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創作を書いたり読んだりと思い思いの時をネット内でゆったりと過ごしています。

 「恋がいた部屋」2部

2015-09-22
雑踏の中に
あなたを見つけた


あまりの懐かしさに
私は思わず近寄って
あなたに声をかけたくなった


でも、実際は、
あなたに見えないように
そっと身を隠した

あなたにはもう
思い出かもしれないけど


たぶん・・・

きっと

私は
まだ

恋の中に

いるのだと、思う・・・









「ねえ、もっと・・・」
「もっとって・・・」



ヒョンジュンは、腕の中のミンスの顔を覗いた。


ヒ:どうしたの、おまえ?
ミ:どうしたって? 
ヒ:・・・なあんか、いつもと違うよ・・・。
ミ:ヒョンジュンはキスが好きでしょ? いいでしょ? もっとして・・・。

ヒ:変・・・。(首をかしげる)
ミ:・・・。
ヒ:ねえ・・・。いつもはさ、本格的にキスしようとすると、お姉ちゃんを思い出しちゃうから嫌とか言うくせに。


ヒョンジュンが顔を少し離して、ミンスの顔をしげしげと見つめた。


ヒ:アネキのこと? 今日、ヘスが来たから?
ミ:というわけじゃないけど・・・。

ヒ:・・・。
ミ:なんか、胸がざわざわしちゃうの。(自分のセーターの胸の部分を引っ張る)
ヒ:・・・。
ミ:もっとして・・・。もっとキスして。(ちょっと笑う)ヒョンジュンが・・・私だけを好きだってわからせて・・・。
ヒ:そんなことしなくても、好きに決まってるだろ。変だよ、今日は。


ヒョンジョンはソファから立ち上がって、流しのほうへ行く。

ヒ:コーヒーでも入れよう。
ミ:ヒョンジュンたら!

ヒョンジュンはインスタントコーヒーにお湯を注ぎながら、ミンスの方を見た。


ヒ:砂糖は2つね。
ミ:うん。
ヒ:ミルクたっぷりと・・・。
ミ:・・・。


今、ミンスの胸はいつになく、ざわざわとざわめいている・・・。

昼間、個展に来た姉のヘスも気になったが、その後の客、アパレル会社の社長令嬢の、ヒョンジュンを見つめたあの目・・・。
あれは、ちょっと普通じゃなかった。
ヒョンジュンの絵が好きで、どうしても一番大きな絵を手に入れたかったと言ったが、その目は少しぎらぎらとして、ハンターのようだった。彼を「尊敬している」と言ったが・・・「尊敬」ではなくて、まるで、自分の手に落としたい「獲物を見る目」をしていた。




チ:お嬢様、こちらが、ハン・ヒョンジュンです。
ヒ:ハン・ヒョンジュンです。この度は・・・お買い上げいただきまして・・・ありがとうございます。(頭を下げる)
ソ:あ、そんな、頭なんて下げていただくと、困ります・・・。私、キム・ソルミと申します。
チ:ヒョンジュンさん、こちらのお嬢様のお父様ね、ここの上に入っているアパレル会社の親会社の社長さんなのよ。
ヒ:・・・あ、そうですか・・・。
ソ:私、ここにもたまに参りますの・・・。いつもは、あなたの作品を置いている裏の・・・チェスクさんの画廊が好きで覗いているんです・・・。今回は、この絵がとても気に入ったので、思い切って買わせていただきました・・・。ずっとあなたのファンでしたのよ。

ソルミは、妖しい光を放った目をして、ヒョンジュンを上目遣いに見つめた。
ヒョンジュンの斜め後ろに、ミンスがいたにもかかわらず、彼女にはミンスがまるで見えていないかのようだ。


ソ:絵の納品の時には、先生にも、是非家まで来ていただきたいの。絵を飾るお部屋も見ていただきたいし、絵のお話を伺いたいわ。
ヒ:はあ・・・。(少し困る)
チ:ヒョンジュンさん、私と一緒に参りましょ。ね。
ヒ:あ、はい。


ご令嬢はうれしそうに笑った。






ヒ:ほら、どうした? コーヒー。(渡す) なんで、そんなにミンスの心がざわめいているのかな・・・?(じっと見つめる)
ミ:・・・。

ヒ:どうしたの? ねえ、ヘスのことなんか、ホントに気にしなくていいんだよ。
ミ:・・・違うの。
ヒ:・・・?

ミ:あのお嬢さん・・・20号を買った人・・・。
ヒ:ああ、あの子ね。それが?
ミ:キレイな人だったよね。私と同じくらいの年かな・・・。
ヒ:確かに美人だった・・・でも、関係ないじゃない、オレたちには。
ミ:でも、納品は先生の手でお願いしますって・・・。
ヒ:それはいいじゃない。すごい買い物なんだからさ。ファンは大切にしなくちゃ。納品ぐらいついて行くよ。

ミ:でも・・・。
ヒ:そんな、いちいちお客に反応してたら切りがないだろ?
ミ:なんだか、ヒョンジュンを見つめる目が・・・やな感じだった。
ヒ:バカだな・・・。(笑う) ミンス、オレとおまえの間に何が入るって言うんだよ。
ミ:・・・そうよね? 相手があなたに興味を持っていたって、そんなの関係ないわよね?

ヒ:うん・・・。ミンスはオレのミューズだからさ・・・。
ミ:・・・。(にっこりする)
ヒ:ミンスがいると、絵を描きたくなっちゃうんだよね。(にっこりする)

ミ:じゃあ、全身でそういって・・・。オレはおまえが一番大切だって・・・オレはミンスのものだって。
ヒ:おっ! そんなふうに誘われたら・・・受けて立つしかないじゃない・・・。(うれしそうにコーヒーカップを置いて笑う)
ミ:もう! そうよ! でもねえ・・・だめよ!他で誘われても乗っちゃ。あなたってアブナイんだから。
ヒ:大丈夫だよ。オレは、ミンスのものだから。(お茶目な顔をする) さあ、おいで、僕のところへ。



ヒョンジョンはにこっとして、シャツを脱ぎながら、ベッドのほうへ歩いて行く。途中で、シャツを脱ぎ捨ててベッドの角に座った。


ヒ:どうぞ、お嬢さん。さあ、おいで!

上半身裸のヒョンジュンが腕を開いて、楽しげにベッドに座っている。


ミ:もう、ホントにあなたって、バカね・・・。


ミンスが笑いながら、ヒョンジュンの元へ行き、ヒョンジュンの前で、セーターを脱ぎ捨てた。
ヒョンジュンはミンスの腰を抱いて、後ろへ倒れこむ。


ヒ:僕のかわいい羊さん・・・。オオカミだよ。
ミ:バカ・・・。(笑う)
ヒ:ああ、早く結婚したいなあ。(ミンスの髪を撫でる)
ミ:もう・・・。(笑う)
ヒ:おまえだってそう思うだろう? 
ミ:・・・。
ヒ:合コンだとか言っちゃっても、結局はオレが好きだろ?
ミ:・・・バカ・・・。(うれしそうに見つめる)

ヒ:今回の個展はいい感じだし、これで結婚できるかもしれないね。
ミ:うん。あとは、パパに許してもらうだけだもん。ねえ、初めての時は、おかしかったね。
ヒ:うん・・・「君か!」で、終わっちゃったもんな。(ミンスの胸を触る)
ミ:この前は、「また、おまえか」だった。(笑う)

ヒ:今度はどうだろう?(手を止めて、真面目な顔でミンスを見る)
ミ:大丈夫よ・・・。年末に家に帰った時、ぼそっと言ったもん。「まだ付き合ってるのか」って。だから、「パパ、あの人とはずっと一緒よ。もう3年も一緒よ・・・だから、大丈夫」って・・・。
ヒ:・・・そう・・・。
ミ:うん。あなた、前科者だから、パパも心配なのよ。たった5日で終わっちゃうんじゃないかって。
ヒ:そんなあ・・・。

ミ:まあ、お姉ちゃんのことが一番だけど・・・。
ヒ:・・・。(すまなそうな目をして頬を撫でる)
ミ:でもね、この間は、パパ、私の顔を見て、ちょっと見つめてから、「そうか、一緒なのか」って・・・。今度はきっと許してくれるわ。


ヒョンジュンが大きく息を吐いた。二人は幸せそうな顔で見つめ合う。


ヒ:粘り勝ちといこう・・・。
ミ:うん・・・。

ヒョンジュンが笑って、ミンスを下にした。

ヒ:個展が終わったら・・・挨拶に行こう・・・。
ミ:うん・・・。
ヒ:だから、他の人のことは考えないで。オレだけに気持ちを集中して・・・。オレだけを信用して。
ミ:うん、そうする・・・そうするね。
ヒ:ミンスがいなくちゃ、絵も描けないんだから・・・ずっと近くにいてよ。
ミ:うん・・・甘えんぼさん・・・。


ミンスは幸せそうにヒョンジュンの胸を撫でた。
ヒョンジュンがうれしそうにミンスの首筋から胸にキスをした。


ヒ:オレのミンスでいて、ずっとオレのミンスで・・・。
ミ:うん・・・いる。ずっと、ヒョンジュンのミンスでいる。

ヒ:どんな時も・・・。たとえ・・・くすぐられても・・・!


ヒョンジュンがふざけて、ミンスをくすぐった。
ミンスは体を捩じらせて笑い転げ、最後にはヒョンジュンを蹴った。


ミ:バカ、やめてよ!(笑う)







主演:ぺ・ヨンジュン(ヒョンジュン)
    チョン・ジヒョン(ミンス)


【恋がいた部屋】2部




夜更け、ヒョンジュンに抱かれて寝ていたミンスがすくっと起き上がった。
タンクトップにショーツのまま、窓辺に立って外を眺める。
ヒョンジュンのマンションの部屋は4階で、窓から見える街のイルミネーションがとてもキレイだ。
倉庫のような古いマンションだが、ここからの眺めは、心を癒してくれる。日が差している時間ならば、遠く漢江が見える。


ヒ:どうしたの?
ミ:・・・うん? ここの景色が好き・・・。ここって眺めがいいよね・・・。ここが好き・・・。
ヒ:景色だけ?


ヒョンジュンが起きてきて、ミンスを後ろから抱く。


ミ:そう・・・景色は最高。
ヒ:ええ? オレがいるから、景色が最高なんだろ?(横から顔を覗く)
ミ:そうかなあ・・・。
ヒ:そうだよ。


ミンスがヒョンジュンのほうを向く。


ミ:私が来るから最高なのよ・・・。
ヒ:・・・。(見つめる)
ミ:違う?
ヒ:・・・そう・・・。
ミ:・・・。(にっこりとする)
ヒ:ミンスと一緒だから、最高・・・。
ミ:・・・。ヒョンジュン。


ミンスはヒョンジュンに抱かれる。


ミ:結婚してもここがいい・・・。
ヒ:狭いじゃない。
ミ:狭くても、いっつもくっついてて、ここがいい・・・。
ヒ:ふん。(笑う)どこでも、できていいよな。
ミ:やあねえ・・・。


窓辺に置いてあるイスにヒョンジュンが座った。


ヒ:おいで・・・。(幸せそうに見つめる)
ミ:・・・。(ちょっと睨むように見つめる)
ヒ:ねえ・・・。ここは特等席だよ・・・いい眺めだよ。(ミンスを見上げる)
ミ:・・・。

ミンスは下着を脱いで、ヒョンジュンの上に座った。
耳元にヒョンジュンの吐息を聞きながら、窓の外を眺める・・・。

そう、ここの眺めは・・・最高・・・。

ああ・・・!

ミンスはヒョンジュンをぎゅっと抱きしめた。






個展は成功に終わった。
初めての本店での個展だったが、順調に絵も売れ、専門誌の取材も受けた。
これからは、こちらがヒョンジュンの持ち場になっていくだろう。
画廊のチェスクも、この成功をうれしく思っている。自分が手塩にかけた芸術家がまた一人、表舞台に出ていった・・・そこで活躍していくこと、それが彼女の望みだから。


個展が終了して一週間後、ヒョンジュンとチェスクを載せた画廊の車は、あのアパレル会社社長の家へ向かった。
ソウルでも最高級住宅地だ。

画廊のビルの上にも、アパレル会社が入っているが、そこもここの一部門だ。ここの社長の会社の下にいくつもの子会社があり、その中にはデザイナーズブランドあり、下着メーカーあり、扱っている品数は数え切れない。



ヒ:すごい家だなあ・・・。ここだけ、ビバリーヒルズみたい・・・。
チ:ヒョンジュンさんたら。(笑う)
ヒ:あ、もちろん、チェスクさんのとこも、ビバリーヒルズですけど。
チ:・・・。(笑う)


門の横から出ているマイクに向かって、チェスクが言う。


チ:ソン画廊から参りました。
家:お待ち申し上げておりました。


門が開いた。

画廊の車が中に入り、正面玄関前で止まる。
中から、お手伝いが出てきて、挨拶した。


手:お待ちしておりました。どうぞ。
チ:ありがとうございます。じゃあ、ヤン君たち、中へ入れて。


画廊の配送係が後ろのトランクから絵を取り出す。


チェスクとヒョンジュンは、お手伝いに案内されて中へ入った。



手:こちらのリビングでお待ちを。今、お嬢様をお呼びしますので。



手伝いは令嬢の部屋をノックする。


手:いらっしゃいました。
ソ:今、行くわ。お茶をお出ししてね。
手:かしこまりました。


ソ:あ、お父様。今、見えたみたい。

ソルミは電話の子機を持って、父親と話をしている。

ソ:振込みのほう、よろしくお願いしますね。
父:また、おまえの道楽が始まったな。
ソ:道楽ではないわ、お父様。今日、お帰りになって絵を見れば、彼の芸術性がわかってよ。
父:わかった、わかった・・。今度は画家か・・・。歌手よりはまだマシか。
ソ:お父様! もう行くわ。お待たせするわけにもいかないから。チェスクさんも一緒にいらしてるから。
父:問題を起こすなよ。チェスクさんのソン・グループはうちとも取引があるんだから・・・。
ソ:わかっててよ。じゃあ。


ソルミは子機を置くと、鏡台の前で、顔や髪をチェックした。





ヒ:なんかドキドキしちゃうなあ・・・広すぎて。(ソファに座って周りを見回す)
チ:何言ってるのよ。あんな大きな絵なんて、広いお宅じゃなかったら飾れないでしょ?
ヒ:まあ、そうですね。(笑う)ミンスも連れてくればよかったなあ・・・。
チ:・・・。(微笑む)見せたかった?
ヒ:ええ。買われた絵がちゃんと飾られている姿を見たら、喜ぶと思うんですよ。(うれしそうに言う)
チ:本当ねえ・・・。(やさしく微笑む) あ、いらしたわ。



ドアが開いて、ソルミが入ってきた。


ソ:お待たせしてしまって、ごめんなさい。
チ:どうも。
ソ:今日はお二人でありがとうございます。先ほど、父のほうから代金を振込まさせていただきました。
チ:それは・・・後ほど、確認させていただきます。
ソ:よろしく・・・。

チ:どちらに飾ります?
ソ:こちらの次の間に。こっちは書斎を兼ねていて、よくお茶をいただきながら、本を読んだり音楽を聴いたりしますの。

チ:ヤン君たち、こっち。(絵を持って立っていた配送の若い二人を呼ぶ)


ソルミが閉まっていたリビング中央の観音開きのドアを押すと、そこに心地よい感じの部屋が現れた。
天井の高いリビングと打って変わって、天井が低めの、12畳ほどしかない部屋で、決して大きいとは言えないが、音楽鑑賞や読書には最適なスペースに思われた。


ソ:こちらの壁。いかが? どうかしら?
ヒ:いいですね・・・。ここのお部屋の雰囲気はとても・・・(見回す)優雅で温かい・・・。良い所に飾っていただいて、ありがとうございます。

ソ:これで、毎日、この絵とご一緒できるわ。(にっこりする)


次の間の、奥の壁がヒョンジュンの絵の居場所となった。
ソルミは、少しねっとりとした目をして、ヒョンジュンを見つめて微笑んだ。

ソ:どうしましょう・・・。こちらで、お茶をいただこうかしら・・・。配送の方にも、あちらでお茶をお出しするわ。
チ:いえ、私どもは次の配送がありますので・・・ヒョンジュンさんだけ残って・・・。(ヒョンジュンを見る)
ヒ:あ、はい。(ちょっとまごつく)
ソ:そうお?(にっこりとする)

チ:(小声で)じゃあ、ヒョンジュンさん、また後で報告して。
ヒ:あ、はい。


ソン画廊の面々は去り、次の間には、ソルミとヒョンジュンだけになった。



ソ:どうぞ、ケーキも召し上がって。
ヒ:ええ・・・。

二人は、読書用の小さな丸テーブルを囲んで、絵を見ながら座っている。


ソ:この女性の絵を見て思ったの・・・。
ヒ:・・・。

ソ:あなたに、私を描いていただきたいって・・・。
ヒ:・・・。
ソ:いかが? 私の肖像画をお願いできないかしら?
ヒ:・・・。(考える)

ソ:この絵には、この女性に対するやさしさや情熱を感じるの・・・。私も、同じように描いていただきたいの。(じっと見つめる)
ヒ:・・・でも、僕は必ずしも肖像画を描くことを主にしているわけではないので・・・。
ソ:そんなことはわかっています・・・。でも・・・ほしいんです・・・あなたの手で描いた私を・・・。
ヒ:・・・。

ソ:若いときのキレイな私を残しておきたいの・・・。母を見ていつも思うの。あんな美しかった人でも、年月には勝てなかったと・・・。今まで写真も撮ってもらったけど・・・この絵のような情熱はなかったわ。
ヒ:それは・・・。



緑豊かな森に、ミンスが佇んでいる絵だ・・・。
初めて、ミンスと二人で遠出をして、結ばれた時のものだ。

この絵では、ミンスは服を着ているが、自宅に大切に保存している絵では、ミンスは裸体だ。
奥深い緑の高原で、二人きりで過ごした8月の思い出・・・。

あの時のミンスは美しかった。
普通の恋人だったミンスと初めての夜を過ごした翌日、二人はヒョンジュンの絵のために、森の中へ入った。

そこで、ミンスが服を脱ぎ、ヒョンジョンの前に座った。

夏の日差しと、ミンスと自分しかいない空間。

裸体のミンスは、緑の中に溶け込むように存在していた。
まるで、その森に住み着いている妖精のように・・・。

裸体の絵では、ミンスがまるで森の中の生き物のように描かれている。

実際、あの時のヒョンジュンの精神状態はそうだった。何かがトランスした感じ・・・。
ミンスが森の生き物に見えた・・・。
そして、そこに愛があって・・・ミンスからあふれ出てくる愛を描きたいと思った。そして、自分の愛も。
あのミンスを感じた時から、彼女はヒョンジュンのミューズとなった。



ヒ:あの絵のようには・・・。
ソ:やってみて・・・。ねえ、お願い。
ヒ:・・・。
ソ:この絵を購入してもらったお礼に・・・とは、お考えになれないかしら?
ヒ:それは・・・。
ソ:お願い。


ソルミがじっとヒョンジュンを見つめた。







ミ:ねえ、それで?
ヒ:それで・・・描くことにした。
ミ:・・・。
ヒ:なんか文句ある? (ちょっとふてくされた顔をする)
ミ:なんかねえ・・・。どこで描くの?
ヒ:うん?あそこの家で。
ミ:あっちで描くの? (驚く)
ヒ:そうだよ。少しの間、あっちに画材を置かせてもらうんだ。
ミ:・・・。

ヒ:準備しなくちゃ、持ってくもの・・・。
ミ:ヒョンジュン・・・。
ヒ:なあに?(画材を整理している)
ミ:・・・お抱えなんかにならないでね。(心配そうに見る)
ヒ:なりっこないだろ?(笑う)
ミ:でも・・・お金持ちって何を考えているかわからないから・・・。
ヒ:大丈夫だよ。一枚描いたら帰ってくるから。

ミ:パリは? バリは? どうするの?
ヒ:行くよ、もちろん。これが終わったらねえ・・・。(荷物の整理をしている)あ、そうだ。
ミ:なあに?
ヒ:やっぱり、今回はパリとバリはやめて、香港辺りにしない? やっぱり予算的に無理だよ。(荷物をまとめている)
ミ:ヒョンジュン。(笑う)それは、いいけど。・・・でも、あの人が心配・・・。チェスクさんはなんて言ってた?
ヒ:う~ん・・・まあやってみてもいいんじゃないかって。
ミ:・・・。

ヒ:オレが言ったんだよ。ミンス以外の人間もちゃんと描けるか、試してみたいって。
ミ:描いているじゃない。
ヒ:だけど・・・おまえのいないところで、一人で描いてみようかなと思って。
ミ:そんな・・・。
ヒ:なんか、精神的におまえに頼ってるところがあるからさあ・・・。
ミ:そんなの、思い込みよ。ヒョンジュンは自分の力で描いているんだから。

ヒ:(顔をあげて、ミンスを見る)まあ、そんな深刻な話じゃないよ。

ミ:わかった・・・。
ヒ:それにさ、引っ越すわけじゃないんだから。通いだからさ。
ミ:まあね・・・。


ヒョンジュンに来た新しい仕事は、ミンスにはちょっと納得がいかなかった。今まで自由を愛して、好きなものを描いてきた人が、頼まれて、断りきれず・・・とミンスは感じている・・・好きでもない女を描く・・・。
確かに、高い買い物をしてくれた人ではあるけれど・・・。





それから、しばらくして、ヒョンジュンは、あの令嬢の家へと出かけていった。


新装オープンのフレンチレストランのテーブル・コーディネイトに出かけた帰り、ミンスの携帯が鳴った。
見たこともない番号で、ミンスは電話に出ず、携帯をポケットにしまった。
それでも、何度も何度もかけてくるので、仕方なく電話に出ることにした。


ミ:もしもし?
ジ:あのう、キム・ミンスさん?
ミ:ええ・・・あなたは?
ジ:ジフンです。ソン・ジフンです。

ミ:ソン・ジフンさん?
ジ:覚えてない?
ミ:・・・ごめんなさい。なんの仕事でご一緒でしたっけ?

ジ:合コンですよ。
ミ:・・・合コン?
ジ:あれ、忘れちゃったの?あの、スッチーの。
ミ:・・・ああ。それで何か?

ジ:ねえ、僕がわかる?
ミ:ごめんなさい。ぜんぜん・・・。
ジ:眼中になかったんだ。
ミ:ごめんなさい・・・。私・・・あんまり関係ないって感じだったでしょ?
ジ:君自身もそう思ってたわけね?
ミ:まあ・・・。

ジ:ヘジンの隣に座っていた背の高い男ですよ。
ミ:そう・・・。(見当がつかない)
ジ:参ったなあ・・・結構、かっこいいって評判なんだけど・・・。
ミ:私に何か?

ジ:君、食器に詳しいって言ってたでしょ? 和食器が好きって。
ミ:よく覚えてましたね。
ジ:いや、実はうちのお袋の誕生日が近くて・・・お袋は若い頃、日本に駐在してたから、日本の食器が好きなんですよ。茶道とかやってるんだ。それでね、茶碗じゃなくて、お皿をプレゼントしたくてね。君を思い出したんだ。・・・それで、ヘジンに電話番号を教えてもらって・・・。
ミ:そうなの。

ジ:選ぶの、手伝ってくれない?
ミ:まあ、それはいいけど・・・。
ジ:是非。
ミ:・・・わかったわ・・・。

ジ:僕の仕事は知ってるよね?
ミ:お医者様?
ジ:そう、当たり。(笑う)よく覚えていたね。
ミ:(笑う)医者しかいなかったでしょ?
ジ:まあね。それで、僕が早帰りできるのが、今度の金曜日なんだ。君は空いてる?
ミ:・・・。


ミンスは、ヒョンジュンを思った。
ただ、今のヒョンジュンの予定はわからない。あちらのお嬢さんの予定によって、ヒョンジュンも振り回されているから・・・。


ミ:いいわ。せっかくの親孝行さんのお買い物ですもの、お付き合いするわ。
ジ:どこに行ったらいい?
ミ:私の知ってるお店でいいの?
ジ:うん。

ミ:じゃあ、ソウル南の・・・・・。
ジ:じゃあ、そこの前?
ミ:ええ、そのお店の前に、コーヒー店があるから、そこに5時でいいかしら?
ジ:ありがとう。じゃあ、よろしくお願いします。



ミンスは電話を切った。
そういえば、個展の前に、合コンへ行った。そんなこともあった。ヒョンジュンの個展が始まってから、気持ちの全てがヒョンジュンに向かっていたから、すっかり忘れていた。

どんな人だったっけ・・・ホントに忘れちゃった・・・。

ヒョンジュンはどうしているのかしら・・・。うまくいってるのかな・・・。

ここのところ、電話もくれないヒョンジュンがちょっと憎らしい。
ちゃんとやっているのかしら・・・。





ヒ:少し休みましょう。疲れたでしょ?
ソ:大丈夫よ。ちょっと見せて。


ソルミがヒョンジュンの絵を覗く。


ソ:う~ん・・・やっぱり、脱いだほうがいいかしら?
ヒ:え? そのままでもキレイですよ。
ソ:だってえ・・・これじゃつまらないわ・・・。せっかく、先生に描いてもらうのに。普通の私じゃあ・・・もっと、情熱的な絵にしていただきたいの・・・。


ソルミがヒョンジュンの真横に立って、ヒョンジュンの顔を見上げた。


ソ:駄目かしら?
ヒ:・・・情熱的って・・・。
ソ:つまり・・・あなたに情熱を感じてほしいのよ、私に・・・。そうでしょう? あの絵は、あなたが相手に情熱を感じたから、こちらも感じるのよ・・・あなたの情熱を・・・。
ヒ:・・・。(ソルミを見つめる)
ソ:お願い、私をちゃんと描いて・・・。



ソルミは、ヒョンジュンをぐいっと見入り、にんまりとした。
そして、座っていたソファに戻り、ブラウスを脱いだ。


ソ:いかが? ポーズをつけて下さる? どうしたら、いいかしら?
ヒ:・・・。


ヒョンジュンは黙ったまま、ソルミに近づき、ポーズをつける。下から、ソルミがねっとりとした視線でヒョンジュンを見入り、二人の間に微妙な熱を発した。




夜中、ミンスの携帯にヒョンジュンから電話がかかった。

ミ:もしもし?
ヒ:寝た?
ミ:まだ。どうお、うまくいってる?
ヒ:まあね。今、何やってるの?
ミ:新しいお店の見積もり・・・。
ヒ:ふ~ん・・・。

ミ:ヒョンジュン・・・会いたいね・・・。
ヒ:・・うん・・・。
ミ:ここのところ、ぜんぜん会ってないもん・・・。
ヒ:・・・行っていい?
ミ:うん・・・いいよ。
ヒ:これから、タクシーで行くよ。
ミ:うん・・・。


久しぶりのヒョンジュンの声は甘かった・・・。
なんかトラブルでもあったのだろうか・・・。気弱になると、彼はすぐに私を求めてくる・・・。


15分ほどして、ミンスのアパートのチャイムが鳴った。


玄関を開けると、ヒョンジュンが立っていた。


顔を見るだけでも、うれしさがこみ上げた・・・そんなに離れていたわけじゃないけど・・・懐かしくて・・・。


ヒョンジュンがドアを閉めて玄関を入ると、パジャマ姿のミンスに抱きついた。


ミ:どうしたの?
ヒ:・・・。


ヒョンジュンはコートを着たまま、ミンスの胸に顔を埋めて、じっとしている。

ミ:どうしたの?
ヒ:抱かせて・・・。しばらくこうしていていい?
ミ:いいけど。
ヒ:ミンスのニオイがする・・・。石鹸のニオイがする・・・。もうお風呂に入ったの?
ミ:うん・・・。
ヒ:今日は・・・泊まっていい?
ミ:ヒョンジュン? (何があったの?)


ヒョンジュンがミンスを見上げた。
甘い表情に少しやるせなさがあって・・・ミンスは、ヒョンジュンの顔をじっと見つめてから、彼の頭を抱いた。


ミ:いいよ、一緒に夜を過ごそう・・・。久しぶりだもん・・・。ずっと抱き合おう・・・。
ヒ:・・・。


ヒョンジュンはミンスの胸で深呼吸をしてから、顔を見上げて子供のように笑った。




3部へ続く・・・