見ている。
テスは少し席を外した。
マリは窓際に立って、放心したように外を眺めている。
マリの恋は終わった。
あの燃えるような恋は静かに終止符を打った。
マリには、もうどうすることもできなかった。
ジュンスの目が変わってしまったから・・・。
テスの手で、愛にあふれた目に変わってしまったから・・・。
少なくとも、事故を起こした日のジュンスは、まだ今の穏やかな目をしていなかった・・・。
まだ、マリのものだった。
時に強く、
時に困惑し、
時に甘く、
ジュンスはマリを見つめた。
あの日もまだ、ジュンスは同じ目の色をしていた。
結局、この恋の終止符を打ったのは、マリ自身だった。
ジュンスではなかった・・・。
ジュンスは迷っても、マリを捨てられなかった。
マリは、今やっと自分のやってきたことに気づいた。
久しぶりにテジョンがやってきた。
ジュンスの病室のドアを開け、にこっと笑って入ってくる。
ジュンスが松葉杖で歩いている。
テジ:ずいぶん、回復したね。(驚く)
ジ:うん。今、リハビリしているから・・・。これからドンドンよくなるよ。(笑う)
ジュンスはベッドに座り、テジョンが近くのイスに座った。
テスがテジョンとジュンスにお茶を出して、ジュンスの横に立った。
テ:もうすぐ退院なの。あとは、週に何度かリハビリに通って・・・。ね。(ジュンスを見る)
ジ:そう、追い出されるんだよ、ここを。確かに「軽傷」という枠の中に収まるわけだ・・・。
ジ:軽傷?
テ:初め、パクさんが軽傷だから、安心してって。来てみて驚いたけど。一ヶ月未満のケガは軽傷だって。
テジ:へえ・・・。後は自力で治せっていうことか・・・。タイムリミットなんだね?
ジ:そう。
テジ:でも、いいじゃない。シャバに出たほうがいいって。(笑う)そのほうがスッキリするって。
ジ:まあな。(お茶を飲む)
テジ:でも、スタジオの階段はきついだろう?
テ:うちへ来るの。しばらく・・・。私のマンションで暮らすことにしたの。
テジ:そうか・・・。それはいいじゃない。そのまま、お婿に行っちゃえよ。・・・あ、この人、赤い顔したよ! テスさん、この人、こういう顔したことないんだよ! 参ったなあ。(一緒になって赤い顔をして笑う)
テスは、ジュンスの顔を見て笑う。
テ:ホント?(顔を覗きこむ)
ジ:なんだよ、おまえまで。
ジュンスが照れたように言った。三人は一緒になって笑い、ジュンスがテスをギュッと引っ張って、テジョンの前で膝に乗せて抱き締めた。
テジョンはジュンスの見舞いの帰りにマリの病室を訪ねた。
テジ:マリさん、いる?
マ:あ、テジョン! 来てくれたの?
テジ:片付けているの?
マ:うん。明日、退院するの、だから・・・。
テジ:そうか・・・。
近くでマネージャーのホンも一緒に退院の準備をしている。
マ:ホンさん。テジョンとちょっと出てくるわね。
ホ:大丈夫?
テジ:ボクが一緒ですから。
ホ:じゃあ、すみません。私、ここを片付けてるから。
マ:うん。行こ行こ! (テジョンの背中を押す)といっても、病院の中だけど。(笑う)
テジ:うん。
マリはテジョンの手を引いて、屋上へ上がった。
あの日、自殺も考えた屋上だ。
テジョンもテスから報告を受けていたので、少し胸が詰まった。
マリがフェンスのところへ行く。
マ:私、ここで死のうとしたの。もうジュンスにあんなことしちゃったし、許してもらえないって・・・絶望的になって。
テジ:そうだったの・・・。
マ:うん。でもね、それを救ったのが、あのヤンさんなんだ。・・・愛しの羊・・・。
テジ:なあに、それ?
テジョンがマリの横に並ぶ。
マ:ジュンスが携帯に入れていたヤンさんの名前・・・。
テジ:そうか・・・。アニキの携帯、見たんだ。(少し驚く)
マ:うん。見なければよかった・・・。もう後の祭りだけど・・・。人の秘密は見ちゃダメね。
テジ:・・・。あの人が救ってくれたの?
マ:そう、飛び降りようとしたところをね。知ってる? あの人、子供がいたんだって。その子を交通事故で亡くしたんだって。私があんなことをしたのを怒ってた。ジュンスまで加害者にする気かって。そして・・・こうも言ったの・・・。もっとジュンスをやさしく愛してあげれば・・・彼は愛してくれたはずだって・・・。
テジ:・・・。(下を向く)
マ:もういっぱい、失敗しちゃった・・・。それで、いっぱい愛してた人を失っちゃった! それも、自分から・・・。バカだよね・・・。
テジ:・・・。
テジョンも、マリと一緒に景色を見る。
テジ:マリさん。まだ若いじゃない。いっぱい、失敗するよ。これが初めての大人の恋?
マ:うん・・・。
テジ:まだまだだよ。オレだって、まだ本当に好きな人と出会ってないし・・・。アニキだってあの年でやっと出会ったんだよ。
マ:私じゃない人・・・。
テジ:だから、先はまだ長いってこと・・・。
テジョンは振り返って体の向きを反対にして、屋上のほうを見る。
テジ:君は知ってるだろ? アニキとオレは、母親が違うってこと。(マリの顔をチラッと見る)
マ:ええ・・・。
テジ:アニキは、自分を産んだ母親が女の部分を取ったことに失望して、オレのお袋をホントの母親のように愛してくれたんだ。お袋もアニキをすごくかわいがっていたから、オレは中学生になるまで、アニキもお袋の子だと思っていたよ。
マ:・・・そう・・・。(寂しそうに聞く)
テジ:でもね。そのことがわかってから、よおくアニキを見ていると、とても気を使ってくれていたんだよ。愛することに、気を使ってね・・・。もちろん、お袋のことは本当に好きなんだけど。(ちょっと笑う)
マ:・・・。
テジ:今度のケガもお袋には知らせるなって、気を使った・・・。お袋が飛んでくるから・・・。オレのことより、アニキを優先して飛んでくるから・・・。心配かけたくないんだ・・・。(マリを見る)
マ:・・・。(涙が出る)
テジ:結局、アニキも愛し方が下手なのさ・・・。マリさんだけのせいじゃないよ。(マリをじっと見る)
マ:・・・テジョン・・・。
テジ:お互い様さ。・・・次はもっと愛し方のうまい人を探したほうがいいよ。君も下手なんだから。二人とも下手だとうまくいかないよ。(マリを見て微笑む)
マ:うん・・・。そうする・・・。もう少し時間が経ったらね・・・。気持ちが落ち着いたらね・・・。
テジ:いっぱい仕事するといいよ。気持ちが晴れるから。
マ:・・・。うん・・・。しばらくは療養にいくの・・・。
テジ:なんで?
マ:気持ちが不安定だから・・・。
テジ:アニキたちは知ってるの?(驚く)
マ:うううん。うちの親と事務所が出した決定・・・。
テジ:それを飲んだの?(真剣に聞く)
マ:だって、トラブルを起こしたのは、私だもん。自殺未遂、3回もやっちゃったから・・・もう誰も信じてくれないの・・・。
テジ:だけど・・・。
マ:元気になって帰ってくる! きっと帰ってくるよ!(テジョンを見つめる)
テジ:見舞いにいくよ。ファンの皆だって待ってるよ。君のことを思って寝られない人、たくさんいるんだろ?
マ:・・・。テジョン!
マリがテジョンに抱きついた。
マ:そうだよね! そうだよね! 皆が待ってるよね、私を待ってるよね!
テジョンがやさしく抱く。
テジ:待ってるよ。オレだって待ってるよ。友達じゃないか!
マ:そうだよね! そうだよね・・・。私はホントにバカだよね・・・一人じゃないんだよね! 一人じゃなかったんだよね!
テジョンはマリを抱き締めて、やさしく背中を叩いた。
翌日。マリは退院の時間になった。
ホンさんが花束を持って、病室へ入ってきた。
ホ:マリ! よかった。間に合って。今、ナースステーションに届いたんだって。見て!
マ:キレイな花・・・。
ホ:カードがついてるよ。
マ:うん。
マリがカードを開くと、あの人気カメラマンのドンヒョンからだった。
マ:ドンヒョン先生だ! あの婦人雑誌の! ジュンスの先生からよ!
「マリ様、
ご病気だったと伺ったよ。
せっかくのファッションリーダー候補生を
ここのところ、見かけなかったから、
心配していました。
治ったら、またいい仕事をしてください。
これからの君の活躍を祈っています。
また、一緒に仕事をしようよ。
ドンヒョン」
マリは胸が熱くなって、涙が出た。
そして、明日の希望が生まれた。
マ:ホンさん、すごいわ。これ読んでよ。私、これからいっぱい、いい仕事するわ。治ったらいっぱいする! だから信じて!もう泣かないから。頑張るから!
ホ:(カードを読む)よかったねえ! マリ! 一緒にやっていこう! 社長やご両親にも知らせなくちゃね! マリが元気になったって!(笑顔でマリを抱く)
療養所へ向かう途中、マリはあの水色のドアの建物の前で車を止めてもらう。
全てはここから始まった。
愛していたジュンス・・・いや、まだ愛している。
でも、もう行くよ。
ここへはもう来ない・・・。
ありがとう、ジュンス・・・。
最後まで、ありがとう!
そして、さよなら、青春!
マリはじっと水色のドアを見つめた。
マ:ホンさん、ありがとう。もう車を出して。
マリは遠ざかっていく緑の建物を名残惜しそうにずっと見つめた。
今、ジュンスはテスのマンションにいる。
少し足は引き摺るけれど、あとはもうすっかり元通りだ。
多少、顔に細かな線の傷跡が残った。
しかし、手に入れた幸せに比べれば、どうということはない。
今、ジュンスは少し借金をしてでも、スタジオをリフォームしようと考えている。
ジ:どのくらいかかるかな・・・。まずは、暗室を一階に作るだろ・・・。
ジュンスがソファに座って、自分で図面を描いている。
テスはお茶を入れながら、ジュンスのほうを見る。
テ:あなたが描くよりテジョンさんに描いてもらったほうがわかりやすいわね。(笑う)
ジ:まったくだね。でも、原案はこっちで考えないとね・・・。
テスがお茶を持ってくる。
テ:あと、どこを直すの? (隣に座って覗き込む)
ジ:まずは階段だな・・・。もっと緩やかにしないと。テス。思ったんだけど、今までのスタジオは、独身の男向きだったよ。足が完全に治ったとしても、もっとバリアフリーじゃないとね。家族にやさしくないよね。
テ:(少し胸が詰まる)・・・なあに、それ?
ジ:まあ、年寄りになったらどうかというより、子供たちにキケンな作りはよくないだろ? だから、その辺をよく考えないと・・・。
テ:・・・・。
ジ:2階も、もうワンルームっていうわけにはいかないだろ? 皆それぞれの部屋が必要になってくるし・・・。まずは、寝室と、子供部屋一つ、作っておく?
テ:・・・ジュンス・・・。(横顔を見つめる)
ジ:テス、それでいいだろ? まずは一つ。子供が増えたら、3階を建て増すとかさ・・・。それでいいだろ?
テ:・・・。
ジ:(顔を上げる)いいだろ、それで? テス?
テ:・・・。(見つめる)
ジ:オレの子は産んでくれないの? ユニちゃんの弟や妹はほしくないの?
テ:ジュンス・・・。いいの?
ジ:何が?
テ:私で。後悔しない?
ジ:何を言ってるんだか。 ずっと一緒にいるって言っただろ?
テ:・・・うん・・・。(涙ぐむ)
ジ:なんで泣くんだよ・・・。二人で決めたじゃないか。一緒にいるって・・・。
テスがジュンスに抱きついて、押し倒す。
テ:もう! そんな顔して言わないで。
ジ:(下敷きになったまま)どう言えばいいの?(やさしく見つめる)
テ:・・・。
ジ:じゃあ、テス。・・・ボクは君を愛しています。これからも、ずっとボクと一緒に人生を歩んでください・・・。そして、君のかわいい娘の弟や妹をたくさん産んでください・・・。ボクに似ている子をね・・・。
テ:もう・・・。(涙がこぼれるが、じっとジュンスを見つめる)
ジ:テス・・・。オレを幸せにして! ずっとそばにいて、オレを幸せにして。そうしたら、おまえを幸せにしてあげる。いいね?(にこやかに言う)
テ:もう、ジュンスのバカ・・・。幸せにするに決まってる・・・。そんなこと、当たり前よ。(涙が落ちる)
ジ:テス!
ジュンスが覆いかぶさるテスを引っ張って抱き締める。
テスがジュンスの胸で泣く。
ジ:泣くなよ。泣くな・・・。ユニちゃんも見てるよ・・・。
テスがすくっと起き上がって、ジュンスを見つめる。
テ:いいの。ユニが見ていても。パパとママは仲良しだと思うわ。(泣き笑いの顔になる)
ジ:うん・・・。
テ:ジュンス。ありがとう・・・。幸せになる・・・。絶対、あなたを幸せにする・・・。だって、あなたは・・・私の愛しい人だから!
もうどんな荒波が来ても怖くない。
あなたがいるから・・・。
愛しい人!
あなたは、私の人生を鮮やかに彩る。
私は、あなたを愛し、
人生を愛し、
子供を愛し、
あなたと生きるわ!
だって、
あなたは、
私の愛しい人だから!
THE END
「愛しい人」、ありがとうございました。
(この「愛しい人」も続編がありますが、
ジュンスたちも33から35才になっています。)