「恋がいた部屋」9部
2015-09-22
終わらせたはずの恋を
あなたは
蒸し返す
自分から
別れたのに
なんで今さら・・・
私の心は
痛いです
苦しくて
苦しくて
今にも
溺れそうです
助けて
あなたがいなくても
生きられるわ
生きていくわ
お願い
行かせて・・・
お願い・・・
もっと
そばにいて・・・
ミンスのホテルの部屋のベッドの上に、ヒョンジュンとミンスは向かい合って座っている。
ヒョンジュンが愛しそうに、ミンスを見つめている。
主演:ぺ・ヨンジュン
チョン・ジヒョン
【恋がいた部屋】9部
ヒョンジュンの手がそっとミンスの肩に触れた。
今までなら、簡単に触れられたミンス・・・。
ベッドの上で向かい合ってみると、今のミンスは、とても遠い人のような気がする。二人の間には、もうはっきりとした仕切りがあって、それを簡単に乗り越えることができない・・・。
自分から去っていったのに・・・今のヒョンジュンは、触れたくて触れられないもどかしさに、余計ミンスが恋しい。ミンスへの愛しさが募ってくる。
ヒ:ああ・・・。(ため息をもらす)
ヒョンジュンがミンスの肩を撫でた。
ミンスはやるせない目をして、ヒョンジュンを見ている。
ミ:なんで、あんなものを発表しちゃったの・・・?
ヒ:・・・。おまえもソルミも来る予定じゃなかったから・・・。オレが一番ほしいものを描いただけだよ・・・。
ミ:・・・。今でも・・・ほしい・・・?
ヒ:・・・うん・・・。(寂しく笑う) でも、こうしてみると・・・おまえにはもう、手が出せないんだね・・・。
ミ:・・・。私だけじゃなく、ソルミさんも傷つけるエゴイストのくせに・・・。
ヒ:・・・。ホントに・・・。
ミ:常識的になるのね・・・。
ヒ:おまえをまた傷つける・・・。
ミ:・・・。
ヒ:・・・。
ミ:帰ったほうがいいわ・・・。彼女が心配しているわ。あんなものを見せられたんだもの・・・。きっと辛いはずだわ・・・。
ヒ:・・・。オレはおまえといたいんだ。
ミ:私を愛人にするの? 2番目の女? 人気デザイナーの愛人・・・。
ヒョンジュンは俯いた。愛するミンスをそんな立場にはできない。
ヒ:おまえをそんな立場にはできないよ。
ミ:そう思っているなら、なぜ、私を追ってきたの? 周りの人はもうおかしいと思っているわ。恋も仕事もほしいなんて・・・そんなこと、もう許されないのよ。
ヒ:・・・。
ミ:もう少し大人になって。
ヒ:・・・。
ミ:もう終わりにしましょう。
ヒョンジュンが燃えるような目をして、ミンスを押し倒した。
ヒ:終わりになんかできない。(ミンスを見下ろす)
ミ:・・・。(睨むように見つめる)
ヒ:忘れることができないんだ。現におまえだって、こうしているじゃない。
ヒョンジュンは、ミンスの髪を撫でて、顔を見つめてから、ミンスの胸に顔を埋める。
ミンスもやさしくヒョンジュンの頭を抱くが、切なさに涙が流れる。
ミ:ヒョンジュン・・・。
ヒ:おまえがいなくなったら、心が空っぽになる・・・。
今、ミンスの上に覆いかぶさったヒョンジュンの温もり、どっしりと体にかかる重さ・・・。
懐かしさに、ミンスは全てを委ねたくなる・・・。
ミ:ヒョンジュン、やめて。
ヒ:・・・。(ゆっくりと顔を上げる)
ミ:駄目よ。
ミンスはヒョンジュンを押し退けるように、力いっぱいヒョンジュンを押す。
ミ:駄目よ。こんなことしちゃ。
ヒ:ミンス・・・。
こんなことしちゃ駄目・・・。
本当に私がほしいなら、正々堂々きて・・・。
ミ:ねえ、ねえ、駄目よ。
ヒ:・・・。
ヒョンジュンは嫌がるミンスの顎を掴んで、力づくでキスをする。ミンスがもがくので、ヒョンジュンは、ミンスの両手を、ミンスの頭の上のほうへ押さえつけた。
長いキスをして、二人は見つめ合う。
ヒ:・・・。(少し恐い顔をして見つめる)
ミ:・・・もう帰って。(負けない)
ヒ:・・・。
ヒョンジュンが荒く息をする。
ミ:帰って・・・。わかって、私の気持ち。
ヒ:・・・。
ミンスの顔の上にヒョンジュンの涙が落ちた。
ミ:諦めて。私のことは諦めて。ヒョンジュン、ほしいものを全部持ってる人なんていないわよ。手に入らないものもあるわ・・・。
ヒ:・・・。
ミ:もう行って。今日は打ち上げか何かあるんでしょ? (やさしく言う)今なら、間に合うわ。ね、ホストがいなくちゃ駄目よ。皆、待ってるわ・・・。
ヒ:ミンス・・・。(悔しそうな、悲しい目をしている)
ミ:・・・ね・・・。
ヒョンジュンがミンスの手を放した。
ミンスは、やさしくヒョンジュンの髪を撫でた。その指で、ヒョンジュンの顔をなぞる・・・。
唇に触れる。ミンスはじっとヒョンジュンの唇を見た。
大好きだった唇・・・。
また、上からヒョンジュンの涙が落ちてきた。
ミンスがヒョンジュンの目に視線を動かす。上からじっと見下ろしているヒョンジュンの目がやるせない。ミンスは少し微笑んだ。
ミ:泣かないで・・・おバカさん・・・。(涙を拭ってやる)
ヒ:・・・。
ミ:打ち上げをすっぽかしちゃ駄目よ。・・・さあ、起きて。
ヒ:・・・。
ミ:・・・。(優しい目をする)
ミンスはヒョンジュンの首に腕を回して、ヒョンジュンの頭を引き寄せて、抱きしめた。
二人はしっかりとお互いを抱きしめた。
玄関に立ったヒョンジュンのスーツのジャケットを後ろから、ミンスが直す。ヒョンジュンがミンスのほうを振り返る。
ミンスはヒョンジュンの顔を見ないで、ジャケットの襟を引っ張って、襟を直す。胸の辺りをちょっとはたいて全体を見る。
ミ:これでいいわ・・・。もう行きなさい・・・。
ヒ:・・・。(まだ本当は行きたくない)
ミ:ヒョンジュン・・・。ありがとう・・・。あのマリエは素敵だった・・・。素敵なショーだった。招待してくれてありがとう・・・。
ヒ:・・・ミンス。
ミ:もう行って。あなたのための会に、穴を開けちゃ駄目よ。
ヒ:・・・うん・・・。
ヒョンジュンは、ミンスに押し出されるように部屋を出た。
ホテルの前から、タクシーに乗り、打ち上げ会場へ向かう。
タクシーの窓の外の景色を見る。
少し気持ちが揺らいで、涙がこぼれたが、さっと拭って、次の瞬間、大人の男の顔になった。
ミンスは一人、ホテルの部屋に佇んだ。
まだ、ヒョンジュンの温もりもニオイも残っていた。
自分の選択は正しかったのか・・・。
彼しか愛せないのなら、愛人でもなんでもなればいいじゃないか・・・。
ヒョンジュンはさっきまでここにいた。久しぶりに、彼の体の重みを感じて、ミンスは抱かれたいと思った。
それなのに、彼を追い出して・・・自分の心さえ晴れない・・・。
さっき、受付でもらった手紙・・・。
ミンスは、バッグから封筒を取り出す。
読もうか・・・捨てちゃおうか・・・。
ゴミ箱の前まで行くが、ミンスは捨てることができなかった。
ベッドに座って封筒を開ける。
「ミンスへ
今日は来てくれてありがとう。
君とこうして、パリで出会ってしまうとは考えていなかったので、僕は、今日のコレクションでは、自分の一番描きたかったものをマリエに選びました。
君は怒るだろうか。
動揺するだろうか。
一昨日、君に偶然出会って、どうしても、君に見てほしくなった。僕の心のうちを。
君は僕をズルイと言ったけど・・・これが僕の心の中です。
僕は本当にズルイです・・・。
でも、君のいない世界を考えると、とても生きていけそうにありません。
君と別れたあとでも、君は僕の心の中にずっと住んでいました。
新しい仕事を始めるときに、励ましてくれたのも君だった・・・。
僕が何をデザインしたらいいか、迷ったとき、心の中の君が「私を描いて・・・」と僕に囁いた。
朝、コーヒーを飲もうとすると、「朝はカフェインの強いアメリカンの方が目が覚めるわよ」と君が囁く。
部下に何か陣中見舞いをと考えると、心の中の君が「ケーキにしたら」とアドバイスする・・・。
離れてしまったというのに、君は僕の中でどんどん大きくなって、僕の行くところ、どこにでもいて・・・僕に囁きかけるんだ。
でも、本当に再会した君は、妻を持ってしまった僕とは、一線を引いたところにいた。
それは、とても辛かった・・・いつも・・・一緒にいたはずなのに・・・。
僕のこの気持ちが、君を困らせているね。君が出直そうとしているのを引き止めて・・・ごめん・・・。
最後に、我儘を言わせてください。
二人で行きたかったルーブルへ一緒に行ってください。
お願いです。
一つだけ、僕に思い出を残してください。
君がこの手紙を読まなくても、君が来なくても・・・僕は、ルーブル前のテュイルリー広場で待っています。
明日、午後1時。僕は、そこにいます。
ヒョンジュン」
ミンスは、涙で手紙の文字を滲ませながら、最後まで読んだ。
言葉にならない思い・・・。
ヒョンジュンへの思いを自分の中で整理してまとめることができない・・・。
彼に会うことがいいことなのか。会わずに去ったほうがいいことなのか・・・。
ヒョンジュンの最後の我儘。
ジフンが言ったように、ルーブルに私の恋の終わりがある・・・。
悩むことはないわ・・・。
私には行くという選択しかないから・・・。
たとえ、今日の私の態度で、あなたが心変わりしても、私は行きます・・・。
あなたに会いに。
行かずにはいられないから・・・。
ヒョンジュンが打ち上げの会場からホテルに戻ると、ソルミがロビーで待っていた。
ソ:ヒョンジュン!(ソファから立ち上がる)
ヒ:・・・。どうしたの? (驚く)
ソ:・・・何してたの?
ヒ:スタッフと打ち上げ。
ソ:そう。
ヒ:どうしたの? 明日、帰る準備は? 友達は?
ソ:皆がね、あなたの晴れの日だから会いに行けって言うのよ。
ヒ:そう・・・食事は?
ソ:してきた・・・。
ヒ:うん・・・。
ソ:今日、泊まってもいいのよ・・・。(じっと見つめている)
ヒ:・・・。部屋へ行く?
ソ:うん・・。
エレベーターを待って、二人で乗り込む。
ソルミがヒョンジュンに抱きついた。ヒョンジュンはやさしくソルミを抱きしめた。
ミンスは、ジフンからの電話を受けて、明日ルーブルに行って、明後日、韓国に帰ると伝え、電話を切った。それ以上、彼には説明しなかった。
韓国へ戻ったら・・・彼にお土産を渡して・・・それで、ジフンとは別れよう。
彼に頼っていたら・・・きっと私は、自分の気持ちをごまかして、ジフンと付き合っていくに違いない。
あんなにやさしい彼・・・。
きっと、本当の相手は私ではないわ・・・もっとやさしい人・・・もっと彼を愛してくれる人・・・そうでなきゃ・・・。
もう一度、本当に一人になって出直そう。
あの部屋も引き上げよう・・・。
恋がいた部屋・・・私の夢がいっぱいだった部屋・・・もうそこに留まってはいけないわ。
寂しくても、それが自分を立て直す一番の道だわ。
甘えてはいけない・・・あの人に・・・。だって、私の心が一番にあの人を愛せないから。
ソ:ヒョンジュン・・・。
ベッドの上で、仰向けに寝転んでいるヒョンジュンの胸に、ソルミが頬を寄せた。
ソ:怒ってないわ・・・私・・・。
ヒ:・・・。
ソ:あのマリエはちょっとショックだったけど・・・。
ヒ:・・・。
ソ:あなたが愛してくれるのを待つ・・・。
ヒ:・・・。
ヒョンジュンが少し頭を上げて、ソルミの顔を見た。
ヒ:君にしては、ずいぶん殊勝なことを言うんだね。
ソ:あなたを恨めないの・・・。
ヒ:君が最初に、うそをついたから?
ソ:・・・。
ヒ:もうそんなことを考えなくてもいいよ・・・。
ソ:そう? (意外に思う)
ヒ:もうとっくに終わったことだ・・・。
ソ:なら・・・。
ソルミが起き上がった。
ソ:私たち、やり直せる?
ヒ:・・・。
ソ:・・・ヒョンジュン・・・?
ヒ:・・・ごめん・・・。
ソ:・・・ヒョンジュン?
ヒ:また、ソウルへ帰ってから、話し合おう。
ソ:ここでは駄目なの?
ヒ:帰ってから・・・。さあ、送っていくよ。
ヒョンジュンが起き上がった。
ソルミは、立ち上がった夫を見上げた。彼には、自分への愛は残っていない・・・。
結婚して2ヶ月。
それが二人の幸せな時だった。ヒョンジュンは、ソルミが妊娠していると信じていたし、夫らしく妻をかばい、やさしく愛してくれた・・・。しかし、時が経っても、変わらぬソルミのお腹を見て、ヒョンジュンが「病院へ行ったほうがよくないか。どこかおかしかったら、マズイよ」と言い出した辺りから、二人の間には気マズイ空気が流れた・・・。
ヒョンジュンがソルミの妊娠がうそだったということを確信したときから、二人の関係は、決定的に崩れた。
ヒョンジュンは、もうやさしい夫ではなくなったし、ソルミを抱くこともなくなった。
そして、ベッドでは眠らず、リビングのソファで眠った。
それでも、ソルミはそれもただの我慢比べだと思って、高をくくっていた。最初の2ヶ月は、素敵だった・・・。あの時のヒョンジュンをソルミは忘れることができない。あのヒョンジュンがいつかまた戻ってくると信じていた・・・。でも、彼は本気だった・・・。
彼は、二度と彼女のもとへは戻らなかった。
ソ:ここで寝かせて。
ヒ:帰りなさい。送っていくから。僕が送っていけばいいでしょ? 友達にも挨拶するよ。
ソ:そんなことじゃないの!
ヒ:・・・。
ソ:いさせて!
ヒ:・・・。
ソ:もう駄目なの? あの女とまだ関係があるの? (訝しそうに見つめる)
ヒ:・・・。
ソ:そうなの?
ヒ:・・・君は来るべきじゃなかった・・・。彼女は全く関係ないよ。彼女の気持ちも関係ない。僕がまだ彼女を好きなだけだ・・・。
ソ:私たち、うまくいってたじゃない・・・。
ヒ:・・・失ったものは戻らないよ。
ソ:なぜ、あの女への気持ちは戻るの?
ヒ:・・・。ソルミ・・・ごめんよ・・・結婚すべきじゃなかったね。
ソ:・・・。
ヒ:僕は、君と生まれてくる子を不幸にしたくなかった・・・。でも、その前に、もっと考えなくちゃいけなかったんだ・・・自分の本当の気持ちを。
ソ:(不安そうに)・・・離婚するの・・・?
ヒ:・・・。うん・・・。(俯く)
ソ:そんなこと・・・あなたにできやしないわ・・・お父様や私の後ろ盾がなかったら、あなた、やっていけないもの。
ヒ:・・・そんなものはもういらないんだ・・・。君だって、不幸だろ? もっとちゃんと愛してくれる人とやり直したほうがいい・・・。
ソ:でも、お父様が・・・。
ヒ:僕の代わりなんて、いくらでもいるよ。本物のデザイナーを探せばいい。
ソ:そんな・・・。あなたは本物よ・・・。
ヒ:でも、君を喜ばすことができない・・・。そんな夫なんて捨てたほうがいい・・・。
ソ:・・・いや!
ヒ:・・・。
ソ:絶対いや! 今の話はなかったことにするわ! 絶対いやよ! もう帰るわ! あなたの言うことを聞く! 聞くから、別れるなんて言わないで!
ヒ:ごめん・・・。
ソ:一人で帰るわ。ヒョンジュン、私、そんな簡単にあなたを諦められないわ! もう帰るわ。
ヒ:ソルミ!
バッグとコートを掴んで、ドアへ向かうソルミの腕を、ヒョンジュンが掴んだ。
ヒ:送るよ。(じっと見る)
ソ:・・・バカ!
ソルミはヒョンジュンの胸に顔をつけて、声を立てて泣いた。
翌日、ソルミの一行は、パリを発った・・・。
ヒョンジュンは、時計を見る。
もうすぐ午後1時だ。
ミンスは来るだろうか・・・。
時計から顔を上げると、前方からミンスがヒョンジュンのことを見つめていた。
ヒョンジュンのデザインした服を来て、長い髪を風になびかせて、ミンスが立っていた。
ミンスはヒョンジュンの前に来て、じっと彼の顔を見つめた。
ヒョンジュンは切なそうだけれど、うれしそうに微笑んだ。ミンスもやさしい笑顔で微笑み、ヒョンジュンに向けて、手を差し出した。
ミ:行きましょう。
二人は昔のように、手をつなぎ、ルーブルへ向かった。
ミ:ねえ、ダビンチコースっていうのがあるみたい・・・。(案内を見せる)
ヒ:ホントだ・・・。広くて、一日じゃ見切れないね。
ミ:うん・・・。
ヒ:まずは、どこを見るかな・・・。(案内を見る)
二人は、つないだ手で、お互いを引っ張り合いながら、絵を見て歩く。
そして、時々、見つめ合って微笑んだ。
自分の好きな絵の前で立ち止まり、じっと絵を見入る。お互いに好きなものを相手に見せた。
久しぶりに、ヒョンジュンは画家に戻り、ミンスにうんちくを語った・・・。
4階に上がって、ふと見ると、窓から、ルーブルの向こう側の建物が見えた。
ミ:なんか、この窓の構図だけでも素敵・・・。
ヒ:うん・・・。
ミンスが窓際へ行って、窓の外を覗く。
ヒ:おまえは窓が好きだね。(少し笑う)
ミ:うん・・・外の景色を見るのが好き・・・。空があって、世界が開けていく感じが好きなの・・・。でも、時々・・・部屋の中が変わっていても、窓から見ている景色がいつもと同じだと、自分の周りがすっかり変わっていることに気づかない時があるわ・・・。
ヒ:・・・。(胸が痛い)
ミ:いつもの景色を見て、振り返ったら、何にもなかったってね・・・。エンプティ。空っぽ・・・。
ヒ:・・・。
ミ:それでも、窓は好きよ・・・。(窓の外を眺める)
ヒ:・・・。(切ない)
ミ:ヒョンジュン。私ね、大学のフランス語の授業で一番最初に出てきたのが、「セッタン ミューゼ」(ここは美術館です) ここは・・・「セッタン ミューゼ デゥ ルーブル!」 やっと使えたわ! (笑ってヒョンジュンを見る)
ヒ:やっと、来たね・・・二人で・・・。見たいところがいっぱいで・・・時間が足りないね。
ミ:うん・・・いつか、また一人でゆっくり来るわ・・・。
ヒ:・・・一人で?
ミ:うん・・・(頷く) 一人で・・・。
ヒ:誰かとおいでよ。(悲しい)
ミ:うううん・・・ここは、あなたと私の夢の実現だから・・・。次は、一人で来る・・・。
ヒ:・・・。
ヒョンジュンは胸がいっぱいになって、じっとミンスを見る。
ミ:まだまだ、見たいものはあるの。早く回らなくちゃ! 時間が勿体ないわ。行きましょう。
ミンスがつないだ手を引っ張る。
ヒョンジュンは、「うん」と頷いて、ミンスに手を引かれ、二人はまた、歩き出した。
10部へ続く
あなたは
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自分から
別れたのに
なんで今さら・・・
私の心は
痛いです
苦しくて
苦しくて
今にも
溺れそうです
助けて
あなたがいなくても
生きられるわ
生きていくわ
お願い
行かせて・・・
お願い・・・
もっと
そばにいて・・・
ミンスのホテルの部屋のベッドの上に、ヒョンジュンとミンスは向かい合って座っている。
ヒョンジュンが愛しそうに、ミンスを見つめている。
主演:ぺ・ヨンジュン
チョン・ジヒョン
【恋がいた部屋】9部
ヒョンジュンの手がそっとミンスの肩に触れた。
今までなら、簡単に触れられたミンス・・・。
ベッドの上で向かい合ってみると、今のミンスは、とても遠い人のような気がする。二人の間には、もうはっきりとした仕切りがあって、それを簡単に乗り越えることができない・・・。
自分から去っていったのに・・・今のヒョンジュンは、触れたくて触れられないもどかしさに、余計ミンスが恋しい。ミンスへの愛しさが募ってくる。
ヒ:ああ・・・。(ため息をもらす)
ヒョンジュンがミンスの肩を撫でた。
ミンスはやるせない目をして、ヒョンジュンを見ている。
ミ:なんで、あんなものを発表しちゃったの・・・?
ヒ:・・・。おまえもソルミも来る予定じゃなかったから・・・。オレが一番ほしいものを描いただけだよ・・・。
ミ:・・・。今でも・・・ほしい・・・?
ヒ:・・・うん・・・。(寂しく笑う) でも、こうしてみると・・・おまえにはもう、手が出せないんだね・・・。
ミ:・・・。私だけじゃなく、ソルミさんも傷つけるエゴイストのくせに・・・。
ヒ:・・・。ホントに・・・。
ミ:常識的になるのね・・・。
ヒ:おまえをまた傷つける・・・。
ミ:・・・。
ヒ:・・・。
ミ:帰ったほうがいいわ・・・。彼女が心配しているわ。あんなものを見せられたんだもの・・・。きっと辛いはずだわ・・・。
ヒ:・・・。オレはおまえといたいんだ。
ミ:私を愛人にするの? 2番目の女? 人気デザイナーの愛人・・・。
ヒョンジュンは俯いた。愛するミンスをそんな立場にはできない。
ヒ:おまえをそんな立場にはできないよ。
ミ:そう思っているなら、なぜ、私を追ってきたの? 周りの人はもうおかしいと思っているわ。恋も仕事もほしいなんて・・・そんなこと、もう許されないのよ。
ヒ:・・・。
ミ:もう少し大人になって。
ヒ:・・・。
ミ:もう終わりにしましょう。
ヒョンジュンが燃えるような目をして、ミンスを押し倒した。
ヒ:終わりになんかできない。(ミンスを見下ろす)
ミ:・・・。(睨むように見つめる)
ヒ:忘れることができないんだ。現におまえだって、こうしているじゃない。
ヒョンジュンは、ミンスの髪を撫でて、顔を見つめてから、ミンスの胸に顔を埋める。
ミンスもやさしくヒョンジュンの頭を抱くが、切なさに涙が流れる。
ミ:ヒョンジュン・・・。
ヒ:おまえがいなくなったら、心が空っぽになる・・・。
今、ミンスの上に覆いかぶさったヒョンジュンの温もり、どっしりと体にかかる重さ・・・。
懐かしさに、ミンスは全てを委ねたくなる・・・。
ミ:ヒョンジュン、やめて。
ヒ:・・・。(ゆっくりと顔を上げる)
ミ:駄目よ。
ミンスはヒョンジュンを押し退けるように、力いっぱいヒョンジュンを押す。
ミ:駄目よ。こんなことしちゃ。
ヒ:ミンス・・・。
こんなことしちゃ駄目・・・。
本当に私がほしいなら、正々堂々きて・・・。
ミ:ねえ、ねえ、駄目よ。
ヒ:・・・。
ヒョンジュンは嫌がるミンスの顎を掴んで、力づくでキスをする。ミンスがもがくので、ヒョンジュンは、ミンスの両手を、ミンスの頭の上のほうへ押さえつけた。
長いキスをして、二人は見つめ合う。
ヒ:・・・。(少し恐い顔をして見つめる)
ミ:・・・もう帰って。(負けない)
ヒ:・・・。
ヒョンジュンが荒く息をする。
ミ:帰って・・・。わかって、私の気持ち。
ヒ:・・・。
ミンスの顔の上にヒョンジュンの涙が落ちた。
ミ:諦めて。私のことは諦めて。ヒョンジュン、ほしいものを全部持ってる人なんていないわよ。手に入らないものもあるわ・・・。
ヒ:・・・。
ミ:もう行って。今日は打ち上げか何かあるんでしょ? (やさしく言う)今なら、間に合うわ。ね、ホストがいなくちゃ駄目よ。皆、待ってるわ・・・。
ヒ:ミンス・・・。(悔しそうな、悲しい目をしている)
ミ:・・・ね・・・。
ヒョンジュンがミンスの手を放した。
ミンスは、やさしくヒョンジュンの髪を撫でた。その指で、ヒョンジュンの顔をなぞる・・・。
唇に触れる。ミンスはじっとヒョンジュンの唇を見た。
大好きだった唇・・・。
また、上からヒョンジュンの涙が落ちてきた。
ミンスがヒョンジュンの目に視線を動かす。上からじっと見下ろしているヒョンジュンの目がやるせない。ミンスは少し微笑んだ。
ミ:泣かないで・・・おバカさん・・・。(涙を拭ってやる)
ヒ:・・・。
ミ:打ち上げをすっぽかしちゃ駄目よ。・・・さあ、起きて。
ヒ:・・・。
ミ:・・・。(優しい目をする)
ミンスはヒョンジュンの首に腕を回して、ヒョンジュンの頭を引き寄せて、抱きしめた。
二人はしっかりとお互いを抱きしめた。
玄関に立ったヒョンジュンのスーツのジャケットを後ろから、ミンスが直す。ヒョンジュンがミンスのほうを振り返る。
ミンスはヒョンジュンの顔を見ないで、ジャケットの襟を引っ張って、襟を直す。胸の辺りをちょっとはたいて全体を見る。
ミ:これでいいわ・・・。もう行きなさい・・・。
ヒ:・・・。(まだ本当は行きたくない)
ミ:ヒョンジュン・・・。ありがとう・・・。あのマリエは素敵だった・・・。素敵なショーだった。招待してくれてありがとう・・・。
ヒ:・・・ミンス。
ミ:もう行って。あなたのための会に、穴を開けちゃ駄目よ。
ヒ:・・・うん・・・。
ヒョンジュンは、ミンスに押し出されるように部屋を出た。
ホテルの前から、タクシーに乗り、打ち上げ会場へ向かう。
タクシーの窓の外の景色を見る。
少し気持ちが揺らいで、涙がこぼれたが、さっと拭って、次の瞬間、大人の男の顔になった。
ミンスは一人、ホテルの部屋に佇んだ。
まだ、ヒョンジュンの温もりもニオイも残っていた。
自分の選択は正しかったのか・・・。
彼しか愛せないのなら、愛人でもなんでもなればいいじゃないか・・・。
ヒョンジュンはさっきまでここにいた。久しぶりに、彼の体の重みを感じて、ミンスは抱かれたいと思った。
それなのに、彼を追い出して・・・自分の心さえ晴れない・・・。
さっき、受付でもらった手紙・・・。
ミンスは、バッグから封筒を取り出す。
読もうか・・・捨てちゃおうか・・・。
ゴミ箱の前まで行くが、ミンスは捨てることができなかった。
ベッドに座って封筒を開ける。
「ミンスへ
今日は来てくれてありがとう。
君とこうして、パリで出会ってしまうとは考えていなかったので、僕は、今日のコレクションでは、自分の一番描きたかったものをマリエに選びました。
君は怒るだろうか。
動揺するだろうか。
一昨日、君に偶然出会って、どうしても、君に見てほしくなった。僕の心のうちを。
君は僕をズルイと言ったけど・・・これが僕の心の中です。
僕は本当にズルイです・・・。
でも、君のいない世界を考えると、とても生きていけそうにありません。
君と別れたあとでも、君は僕の心の中にずっと住んでいました。
新しい仕事を始めるときに、励ましてくれたのも君だった・・・。
僕が何をデザインしたらいいか、迷ったとき、心の中の君が「私を描いて・・・」と僕に囁いた。
朝、コーヒーを飲もうとすると、「朝はカフェインの強いアメリカンの方が目が覚めるわよ」と君が囁く。
部下に何か陣中見舞いをと考えると、心の中の君が「ケーキにしたら」とアドバイスする・・・。
離れてしまったというのに、君は僕の中でどんどん大きくなって、僕の行くところ、どこにでもいて・・・僕に囁きかけるんだ。
でも、本当に再会した君は、妻を持ってしまった僕とは、一線を引いたところにいた。
それは、とても辛かった・・・いつも・・・一緒にいたはずなのに・・・。
僕のこの気持ちが、君を困らせているね。君が出直そうとしているのを引き止めて・・・ごめん・・・。
最後に、我儘を言わせてください。
二人で行きたかったルーブルへ一緒に行ってください。
お願いです。
一つだけ、僕に思い出を残してください。
君がこの手紙を読まなくても、君が来なくても・・・僕は、ルーブル前のテュイルリー広場で待っています。
明日、午後1時。僕は、そこにいます。
ヒョンジュン」
ミンスは、涙で手紙の文字を滲ませながら、最後まで読んだ。
言葉にならない思い・・・。
ヒョンジュンへの思いを自分の中で整理してまとめることができない・・・。
彼に会うことがいいことなのか。会わずに去ったほうがいいことなのか・・・。
ヒョンジュンの最後の我儘。
ジフンが言ったように、ルーブルに私の恋の終わりがある・・・。
悩むことはないわ・・・。
私には行くという選択しかないから・・・。
たとえ、今日の私の態度で、あなたが心変わりしても、私は行きます・・・。
あなたに会いに。
行かずにはいられないから・・・。
ヒョンジュンが打ち上げの会場からホテルに戻ると、ソルミがロビーで待っていた。
ソ:ヒョンジュン!(ソファから立ち上がる)
ヒ:・・・。どうしたの? (驚く)
ソ:・・・何してたの?
ヒ:スタッフと打ち上げ。
ソ:そう。
ヒ:どうしたの? 明日、帰る準備は? 友達は?
ソ:皆がね、あなたの晴れの日だから会いに行けって言うのよ。
ヒ:そう・・・食事は?
ソ:してきた・・・。
ヒ:うん・・・。
ソ:今日、泊まってもいいのよ・・・。(じっと見つめている)
ヒ:・・・。部屋へ行く?
ソ:うん・・。
エレベーターを待って、二人で乗り込む。
ソルミがヒョンジュンに抱きついた。ヒョンジュンはやさしくソルミを抱きしめた。
ミンスは、ジフンからの電話を受けて、明日ルーブルに行って、明後日、韓国に帰ると伝え、電話を切った。それ以上、彼には説明しなかった。
韓国へ戻ったら・・・彼にお土産を渡して・・・それで、ジフンとは別れよう。
彼に頼っていたら・・・きっと私は、自分の気持ちをごまかして、ジフンと付き合っていくに違いない。
あんなにやさしい彼・・・。
きっと、本当の相手は私ではないわ・・・もっとやさしい人・・・もっと彼を愛してくれる人・・・そうでなきゃ・・・。
もう一度、本当に一人になって出直そう。
あの部屋も引き上げよう・・・。
恋がいた部屋・・・私の夢がいっぱいだった部屋・・・もうそこに留まってはいけないわ。
寂しくても、それが自分を立て直す一番の道だわ。
甘えてはいけない・・・あの人に・・・。だって、私の心が一番にあの人を愛せないから。
ソ:ヒョンジュン・・・。
ベッドの上で、仰向けに寝転んでいるヒョンジュンの胸に、ソルミが頬を寄せた。
ソ:怒ってないわ・・・私・・・。
ヒ:・・・。
ソ:あのマリエはちょっとショックだったけど・・・。
ヒ:・・・。
ソ:あなたが愛してくれるのを待つ・・・。
ヒ:・・・。
ヒョンジュンが少し頭を上げて、ソルミの顔を見た。
ヒ:君にしては、ずいぶん殊勝なことを言うんだね。
ソ:あなたを恨めないの・・・。
ヒ:君が最初に、うそをついたから?
ソ:・・・。
ヒ:もうそんなことを考えなくてもいいよ・・・。
ソ:そう? (意外に思う)
ヒ:もうとっくに終わったことだ・・・。
ソ:なら・・・。
ソルミが起き上がった。
ソ:私たち、やり直せる?
ヒ:・・・。
ソ:・・・ヒョンジュン・・・?
ヒ:・・・ごめん・・・。
ソ:・・・ヒョンジュン?
ヒ:また、ソウルへ帰ってから、話し合おう。
ソ:ここでは駄目なの?
ヒ:帰ってから・・・。さあ、送っていくよ。
ヒョンジュンが起き上がった。
ソルミは、立ち上がった夫を見上げた。彼には、自分への愛は残っていない・・・。
結婚して2ヶ月。
それが二人の幸せな時だった。ヒョンジュンは、ソルミが妊娠していると信じていたし、夫らしく妻をかばい、やさしく愛してくれた・・・。しかし、時が経っても、変わらぬソルミのお腹を見て、ヒョンジュンが「病院へ行ったほうがよくないか。どこかおかしかったら、マズイよ」と言い出した辺りから、二人の間には気マズイ空気が流れた・・・。
ヒョンジュンがソルミの妊娠がうそだったということを確信したときから、二人の関係は、決定的に崩れた。
ヒョンジュンは、もうやさしい夫ではなくなったし、ソルミを抱くこともなくなった。
そして、ベッドでは眠らず、リビングのソファで眠った。
それでも、ソルミはそれもただの我慢比べだと思って、高をくくっていた。最初の2ヶ月は、素敵だった・・・。あの時のヒョンジュンをソルミは忘れることができない。あのヒョンジュンがいつかまた戻ってくると信じていた・・・。でも、彼は本気だった・・・。
彼は、二度と彼女のもとへは戻らなかった。
ソ:ここで寝かせて。
ヒ:帰りなさい。送っていくから。僕が送っていけばいいでしょ? 友達にも挨拶するよ。
ソ:そんなことじゃないの!
ヒ:・・・。
ソ:いさせて!
ヒ:・・・。
ソ:もう駄目なの? あの女とまだ関係があるの? (訝しそうに見つめる)
ヒ:・・・。
ソ:そうなの?
ヒ:・・・君は来るべきじゃなかった・・・。彼女は全く関係ないよ。彼女の気持ちも関係ない。僕がまだ彼女を好きなだけだ・・・。
ソ:私たち、うまくいってたじゃない・・・。
ヒ:・・・失ったものは戻らないよ。
ソ:なぜ、あの女への気持ちは戻るの?
ヒ:・・・。ソルミ・・・ごめんよ・・・結婚すべきじゃなかったね。
ソ:・・・。
ヒ:僕は、君と生まれてくる子を不幸にしたくなかった・・・。でも、その前に、もっと考えなくちゃいけなかったんだ・・・自分の本当の気持ちを。
ソ:(不安そうに)・・・離婚するの・・・?
ヒ:・・・。うん・・・。(俯く)
ソ:そんなこと・・・あなたにできやしないわ・・・お父様や私の後ろ盾がなかったら、あなた、やっていけないもの。
ヒ:・・・そんなものはもういらないんだ・・・。君だって、不幸だろ? もっとちゃんと愛してくれる人とやり直したほうがいい・・・。
ソ:でも、お父様が・・・。
ヒ:僕の代わりなんて、いくらでもいるよ。本物のデザイナーを探せばいい。
ソ:そんな・・・。あなたは本物よ・・・。
ヒ:でも、君を喜ばすことができない・・・。そんな夫なんて捨てたほうがいい・・・。
ソ:・・・いや!
ヒ:・・・。
ソ:絶対いや! 今の話はなかったことにするわ! 絶対いやよ! もう帰るわ! あなたの言うことを聞く! 聞くから、別れるなんて言わないで!
ヒ:ごめん・・・。
ソ:一人で帰るわ。ヒョンジュン、私、そんな簡単にあなたを諦められないわ! もう帰るわ。
ヒ:ソルミ!
バッグとコートを掴んで、ドアへ向かうソルミの腕を、ヒョンジュンが掴んだ。
ヒ:送るよ。(じっと見る)
ソ:・・・バカ!
ソルミはヒョンジュンの胸に顔をつけて、声を立てて泣いた。
翌日、ソルミの一行は、パリを発った・・・。
ヒョンジュンは、時計を見る。
もうすぐ午後1時だ。
ミンスは来るだろうか・・・。
時計から顔を上げると、前方からミンスがヒョンジュンのことを見つめていた。
ヒョンジュンのデザインした服を来て、長い髪を風になびかせて、ミンスが立っていた。
ミンスはヒョンジュンの前に来て、じっと彼の顔を見つめた。
ヒョンジュンは切なそうだけれど、うれしそうに微笑んだ。ミンスもやさしい笑顔で微笑み、ヒョンジュンに向けて、手を差し出した。
ミ:行きましょう。
二人は昔のように、手をつなぎ、ルーブルへ向かった。
ミ:ねえ、ダビンチコースっていうのがあるみたい・・・。(案内を見せる)
ヒ:ホントだ・・・。広くて、一日じゃ見切れないね。
ミ:うん・・・。
ヒ:まずは、どこを見るかな・・・。(案内を見る)
二人は、つないだ手で、お互いを引っ張り合いながら、絵を見て歩く。
そして、時々、見つめ合って微笑んだ。
自分の好きな絵の前で立ち止まり、じっと絵を見入る。お互いに好きなものを相手に見せた。
久しぶりに、ヒョンジュンは画家に戻り、ミンスにうんちくを語った・・・。
4階に上がって、ふと見ると、窓から、ルーブルの向こう側の建物が見えた。
ミ:なんか、この窓の構図だけでも素敵・・・。
ヒ:うん・・・。
ミンスが窓際へ行って、窓の外を覗く。
ヒ:おまえは窓が好きだね。(少し笑う)
ミ:うん・・・外の景色を見るのが好き・・・。空があって、世界が開けていく感じが好きなの・・・。でも、時々・・・部屋の中が変わっていても、窓から見ている景色がいつもと同じだと、自分の周りがすっかり変わっていることに気づかない時があるわ・・・。
ヒ:・・・。(胸が痛い)
ミ:いつもの景色を見て、振り返ったら、何にもなかったってね・・・。エンプティ。空っぽ・・・。
ヒ:・・・。
ミ:それでも、窓は好きよ・・・。(窓の外を眺める)
ヒ:・・・。(切ない)
ミ:ヒョンジュン。私ね、大学のフランス語の授業で一番最初に出てきたのが、「セッタン ミューゼ」(ここは美術館です) ここは・・・「セッタン ミューゼ デゥ ルーブル!」 やっと使えたわ! (笑ってヒョンジュンを見る)
ヒ:やっと、来たね・・・二人で・・・。見たいところがいっぱいで・・・時間が足りないね。
ミ:うん・・・いつか、また一人でゆっくり来るわ・・・。
ヒ:・・・一人で?
ミ:うん・・・(頷く) 一人で・・・。
ヒ:誰かとおいでよ。(悲しい)
ミ:うううん・・・ここは、あなたと私の夢の実現だから・・・。次は、一人で来る・・・。
ヒ:・・・。
ヒョンジュンは胸がいっぱいになって、じっとミンスを見る。
ミ:まだまだ、見たいものはあるの。早く回らなくちゃ! 時間が勿体ないわ。行きましょう。
ミンスがつないだ手を引っ張る。
ヒョンジュンは、「うん」と頷いて、ミンスに手を引かれ、二人はまた、歩き出した。
10部へ続く