主な活動場所
大阪府、兵庫県

 「今から、飛び降ります」

2020-01-17
寒い夜だった。私は風邪気味で早く休んでいた。家人は仕事で出ていた。ひとりだった。
電話が鳴った。とにかく起き上がり電話に出た。無言。しばらくしてかすれるような声で「今から飛び降りて死にます」と、彼女は言った。彼女Yさんとは、出会って一年ほど経っていたか。ある人から、不眠で悩むYさんのお話を聴いてあげてくださいと紹介された。今から30年以上も前のこと。私はカウンセラーと名乗ることもなく
その知識やスキルもほとんど持っていなかった。「眠れない」という彼女の話を、月一回ほど茶の間で聞くように聞いていた。しんどいこと続きの生い立ち。その中をけなげに、ひたすら生き抜いてきたYさん。
 「トビオリテ、シヌ」その言葉が頭を震撼させた。「どこにいるの?」まだ携帯電話のない時代。おそらく高層住宅にある公衆電話からだろう。通話の10円玉が落ちていく音と車が通り去る音が聞こえる。「死んでほしくない」と伝える。無言。最後の10円玉が落ちて、通話が途切れた。私は何もすることができず、その場にへたり込んだ。
3週間ほどして、Yさんから電話があった。「病院に付き添ってほしい。一緒に行ってくれる人、他にはいないから」
私が運転して少し離れた産婦人科病院に行った。その車中で、男友達に誘われて行ったら、5人の男に「まわされた」と彼女は言った。月のものが来ない。そのことばに私は打ちのめされた。診察の結果、妊娠はしていなかった。男性医師の非常に冷たい視線を感じながら、診断を一緒に聞いた。
よかったとは言えない。性被害について、私はどのように対応するのか無知だった。「なんで そういう誘いに行ってしまったのか」と決して言ってはいけない言葉を口にしてしまった。そのあと何回か彼女と会った。しかし、
Yさんは すでにこの世にいない。
死にたい気持ちをきくこと、性被害のこと、寄り添うということ、支援する人を助けること・・Yさんは私に宿題をたくさん残した。