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 「恋がいた部屋」8部

2015-09-22
なんでそんなに
見つめるの

なんでそんなに
私を求めるの


もう終わったことと
諦めて


どうか
私の心を
解放して

どうか
もう
そっとしておいて・・・



お願い


どうか
もう・・・





どうか・・・


ずっと

私を
愛していてください









「なんでそんなこと言うの・・・」
ミンスは苦しそうに、ヒョンジュンの顔を見つめた。




主演:ぺ・ヨンジュン
   チョン・ジヒョン
   
【恋がいた部屋】8部-1






ミ:そんなこと、言わないでよ。
ヒ:・・・。(じっと見つめる)
ミ:お願いだから・・・。
ヒ:・・・いけない?
ミ:・・・。


ミンスは通りの真ん中で、今にも泣き出しそうだ。
さっきのさっきまで封印されていたヒョンジュンへの思いが噴き出すように、心の中を満たしていく。
今すぐ、ヒョンジュンの胸に倒れこむように抱きつきたい・・・。

でも、ミンスはそこで止まった。


ミ:困らせないで・・・。
ヒ:・・・。おまえは忘れたの・・・?
ミ:・・・。お願い・・・困らせないでよ。
ヒ:心から、おまえが消えないんだ・・・。

ミ:もう何も言わないで・・・。私のことは忘れて。
ヒ:おまえはそれでいいの?
ミ:・・・。

ヒ:少し歩こう。
ミ:・・・もう一人で帰るわ。(タクシーを探しにいこうとする)
ヒ:・・・。歩こう。

ヒョンジュンがミンスの左腕を掴んで引っ張った。

ミ:ヒョンジュン!

ミンスはヒョンジュンに引っ張られ、通りから脇道に入った。


ミ:放して。手を放してよ!
ヒ:・・・。
ミ:ねえ!


少し歩いたところで、アパートへの入り口なのか、黒い鉄格子の門があり、そこへミンスを押し付けた。ミンスは、鉄格子を背に、目を見開いて、ヒョンジュンの顔を見つめた。


ヒ:少し、オレに時間をくれ。
ミ:・・・。(じっと見る)
ヒ:ミンス・・・会いたかった・・・。(やさしい目をする)
ミ:・・・。

ヒョンジュンの顔が近づいたが、ミンスは横を向いた。


ヒ:ミンス・・・。
ミ:・・・。
ヒ:・・・ミンス。(少し目が潤む)
ミ:(横を向いたまま)・・・人の気も知らないで・・・。
ヒ:・・・。
ミ:自分の気持ちだけ、押し付けないで。
ヒ:・・・。
ミ:・・・。(ヒョンジュンの方を見る)帰ってこなかったくせに。
ヒ:?
ミ:赤ちゃんなんて・・・いなかったんでしょ?
ヒ:・・・。
ミ:でも、私のもとへは、戻らなかった・・・。
ヒ:それは・・・。
ミ:私、ずっと思い違いをしてた・・・。あなたは・・・。あなたは私を一番愛してるって、そう思い込んでた・・・。
ヒ:・・・。(泣きそうな顔)
ミ:でも・・・冷静に考えると、今、あなたは安泰な暮らしをしてて、それで私を求めているのよね?
ヒ:ミンス・・・。


ヒョンジュンは力ずくで、ミンスを引き寄せて、抱きしめる。

ミ:ねえ、言葉で言ってよ! あなたの気持ち。
ヒ:・・・。
ミ:・・・あなたは、私の思い出を懐かしんでいるだけよ、きっと。じゃなければ・・・本当の私を手放すはずがない!  自分だけ、安泰な所にいて、私を求めるはずがない!


ミンスは泣きそうになりながら、強い口調で言った。


ヒ:許して・・・。ミンス、許して。


ヒョンジュンは腕の中のミンスの顔を覗き込んだ。

ヒ:許せない気持ちもわかるけど・・・許して。
ミ:・・・。(泣いている)そんなこと言っても、きっとあなたは今の城から出て来ないわ・・・。
ヒ:ミンス・・・。
ミ:仕事もうまくいってるし・・・もう、あなたはソルミさんのものなのよ・・・。


ヒョンジュンは、より力を入れて、ミンスを抱きしめた。

ヒ:怒らないで。説明させてほしいんだ。
ミ:あなたの都合のいいように?
ヒ:・・・。
ミ:・・・これ以上、私を惨めにさせないで!
ヒ:・・・。


ヒョンジュンがミンスを抱く手を緩めた。ミンスはゆっくり、ヒョンジュンから離れ、流した涙を指先で拭き取る。


ミ:この間、チェスクさんが、あなたの絵をうちから持っていったわ。こんな絵と暮らしてちゃいけないって。その時は胸が痛かった・・・。あの絵の中には、あなたの魂がいて・・・私とずっと添い遂げると思っていたから・・・。でもね、そのあと、わかったの・・・。あなたが、ソルミさんの妊娠がうそだったってわかっても、私のもとへ戻る気がなかったことが。・・・それがショックだった・・・。あなたは、ホントによその人のものになってしまったのよ・・・。

ヒ:・・・。

ミ:あなたの作る服を着て、あなたの愛を感じてた・・・。でも、もしかしたら、それは、ソルミさんより、私のほうが作りやすいだけで、それで作っていただけかもしれないって、気がついたの。・・・全て、私の勘違い・・・驕りだったわ・・・。

ヒ:・・・そんなことはないよ・・・。ホントにおまえのために作ってる・・・。おまえ以外のためになんか、作る気になんかなれないんだ・・・。
ミ:・・・。
ヒ:戻りたかった・・・すぐにでも、おまえの所へ戻って、謝って、抱きしめてほしかった・・・。

ミ:・・・でも、戻ってこなかったわ・・・。(俯く)
ヒ:・・・おまえを泣かせたのに、また泣かせそうで、怖かったんだ。
ミ:・・・そんなの、詭弁よ・・・。本当にそう思っていたら、実行するわよ。

ヒ:・・・かもしれないね・・・。


ヒョンジュンは、ミンスから目を逸らして、黒い鉄格子を握り締めた。


ヒ:オレって・・・ズルいんだ。きっと・・・。
ミ:・・・。


ミンスの目に、ヒョンジュンの左手の小指のリングが見えた。香港で買った純金のリング。彼はサイズを直して、小指に嵌めていた。
ミンスはそれから目を逸らした。


ヒ:愛しているのは、おまえなのに・・・この仕事も捨てられないんだ・・・。(鉄格子の向こうを見る)
ミ:・・・。

ヒ:結婚する時に、ソルミの父親の、会長がくれた仕事なんだ・・・。最初は嫌だった。画家を続けたかったから・・・。でも、実際やってみると・・・自分の力以上に大きな仕事ができる・・・。(ずっと鉄格子の向こうを見ている)
ミ:・・・。


門を入ったところは、中庭になっていて、アパートの住人たちの共有スペースだ。奥の建物から、小さな子供と母親が出てきて、母親がボールを軽く投げ、子供がボールを追いかける。


ヒ:結局、オレは・・・おまえと温かい家庭を夢見ながらも、鉄格子の中から出ていけないんだ・・・。(じっと親子の様子を見ている)
ミ:富と名声が必要なの? 画家としてだって、これから道は開けていくのに・・・。うそで作ったものを続けていくの? それとも・・・ソルミさんを捨てられないの・・・?

ヒ:会長はね・・・オレを信じているんだ・・・。オレに全てを託しているんだ・・・。あの人も・・・ソルミに騙された。2年前の医者の診断書で、騙された・・・。
ミ:え?(驚く)

ヒ:あれは、2年前のものだった・・・。日付を改ざんしてコピーしたものだよ・・・。会長は・・・もっと後継者になる男との結婚を望んでいたけど、ソルミに子供ができたと聞かされて・・・仕方なしにオレを受け入れたんだ。
ミ:・・・でも、もう、うそはバレたのよ・・・。

ヒ:うん・・・。でも、あの人はオレをかってくれる・・・。オレもそれに応えようとして、今までやってきた・・・。あの人を裏切れないんだ・・・。
ミ:・・・女は裏切っても・・・?


ヒョンジュンがミンスを見て、やるせない目をした。


ミ:二人の女の気持ちを裏切っている・・・今のあなたは・・・。ソルミさんもうそつきだけど・・・あなたもうそつきね・・・。結局、あなたは仕事を取ったのね?
ヒ:・・・。
ミ:そう・・・。女子供とは違うんだわ・・・あなたは・・・。
ヒ:・・・。


ミンスは、今までの苦悩の表情を変えた。そして、姿勢を正して、ヒョンジュンをまっすぐに見た。


ミ:・・・だったら、私なんて求めないで。忘れてください・・・。私も忘れます・・・。
ヒ:ミンス・・・。

ミ:・・・大恋愛だと思っても、人は恋を失うわ・・・。私もそう・・・。だから、あなたもそうして下さい。
ヒ:・・・。
ミ:そうしてくれたら・・・私も新しい一歩を踏み出せます・・・。もう、忘れて・・・。

ヒ:・・・おまえがいないと・・・。(そこで口ごもる)
ミ:ヒョンジュン、あなたは選択したのよ、私を捨てる。迷わないで。
ヒ:・・・。
ミ:私も、そうする・・・。あなたを捨てる・・・。今まで、あなたへの思いに引きずられて、周りの人に悲しい思いをさせちゃった・・・。もう、あなたはとっくに、私を捨てていたのに・・・。

ヒ:ミンス、そんな言い方、しないで。オレには、おまえが必要なんだから・・・。
ミ:・・・それは。それは、あなたの心の中だけにしてください。あなたはもう、妻もいて、大きな事業を継ぐ決心をしてるんです。私は・・・ただの思い出よ。
ヒ:・・・。
ミ:・・・よかった、今日、あなたに会えて。このままむなしく、無駄に時間を過ごすところだったわ。やっと決心できたわ。

ヒ:ミンス・・・。
ミ:さようなら。(睨むように見つめる)


一人歩き出そうとすると、ミンスの腕をまた、ヒョンジュンが掴んだ。


ヒ:いつ、帰るの?
ミ:・・・。(そっぽを向く)
ヒ:いつ?
ミ:・・・。(俯く)
ヒ:いつだよ!

ミ:日曜日・・・。


ヒ:なら、明後日のファッション・ショーだけは来てほしい・・・。
ミ:・・・。(ヒョンジュンの顔を睨む)
ヒ:おまえにも見てもらいたいんだ。

ミ:あなたの成功を?
ヒ:・・・。(じっと見つめる)
ミ:あなたが私のもとへ戻らなかった訳を?

ヒ:・・・ミンス・・・。
ミ:あなたが喝采を受けるところを?
ヒ:・・・。

ミ:ソルミさんだって来るでしょう? 夫の成功する姿を見に・・・。
ヒ:彼女は来ないよ・・・断った・・・。彼女には、オレの仕事に関わってもらいたくないんだ・・・。
ミ:ずいぶん、意地悪な夫なのね・・・。
ヒ:・・・。
ミ:奥さんなら、大切にしなくちゃ。

ヒ:とにかく来て。


ヒョンジュンは内ポケットから、手帳を出し、中に挟まっている招待状を一部、ミンスに渡した。

ミンスは、それを眺めた。
ヒョンジュンの胸で温められた匂い袋の香りがする。
それが今は、胸に痛く香る。


ヒ:仕事で会った人に渡そうと思って、予備に持って歩いているんだ。
ミ:・・・。
ヒ:おまえを忘れよう・・・。(言葉がつまる)でも。これだけは来てほしい。


ミンスは今のヒョンジュンの言葉に胸が詰まった。彼に「忘れろ」と言いながら、本当にその言葉を耳にすると、いても立ってもいられない気分になる。

この恋を終わらせるためには、このショーを見なくてはならないのかもしれない・・・。


ミ:最後通告ね。私が敗退した理由の・・・。(招待状を見ている)
ヒ:必ず、来て。(ミンスを見つめる)

ミ:(頷く)わかった・・・。行くわ。必ず・・・。


ヒョンジュンは、ミンスを引き寄せて、抱きしめた。ミンスは、これで最後と、素直に抱かれた。
ヒョンジュンの胸から、やさしい香りがした。

これが恋の終わり・・・。
ミンスは目を閉じて、彼に体を預けた。






翌日は、少し心が落ち着かなかったが、ミンスは精力的に仕事をこなし、明日のヒョンジュンのファッションショーへ行く準備をした。

ショーは夕方からだったので、仕事での会食用に持ってきたドレスをホテルのドレッサーからとり出した。

鏡の前で合わせる。

やっぱり、これにしよう。

それは、H(アッシュ)・joonのもので、まるでミンスのためにあつらえたように、ミンスを美しく見せるロング丈のドレスだった。モスグリーンの色合いは、ミンスの肌をキレイに映し出す色だったし、腕の長さも測ったように、彼女にぴったりだった。それに合わせて買ったコートを羽織る。コートから少し出る裾もまるでコートのデザインのように美しく決まった。

これを購入した時、店員が試着するミンスを見て、うれしそうに微笑んだ。

「こんなに絶妙なバランスで着られるお客様って少ないんですよ。皆さん、少し丈を上げて、バランスを取るんです。」


ヒョンジュンのお祝いだもの・・・これを着ていこう・・・。
これも、着納めかな・・・。もう、ヒョンジュンの服は捨てよう・・・。

もう、これで終わるんだ・・・。


ミンスは、鏡に映る自分の姿を名残惜しそうに見つめた。


自分の目で恋の終わりを確認する・・・。
もう、口には出さない・・・。

たとえあなたが、心から去らなくても、私はこれで終わりにするわ・・・。
だから・・・あなたが・・・本当は、まだ私を好きでも・・・終わりにしなくちゃ駄目よ・・・。

それが、これからのあなたの幸せだから・・・。

わかってる・・・私を好きだってことは・・・。
でも、終わりにしましょう・・・。




ミンスは首から提げていた純金のリングを外した。
手の中のリングを見る。


じっと思いに耽っていると、携帯が鳴った。


ミ:もしもし?
ジ:生きてる?
ミ:うん。大丈夫。
ジ:声がしっかりしてるな・・・。なんかあった?
ミ:なんかって?
ジ:うん? なんか・・・昔のミンスが戻ってきた感じがしたから。

ミ:戻ってきた?
ジ:元気がさ・・・。ルーブルは行ったの?
ミ:まだ。仕事ばかりしてたから・・・。明後日行って、帰るわ。
ジ:そうか・・・最後に行くのか・・・。(しんみりと言う)
ミ:どうしたの? しんみりしちゃって。
ジ:いや・・・。君の恋の終わりがあるのかなと思って・・・ルーブルに・・・。


ミンスは胸が詰まって、言葉が出なくなった。


ジ:ごめん、変な言い方して。まだ、ホントの元気じゃなかったね。うん・・・元気になる途中で、こんなことを言っちゃいけなかった。ごめん・・・。

ミ:ジフン!
ジ:・・・何?

ミ:あなたは、最高の人よ!
ジ:・・・。
ミ:ありがとう!(泣き声になる)

ジ:・・・。元気出せよ。
ミ:うん!


そう言うと、ミンスは電話を切った。


こんなに温かいあなたを一番に愛せたら、どんなに幸せだっただろう・・・。
何も失わず、心豊かに暮らせたはずよね・・・。
ホントにあなたほどの人はいないわ!

鏡に映った自分を見る。

ヒョンジュンのドレスをいつもまとっている自分を、丸ごと、愛してくれるジフン!

あなたほどのやさしさも包容力も、私にもヒョンジュンにもないわ!

私たちにあるのは、自分だけの「恋人」、自分だけを愛してくれる「恋人」を手に入れようとする気持ちだけ・・・。
うううん、それは、「ヒョンジュンと私」でなければ駄目なの。私たち、二人でなければ駄目なのよ!


ミンスは、ヒョンジュンへの思いを断ち切る苦しさに、声をたてて泣いた。








ショーの当日のヒョンジュンは朝から忙しかった。朝9時から、会場になるクラブハウスに入り、綿密な打ち合わせをし、モデルたちの衣装を確認した。
ときどき、ミンスのことが頭を過ぎったが、それをゆっくり考えている時間がなかった。

とうとう、5時近くになって、いよいよ開演の準備に入った。


スタッフがヒョンジュンのもとへ飛んできた。


ス:先生!
ヒ:何?
ス:奥様とお友達の皆さんがいらっしゃいました。
ヒ:え?
ス:それで、右側前列を皆さんにお取りしたんですが、それでいいですよね?
ヒ:あ、そう・・・。ありがとう。


やはり、ソルミはやって来た。
舞台の袖から覗くと、ソルミが楽しそうに遊び仲間と話している。一人がヒョンジュンを見つけ、ソルミに声をかけた。ソルミがヒョンジュンのほうを見て、うれしそうに手を振った。ヒョンジュンはちょっと作り笑いをして、袖に引っ込んだ。

控え室で、スタッフと打ち合わせをしていると、ソルミが入ってきた。


ソ:ヒョンジュン!
ヒ:来たのか。
ソ:当たり前でしょ? 断られても来るわよ。晴れの舞台だもの。いい感じね、ここ。
ヒ:ああ。
ソ:何よ。(笑う)まあ、あなたには迷惑をかけないわ。あなたが言う通り、ちゃんとお友達と一緒にきたんですもの・・・。今日はこの後、皆でお食事に行くの。それから明日はお買い物・・・。これなら、いいでしょ?
ヒ:・・・うん。

ソ:あなたのドレス、着るべきだったかしら・・・。でも、どれも似合わないの・・・。今度こそ、妻に似合う服を作ってね。(睨む)
ヒ:・・・。もう行ったら。もうすぐ始まるよ。
ソ:・・・うん・・・。じゃあね。頑張って! (スタッフに気づいて)あ、皆さんも頑張ってね!


ソルミが客席へ戻っていった。


ス:奥様はいつも元気ですね。
ヒ:ふん。(鼻で笑う) じゃあ、頑張っていきましょう!
ス:はい!



ミンスは、開演ぎりぎりの時間を選んでやってきた。準備は早めにしていたが、このショーをソルミが見に来ないという言葉が信じられなかったから・・・。
もし、ロビーでばったり出会ってしまったら、ヒョンジュンと自分のことを疑われるだろう・・・。

ミンスは人気のなくなった受付へやってきた。

ミンスが会場へ入ってくると、受付のスタッフ2人が驚いたように、ミンスを見つめた。
裏から出てきたスタッフも、ミンスを見ると、ぎくっとして、じっと見つめた。


ミ:お願いします。(招待状を見せる)
ス:こちらにご記帳願います。


ミンスはペンを持って、ちょっと考えたが、本名で書くことにした。

ス:キム・ミンス様ですか?
ミ:ええ・・・。
ス:あのう・・・こちらに、ヒョンジュン先生から、お手紙を預かっております。

ミ:そうですか・・・。


スタッフがミンスに封書を手渡したが、その手は、少し震えた。
ミンスが「え?」という顔をして、スタッフを見つめると、スタッフは顔を赤らめた。


ス:コートはあちらのクロークへお預けください。
ミ:そう・・・ありがとう・・・。


ミンスがクロークへ移動していくのを、スタッフたちがずっと見つめている。

ミンスはドアを開け、会場に入った。

その後ろ姿を見て、スタッフたちが顔を見合わせた。


ス1:あの人だよね、きっと。
ス2:そっくりだもん・・・。あの人なんだ・・・。あの人のために作ったんだ・・・。
ス1:でも・・・ソルミさん、来てるわよ。

スタッフは、顔を見合わせた。


会場の中は、少し薄暗かったが、ソルミが一番前を陣取っているのが見えた。ミンスは見えないように、ソルミ側の一番後ろに座った。


ショーが始まり、新作が続々と登場した。
どれも、ミンスの好みのデザインだった・・・。

でももう、これを買うことはないだろう・・・。

最後に会場が一段と暗くなって、最後のマリエ(花嫁衣装)が出てきた。

ゆっくりと、ゆっくりと、前へ歩いてくる・・・。

ミンスは、そのモデルに見入った。

それは・・・ミンスだった・・・。ミンスにそっくりな20ぐらいの東洋人・・・。
真っ白なウエディングドレスで、無表情にゆっくりと歩く・・・。

後ろから、細身の黒のスーツに白シャツ、ノーネクタイのヒョンジュンが現れた。

会場に、拍手と歓声が沸き上った。

後ろから来たヒョンジュンの腕に、マリエが腕を通す。

暗闇の中から、ミンスはヒョンジュンをじっと見つめた。
ヒョンジュンからも見えるのだろうか・・・。ヒョンジュンがミンスの方を見つめて、微笑んだ。

ミンスは息苦しくなって、立ち上がった。そして、ドアに向かう。
ドアのところに立っていたスタッフがミンスを呼び止めた。

ス:すみません。今、開けられません。光が入るので、3分ほどお待ちください。


ドアに貼りついたようにミンスは立ち尽くした。

ショーが終わり、会場のライトが点灯する瞬間、ミンスは逃げ出すように、会場を飛び出した。

ヒョンジュンはその後ろ姿を見つけて、控え室から、ミンスを追う。


ス:先生!
ヒ:ご苦労様!予定通り、皆で打ち上げに行って!
ス:先生は?
ヒ:後で・・・後で連絡します! ご苦労様!



ミンスは、クロークでコートを受け取り、足早にクラブハウスのタクシー乗り場へ急ぐ。


最後のマリエに、ミンスは衝撃を受けた。

どうしたらいいの・・・。どうしたら・・・。


タクシーを待ち、乗り込もうとすると、後ろから男が押した。

驚いて振り返ると、ヒョンジュンだった。
ヒョンジョンが一緒に乗り込み、タクシーは発進した。


隣に座ったヒョンジュンは、何も言わず、じっと前を見ている。

ミンスは涙を浮かべながら、ヒョンジュンの横顔を見た。
ヒョンジュンがやさしくミンスの肩を抱いた。

ミンスは、ヒョンジュンの方へ体を向き直して、両手でヒョンジュンの顔を包んだ。
ヒョンジュンと近い距離で見つめ合う。


ミ:エゴイスト!
ヒ:・・・。

ミンスは泣きそうな顔で、ヒョンジュンの顔を引き寄せ、熱いキスをした。




9部へ続く・・・