「恋がいた部屋」4部
2015-09-22
恋する気持ちで苦しく
時々、あなたを恨みたくなる
でも、私にはできない・・・
自分からあなたを手放すなんて
この苦しさの行き着くところは
わからないけれど
あなたが
私の全てであることに
変わりはない
あなたがいるだけで
私はきっと幸せなのだ
たぶん・・・
きっと
私は
あなたしか
愛することが
できないから
二人は電気もつけず、暗いホテルの部屋でベッドの上に並んで座っている。
ミ:絵は仕上がったのね・・・?(うつむき加減で静かに言う)
ヒ:うん・・・いい絵だよ・・・。
ミ:そう・・・。
ヒ:ミンス。・・・おまえに謝りたいんだ・・・。(気弱な声)
ミ:・・・。(ヒョンジュンの顔を見る)
ヒ:・・・オレがしちゃったこと・・・。
ミ:・・・。
ヒ:ごめん・・・。
ミ:・・・謝るようなこと・・・したの・・・? (声が震える)
ヒ:うん・・・最後の日に・・・。
ミ:・・・。(胸が苦しくなる)
ヒ:・・・おまえを、裏切った・・・。そのう・・・ソルミさんと・・・。
ミ:(息が詰まる)・・・。
ヒ:それなのに、おまえにここに来てもらうなんて・・・。虫が良すぎるね・・・。でも・・・どうしてもおまえに逢いたくて・・・。
ミ:・・・ソルミさんと・・・二人で・・・私を裏切ったということなの・・・?(やっとの思いで言葉にする)
ヒ:(肯く)・・・。最後の日に彼女と・・・。寝たんだ・・・。(はっきり言う)
ミ:・・・。どうして・・・。
ヒ:・・・。(答えられない)
ミ:自分で信じろって言ってて・・・。(涙が出てきてしまう)
ヒ:・・・ごめん・・・。
ミ:そんなことして・・・それで、バリを飛び出してきたの・・・?
ヒ:・・・。
ミ:なんで? ソルミさんとケンカしたの・・・?
ヒ:・・・オレが恋しかったのは・・・おまえだってわかったから・・・。それに気づいて・・・。
ミ:それで、あの人を置き去りにしたの?
ヒ:(肯く)・・・。
ミ:・・・。そんなこと・・・最初からわかっていたはずでしょ・・・。確かめなくてもわかっていたはずだわ・・・。
ヒ:ひどいね・・・。おまえにも・・・彼女にも・・・。
ミ:・・・。私は・・・ヒョンジュンを思ったら・・・ここに来ずにはいられなかった・・・。バリから一人で逃げ帰るなんて・・・のっぴきならない事が起きたんだと思った・・・。
ヒ:・・・。ごめん・・・。
ミ:なんで? なんでそんなこと、したの・・・?(ヒョンジュンを見る)
ヒ:・・・。
ミ:飛行機の中で、何度も考えた、あなたのこと・・・。お姉ちゃんのこと・・・ソルミさんのこと・・・。私一人、いつも心がザワザワと嫉妬に揺れて・・・。あなたと別れちゃえば簡単なのにって。嫌な気分にならなくていいのにって。
ヒ:・・・。
ミ:お姉ちゃんのことは・・・勝手に私が思いこんでるだけだけど・・・。それでも、たまに苦しくなっちゃうの・・・。あ、これって・・・。(額に手を当てる)もしかしたら、警告だったのかも。お姉ちゃんじゃなくて、他の人のところへあなたが行っちゃうっていう・・・。
ヒ:そんな・・・。浮気したことは謝る・・・でも、他の人のところなんか、行かないよ・・・。
ミ:あなたを心から追い出せればいいんだけど・・・。
ヒ:ミンス・・・。
ミ:・・・でも、できないのよ・・・。あなたと別れてしまうことが・・・。(俯く)
ヒ:ミンス・・・。おまえを苦しめてばかりだね・・・。
ミ:ねえ・・・私たち・・・この間まで幸せだったわよね? 個展が成功して・・・これから、二人の世界が開けていく気がして・・・幸せだったわよね?
ヒ:・・・戻れる? 前みたいに?
ミ:・・・わからない・・・。
ヒ:・・・オレはミンスじゃなくちゃ駄目なのに・・・。
ミ:・・・。
ヒ:それなのに・・・。
ミ:・・・。
ヒ:バリでも、ずっと、おまえのこと、思い出してたんだ・・・。おまえと一緒だったらって・・・。おまえが恋しくて仕方がないのに・・・。それなのに・・・結果的には、おまえを苦しめちゃうんだ・・・。おまえを・・・裏切っちゃうんだ・・・。
ミ:ヒョンジュン・・・。なんでそんなに正直なの・・・?(胸が苦しい)
ミンスは泣きそうな顔をして、ヒョンジュンを見た。
なんで、うそをついてくれないの?
あなたが私を裏切って、ソルミさんと一夜をともにしてしまったことを・・・。
なんで、そんなに正直に・・・私への愛を口にするの・・・?
ミ:・・・こういうのって、ずっと続くの? いつもいつも、あなたの身辺を心配し続けていくのって・・・。
ヒ:・・・。
ミ:あなたが正直だから・・・。私は余計に辛い・・・。あなたが私のこと、愛してるのがわかるから・・・。あなたが私を頼りに思っているのもわかるから・・・。私だって、いつもあなたを助けてあげられないのよ・・・。辛い気持ちになっちゃうのよ・・・。
ヒ:ごめんよ・・・。
ミ:私って本当に恋人なの・・・? あなたにとってなくてはならない人? ただ、都合がいいだけ? ただいつも助けてくれるから、付き合ってるの? 居心地がいいだけ?
ヒ:ミンス。もう絶対しないから。(ミンスの方を向く) もう絶対、裏切ったりしないから・・・。
ミ:だったら・・・ちゃんと私の気持ちになってよ。
ヒ:許してほしいんだ。おまえがいなくちゃ・・・。(辛そうにじっと顔を見る)
ミ:・・・信じていい・・・?
ヒ:・・・うん・・・。
ミ:もう私を苦しくさせないって。
ヒ:許してくれる?
ミ:・・・。誰もいないところで、ずっと二人だけでいたいわ・・・。そうしたら、幸せなのに。
ヒ:・・・。
ミ:他の人のことなんか、考えなくてもいいところに行きたい・・・。
ヒ:帰らないで、ここで、二人で暮らす?
ミ:うん・・・。(肯く) でも、一生逃げ続けるわけにもいかないもんね・・・。
ミンスがヒョンジュンの顔を見る。
ミ:本当に信じていい?
ヒ:・・・信じてくれる・・・?
ミ:もう、絶対そばから離れちゃ駄目よ・・・。(顔をじっと見る)
ヒ:うん・・・。
ミ:ホントよ?
ヒ:うん。
ミンスがヒョンジュンの頭を引き寄せるようにして、抱きしめる。
ミ:もう絶対離れちゃ駄目・・・絶対、裏切らないで。
ヒ:うん・・・。
ミ:もう悲しくさせないで。
ヒ:うん。
ミ:・・・。
ヒ:愛してるよ。(顔をあげてミンスを見る)誰よりも愛してるから・・・。
(泣きそうな目をしている)
ミ:・・・。
今度はヒョンジュンがミンスをギュッと抱きしめた。
ヒョンジュンの愛がわかるだけに、ミンスには彼をそれ以上責めることができなかった。
主演:ぺ・ヨンジュン
チョン・ジヒョン
チョ・インソン
【恋がいた部屋】4部
午後7時近くになって、二人はホテルを出て、食事に向かった。
ヒ:どこへ行く?
ミ:安いとこ。お金がないんだから、うんと安いとこ。
ヒ:そうなの?
ミ:慌てて飛んできたから、空港で少ししか両替しなかったのよ。でも、安い店は現金でしょ? そんなことに気が回らなかったの・・・。小銭が足りないわ。
ヒョンジュンがポケットの中のお金を見せる。
ミ:全く、あなたは計画性がないわね。(笑う)たぶん、お金のことなんて考えないで、ここまで来ちゃったんだと思ったけど。やっぱり。
ヒ:ごめん・・・。(甘えた目をする)
ミ:ついてらっしゃい。安くておいしそうなお店を探すわ。(手を差し出す)
ヒ:(手をつなぐ) そうして。(笑う)
ミ:協力して!
ヒ:うん。(笑う)
二人は、賑わっていて、ちょっと安そうな感じの店へ入る。
渡されたメニューは、中国語と英語で書かれていた。
ミ:どれにする?
ヒ:この手羽先って何だろう? (メニューを指差す)
ミ:ふん。(笑う) 思い出しちゃった。(ヒョンジュンを見つめる)
ヒ:うん・・・。(笑う) 鳥の手ばっかりの料理が出てきたことがあったなあ。(手をパアにして動かす)
ミ:うん。でも、あれって、今考えると、コラーゲンたっぷりで体によかったのかもね。
ヒ:かもねえ・・・。(メニューを見る) 写真が載ってるのにする?
ミ:うん。それがいいね、間違いがなくて。(笑う)
ヒ:どれにしようか・・・。
二人は料理を三皿とスープとライスを頼んだ。
テーブルの真ん中に料理が三つ並んだ。
ヒ・ミ:いただきま~す。
二人は元気な声で言ったものの、料理に箸が出せない。
今まで、お互いのものを取り合って、好き勝手に食事をしていたのに、一つの皿から自分の分を取り分けることができない・・・。二人の間に気まずさが漂った。
ヒ:・・・。ごめん・・・。
ヒョンジュンの目が急に涙ぐんで、肘をついた手で口を押さえた。
ミ:・・・。(ヒョンジュンの顔を見る)
ヒ:・・・ホントにごめんよ。
ミンスは胸がいっぱいになった。
ミ:私が取り分けてあげる。貸して、お皿!
ヒ:・・・。
ヒョンジュンは自分の皿をミンスに渡す。
ミ:・・・嫌いなものも食べなくちゃ駄目よ・・・。もう我儘なんて許さないんだから。
ミンスはヒョンジュンのために、皿に料理を盛り付ける。
ミ:はい。(皿を突き出す)
ヒ:・・・ありがとう・・・。
ヒョンジュンは皿の中をじっと見ている。
ミンスも自分の分を取りながら、ヒョンジュンの様子を伺っている。
ヒ:・・・これ・・・。おまえにやるよ。(俯いたまま言う)
ヒョンジュンがピーマンの細切りをつまんで、ミンスの皿に差し出した。
ミンスは自分の皿に落ちるピーマンをじっと見つめた。
ミ:・・・バカね・・・こんなものが食べられないなんて・・・子ども・・・。(静かに言う)
ミンスは箸でピーマンの細切りをつまんで、それを口に運んだ。
ミ:好き嫌いしちゃ駄目よ・・・。(やさしく言う)
ヒ:うん・・・。
二人はゆっくりと見つめ合って、やさしく微笑んだ。
夕食のあと、二人は、二階建てのバスに乗り、二階の一番前に並んで座った。
まだ、寒さの残る三月初旬の宵。
二人の顔に冷たい風が当る・・・。
ミンスは長い髪をなびかせて、横を向いて街の様子を眺めている。
そんなミンスの顎をヒョンジュンが掴んだ。そして、自分の方へ顔を向けて見つめた。
ミンスが切なそうに、今にも泣きそうな顔をしている。
ヒョンジュンもその顔に胸が痛くなったが、思いの丈をぶつけるように、ミンスの唇に唇を重ねた。
そして、もう決して、ミンスを手放すことにならないように、ヒョンジュンは熱い口づけを繰り返した。
翌朝、ミンスは着替えをすっかり終えて、荷物の整理をして、バッグの中のものを確認している。
今日しなければならないことをメモ書きしているミンスの肩に、ヒョンジュンがそっと手を置いた。
ミ:今日はまず、帰りの便の予約をしなくちゃ。それと・・・銀行でエクスチェンジして・・・。それから、チェスクさんへのお土産を買って、それから・・・。(メモを見ている)
ヒ:ミンス・・・。
ミ:あなたも準備できたの?
ヒ:ミンス・・・。
ミ:なあに?
ミンスが顔を上げずに答えた。
ヒ:まだ、怒ってる?
ミ:怒ってなんかいないわ・・・。
ヒ:顔を見せて。
ミンスがゆっくり顔を上げて、ヒョンジュンの目を見る。
ヒ:オレはここで仲直りして帰りたいんだけど・・・。
ミ:・・・。
ヒ:だめ?
ミ:・・・これでも、私・・・頑張ってるのよ・・・。(見つめる)
ヒ:・・・。(切ない目で見つめる)
ミ:お願い。もう少し時間をちょうだい・・・。あなたを好きなことに変わりはないの・・・。あなたしかいないことにも変わりはないの・・・。わかるでしょう?
ヒ:ごめん・・・。
ミ:だから・・・。大丈夫・・・もう仲直りはしているわ・・・。(ちょっと微笑む)
ヒ:・・・。(じっと見ている)
ミ:夫婦だって・・・ただ並んで寝てるだけの時があるでしょ、それと同じよ。今はそうさせて・・・。
ヒ:・・・ごめん・・・。
ミ:そんなに謝らないでよ・・・。まるで、私があなたを苛めてるみたいじゃない・・・。
ヒ:うん・・・。苛めてるのは・・・オレのほうだよね・・・。
ミ:・・・。もう出かけよう。まずは朝ご飯を食べて、チケット、予約しなくちゃ。
ヒ:うん・・・。いつ帰る?
ミ:明日・・・。
ヒ:もう一日いようよ・・・。二人だけの時間を作ろう・・・。仲直りしよう。(じっと見る)
ミ:(ちょっと苦しくて、俯く)・・・。わかった・・・。
ヒョンジュンとミンスはおかゆの店で朝食をとると、旅行代理店で明後日のソウル行きを予約した。
銀行で両替をしてから、二人はぶらぶらと街を歩いている。
手をつないではいるが、なんとなくよそよそしくて、お互いにぎごちない。
ミ:チェスクさんには何がいいかしら・・・。何でも持ってる人だけど・・・。やっぱり、お土産は必要よね。お世話になっちゃったもん・・・。食器でも見ようかな・・・。どうしようかな・・・。
ヒ:ミンス。ここへ入ってみない?
ヒョンジュンが通りかかった店を指差す。
ミ:貴金属店?
ヒ:うん・・・。香港は24金のものもあるからさ・・・。
ミ:だから、どうしたの?
ミンスはヒョンジュンに引っ張られて、金を扱う店へ入った。
店:May I help you ? 何かお探しですか?
ヒ:結婚指輪を・・・。24金で。
店:こちらにあるのは・・・ちょっと幅広で・・・結婚指輪というデザインではないんですが・・・逆にちょっとおしゃれな感じがしますでしょ?
ヒ:そうですね・・・かえってつけやすいかもしれないな・・・。
店:あとは・・・カマボコ型のもの・・・。24金は細工が難しいんで、あまり細かなディテールのものはないんですが・・・こちらは財産にもなりますよ。(笑う)
ヒ:そうですね。いくつか見せてください。
ミ:ヒョンジュン!
ヒ:おまえは黙ってて。
ミ:だって・・・。
店:こちらはどうでしょう? うちで扱っているものは、品質は確かですよ。このように(壁に飾った賞状を見せる)国や貴金属協会からも表彰されています。
ヒ:はあ・・・。これ・・・いいですね・・・。
ヒョンジュンがいくつか出された指輪の中から、少しボリュームのあるデザインのものを選んだ。
店:何号ですか? 合ったサイズをお出ししますよ。
ヒ:何号?(ミンスを見る)
ミ:7号・・・。
ヒ:じゃあ、7号と、僕は自分のサイズがわからないんです。指輪なんてはめないから・・・。
店:お調べしましょう。こちらをはめてみてください。
ミ:ヒョンジュン!
ヒ:いいだろう? 買っても。
ミ:・・・。
ヒ:オレは今買いたいんだ。
ミ:・・・。
ヒ:おまえを失いたくないから・・・。
ヒョンジュンが強い視線でミンスを見つめた。
店:ええと・・・16号ですね・・・。あ、奥様の指にはゴールドの色がよくお似合いですね。(笑う)
ミ:・・・。(自分の指をじっと見る)
ヒ:似合ってるよ。(笑顔でミンスを見る) これにしてください。
店:こちらはお二人のイニシャルを入れますか? 結婚式の日付とか・・・。
ヒ:イニシャルをお願いします。 あのう、明日までにできますか? 旅行できているので。
店:大丈夫です。ホテルにお届けしましょうか?
ヒ:ええ。
店:かしこまりました。では、イニシャルをこちらにお書きになって・・・こちらには、泊まっているホテル名と部屋番号・・・お名前を・・・。
ヒョンジュンが二人のイニシャルを書き、ホテル名を入れている。
店:お支払いは?
ヒ:クレジットカードで。
ミンスがじっとヒョンジュンを見ている。
ヒ:いいだろう? もう買っちゃったよ・・・。オレ一人でもつけるから。(ちょっと怒った顔でじっと見る)
ミ:うん・・・。(少し困ったような顔をするが、やさしく微笑む) いいよ・・・ありがと・・・。
ヒョンジュンがミンスの肩をやさしく抱いた。
二人の記念のものを買った・・・。
この顛末としては、Happy Endだ。
これから、二人の人生が始まる。
二人の心がまたつながった。
結局、チェスクさんへの土産は決められず、有名なホテルのチョコレートを購入した。
彼女はなんでも持っているし、こんなもののほうが喜ばれるのかもしれない。
ヒョンジュンの思いが通じて、二人はゆったりと二人だけの時間を過ごした。
二人のこと以外、何も心配するもののない外国。
こんなところにずっといられたら、ミンスはヒョンジュンが自分だけのものだと確信を持って生きていけるだろう。
ホテルの窓から見た香港もキレイな夜景だった。
ヒョンジュンがミンスを後ろから抱きしめて、二人は幸せそうに、ずっと夜景を眺めた。
それから、1ヶ月。
二人はまた、いつもの生活に戻っていた。
少し変わったことと言えば、ヒョンジュンがミンスに甘えきりではなくなったこと・・・。
彼は、ミンスの前でも大人になった。
そして、ミンスも、今までのように、自分が前に出て引っ張っていくようなところがなくなった。ヒョンジュンの心にズケズケとは入り込まない。
二人の仲のよさは変わらなかったが、何もなかった時のようには戻らなかった。
それは少し寂しいことでもあったが、ヒョンジュンに少し頼りがいも出てきて、これからは文字通り「夫唱婦随」になっていくのかもしれない・・・。
二人が愛し合っている・・・それは変わることはないのだから・・・。
ソルミの絵の代金は、ヒョンジュンはいらないと言ったが、チェスクがあとで問題になるといけないからと、ソルミの家を訪ね、絵に見合う代金を請求した。
そして、ヒョンジュンの「バリ」への出張旅費もチェスクが精算した。
ミンスが時計を見ながら走っている。
そして、約束のコーヒー店に駆け込んだ。
ミ:お待たせ。
ジ:走った?(笑う)
うれしそうな顔をして、ジフンが微笑んだ。
ミ:当たり前でしょ? 急に呼び出すんだもん。
ジ:ごめん。(うれしそうに見る)
ミ:困るわ。こっちもいろいろ予定が入ってるし。
ジ:でも、来てくれたんだ。
ミ:だって、あなたのお母さんが来るって言うから。あなただけだったら、振ってたわ。
あ、アメリカン。(店員に言う)
ジ:そっか。バカ男だけだと来ないけど、ちょっと年上の人が来ると、OKなんだ。
ミ:・・・。(睨む)
ジ:よし、その手を使おう。
ミ:バカみたい。
ジ:・・・。(笑う)
ミ:あなたって、何科? なんのお医者様?
ジ:なんだと思う?
ミ:わからない・・・。なんか調子がいいから・・・。お調子者で務まるのってどんなところかしら・・・。
ジ:小児科。
ミ:ふ~ん・・・。(真面目な顔をする)
ジ:どうしたの?
ミ:いえ・・・ずいぶん、地味というか真面目というか・・・。
ジ:何?
ミ:ちょっと意外で、エライなって思っただけ。(コーヒーが来て口をつける)
ジ:そうお?
ミ:うん・・・。子供の病気ってどんどん変化して予断を許さないっていうから。たいへんな仕事だと思うわ・・・心がないとやっていけないもん・・・。
ジ:うん、そうだね。よく知ってるね。
ミ:小さい頃に、7つ上の兄が病気で亡くなったから・・・。
ジ:そうなんだ。
ミ:うん。
ミンスは、ヒョンジュンと小学校で同級生だった兄を思い出した。
自分はあまりに小さくてよく覚えていないが、ガキ大将の姉は、よく兄とヒョンジュンを連れまわして遊んだものだった。そして、大人になった彼と駆け落ちした後、姉は、ヒョンジュンのことを「よく考えたら弟のようなものだった」と語った。
ホントはどういうことだったのかな・・・。
ジ:でも、ありがとう、来てくれて。
ミ:どう致しまして。困った人よね、あなたも。
ジ:うれしいよ。
ミ:ねえ・・・お母さんにはなんて言ってあるの? ちゃんとただの友達って言ってあるわよね?
ジ:それはそうさ。君には彼氏がいるんだから。そうなんでしょ?
ミ:(笑う)そう、ならいいけど・・・。
ジ:お袋は、好きな和食器の話ができる人と、ちょっと友達になりたいだけだよ。
ミ:そうかな。・・・友達と言われてもね。
ジ:まあ少しだけ付き合ってあげて。
ミ:うん・・・。
ジ:君は今・・・幸せそうだね。(きらきらした目で見つめる)
ミ:・・・。(じっとジフンを見つめてから、肯く)
ジ:そうか・・・。駄目になったら、教えて。(笑顔で言う)
ミ:趣味悪い。(笑う)
ジ:だね・・・。あ、来た。
ミンスもジフンの見る方向を見る。
感じの良さそうな50代の女性が入ってきた。
母:お待たせしてしまって・・・。ジフンの母の、コ・ウナです。
ミ:(立ち上がって)あ、初めまして・・・。私、キム・ミンスです。
ジ:ねえ、座って。(席をつめる)
母:ありがとう。かわいい方ね。(座る)
ジ:ああ・・・。母さん、こちらのミンスさんは友達の友達で・・・。
母:・・・?
ミ:あのう・・・私はテーブル・コーディネーターをしていまして・・・。それで、共通の友人から頼まれて・・・。
母:まあ・・・そうなの・・・。でも、お一人でしょ?
ミ:それはそうですが・・・。
ジ:母さん、へんなこと言わないでね。ミンスさんを困らせないように。悪いけど、僕は夜勤があるから、これで。ミンスさんも適当なところで帰ってくださいね。
母:ジフンたら。
ジ:ミンスさん、ちょっと話をしたら、お店を紹介してやってください。母さん、それでいいだろ?
母:なんだか・・・。(物足りない・・・)
ジ:じゃあね。
ジフンは立ち上がって、二人に笑顔を残して去っていった。
母:なんだか・・・申し訳ありません・・・。
ミ:いえ・・・。
母:私はてっきり、あなたがあの子の彼女なのかと思って。
ミ:・・・どうも・・・。(下を向く)
母:でも。あの子はあなたが好きだわ・・・。(微笑む)
ミ:・・・。
母:さっき、遠くから見てたんです・・・。あの子の目が輝いていて・・・。
ミ:・・・ジフンさんは、いつも元気な方だから・・・。
母:そうかな・・・。そうでもないのよ。落ち込む時も、嫌な顔する時もあるの。私と二人暮らしだから・・・。でも、さっきは幸せそうでした。
ミ:・・・。(困る)
母:お友達のお友達なのに、困っちゃうわね。こんなこと言われても。でも、よろしく。お友達としては、きっといい子ですよ。
ミ:あ、はい。
母:じゃあ、お店を見ながら、お話できるかしら?
ミ:ええ。では行きますか? このお店のすぐ前なんです。
母:そう・・・。
ミンスとジフンの母親は肩を並べて、コーヒー店を出た。
ジフンの母親と和食器の店に寄ったものだから、ヒョンジュンとの約束には大幅に遅れて、ミンスはヒョンジュンのマンションにたどり着いた。
ミ:(玄関で靴を脱ぎながら)ごめ~ん。ちょっと急用ができちゃって・・・。
ミンスが急いで中へ入る。
ヒ:よう。(笑顔)
ミ:なんかいいニオイがするけど。(笑う)
ヒ:今日は、オレの料理を食べてもらおう。
ミ:どれどれ、見せてごらん。
ヒ:どうお? お母様、よくできてる?
ミ:なかなかいいじゃない。これで味がよかったら最高!(笑う) じゃあ私・・・テーブルの、用意するね。
ヒ:うん。今日は、ミンスを口説きたいからねえ・・・。頑張ったよ。
ミ:ふん。(笑う) もっと口説くの?
ヒ:そうだよ。
ミ:ふ~ん。(笑う)何を言い出すやら・・・。
テーブルを拭きながら、左手の薬指を見る。
香港で、ヒョンジュンが買ったお揃いの指輪・・・。
彼は、「結婚指輪」と言った。
確かに、ダイヤも入っていないから、婚約指輪ではないのかもしれない・・・。
でも、これは一生、この指にはめる指輪だ。
私たちの愛の証だ。
あの時のヒョンジュンを思い出して、ミンスはちょっと体が熱くなった。
あの香港のホテルの部屋で、彼は指輪の箱を開け、二つ並んでいる指輪の小さいほうを取り出して差し出すと、ミンスの目をじっと見つめてこう言った。
「いつもオレを温かく包んでくれる君。君にオレの全てを捧げます。どうか受け取ってください・・・」
「・・・ヒョンジュン・・・」
そういうと、少し震える手で、ミンスの薬指にはめた。
「いつまでも、一緒にいて・・・。愛してるよ。今もこれからもずっと・・・愛しているよ」
「うん・・・。私も・・・」
ヒョンジュンはミンスをギュッと抱きしめた。
ヒョンジュンの腕に抱かれると、ヒョンジュンの思いがどんどんミンスに伝染してくるようで、今まであったミンスの拘りが解けていくような気がした。
二人が愛し合っていること・・・この今の時点からまた全てが始まって、二人の幸せが約束されたような気がする・・・。
彼の腕に身を委ね、ミンスはヒョンジュンの顔を見上げた。
「愛して・・・全身で愛して・・・もうあなたの全てが私のものだって、教えて」
「・・・ミンス・・・。オレの全てはもうおまえのものだよ・・・おまえの全ても・・・」
「あなたのものよ・・・だから、教えて・・・二人はずっと一緒だって・・・」
「うん・・・」
ヒョンジュンがミンスを抱いたまま、ベッドに倒れこんだ。
ミンスがテーブルにカトラリーを並べていると、テーブルの上のヒョンジュンの携帯が鳴った。
ミ:携帯が鳴ってる。(ヒョンジュンのほうを向く)
ヒ:あ、今行く。
ヒョンジュンは火元を消して、携帯を取り上げる。知らない番号だったが、一応電話に出てみる。
ヒ:もしもし。
ソ:こんばんは。
ヒ:・・・。
ソ:ご無沙汰ね。
ヒ:ええ・・・。
ソ:今、ちょっと出先からなの・・・。
ミ:(小さな声で)誰?
ヒョンジュンが後ろを向いた。ソルミからの電話だった。
ヒ:何かご用でしょうか?
ソ:あなたが急用で帰ってしまったから、あれから寂しかったわ・・・。
ヒ:それはどうも・・・。
ミンスは後ろを向いているヒョンジュンの様子が少しおかしいので、イスに腰かけてヒョンジュンの背中をじっと見ている。
ソ:私、怒ってなんかいなくてよ。それより・・・。
ヒ:なんですか?
ソ:あなたにお知らせしなくてはいけないことができたの。
ヒ:何・・・?
ソ:そのね・・・。あれから・・・月のものがないの・・・。そのことを父に話したら、あなたを呼ぶようにって。
ヒ:・・・。(青ざめる)
ソ:わかるわね? 明日、5時にうちにいらして。必ずね。お話の意味、おわかりでしょう?
ヒ:・・・ええ・・・。
ソ:では明日。お待ちしているわ。じゃあ。
ヒョンジュンは、ゆっくりと携帯を切った。
携帯を閉じる自分の左手の薬指の指輪をじっと見つめる。
ミ:ねえ。どうしたの? 何かあった?
ヒ:・・・うん・・・。(力なく言う)
ミ:ヒョンジュン?
ヒ:・・・自分で・・・全て・・・壊しちゃった・・・。全てを壊しちゃった・・・。
ミ:え? ヒョンジュン? どうしたの?
しばらく固まったようにじっと考え込んでいたヒョンジュンが、決意したような目をして、ミンスのほうへ振り返った。
5部へ続く・・・
時々、あなたを恨みたくなる
でも、私にはできない・・・
自分からあなたを手放すなんて
この苦しさの行き着くところは
わからないけれど
あなたが
私の全てであることに
変わりはない
あなたがいるだけで
私はきっと幸せなのだ
たぶん・・・
きっと
私は
あなたしか
愛することが
できないから
二人は電気もつけず、暗いホテルの部屋でベッドの上に並んで座っている。
ミ:絵は仕上がったのね・・・?(うつむき加減で静かに言う)
ヒ:うん・・・いい絵だよ・・・。
ミ:そう・・・。
ヒ:ミンス。・・・おまえに謝りたいんだ・・・。(気弱な声)
ミ:・・・。(ヒョンジュンの顔を見る)
ヒ:・・・オレがしちゃったこと・・・。
ミ:・・・。
ヒ:ごめん・・・。
ミ:・・・謝るようなこと・・・したの・・・? (声が震える)
ヒ:うん・・・最後の日に・・・。
ミ:・・・。(胸が苦しくなる)
ヒ:・・・おまえを、裏切った・・・。そのう・・・ソルミさんと・・・。
ミ:(息が詰まる)・・・。
ヒ:それなのに、おまえにここに来てもらうなんて・・・。虫が良すぎるね・・・。でも・・・どうしてもおまえに逢いたくて・・・。
ミ:・・・ソルミさんと・・・二人で・・・私を裏切ったということなの・・・?(やっとの思いで言葉にする)
ヒ:(肯く)・・・。最後の日に彼女と・・・。寝たんだ・・・。(はっきり言う)
ミ:・・・。どうして・・・。
ヒ:・・・。(答えられない)
ミ:自分で信じろって言ってて・・・。(涙が出てきてしまう)
ヒ:・・・ごめん・・・。
ミ:そんなことして・・・それで、バリを飛び出してきたの・・・?
ヒ:・・・。
ミ:なんで? ソルミさんとケンカしたの・・・?
ヒ:・・・オレが恋しかったのは・・・おまえだってわかったから・・・。それに気づいて・・・。
ミ:それで、あの人を置き去りにしたの?
ヒ:(肯く)・・・。
ミ:・・・。そんなこと・・・最初からわかっていたはずでしょ・・・。確かめなくてもわかっていたはずだわ・・・。
ヒ:ひどいね・・・。おまえにも・・・彼女にも・・・。
ミ:・・・。私は・・・ヒョンジュンを思ったら・・・ここに来ずにはいられなかった・・・。バリから一人で逃げ帰るなんて・・・のっぴきならない事が起きたんだと思った・・・。
ヒ:・・・。ごめん・・・。
ミ:なんで? なんでそんなこと、したの・・・?(ヒョンジュンを見る)
ヒ:・・・。
ミ:飛行機の中で、何度も考えた、あなたのこと・・・。お姉ちゃんのこと・・・ソルミさんのこと・・・。私一人、いつも心がザワザワと嫉妬に揺れて・・・。あなたと別れちゃえば簡単なのにって。嫌な気分にならなくていいのにって。
ヒ:・・・。
ミ:お姉ちゃんのことは・・・勝手に私が思いこんでるだけだけど・・・。それでも、たまに苦しくなっちゃうの・・・。あ、これって・・・。(額に手を当てる)もしかしたら、警告だったのかも。お姉ちゃんじゃなくて、他の人のところへあなたが行っちゃうっていう・・・。
ヒ:そんな・・・。浮気したことは謝る・・・でも、他の人のところなんか、行かないよ・・・。
ミ:あなたを心から追い出せればいいんだけど・・・。
ヒ:ミンス・・・。
ミ:・・・でも、できないのよ・・・。あなたと別れてしまうことが・・・。(俯く)
ヒ:ミンス・・・。おまえを苦しめてばかりだね・・・。
ミ:ねえ・・・私たち・・・この間まで幸せだったわよね? 個展が成功して・・・これから、二人の世界が開けていく気がして・・・幸せだったわよね?
ヒ:・・・戻れる? 前みたいに?
ミ:・・・わからない・・・。
ヒ:・・・オレはミンスじゃなくちゃ駄目なのに・・・。
ミ:・・・。
ヒ:それなのに・・・。
ミ:・・・。
ヒ:バリでも、ずっと、おまえのこと、思い出してたんだ・・・。おまえと一緒だったらって・・・。おまえが恋しくて仕方がないのに・・・。それなのに・・・結果的には、おまえを苦しめちゃうんだ・・・。おまえを・・・裏切っちゃうんだ・・・。
ミ:ヒョンジュン・・・。なんでそんなに正直なの・・・?(胸が苦しい)
ミンスは泣きそうな顔をして、ヒョンジュンを見た。
なんで、うそをついてくれないの?
あなたが私を裏切って、ソルミさんと一夜をともにしてしまったことを・・・。
なんで、そんなに正直に・・・私への愛を口にするの・・・?
ミ:・・・こういうのって、ずっと続くの? いつもいつも、あなたの身辺を心配し続けていくのって・・・。
ヒ:・・・。
ミ:あなたが正直だから・・・。私は余計に辛い・・・。あなたが私のこと、愛してるのがわかるから・・・。あなたが私を頼りに思っているのもわかるから・・・。私だって、いつもあなたを助けてあげられないのよ・・・。辛い気持ちになっちゃうのよ・・・。
ヒ:ごめんよ・・・。
ミ:私って本当に恋人なの・・・? あなたにとってなくてはならない人? ただ、都合がいいだけ? ただいつも助けてくれるから、付き合ってるの? 居心地がいいだけ?
ヒ:ミンス。もう絶対しないから。(ミンスの方を向く) もう絶対、裏切ったりしないから・・・。
ミ:だったら・・・ちゃんと私の気持ちになってよ。
ヒ:許してほしいんだ。おまえがいなくちゃ・・・。(辛そうにじっと顔を見る)
ミ:・・・信じていい・・・?
ヒ:・・・うん・・・。
ミ:もう私を苦しくさせないって。
ヒ:許してくれる?
ミ:・・・。誰もいないところで、ずっと二人だけでいたいわ・・・。そうしたら、幸せなのに。
ヒ:・・・。
ミ:他の人のことなんか、考えなくてもいいところに行きたい・・・。
ヒ:帰らないで、ここで、二人で暮らす?
ミ:うん・・・。(肯く) でも、一生逃げ続けるわけにもいかないもんね・・・。
ミンスがヒョンジュンの顔を見る。
ミ:本当に信じていい?
ヒ:・・・信じてくれる・・・?
ミ:もう、絶対そばから離れちゃ駄目よ・・・。(顔をじっと見る)
ヒ:うん・・・。
ミ:ホントよ?
ヒ:うん。
ミンスがヒョンジュンの頭を引き寄せるようにして、抱きしめる。
ミ:もう絶対離れちゃ駄目・・・絶対、裏切らないで。
ヒ:うん・・・。
ミ:もう悲しくさせないで。
ヒ:うん。
ミ:・・・。
ヒ:愛してるよ。(顔をあげてミンスを見る)誰よりも愛してるから・・・。
(泣きそうな目をしている)
ミ:・・・。
今度はヒョンジュンがミンスをギュッと抱きしめた。
ヒョンジュンの愛がわかるだけに、ミンスには彼をそれ以上責めることができなかった。
主演:ぺ・ヨンジュン
チョン・ジヒョン
チョ・インソン
【恋がいた部屋】4部
午後7時近くになって、二人はホテルを出て、食事に向かった。
ヒ:どこへ行く?
ミ:安いとこ。お金がないんだから、うんと安いとこ。
ヒ:そうなの?
ミ:慌てて飛んできたから、空港で少ししか両替しなかったのよ。でも、安い店は現金でしょ? そんなことに気が回らなかったの・・・。小銭が足りないわ。
ヒョンジュンがポケットの中のお金を見せる。
ミ:全く、あなたは計画性がないわね。(笑う)たぶん、お金のことなんて考えないで、ここまで来ちゃったんだと思ったけど。やっぱり。
ヒ:ごめん・・・。(甘えた目をする)
ミ:ついてらっしゃい。安くておいしそうなお店を探すわ。(手を差し出す)
ヒ:(手をつなぐ) そうして。(笑う)
ミ:協力して!
ヒ:うん。(笑う)
二人は、賑わっていて、ちょっと安そうな感じの店へ入る。
渡されたメニューは、中国語と英語で書かれていた。
ミ:どれにする?
ヒ:この手羽先って何だろう? (メニューを指差す)
ミ:ふん。(笑う) 思い出しちゃった。(ヒョンジュンを見つめる)
ヒ:うん・・・。(笑う) 鳥の手ばっかりの料理が出てきたことがあったなあ。(手をパアにして動かす)
ミ:うん。でも、あれって、今考えると、コラーゲンたっぷりで体によかったのかもね。
ヒ:かもねえ・・・。(メニューを見る) 写真が載ってるのにする?
ミ:うん。それがいいね、間違いがなくて。(笑う)
ヒ:どれにしようか・・・。
二人は料理を三皿とスープとライスを頼んだ。
テーブルの真ん中に料理が三つ並んだ。
ヒ・ミ:いただきま~す。
二人は元気な声で言ったものの、料理に箸が出せない。
今まで、お互いのものを取り合って、好き勝手に食事をしていたのに、一つの皿から自分の分を取り分けることができない・・・。二人の間に気まずさが漂った。
ヒ:・・・。ごめん・・・。
ヒョンジュンの目が急に涙ぐんで、肘をついた手で口を押さえた。
ミ:・・・。(ヒョンジュンの顔を見る)
ヒ:・・・ホントにごめんよ。
ミンスは胸がいっぱいになった。
ミ:私が取り分けてあげる。貸して、お皿!
ヒ:・・・。
ヒョンジュンは自分の皿をミンスに渡す。
ミ:・・・嫌いなものも食べなくちゃ駄目よ・・・。もう我儘なんて許さないんだから。
ミンスはヒョンジュンのために、皿に料理を盛り付ける。
ミ:はい。(皿を突き出す)
ヒ:・・・ありがとう・・・。
ヒョンジュンは皿の中をじっと見ている。
ミンスも自分の分を取りながら、ヒョンジュンの様子を伺っている。
ヒ:・・・これ・・・。おまえにやるよ。(俯いたまま言う)
ヒョンジュンがピーマンの細切りをつまんで、ミンスの皿に差し出した。
ミンスは自分の皿に落ちるピーマンをじっと見つめた。
ミ:・・・バカね・・・こんなものが食べられないなんて・・・子ども・・・。(静かに言う)
ミンスは箸でピーマンの細切りをつまんで、それを口に運んだ。
ミ:好き嫌いしちゃ駄目よ・・・。(やさしく言う)
ヒ:うん・・・。
二人はゆっくりと見つめ合って、やさしく微笑んだ。
夕食のあと、二人は、二階建てのバスに乗り、二階の一番前に並んで座った。
まだ、寒さの残る三月初旬の宵。
二人の顔に冷たい風が当る・・・。
ミンスは長い髪をなびかせて、横を向いて街の様子を眺めている。
そんなミンスの顎をヒョンジュンが掴んだ。そして、自分の方へ顔を向けて見つめた。
ミンスが切なそうに、今にも泣きそうな顔をしている。
ヒョンジュンもその顔に胸が痛くなったが、思いの丈をぶつけるように、ミンスの唇に唇を重ねた。
そして、もう決して、ミンスを手放すことにならないように、ヒョンジュンは熱い口づけを繰り返した。
翌朝、ミンスは着替えをすっかり終えて、荷物の整理をして、バッグの中のものを確認している。
今日しなければならないことをメモ書きしているミンスの肩に、ヒョンジュンがそっと手を置いた。
ミ:今日はまず、帰りの便の予約をしなくちゃ。それと・・・銀行でエクスチェンジして・・・。それから、チェスクさんへのお土産を買って、それから・・・。(メモを見ている)
ヒ:ミンス・・・。
ミ:あなたも準備できたの?
ヒ:ミンス・・・。
ミ:なあに?
ミンスが顔を上げずに答えた。
ヒ:まだ、怒ってる?
ミ:怒ってなんかいないわ・・・。
ヒ:顔を見せて。
ミンスがゆっくり顔を上げて、ヒョンジュンの目を見る。
ヒ:オレはここで仲直りして帰りたいんだけど・・・。
ミ:・・・。
ヒ:だめ?
ミ:・・・これでも、私・・・頑張ってるのよ・・・。(見つめる)
ヒ:・・・。(切ない目で見つめる)
ミ:お願い。もう少し時間をちょうだい・・・。あなたを好きなことに変わりはないの・・・。あなたしかいないことにも変わりはないの・・・。わかるでしょう?
ヒ:ごめん・・・。
ミ:だから・・・。大丈夫・・・もう仲直りはしているわ・・・。(ちょっと微笑む)
ヒ:・・・。(じっと見ている)
ミ:夫婦だって・・・ただ並んで寝てるだけの時があるでしょ、それと同じよ。今はそうさせて・・・。
ヒ:・・・ごめん・・・。
ミ:そんなに謝らないでよ・・・。まるで、私があなたを苛めてるみたいじゃない・・・。
ヒ:うん・・・。苛めてるのは・・・オレのほうだよね・・・。
ミ:・・・。もう出かけよう。まずは朝ご飯を食べて、チケット、予約しなくちゃ。
ヒ:うん・・・。いつ帰る?
ミ:明日・・・。
ヒ:もう一日いようよ・・・。二人だけの時間を作ろう・・・。仲直りしよう。(じっと見る)
ミ:(ちょっと苦しくて、俯く)・・・。わかった・・・。
ヒョンジュンとミンスはおかゆの店で朝食をとると、旅行代理店で明後日のソウル行きを予約した。
銀行で両替をしてから、二人はぶらぶらと街を歩いている。
手をつないではいるが、なんとなくよそよそしくて、お互いにぎごちない。
ミ:チェスクさんには何がいいかしら・・・。何でも持ってる人だけど・・・。やっぱり、お土産は必要よね。お世話になっちゃったもん・・・。食器でも見ようかな・・・。どうしようかな・・・。
ヒ:ミンス。ここへ入ってみない?
ヒョンジュンが通りかかった店を指差す。
ミ:貴金属店?
ヒ:うん・・・。香港は24金のものもあるからさ・・・。
ミ:だから、どうしたの?
ミンスはヒョンジュンに引っ張られて、金を扱う店へ入った。
店:May I help you ? 何かお探しですか?
ヒ:結婚指輪を・・・。24金で。
店:こちらにあるのは・・・ちょっと幅広で・・・結婚指輪というデザインではないんですが・・・逆にちょっとおしゃれな感じがしますでしょ?
ヒ:そうですね・・・かえってつけやすいかもしれないな・・・。
店:あとは・・・カマボコ型のもの・・・。24金は細工が難しいんで、あまり細かなディテールのものはないんですが・・・こちらは財産にもなりますよ。(笑う)
ヒ:そうですね。いくつか見せてください。
ミ:ヒョンジュン!
ヒ:おまえは黙ってて。
ミ:だって・・・。
店:こちらはどうでしょう? うちで扱っているものは、品質は確かですよ。このように(壁に飾った賞状を見せる)国や貴金属協会からも表彰されています。
ヒ:はあ・・・。これ・・・いいですね・・・。
ヒョンジュンがいくつか出された指輪の中から、少しボリュームのあるデザインのものを選んだ。
店:何号ですか? 合ったサイズをお出ししますよ。
ヒ:何号?(ミンスを見る)
ミ:7号・・・。
ヒ:じゃあ、7号と、僕は自分のサイズがわからないんです。指輪なんてはめないから・・・。
店:お調べしましょう。こちらをはめてみてください。
ミ:ヒョンジュン!
ヒ:いいだろう? 買っても。
ミ:・・・。
ヒ:オレは今買いたいんだ。
ミ:・・・。
ヒ:おまえを失いたくないから・・・。
ヒョンジュンが強い視線でミンスを見つめた。
店:ええと・・・16号ですね・・・。あ、奥様の指にはゴールドの色がよくお似合いですね。(笑う)
ミ:・・・。(自分の指をじっと見る)
ヒ:似合ってるよ。(笑顔でミンスを見る) これにしてください。
店:こちらはお二人のイニシャルを入れますか? 結婚式の日付とか・・・。
ヒ:イニシャルをお願いします。 あのう、明日までにできますか? 旅行できているので。
店:大丈夫です。ホテルにお届けしましょうか?
ヒ:ええ。
店:かしこまりました。では、イニシャルをこちらにお書きになって・・・こちらには、泊まっているホテル名と部屋番号・・・お名前を・・・。
ヒョンジュンが二人のイニシャルを書き、ホテル名を入れている。
店:お支払いは?
ヒ:クレジットカードで。
ミンスがじっとヒョンジュンを見ている。
ヒ:いいだろう? もう買っちゃったよ・・・。オレ一人でもつけるから。(ちょっと怒った顔でじっと見る)
ミ:うん・・・。(少し困ったような顔をするが、やさしく微笑む) いいよ・・・ありがと・・・。
ヒョンジュンがミンスの肩をやさしく抱いた。
二人の記念のものを買った・・・。
この顛末としては、Happy Endだ。
これから、二人の人生が始まる。
二人の心がまたつながった。
結局、チェスクさんへの土産は決められず、有名なホテルのチョコレートを購入した。
彼女はなんでも持っているし、こんなもののほうが喜ばれるのかもしれない。
ヒョンジュンの思いが通じて、二人はゆったりと二人だけの時間を過ごした。
二人のこと以外、何も心配するもののない外国。
こんなところにずっといられたら、ミンスはヒョンジュンが自分だけのものだと確信を持って生きていけるだろう。
ホテルの窓から見た香港もキレイな夜景だった。
ヒョンジュンがミンスを後ろから抱きしめて、二人は幸せそうに、ずっと夜景を眺めた。
それから、1ヶ月。
二人はまた、いつもの生活に戻っていた。
少し変わったことと言えば、ヒョンジュンがミンスに甘えきりではなくなったこと・・・。
彼は、ミンスの前でも大人になった。
そして、ミンスも、今までのように、自分が前に出て引っ張っていくようなところがなくなった。ヒョンジュンの心にズケズケとは入り込まない。
二人の仲のよさは変わらなかったが、何もなかった時のようには戻らなかった。
それは少し寂しいことでもあったが、ヒョンジュンに少し頼りがいも出てきて、これからは文字通り「夫唱婦随」になっていくのかもしれない・・・。
二人が愛し合っている・・・それは変わることはないのだから・・・。
ソルミの絵の代金は、ヒョンジュンはいらないと言ったが、チェスクがあとで問題になるといけないからと、ソルミの家を訪ね、絵に見合う代金を請求した。
そして、ヒョンジュンの「バリ」への出張旅費もチェスクが精算した。
ミンスが時計を見ながら走っている。
そして、約束のコーヒー店に駆け込んだ。
ミ:お待たせ。
ジ:走った?(笑う)
うれしそうな顔をして、ジフンが微笑んだ。
ミ:当たり前でしょ? 急に呼び出すんだもん。
ジ:ごめん。(うれしそうに見る)
ミ:困るわ。こっちもいろいろ予定が入ってるし。
ジ:でも、来てくれたんだ。
ミ:だって、あなたのお母さんが来るって言うから。あなただけだったら、振ってたわ。
あ、アメリカン。(店員に言う)
ジ:そっか。バカ男だけだと来ないけど、ちょっと年上の人が来ると、OKなんだ。
ミ:・・・。(睨む)
ジ:よし、その手を使おう。
ミ:バカみたい。
ジ:・・・。(笑う)
ミ:あなたって、何科? なんのお医者様?
ジ:なんだと思う?
ミ:わからない・・・。なんか調子がいいから・・・。お調子者で務まるのってどんなところかしら・・・。
ジ:小児科。
ミ:ふ~ん・・・。(真面目な顔をする)
ジ:どうしたの?
ミ:いえ・・・ずいぶん、地味というか真面目というか・・・。
ジ:何?
ミ:ちょっと意外で、エライなって思っただけ。(コーヒーが来て口をつける)
ジ:そうお?
ミ:うん・・・。子供の病気ってどんどん変化して予断を許さないっていうから。たいへんな仕事だと思うわ・・・心がないとやっていけないもん・・・。
ジ:うん、そうだね。よく知ってるね。
ミ:小さい頃に、7つ上の兄が病気で亡くなったから・・・。
ジ:そうなんだ。
ミ:うん。
ミンスは、ヒョンジュンと小学校で同級生だった兄を思い出した。
自分はあまりに小さくてよく覚えていないが、ガキ大将の姉は、よく兄とヒョンジュンを連れまわして遊んだものだった。そして、大人になった彼と駆け落ちした後、姉は、ヒョンジュンのことを「よく考えたら弟のようなものだった」と語った。
ホントはどういうことだったのかな・・・。
ジ:でも、ありがとう、来てくれて。
ミ:どう致しまして。困った人よね、あなたも。
ジ:うれしいよ。
ミ:ねえ・・・お母さんにはなんて言ってあるの? ちゃんとただの友達って言ってあるわよね?
ジ:それはそうさ。君には彼氏がいるんだから。そうなんでしょ?
ミ:(笑う)そう、ならいいけど・・・。
ジ:お袋は、好きな和食器の話ができる人と、ちょっと友達になりたいだけだよ。
ミ:そうかな。・・・友達と言われてもね。
ジ:まあ少しだけ付き合ってあげて。
ミ:うん・・・。
ジ:君は今・・・幸せそうだね。(きらきらした目で見つめる)
ミ:・・・。(じっとジフンを見つめてから、肯く)
ジ:そうか・・・。駄目になったら、教えて。(笑顔で言う)
ミ:趣味悪い。(笑う)
ジ:だね・・・。あ、来た。
ミンスもジフンの見る方向を見る。
感じの良さそうな50代の女性が入ってきた。
母:お待たせしてしまって・・・。ジフンの母の、コ・ウナです。
ミ:(立ち上がって)あ、初めまして・・・。私、キム・ミンスです。
ジ:ねえ、座って。(席をつめる)
母:ありがとう。かわいい方ね。(座る)
ジ:ああ・・・。母さん、こちらのミンスさんは友達の友達で・・・。
母:・・・?
ミ:あのう・・・私はテーブル・コーディネーターをしていまして・・・。それで、共通の友人から頼まれて・・・。
母:まあ・・・そうなの・・・。でも、お一人でしょ?
ミ:それはそうですが・・・。
ジ:母さん、へんなこと言わないでね。ミンスさんを困らせないように。悪いけど、僕は夜勤があるから、これで。ミンスさんも適当なところで帰ってくださいね。
母:ジフンたら。
ジ:ミンスさん、ちょっと話をしたら、お店を紹介してやってください。母さん、それでいいだろ?
母:なんだか・・・。(物足りない・・・)
ジ:じゃあね。
ジフンは立ち上がって、二人に笑顔を残して去っていった。
母:なんだか・・・申し訳ありません・・・。
ミ:いえ・・・。
母:私はてっきり、あなたがあの子の彼女なのかと思って。
ミ:・・・どうも・・・。(下を向く)
母:でも。あの子はあなたが好きだわ・・・。(微笑む)
ミ:・・・。
母:さっき、遠くから見てたんです・・・。あの子の目が輝いていて・・・。
ミ:・・・ジフンさんは、いつも元気な方だから・・・。
母:そうかな・・・。そうでもないのよ。落ち込む時も、嫌な顔する時もあるの。私と二人暮らしだから・・・。でも、さっきは幸せそうでした。
ミ:・・・。(困る)
母:お友達のお友達なのに、困っちゃうわね。こんなこと言われても。でも、よろしく。お友達としては、きっといい子ですよ。
ミ:あ、はい。
母:じゃあ、お店を見ながら、お話できるかしら?
ミ:ええ。では行きますか? このお店のすぐ前なんです。
母:そう・・・。
ミンスとジフンの母親は肩を並べて、コーヒー店を出た。
ジフンの母親と和食器の店に寄ったものだから、ヒョンジュンとの約束には大幅に遅れて、ミンスはヒョンジュンのマンションにたどり着いた。
ミ:(玄関で靴を脱ぎながら)ごめ~ん。ちょっと急用ができちゃって・・・。
ミンスが急いで中へ入る。
ヒ:よう。(笑顔)
ミ:なんかいいニオイがするけど。(笑う)
ヒ:今日は、オレの料理を食べてもらおう。
ミ:どれどれ、見せてごらん。
ヒ:どうお? お母様、よくできてる?
ミ:なかなかいいじゃない。これで味がよかったら最高!(笑う) じゃあ私・・・テーブルの、用意するね。
ヒ:うん。今日は、ミンスを口説きたいからねえ・・・。頑張ったよ。
ミ:ふん。(笑う) もっと口説くの?
ヒ:そうだよ。
ミ:ふ~ん。(笑う)何を言い出すやら・・・。
テーブルを拭きながら、左手の薬指を見る。
香港で、ヒョンジュンが買ったお揃いの指輪・・・。
彼は、「結婚指輪」と言った。
確かに、ダイヤも入っていないから、婚約指輪ではないのかもしれない・・・。
でも、これは一生、この指にはめる指輪だ。
私たちの愛の証だ。
あの時のヒョンジュンを思い出して、ミンスはちょっと体が熱くなった。
あの香港のホテルの部屋で、彼は指輪の箱を開け、二つ並んでいる指輪の小さいほうを取り出して差し出すと、ミンスの目をじっと見つめてこう言った。
「いつもオレを温かく包んでくれる君。君にオレの全てを捧げます。どうか受け取ってください・・・」
「・・・ヒョンジュン・・・」
そういうと、少し震える手で、ミンスの薬指にはめた。
「いつまでも、一緒にいて・・・。愛してるよ。今もこれからもずっと・・・愛しているよ」
「うん・・・。私も・・・」
ヒョンジュンはミンスをギュッと抱きしめた。
ヒョンジュンの腕に抱かれると、ヒョンジュンの思いがどんどんミンスに伝染してくるようで、今まであったミンスの拘りが解けていくような気がした。
二人が愛し合っていること・・・この今の時点からまた全てが始まって、二人の幸せが約束されたような気がする・・・。
彼の腕に身を委ね、ミンスはヒョンジュンの顔を見上げた。
「愛して・・・全身で愛して・・・もうあなたの全てが私のものだって、教えて」
「・・・ミンス・・・。オレの全てはもうおまえのものだよ・・・おまえの全ても・・・」
「あなたのものよ・・・だから、教えて・・・二人はずっと一緒だって・・・」
「うん・・・」
ヒョンジュンがミンスを抱いたまま、ベッドに倒れこんだ。
ミンスがテーブルにカトラリーを並べていると、テーブルの上のヒョンジュンの携帯が鳴った。
ミ:携帯が鳴ってる。(ヒョンジュンのほうを向く)
ヒ:あ、今行く。
ヒョンジュンは火元を消して、携帯を取り上げる。知らない番号だったが、一応電話に出てみる。
ヒ:もしもし。
ソ:こんばんは。
ヒ:・・・。
ソ:ご無沙汰ね。
ヒ:ええ・・・。
ソ:今、ちょっと出先からなの・・・。
ミ:(小さな声で)誰?
ヒョンジュンが後ろを向いた。ソルミからの電話だった。
ヒ:何かご用でしょうか?
ソ:あなたが急用で帰ってしまったから、あれから寂しかったわ・・・。
ヒ:それはどうも・・・。
ミンスは後ろを向いているヒョンジュンの様子が少しおかしいので、イスに腰かけてヒョンジュンの背中をじっと見ている。
ソ:私、怒ってなんかいなくてよ。それより・・・。
ヒ:なんですか?
ソ:あなたにお知らせしなくてはいけないことができたの。
ヒ:何・・・?
ソ:そのね・・・。あれから・・・月のものがないの・・・。そのことを父に話したら、あなたを呼ぶようにって。
ヒ:・・・。(青ざめる)
ソ:わかるわね? 明日、5時にうちにいらして。必ずね。お話の意味、おわかりでしょう?
ヒ:・・・ええ・・・。
ソ:では明日。お待ちしているわ。じゃあ。
ヒョンジュンは、ゆっくりと携帯を切った。
携帯を閉じる自分の左手の薬指の指輪をじっと見つめる。
ミ:ねえ。どうしたの? 何かあった?
ヒ:・・・うん・・・。(力なく言う)
ミ:ヒョンジュン?
ヒ:・・・自分で・・・全て・・・壊しちゃった・・・。全てを壊しちゃった・・・。
ミ:え? ヒョンジュン? どうしたの?
しばらく固まったようにじっと考え込んでいたヒョンジュンが、決意したような目をして、ミンスのほうへ振り返った。
5部へ続く・・・