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創作を書いたり読んだりと思い思いの時をネット内でゆったりと過ごしています。

 【恋がいた部屋】1部 2007.2

2015-09-22



主人公:ヒョンジュン(ぺ・ヨンジュン)
     ミンス   (チョン・ジヒョン)
     ヘス    (キム・へス)です。


すぐに登場してきますので、お間違えのないように^^ 
ああ、ヒョンジュンだけは間違えようがないですね^^




ではこれより本編。
お楽しみください。



~~~~~~






雑踏の中に
あなたを見つけた


あまりの懐かしさに
私は思わず近寄って
あなたに声をかけたくなった


でも、実際は、
あなたに見えないように
そっと身を隠した

あなたにはもう
思い出かもしれないけど


たぶん・・・

きっと

私は
まだ

恋の中に

いるのだと、思う・・・










「ねえ、また熱、出したんだって?」


ミンスがマフラーを外しながら、ヒョンジュンのマンションの部屋へ入ってきた。


「ああ・・・」


ベッドの上で一人熱を出して寝ていたヒョンジュンが布団から顔を出した。


ミ:いい年しちゃって。(上から顔を見下ろす)
ヒ:うるせえな・・・。
ミ:全く。(睨んで笑う)
ヒ:文句あるんだったら、来るなよ。来なくていいよ・・・。

ミ:強がり言っちゃって。熱って、何度よ?(コートを脱いで横に座る)
ヒ:7度8分。
ミ:へえ、結構出ちゃったんだね。(心配そうな顔になる)
ヒ:うん・・・。


ヒョンジュンは甘えた目をして、ミンスを見つめた。





主演:ペ・ヨンジュン(ヒョンジュン)
   チョン・ジヒョン(ミンス)
    キム・へス(ヘス)

【恋がいた部屋】1部






ミ:薬持ってきたから。熱冷まし。水、持ってくるね。
ヒ:・・・。


ヒョンジュンのマンションは1LDKで、ベッドからキッチンまで見渡せる。
もっとも、画家の彼の部屋は、まさにアトリエで、そこにベッドを持ち込んで住んでいるようなものだが。

ミンスは、湯のみにお湯を少し入れ水で割って、温めにして持ってきた。


ミ:ねえ、明後日から個展でしょ?
ヒ:うん。
ミ:だからよ。ホントに子供なんだから。知恵熱なんて出しちゃって。
ヒ:・・・バカにするなよ。(起き上がろうとする)

ミ:はい。僕ちゃん、ちゃんと飲んでね・・・。(笑って薬を渡そうとする)あ、ねえ、ちゃんとなんか食べた?
ヒ:まだ。朝からなんにも食べてない。
ミ:やだあ、そっちのが先じゃない。
ヒ:・・・。

ミ:おかゆでいいよね?
ヒ:うん・・・。
ミ:作ってあげる・・・。



ミンスは、手早くおかゆを炊いて、部屋の中のごみを片付けて、部屋全体をさっぱりさせる。


ミ:これで、よし! ねえ、熱いよ。
ヒ:少し冷ましてよ。

ミ:フーフーする?
ヒ:・・・うん。(ニコッとする)

ミ:子供・・・。(笑う)

ミンスは猫舌のヒョンジュンのために、ベッドの横のテーブルの上においたおかゆを茶碗によそい、レンゲですくって、フーフーと自分で冷ましてから、茶碗をヒョンジュンに渡した。


ヒ:サンキュ!


ヒョンジュンは起き上がって、自分でもフーフーと冷ましながらおかゆを食べ、ミンスを見た。


ヒ:個展の日はあけてあるんだろう?
ミ:もちろんよ。ちゃんと全部行くわよ。
ヒ:うん・・・。(にっこりする)

ミ:ほら、余所見しながら食べると、こぼすわよ。
ヒ:うん・・・。今日は・・・このまま、ここにいてくれる?

ミ:今日はねえ・・・夕方から用があるんだあ・・・。
ヒ:何の?
ミ:お見合い。

ヒ:え?・・・ゴホン!ゴホン!(咳き込む)
ミ:バカね、大丈夫? はい、ティッシュ。
ヒ:(ティッシュで口を拭きながら)・・・なんだよ、見合いって。
ミ:ふん。(笑う)お見合いというか、まあ、合コンね。相手は医者ばかりだって。

うれしそうな顔でヒョンジュンを見た。


ヒ:・・・そんなの、行く必要ないじゃない。
ミ:駄目よ。いい男がいるかもしれないもん。
ヒ:(小さな声で)・・・オレがいるのに・・・。(そう言っておかゆを食べる)


ミ:・・・お姉ちゃんのお下がりじゃあ、イヤなの・・・。(ちょっとふくれてヒョンジュンを見る)
ヒ:・・・。(ミンスを見る)
ミ:・・・。

ヒ:おまえも根が深いな・・・。
ミ:だって・・・そうでしょう・・・。

ヒ:22の時のことだよ・・・。もう12年前だよ・・・。
ミ:でも、駆け落ちまでしちゃったんだもん・・・駄目よ・・・。

ヒ:・・・今は、おまえが一番好きなんだからさあ・・・。
ミ:でも・・・そういうこと、お姉ちゃんにもしたでしょ?
ヒ:・・・。くどいよ・・・。オレたち、こんなに長く一緒にいるんだよ。

ミ:だけど・・・ヒョンジュンに触られると・・・お姉ちゃんのこと、たまに、思い出しちゃうの。
ヒ:ふ~ん・・・。

ミ:今日のメンバーってね、女の子は、キャビンアテンダントの集まりなんだ。私だけ、地味~い。
ヒ:なんでそんなのに、行くんだよ!(ちょっと怒った顔)

ミ:だって、大学時代の友達から誘われちゃったんだもん。それに・・・ちょっとでもチャンスがあったら、うれしいじゃない! 私、もう27よ。
ヒ:ふ~ん。だったら、もうここへは来るな。別に・・・オレが、おまえを、キープしてるわけじゃないんだからさ。

ミ:そうだけど・・・来たくなっちゃうのよね・・・。(ちょっとかわいい顔をして微笑む)
ヒ:オレはおまえを好きだけど・・・おまえが他に行きたいんだったら・・・オレに構うなよ・・・。

ミ:・・・顔見ないと、寂しいの・・・。(ちょっと口を尖らせる)
ヒ:おまえって、複雑・・・。


ヒョンジュンはそう言ってため息をついて、またミンスの作ったおかゆを食べる。


ミ:・・・お姉ちゃんより先に、私を好きになればよかったのよ。
ヒ:仕方ないだろ? おまえはまだパンツ見せて、鉄棒グルグル回ってたんだから。
ミ:その頃は、もうパンツなんて見せてなかったわよ。でも、(上目遣いで)今はパンツのほうが好きなんでしょ?
ヒ:(にっこりして)そう。活発なおまえが好き。
ミ:・・・う~ん、でもなあ・・・。

ヒ:あっちはもう結婚してるんだからさ、気にすることないじゃない。
ミ:でもね・・・。


ヒョンジュンがミンスの頬を触る。ミンスは黙って触られている。
ヒョンジュンが茶碗をおいて、ミンスを引き寄せて抱きしめる。
ミンスは黙って抱かれている。


ヒ:ねえ・・・。


ヒョンジュンが軽くキスをして、ミンスに迫ろうとすると、ミンスがヒョンジュンの口に手を当てた。


ミ:駄目。そこまで。
ヒ:なんだよ・・・。
ミ:そこまで。熱があるんでしょ?
ヒ:じゃ、抱いてるだけ・・・。
ミ:う~ん・・・。あ、薬飲まなくちゃ。あ~んして。はい、お水。
ヒ:(ゴックンと飲む)ねえ、いいじゃない。風邪じゃなくて、知恵熱なんだから・・・。ね。(顔を覗く)
ミ:・・・バカ。じゃあ、ちょっと抱くだけよ。


ミンスはヒョンジュンに抱かれてベッドに一緒に倒れこんだ。


ミンスはたまに自分でもイヤになる時がある。
ホントは好きで好きでたまらないヒョンジュンなのに、たまに姉のことが頭をよぎって、ヒョンジュンへの気持ちに水を差す。

他の男なんて、ぜんぜん目に入らないのに・・・。

ヒョンジュンはミンスより7歳年上の34歳で、二人は幼馴染だ。何を隠そう、ミンスの姉のヘスとヒョンジュンは、かつて恋仲で、二人は駆け落ちまでした。

ヒョンジュンが22の大学生の時に、26才の姉のヘスと恋に落ちた。二人はその年の差とヒョンジュンがまだ大学生ということから、双方の両親から猛反対を受け、駆け落ちをした。

それがたった5日間という短い期間で帰ってきた。

姉曰く、「考えてみたら、ヒョンジュンは弟のようなものだった・・・」

二人に何があったかはわからないが、それで、二人はキレイさっぱり簡単に別れてしまった。

3年前に、ヒョンジュンの出入りする画廊に、ミンスが仕事の関係で食器のコーディネイトを頼まれてやってきたところで、二人はばったり再会した。それから、意気投合して、恋人同士になった。

たぶん・・・人はこれを恋人というだろう・・・。
日々一緒に過ごし、一緒に笑い、お互いの世話をし合う・・・そして、お互い、恋しくて仕方がない。


それがある日、ミンスの頭の中で異変が起きた。
ある日曜の昼下がり、ヒョンジュンがミンスにディープキスをしていた。
うっとりとキスをしていたミンスの頭に、ポンと突然浮かんできたのが、セクシーな視線でヒョンジュンを見つめながらキスをする姉、ヘスだった・・・。姉は、ミンスより身のこなしからしてセクシーで、ミンスは男っぽい自分と比較して、いつも劣等感を持っている。
その姉が事もあろうに、キスをしている時に、ミンスの頭の中に浮かび、悩ましい目をして、ヒョンジュンに絡みついている。
その姉ももう結婚して、10年以上になるのに・・・。
いったい、なぜそんな映像が彼女の頭に住み着いてしまったのかはわからないが、それから、時々、ミンスの頭の中に、姉が浮かび、ヒョンジュンとミンスの間に水を差すのである。



ヒ:ねえ・・・今日はこのまま、ここにいろよ。
ミ:だって、もう約束しちゃったもん・・・。
ヒ:そんなの、いいじゃない・・・ただ、女が足りなかっただけだろ? 皆、目当てはキャビン・アテンダントなんだからさ・・・。おまえが、そんなのの、引き立て役なんかになることないよ・・・。
ミ:だけど・・・。

ヒ:なんで? オレのこと、好きじゃないの? こうやって一緒にいるくせに。
ミ:(ヒョンジュンを見る)あなたって罪な人よね。
ヒ:ミンス・・・。(ミンスの頭を撫でる)


ヒョンジュンは甘え目をして、ミンスを見つめ、ミンスも黙ったまま、ヒョンジュンを見つめて抱かれている。
ヒョンジュンが体の向きを変えて体を押しつけてくるから・・・ミンスもちょっと感じる。


ミ:そんなに身体、押しつけないで・・・。
ヒ:だって・・・好きなんだもん・・・。(笑う)
ミ:やだ・・・。
ヒ:今日は行くなよ。ここにいろよ。
ミ:ねえ、ちょっと・・・大きいよ・・・。
ヒ:(笑う)いいじゃない・・・これ、好きっていう気持ちだよ。(楽しそうにミンスを見つめる)
ミ:もう・・・もっと控えめにしてよ。
ヒ:できないよ。・・・自分じゃあ、コントロールできないんだからさあ・・・。
ミ:もう・・・。熱があるんでしょ?


そう言いながらも、実は・・・そんなに嫌ではない・・・。
だって、ヒョンジュンが大好きなんだから・・・。
愛してるんだから・・・。

ヒョンジュンの気持ちがうれしいくらいにヒシヒシと伝わってくるし、ヒョンジュンが自分をほしがっているのもわかっている・・・。

にもかかわらず、ミンスは心と裏腹に、ちょっと怒った目をした。


ヒ:難攻不落・・・。


ヒョンジョンがミンスから体を離して、横に寝転んだ。

ミ:・・・。
ヒ:・・・おまえだって、なんだかんだ言ったって、結局はいつも一緒にいたいんだろ? 困ったね・・・。
ミ:うん。
ヒ:姉貴のことなんか忘れろよ。オレたちが愛し合ってることが今は大事だろ?

ミ:うん・・・。ねえ、お姉ちゃんにも・・・甘えたの?
ヒ:バカ・・・。ミンスだけだよ・・・。
ミ:でも・・・。
ヒ:年上の女と付き合う時は、こっちも背伸びをするからさ・・・甘えられないよ・・・。
ミ:そうなの?
ヒ:うん・・・。
ミ:複雑なのね。
ヒ:ねえ・・・ミンスゥ・・・。

ミ:う~ん・・・あ、でも、今日は駄目。熱があるでしょ?
ヒ:わかった・・・もう帰っていいよ・・・。(背中を向ける)

ミ:ヒョンジュン・・・。(起き上がって、甘えた顔をしてヒョンジュンの顔を覗く)
ヒ:・・・。
ミ:じゃあ、今日は私が抱いてあげる。ヒョンジュンは、病気だもんね。ママが抱っこしてあげる。


ヒョンジュンがミンスの方に寝返りして、ミンスに抱かれる。
ミンスの胸に顔を当て、「フー」と深呼吸した。


ヒ:今日はいて。ママのかわいい子供のために。
ミ:(笑う)それとこれとは違うわよ・・・4時までね・・・。(目覚ましをセットする)
それまで抱っこしててあげるから・・・。
ヒ:ケチ・・・。


二人は幸せそうに抱き合っている。
ミンスの頭の中の姉がいつ反乱を起こすかわからないが、今日は静かに二人抱き合っている。







2日して、いよいよヒョンジュンの油絵の個展が始まった。

ヒョンジュンの出入りする画廊は、目抜き通りから一本内側に入った通りにあり、洋書店と小粋なカフェテリアが並ぶおしゃれな一角にあった。

画廊の女主人のパク・チェスクは50代で、目抜き通りで本店を経営するソン氏の妻である。ソウルでも、名の知れたその画廊の本店は、8階建ての自社ビルの一階、正面突き当たりにあった。もともとが裕福な家庭の出のソン氏の祖父が始めた画廊で、ソン氏は、同族企業の大株主でもあり、自社ビルには、アパレル関係の会社や派遣企業が入っていて、地下には、レストラン街があった。
本店は、有名芸術家たちを多く抱えていたが、ヒョンジュンの出入りするこちらの支店は、新人発掘と育成を主としていて、若い芸術家たちが集まっている。それぞれに大きなコンクールでの入賞経験はあるものの、なかなか顧客がつくところまでは行き着けない。この老舗の画廊の名前と信用、これらが彼らには大きな後ろ盾となった。
支店で腕を磨き、本店へデビューする・・・これが若い芸術家たちの一つの目標ともなった。


ヒョンジュンもここで見出され、ここのところ、少しずつファンがついてきた。
そこで、今回は思い切って、本店の画廊で個展をやったらどうかという話があり、堂々のデビューとなった。

ミンスにとっても、これは一大事だった。二人のこれからの人生にとって、華々しいデビューだ。
個展会場には、まるで彼の妻のように、甲斐甲斐しく個展の受付で客に頭を下げ、笑顔を振りまいているミンスがいた。

ミンスの本職は食器を含めたテーブル・コーディネーターで、元々は大手の輸入食器の会社に入社したのだが、そのコーディネイト力が認められ、現在は独立して、あちらこちらのレストランのテーブル・コーディネイトや雑誌のスタイリストなども手がけている。
とはいっても、まだまだこの手の仕事の需要は少なくて、元いた会社の下請け的な仕事や友人からの紹介でなんとか食いつないでいる状態で、現在はまだまだ「発展途上の身」である。

今、ヒョンジュンとミンスは、やっとその道のエキスパートへの切符を手にしようとしていた。
これから始まる二人の夢の実現・・・その第一歩がこの個展であった。


この本店で使われているコーヒーカップなども、ミンスのお見立てだ。

画廊のパク・チェスクは、ミンスの仕事ぶりについても期待を寄せていた・・・。ヒョンジュンとミンスの二人が醸し出す、これから未来へと飛翔しようとする爽やかさ。それはかつて、夫と自分の間にもあったものだった・・・そう、この二人は、過去の自分への郷愁でもあり、これから開ける明るい未来に、自分までも巻き込んで突進していくようで、見ていて、わくわくするものがあった。


ヒョンジュンは、客に絵の説明をしながらも、甲斐甲斐しく働くミンスの様子を垣間見ると、とても幸せな気持ちにある。
最近のミンスの中に芽生えた「姉への拘り」もあと少し時間をかければ、おそらく彼女の中から不拭されるだろうし、ミンスと自分はきっと結ばれて幸せになるに違いない。




お客がいなくなって、一段落ついたところで、受付のミンスの所へヒョンジュンがやってきた。


ヒ:一段落ついたね。
ミ:うん。皆、お昼ね、きっと。コーヒー飲む?


ミンスが近くのポットからコーヒーを入れて、二人は、受付に並んで座った。


ヒ:結構、来たね。
ミ:ねえ、今日も一枚売れたでしょ? よかったね。
ヒ:うん。画廊のチェスクさんが戻ったら、昼でも食べに行くか?
ミ:地下のアーケード?
ヒ:うん。それが速いよな。
ミ:いいわよ。
ヒ:そうしよう・・・。


二人が顔を見合わせていると、ヒョンジュンの視線がミンスの顔の上へと上がった。
ミンスも気がついて、後ろを振り向く。


姉のへスが立っていた。


ミ:お姉ちゃん・・・。
へ:こんにちは。二人とも、元気だった?
ミ:(ヒョンジュンを見る)知らせたの?
ヒ:いや・・・。
へ:私が見つけてきたのよ。
ミ:・・・。

へ:ほら、ここのビルの前通ると、次回の予告が出てるじゃない。


ヒョンジュンもミンスも、その言葉の持つ意味がよくわかる。
彼女の生活圏内には、この画廊は存在していない・・・。



ヒ:それは、ありがとう・・・。どう、見て回るかい。
へ:ええ・・・。説明してくれるの?
ヒ:ああ。

ヒョンジュンが立ち上がって、一緒に行こうとすると、ミンスがジャケットの裾を引っ張った。
ヒョンジュンは、ヘスに気づかれないように、ミンスの手を振り解き、ヘスと並んで絵のほうへ行く。



ミ:もう・・・。


ミンスは、ちょっとムッとした顔で受付に座りながら、二人の様子を見た。

ヒョンジュンはノンキな笑顔で、ヘスに絵の説明をしている。
姉もまた、しなやかな身体をヒョンジュンのほうにくねらすようにして、笑顔で笑っている。

何が楽しいの・・・?

ミンスの右手の人差し指と中指は爪を立てて、受付のテーブルを忙しなく叩いている。


二人の微妙な距離・・・。
あの二人の笑顔の下に何があるの?






チ:ミンスさん、お待たせ。お先にお昼いただいたわ。


画廊のチェスクがランチから戻ってきた。

チ:ミンスさん・・・?


ミンスがやっと気がついて顔を上げた。


ミ:あ、お帰りなさい。
チ:お客様?
ミ:あ、私の姉です。

チ:そう。よかったら、三人でお昼に行ってきたら?
ミ:・・・たぶん・・・姉は忙しいと思うので、後でヒョンジュンと二人で、行ってきます。
チ:そうお? ご挨拶だけでもしておこうかしら。ミンスさんのお姉さんだものね。


チェスクは笑みを湛えて、ヒョンジュンとヘスが並んで絵を鑑賞しているところへ行く。


チ:いらっしゃいませ。
へ:あ、どうも・・・。(軽く会釈する)
チ:ここの画廊のパク・チェスクです。今、ミンスさんからお姉様がいらしていると聞いて・・・。
ヒ:ええ。ミンスのお姉さんのヘスさんです。

へ:初めまして・・・。
チ:初めまして。どうです? 素敵でしょう? 今年の作品は一段といいんですよ。
へ:そうですね。今もそう話していたところなんです。
チ:そうですか。どうぞ、ごゆっくり見ていらしてくださいね。
へ:ありがとうございます・・・。


チェスクは挨拶すると、去っていった。



へ:そろそろ、帰ろうかな。
ヒ:そうお? せっかく来たんだから、昼でも一緒にどうお?

ヘ:・・・そんなことできないでしょ?
ヒ:・・・。
へ:あの子・・・さっきから、イライラしてるもん・・・。
ヒ:・・・そうだね・・・。(苦笑する)

へ:大切にしてあげてね・・・。
ヒ:うん・・・。
ヘ:・・・私、帰るわ・・・。
ヒ:そう・・・。


二人が受付のほうへ戻ってきた。


へ:じゃあ、ミンス、私もう帰るわ。
ミ:そう?


ミンスがそっけなく言った。


へ:じゃあ・・・失礼するわね。
ヒ:ビルの玄関まで送るよ。


ミンスがヒョンジュンを睨んだ。
しかし、ヒョンジュンはミンスの視線を無視して、ヘスを送ってビルの正面玄関へと歩いていく。



へ:いいのに、送らなくても。
ヒ:だって・・・ここまで来てくれたのに。

へ:でも。今は、あの子を大事にしてよ。
ヒ:うん。
へ:うまくいってるんでしょ?
ヒ:まあね・・・。

へ:なんか微妙ね、その答えって・・・。
ヒ:別に・・・。テレだってあるんだよ。
へ:そうお? ならいいけど。ねえ、私のことが引っ掛かってるなら・・・ホントのこと、言ってあげてね。
ヒ:・・・。

へ:ね、今は、あなたたち二人が大切だから。
ヒ:・・・でも、君のことも大事だから。オレたちはオレたちで、なんとかやっていくよ。
へ:・・・うん・・・。(頷く)
ヒ:・・・君も、幸せなんでしょ?
へ:それは、そうよ・・・。まあ、結婚も10年経っちゃうと、愛だの恋だのって訳にはいかないけど・・・。今日はね・・・。妹のダンナ様になる人の個展だもの。来ないわけにはいかないじゃない。それで、来ちゃったんだけど・・・。
ヒ:・・・うん・・・そうか・・・。



ビルの正面玄関まで来た。


ヒ:じゃ、ここで。
へ:ありがとう。個展、成功、おめでとう・・・じゃあ・・・またね。


ヘスは元気に手を上げて、帰っていった。
ヒョンジュンはその後姿を見つめる。

自分と別れて、あっさり見合い結婚してしまったヘス。
ホントに幸せなんだろうか・・・。

ヒョンジュンが戻ろうとして後ろを振り向くと、正面の画廊から、ミンスが強い視線でヒョンジュンを見つめている。


ヒョンジュンはミンスの顔を見て、にっこりと笑った。

恋人だった女の妹を恋人にしてしまったのは・・・自分のせいだ。
ミンスには、何の責任もない・・・。






ヘスは、画廊のビルを出て、通りの店のウィンドーを見ながら歩いていく。


あら、あのバッグ・・・。

前からほしかったバッグがショーウィンドーに飾ってある。
近くへ行って、バッグを見て買おうかどうしようか迷いながら、何気なく、ウィンドーに映った自分を見た。


こんな所まで来ちゃって・・・バカね・・・。
どうしようって言うのよ・・・。


ヘスは自分自身に苦笑した。







ヘスが帰ってから、二人は連れ立って、画廊のあるビルの地下のレストランへ出かけた。

いつものように、お互いに出てきた料理を取り分ける。
嫌いなものは相手に、好きなものはいただく・・・それが二人の流儀である。


ミ:あ、駄目! これは私も好きなの、知ってるくせに。
ヒ:少し分けてよ。(ケチだなあ)
ミ:う~ん、もう・・・じゃあ・・・じゃんけんぽん! 勝った。(笑う)
ヒ:ふん。(つまらなそうな顔をする)

ミ:いいわよ・・・5分の1だけ、5分の1よ。分けてあげる。
ヒ:そんな少しなら、いらないよ。
ミ:もう・・・いいわよ、半分、あげるわよ。
ヒ:サンキュ。 あ、このデザート、おまえにやるよ。
ミ:デザート、二つ食べるの?
ヒ:アンコが載ったパンナコッタなんていらないよ。
ミ:じゃあ、アンコだけ食べてあげる。
ヒ:うん。(笑顔で言う)


ミ:ねえ、だけど、昨日、今日って、一枚ずつ売れたじゃない? よかったね。
このまま、毎日売れるといいね。(うれしそうな顔で言う)
ヒ:そうだな。3枚目が売れたら、旅行にでも行こうか?

ミ:どこ?
ヒ:どこにする? バリ? パリ?(笑う)
ミ:どっちも! バリ経由パリ!
ヒ:そんなのありかよ?
ミ:やっちゃおう!
ヒ:うん。(うれしそうに笑う)


ミ:・・・お姉ちゃんが来て・・・。(サラダを突く)ちょっと心配だったけど・・・
なんでもなかったんだよね?
ヒ:勝手に来ただけだよ・・・。
ミ:うん・・・。でも、わざわざ来たんだ・・・。
ヒ:・・・来てくれたんだよ、妹の彼氏のために。
ミ:・・・そうかな・・・。だといいけど・・・。
ヒ:・・・早く食べて戻るぞ。
ミ:うん。


ヒョンジュンは7歳も年上のくせに、時にミンスに甘える。
外では、しっかり者の大人のような顔をしているくせに、ミンスには我儘を言ったり、時に子供のように甘える。
それでも、ミンスがヒョンジュンを愛しく思うのは、その甘えた顔が自分にしか見せない顔だからだ。
ミンスは、どちらかというと「男気」のある性格で、好きになってしまったヒョンジュンという人間を全面的に受け入れている。ヒョンジュンが一見、しっかりとした大地のような男に見えても、その実、人より繊細でとても神経質なところがあることを知っている。彼は芸術家なのだから、普通の人とは心のあり方が多少違っても仕方がないのだ。
ある時はとても思慮深く、ある時はとてもダイナミックで、ある時はとても・・・怖がりで・・・。
その全ての持ち味がヒョンジュンという男を形成しているのだ。
ミンスにはわかっている。その全てがヒョンジュンであり、その全てがなかったら、ヒョンジュンがヒョンジュンではないことを・・・。愛しいヒョンジュンではなくなってしまうことを。

そして、繊細な分、ミンスの姉さん女房的な懐の深さが、ヒョンジュンにとっても、とても心地いい。
最近のミンスは、姉のことが気になって仕方ないようだが、ヒョンジュンには、こんなに頼りになる、甘えられる女はそうそういない・・・。





二人が笑いながら、画廊へ戻ってくると、奥からチェスクが飛んできた。


チ:ヒョンジュンさん! たいへん!
ヒ:どうしました?
チ:奥の20号、売れたわよ。

ヒ:え!


ヒョンジュンが立ち尽くした。


チ:ねえ、中へ行ってご挨拶なさいな。奥に立っているあのお嬢さん。
ヒ:女の人なんですか?


ヒョンジュンとミンスが中を覗くと、いかにも金持ち風の背の高いキレイな女がこちらを向いて、にっこりと微笑んだ。









2部へ続く・・・