共結晶子が同炭素数異性体のカルバマゼピン共結晶の溶出パターン

2022-02-23
以前の本ブログで、カルバマゼピン(CBZ)共結晶の溶出に対する析出ポリマーの効果が、共結晶子によって大きく異なることをご紹介しました。ジカルボン酸の場合、炭素数が奇数か偶数か?で効果が大きくことなる、いわゆるOdd-Evenパターンの存在が示唆されました。
では、炭素数が同数の異性体の場合、どうなるのでしょうか?

Dissolution Profiles of Carbamazepine Cocrystals with Cis–Trans Isomeric Coformers
Pharmaceutical Research
Maaya Omori, Hibiki Yamamoto, Fumiya Matsui, Kiyohiko Sugano

そこで今回、以前検討したコハク酸(HOOC-CH2-CH2-COOH)(SUC)に加え、新たに、フマル酸(trans)(FUM)とマレイン酸(cis)(MLE)(HOOC-CH2=CH2-COOH)をついて検討を行いました。また、フマル酸の共結晶には、無水物(CBZ-FUM AH)と1水和物(CBZ-FUM H2O)がありますので両者とも検討しました。
共結晶の化学量論(Stoichiometry)は
CBZ-SUC; 2:1
CBZ-MLE; 2:1
CBZ-FUM AH; 1:1
CBZ-FUM H2O; 2:1
です。
析出防止ポリマーとしては、HPMC, PVP, PEGを用いました。なお、Solvent shift法によるバルク溶液中からの析出防止効果は、HPMC >> PVP > PEGの順です。
pH 6.5におけるnon-sink条件での溶出試験を行い、溶出速度と過飽和度を共結晶間で比較しました。ポリマーは0.1 % (w/w)溶液中に加えました。また、溶出試験中の共結晶粒子をサンプリングし、分析しました(SEM, PXRD, DCS)。

結果は、大変興味深いものでした。
ポリマー無しでは、すべての共結晶はほとんど過飽和を示しませんでした(これは、これまで報告した他のすべてのCBZ共結晶と同様)
ポリマー有りでは、CBZ-SUCとCBZ-FUM AHにおいては、HPMCが最も効果が高い結果でした。
しかし、CBZ-MLEとCBZ-FUM H2Oでは、全般に過飽和度が低いものの、最初の2時間はPVPの方が効果が高い結果でした。
また、溶出試験中の共結晶粒子をサンプリングし、粒子表面を観察すると、CBZ-SUCとCBZ-FUM AHにおいてはCBZ H2Oが析出していました。一方、CBZ-MLEとCBZ-FUM H2Oの表面は共結晶のままであり、CBZ H2Oは検出されませんでした(顕微ラマンでも検出されませんでした。)。しかし、粒子表面に規則的な縞模様が明確に出現しておりました。

以前の検討結果から、CBZ共結晶の溶出は、
・粒子表面における溶媒媒介相転移(Particle surface solvent mediated phase tranformation, PS-SMPT)により低下する
・PS-SMPTは共結結晶表面が基質となる不均一核形成である可能性が高い(単一結晶の結晶面間で析出パターンが違うため)
・析出ポリマーでPS-SMPTを阻害すると、偶数炭素ジカルボン酸が共結晶子の場合、溶出性が向上する
・バルク溶液中からの析出(Bulk phase SMPT)とPS-SMPTでは、ポリマーの防止効果の順が異なる場合がある
ことがわかってきています。

今回、CBZ-FUM AHは、他の偶数炭素ジカルボン酸が共結晶子の場合と同様の結果でした。
一方、CBZ-MLEとCBZ-FUM H2Oはとても不思議な結果でした。
そこで、CBZ-MLEとCBZ-FUM H2Oについて、pH条件を変えて試験を行ったりして原因を究明し、現在のところ以下のような理由を考えています。

・HPMCは、CBZ-MLEとCBZ-FUM H2Oの溶出を、(表面吸着により?)ダイレクトに阻害するのではないか?(PS-SMPT経由ではなく)
・粒子表面に規則的な縞模様は、エッチング効果によるのではないか?

これらの点については、今後の検討課題です。エッチング効果は、あまり広く知られていませんが、薬物粒子の溶出に際し、粒子表面における拡散に方向性があるために見られる現象です。

同じ炭素数で化学量論比が同じでも、溶出パターンがまったく異なることや、無水物と水和物でも異なることは、とても興味深い発見です。また、HPMCとPVPの効果が、結晶子間で全く異なる点も重要な発見です。医薬品開発における共結晶子やポリマーの選択の際、とても参考になると思います。

今回の検討は、異性体ではどうなるの?という素朴な疑問からスタートしました。結果は、まったく予想外のもので、学生さんとともに、その原因をいろいろと調べるのは、とても楽しい研究でした。皆さんも是非論文を読んで、いろいろと推理してみてください。

この研究を主に行った学生さんは、3月に卒業し、4月から社会人になります。今後、ますますのご活躍を期待します。