「恋がいた部屋」10部
2015-09-22
区切りをつける
勇気を下さい
あの人を
忘れることは
諦めました
でも
ここから
飛び出したいのです
飛ぶ勇気を
私に
ください
どうか
僕に
決断の勇気を
ください
二度と
失わないように
飛ぶ勇気を
僕に
ください

ヒョンジュンとミンスは、手をつなぎながら、ルーブルの中を練り歩く。
主演:ぺ・ヨンジュン
チョン・ジヒョン
【恋がいた部屋】10部
ヒ:疲れた?
ミ:うううん・・・。
ミンスが笑顔でヒョンジュンを見る。
ヒ:どこかで座ろうか?
ミ:大丈夫・・・。せっかくだもん。もう少し見たいわ。
ヒ:そう?
二人はまた歩き出す。
ヒ:いい絵がいっぱいで、胸が痛くなるよ・・・。
ミ:また、絵を描きたい?
ヒ:・・・できるかな・・・。
ミ:できるわよ。あなたは才能に満ち溢れてるわ。(他を見ながら言う)
ヒ:だといいけど・・・。
ミ:力のある人は、急には駄目にはならないわよ・・・。8ヶ月? 描かなかったの? そんな人、いくらでもいるでしょ?
ヒ:うん・・・。
ミ:(ヒョンジュンの顔を見る)元気出して。大丈夫よ。
ヒ:・・・。
ヒョンジュンは寂しげに、ミンスを見つめる。
ヒ:ねえ、今日は一緒にご飯食べない? オレも一人だし・・・。いいだろう?
ミ:・・・。(見つめる)最後の晩餐・・・?
ヒ:・・・。
ミ:ラスト・ディナーね・・・。
ヒ:おまえがよければ・・・。
ミ:・・・いいわよ。(笑う)
ミ:そうだ・・・。私、まだ、お土産買ってないの。空港でもいいかしら・・・。チェスクさんの仕事で来たから、何か買っていきたいわ。
ヒ:じゃあ・・・そろそろ、出る?
ミ:うん・・・名残惜しいけど・・・。
ヒ:うん。
二人は連れ立って、ルーブルの外へ出た。そのまま、手はつないだまま、みやげ物店へ入った。
ミ:何がいいかしらねえ・・・。かさばらないものがいいわね。う~ん・・・。空港でブランドのスカーフでもいいんだけど・・・。
二人は手をつないだまま、店の中を見て歩く。
ミ:あら・・・。ちょっと待ってね。
ミンスは手を振り解いて、エッフェル塔が小柄模様になっているネクタイを手に取る。
ミ:かわいい・・・。
ヒ:・・・。
ミ:いいわね。(笑う)
ヒ:・・・男の人に買うの・・・? (ちょっと声がかすれる)
ミ:うん、そうよ。ちょっと当ててみていい? (ヒョンジュンに当ててみる)これ、楽しいわね。
ヒ:子供っぽくない・・・?
ミ:そうお? いいのよ、あなたより若いんだから。う~ん。(色を選ぶ)
ヒ:・・・付き合ってるの・・・?
ミ:まあねえ・・・。(色を考えている)う~ん、どうしよう・・・。
ヒ:・・・いくつ?
ミ:私より一つ上。あなたより、ハンサム。
ミンスは、ヒョンジュンを見ないで、真剣に考えている・・・。
ミ:う~ん。ネクタイ・・・ネクタイ・・・あなたに首ったけ・・・。やっぱり、やめるわ。あ、あっちのにする。
ミンスは、置物売り場のほうへ行って、丸い球の中に閉じ込められたエッフェル塔を見る。
ミ:やっぱり、これにするわ。(ヒョンジュンのほうを振り返る)
ミンスは透明なボールを振ってみせた。中で、小さな鳩が天高く舞い上がり、沈んだ。
ミ:チェスクさんもこれにするわ・・・。あの人は、何度もパリに来てるんだものね。こういうかわいいもののほうがいいかも・・・。あと、お姉ちゃんの分・・・。
ミンスは、同じものを3つ持って、レジへ向かった。
ミ:ごめんなさい。待たせちゃって。
ヒ:うううん。
ミ:あなたはいいわよね。ソルミさんは来ちゃったんだし。お土産はいらないでしょ?
ヒ:うん・・・。オフィスの子たちには、ストラップを買った。
ミ:それもいいかも。(笑う)
店を出て、二人はパリの街を歩く。
ヒ:どんな人?
ミ:何が?
ヒ:・・・その・・・付き合ってる人。
ミ:ああ。
ヒ:・・・。(苦しそうに、じっと見つめる)
ミ:背が高くて、ものすごくハンサムで・・・私より一つ年上って言った? そう。一つ上で、気が置けないの・・・すごくいい人・・・。
ヒ:何やってる人? (じっとミンスを見つめている)
ミ:お医者さん。小児科・・・彼らしいわ。(笑う)
ヒ:・・・好きなの・・・?
ミ:・・・ええ。
ヒ:・・・。
ミ:・・・。
ヒョンジュンがじっとミンスを見つめている。
ミ:ねえ、どこで食事する? フランス料理よね? パリだもん。
ヒ:・・・。
ミ:どこか連れてって。
ヒ:・・・。
ミ:あなたはフランス語できるから。私は大学の第2外国語でやっただけだから。
ヒ:・・・。うん。
ミ:おいしいもの、探して。(笑う)
ヒ:・・・。
二人は気のおけなそうなフランス料理店に入る。ヒョンジュンがメニューを見て注文した。
ミ:何、頼んだの?
ヒ:お楽しみ・・・。
ミ:・・・。(微笑む)
まずは、シャンパンがきた。
ヒ:乾杯しよう。
ミ:ええ・・・。
ヒョンジュンはぐいっと飲み干して、ミンスを見つめる。
ミ:食事だっていうのに、恐い顔してるわよ。
ヒ:・・・。そんなことはないよ。
エスカルゴが出てきて、二人はワインを飲みながら食べる。
ミ:ねえ、なんか話して。楽しい話・・・。
ヒ:う~ん・・・そうだなあ・・・。
ミンスはエスカルゴを口に運びながら、ヒョンジュンの顔を見る。
ヒ:オレに、生き別れの姉貴がいたの、知ってる? (エスカルゴを殻から出している)
ミ:え? 知らない。ホント?
ヒ:うん・・・。ヘスがそう言ったんだ。ソルミに。
ミ:・・・。(なぜ?)
ヒ:ゴルフ場でソルミを見かけて、妊娠していないのがわかって、「私はヒョンジュンの生き別れの姉です」ってそう言ったんだって。彼女、驚いてたよ。
ミ:そう・・・お姉ちゃんが・・・。
ヒ:きっと、お腹がペッチャンコのソルミを見て頭にきたんだ・・・。
ミ:・・・。
ヒ:おまえはなんか楽しい話、ある?
ミ:う~ん、別に・・・。こうして二人でいることが楽しいことかしら。
ヒ:うん。
ミ:ラストディナー イン パリス・・・。今、そんな感じ?(笑う)そういえば、昔、二人で、「ラストタンゴ イン パリ」見たわね。
ヒ:そうだったね。ベッドで見たんだ。よかったな。
ミ:あなた、あそこのシーンが好きだったじゃない。お風呂で洗うシーン。(笑う)
ヒ:ああ。雨に濡れた彼女を風呂に入れてあげるシーンね。スポンジで、お腹や尻を洗ってあげるところね。あのくらい、広いバスルームがほしかったよ・・・。
ミ:そうね。狭くて実行できなかったわね。(笑う)退廃的なのに、今でもキラキラして見えるのはなぜかしら? おもしろいわね、映画って。古びてしまうものと、輝きを持ち続けるものの違いって何かしらね。
ヒ:うん・・・。
ミ:デザインもそう?
ヒ:だろうね。
ヒョンジュンは、ミンスを見て、ちょっとにこっと笑ったが、また、恐い顔をして、ワインを飲み干した。
ミンスは、さっきからヒョンジュンが浮かない気分でいることに、気がついている。
本当の気持ちを話してあげたほうがいいのだろうか。
別れてしまうことには変わりはないけれど・・・少し、ジフンのことを嫉妬しているヒョンジュンがいじらしい。
ミ:そうだ。一つ、とっておきの話があるわ。
ミンスがそう言って、ヒョンジュンを見つめた時、メインの地鶏が出てきた。
ミ:おいしそう。(笑う)皮がパリパリしてるわね。
ヒ:ホントだ。(ナイフとフォークを持って)何? とっておきって?
ミ:どうしよう。食欲が無くなるかしら。
ヒ:いいよ。言って。何を言われても食べるから。
ヒョンジュンの目が少し怒っているので、やはり、本当のことを話してあげよう。
ただ、私は泣かない・・・。
神様、
最後まで泣かないで話せますように・・・。
ミ:とっておき・・・。これって、悲劇か喜劇か、危うい路線だけど。(笑う)
ヒ:・・・。
ヒョンジュンがじっとミンスを見つめている。
ミンスは心を決めて一気に話し始めた。
ミ:笑っちゃうかもしれないけど。私の今、付き合っている彼は、ものすごくハンサムで背が高いの。身長186cm。カッコいいったらないのよ。スッチーの友達なんか、彼と付き合いたくてあの手この手を使って大変・・・。でもね・・・彼は私を好きなの。おかしいでしょう?
ヒ:・・・。
ヒョンジュンが燃えるような目をして、ミンスを見つめている。
ミ:それに、頭もよくて、お医者様をしているの。その上、やさしくて縁の下の力持ち・・・。ガンの子供たちと一緒に戦ってるのよ。すごくいい人・・・。私が元彼のデザインした服を着ていても、そんなことで怒ったり嫌な顔をしたりなんてしないの。そんなことより、私の心が早く元気になることを願ってくれてる・・・。
ヒ:・・・。(じっと見つめる)
ミ:そんな人って・・・この世の中、そうそういないわ・・・。韓国中探しても、世界中探してもね・・・。
ヒ:・・・。
ミ:それほど素敵な人よ。(ヒョンジュンを見つめる)
ミ:でもね・・・。ここからが、悲劇か喜劇か。そんなすごい人に愛されているのに・・・私はパリから帰ったら、お土産を渡して、彼を振っちゃうの・・・。(じっと見る)
ヒ:・・・。なぜ?
ミ:そんな素敵な人を・・・私みたいなバカな恋をしている人間が関わっちゃいけないと思うの。彼には、もっと素敵な人と恋をしてほしいの。幸せになってほしいのよ。
ヒ:・・・。
ミ:そう思うでしょ?
ヒ:・・・。(胸が痛い)
ミ:これって、悲劇か喜劇かわからないわね。でも・・・私は、自分の気持ちに忠実に生きたいの。そういうこと・・・。
ヒ:・・・。
ヒョンジュンがまたワインを飲み干した。
ミ:飲みすぎよ。
ヒ:大丈夫。
ミ:うん・・・あなたは、お酒に強いけど、体には注意してね。
ヒ:うん。
ヒョンジュンの空いたグラスにワインが注がれる。
ヒ:じゃあ、オレのとっておきの話をしてやろう。
ミ:まだ、あるの?(笑う)
ヒ:うん。これは出来立てのほやほや。まだ、昨日の話だ。(じっと見つめる)おまえは、オレのスクープを手に入れることができるよ。
ミ:すごいわ。人気デザイナーの今ね・・・。何?
ヒ:うん・・・。昨日、長年好きだった女に振られた。
ミ:・・・。
ヒ:それと、妻に、離婚を申し出た・・・。その二つ。すごいだろ?
ミンスは驚いた顔をして、ヒョンジュンを見つめた。
ヒ:感想は? これ、酔って言ってるわけじゃないよ。
ミ:わかるわ・・・。あなたは酔わないもの・・・。
ヒ:そういうこと。
ミ:でも、振られたのはともかく、離婚して、仕事はどうするの? 大切な仕事だったんじゃないの?
ヒ:うん。まだわからない。また、画家に戻れるかどうか・・・。でも、もうデザイナーは続けられないから。
ミ:なぜ?
ヒ:ホントに好きな女に三行半を突きつけられたから。もうデザインする意味がないんだよ。
ミ:でも・・・。
ヒ:オレがやらなくても、誰でもできるよ、デザインなんて。愛情と仕事を秤にかけちゃいけなかったんだ・・・。(じっと見つめる)
ミ:・・・。
ヒ:ただ、これは実行するのに、時間がかかるかもしれない・・・。相手がノーと言ったからね。
ミ:そう。それはすごい話ね。私、まだ夫婦っていうのがわからないけど・・・きっと、恋人にはないものがあるんだと思う。そう簡単には別れられるものではないと思うわ。(極めて冷静に言う)
ヒ:・・・。(じっと見つめている)
ミ:でも・・・。そう・・・それは大変ね、あなたも。私は、もう誰とも付き合わないの。ずっと一人でいる決心をしたの。
ヒ:・・・なぜ?
ミ:人生をやり直したいのよ。もっとシンプルに・・・。笑顔がいっぱいだった頃にはもう戻れないかもしれないけど、なんとかやってみるわ。
ヒ:・・・。
ミ:だから、心配しないで。(見つめる)
ヒ:今、おまえを好きな人は別れてくれるんだろうか・・・。
ミ:・・・。
ヒ:・・・。
ミ:そんな目をしないで。もう妬くことなんてないんだから。ね。
ヒ:・・・。
ヒョンジュンは黙って、またワインを一気に飲み干した。
「最後の晩餐」を終えて、ヒョンジュンがビルにサインをし終えて、イスから立とうとすると、彼はふらついて、少し前かがみになった。
ミ:ヒョンジュン、大丈夫?
ヒ:(深呼吸して)大丈夫。メルシ。
ミ:・・・。タクシー呼んでもらう? 酔ってるもん。
ヒ:いや、歩こう。おまえのホテルまではそう遠くないだろ?
ミ:まあね・・・。そうね、歩いて少し酔いを醒ましたほうがいいわ。
二人は、レストランの外へ出た。
ミ:肌寒いわね。(夜空を見上げる)
ヒ:大丈夫?
ミ:ええ。このくらいの冷たい空気のほうが、なんかホッとするわ。不思議ね。
ヒ:歩こう。
二人は並んで歩く。もう手はつながない・・・。
ヒ:パリに住みたい・・・昔、おまえ、そう言ったよな。
ミ:そうだっけ? ああ、あなたが絵を描いて、私がフランス料理を習うっていう計画ね。うん・・・。
ヒ:バリにも住みたいって言った。
ミ:・・・もう、バリはいらないわ・・・。
ヒ:・・・。
ミ:・・・。
ヒ:とりあえずは、パリまで来たわけだ。
ミ:そうね。バラバラになってね。二人だった時は遠かったのに、今のあなたなんか、しょっちゅう、来られるでしょ? 私も来ようと思えば来られる・・・なんか、皮肉ね。(笑う)
ヒ:この通りを・・・こんな気持ちで歩くなんて思わなかった。
ミ:・・・。一緒にいても、そうだったかもしれないわ。(笑う)
ヒ:・・・。(足元を見る)
ミ:ヒョンジュン、月もキレイよ。
ヒ:(顔を上げる)ホントだ・・・。
ヒョンジュンは通りの反対側に立っている女を見る。
ヒ:夜の女が立ってるね。
ミ:ホントだ。
ヒ:あの人たちも恋をするのかな・・・?
ミ:人に歴史ありよ。
ヒ:うん・・・。
しばらく行って、脇に入る道がある。
ヒョンジュンが腕を引っ張った。
脇に入った通りの、もう閉まった商店の壁に、ミンスを押し付けた。横にあるショーウィンドーの薄暗いスタンドの照明がヒョンジュンの顔を映し出した。彼の表情は苦しさに満ちていた。
ミ:・・・。(ヒョンジュンを見上げる)
ヒ:本当に別れたいのか。
ミ:・・・。
ヒ:本当にオレを一人にするのか。(怒った顔をしている)
ミ:酔ってるわね?
ヒ:酔ってないよ。
圧し掛かるヒョンジュンはがっしりと重くて、ミンスは動きがつかない。
ミ:もう別れているでしょ。
ヒ:心の中には、いろよ。
ミ:・・・駄目よ。
ヒ:・・・。
ミ:・・・もう、あなたの近くに、私は何も残さない。
ヒ:おい。(もっと圧し掛かる)
ミ:重いわ。
ヒョンジュンはもっと二人の距離を縮めて、体をぴったりとつける。
ヒ:いろよ。心の中ぐらい、いろよ。
ミ:・・・。
ヒ:いるって返事をしろよ。
ミ:・・・。(答えない)
ヒ:なぜ、答えない!
ミ:・・・。
ヒ:・・・ホントにその男とは、別れられる?
ミ:酔ってる。(睨む)
ヒ:酔って何が悪い。こんなに苦しいのに・・・。(深く呼吸をする)
ミ:・・・私、一人になるって言ったでしょ?
ヒ:本当に、他の男を好きだったの?(苦しそうに呼吸する)
ミ:違うわ。私を助けてくれたの。私の壊れそうな心をね。
ヒ:・・・。
ミ:大切な友達よ。
ヒ:ホントかな・・・。そいつと寝た?
ミ:何を言うの!
ヒ:そいつと寝たの?
ミ:そんなこと、しないわ。
ヒ:だったら、そんなやつに、心なんて奪われないで。
ミ:だから・・・一人になって・・・。
ヒ:ミンス・・・。オレのミンス。
ヒョンジュンはミンスの首筋に顔をつけて、抱きしめる。
ミ:・・・。
ヒ:オレと一緒にいろよ・・・心ぐらい残していけよ。
ミ:・・・。
ヒョンジュンがミンスのスカートの中に手を入れた。
ミ:ヒョンジュン・・・やめて。ここは公道よ。
ヒ:どこでならいいの?
ミ:・・・。
ヒ:・・・。
ミ:もう帰りましょう。
ヒ:どこでならいいんだ?
ミ:酔ってる・・・。
ヒ:・・・。(じっと見下ろす)朝まで一緒にいよう。
ミ:・・・。
ヒョンジュンは、ミンスに体重をかけて抱きつくように立っている。
彼は酔っている。
もし、ここで彼を押したら、そのまま、この歩道に倒れて、朝を迎えてしまうだろう・・・。
ミンスは、ヒョンジュンを捨て置くわけにもいかず、自分のホテルへ連れて帰った。
薄っすらとほの暗い中で、ミンスは目が覚めた。
酔ったヒョンジュンを抱いたまま、寝てしまった。ミンスのシャツは胸がはだけて、そこにヒョンジュンの顔があった。少し胸を寄せると、乳房にヒョンジュンの唇が触れた。彼は軽く寝息を立てて眠っている。
夜明けまでにはまだ時間がある。
ミンスはゆっくり体を離して、起き上がった。
スタンドを一つだけつけて、帰国の準備をする。今日、着る服だけ出してハンガーにかけ、あとのものをスーツケースにしまう。今、着ている服を脱いでスーツケースにしまうと、ミンスは、シャワーを浴びにバスルームに入った。
ミンスがシャワーを浴びて、バスローブを着て、部屋に戻ってきた。
ヒョンジュンはまだ、寝息を立てて眠っていた。
静かに荷物を片付け、部屋に用意された魔法瓶から、紅茶を入れる。
カップを持って、窓の外を覗く。
まだ街は、眠りの中にあった。
日の出までには、少し時間がある。
今は、昨日と今日の始まりの狭間だ。
日が昇ったら、私は新しい人生を生きよう。
後ろから、ヒョンジュンの声がした。
ヒ:起きてたの?
ミ:うん?(振り返る)目が覚めた? まだ、5時前よ。日の出前。寝ていてもいいわよ。
ヒ:うん・・・。シャワー借りてもいい? 昨日は、久しぶりに酔ったよ。
ミ:うん、どうぞ。バスタオルもバスローブも、歯ブラシも2人分あるから、使っていいわよ。
ヒ:うん。
ヒョンジュンはゆっくり起き上がって、服を脱ぎ、下着になって、バスルームへ向かった。
ミンスはそのまま、窓のほうを向いて、一人がけのソファに座り、ゆっくりと紅茶を飲んだ。
ヒョンジュンがバスルームから出てきた。
ミンスは気配を感じて後ろを向いた。
ミ:出たの?
ヒ:うん。
ミ:紅茶のティバッグがあるの。飲む?
ヒ:うん。
ミンスは立ち上がって、紅茶を入れる。
ヒョンジュンが窓際へ来て、窓の外を覗く。
ヒ:まだ、街は寝てるんだ。
ミ:そうね。はい。お湯が熱いわよ。
ヒ:ありがとう。
ヒョンジュンがフーフーと冷まして、紅茶を飲む。それを、目の前でミンスが見ている。彼は猫舌のままだ・・・。
ヒョンジュンは半分ほど飲んで、近くのテーブルにカップを置いた。
目の前のミンスを見て、彼女のバスローブの紐を解いた。
紐が解け、前がはだける。彼女は下には何も着ていなかった。
ヒョンジュンは、自分のバスローブを脱いだ。
ミ:抱きたい?
ヒ:うん・・・。
ミ:・・・。
ヒョンジュンが、ミンスのバスローブを脱がす。
ヒ:・・・。(ミンスを眺める)
ミ:もうすぐ日が昇るわ。私は新しい道を行かなくちゃならないの・・・。
ヒ:・・・。
ヒョンジュンがミンスをベッドのほうへ手を引く。
ヒ:まだ、日の出まで時間はあるよ。
ミ:・・・。
ヒ:それまでは二人の時を過ごそう。
ヒョンジュンがベッドに座り、目の前のミンスを抱く。
ヒ:おまえは、キレイなままだね・・・。
ヒョンジュンがミンスを抱いたまま、二人はベッドへ倒れこんだ。
ヒ:ホントにおまえはキレイだ。
ミ:・・・。
ベッドの中から、オレンジ色の日の出を、ミンスは一人、眺めた。
もう、ヒョンジュンはここにはいない。
新しい日が始まった。
瞳はうるんだが、もう涙は流さなかった。
彼が心に愛を残していってくれたから・・・。
11部へ続く
注)「ルーブルの窓」のフォトは、「恋がいた部屋」を連載していた当時,
友人が実際に行って撮影したフォトをお借りしたものです。
Thanks for nanamaria ( nanakiara )
勇気を下さい
あの人を
忘れることは
諦めました
でも
ここから
飛び出したいのです
飛ぶ勇気を
私に
ください
どうか
僕に
決断の勇気を
ください
二度と
失わないように
飛ぶ勇気を
僕に
ください

ヒョンジュンとミンスは、手をつなぎながら、ルーブルの中を練り歩く。
主演:ぺ・ヨンジュン
チョン・ジヒョン
【恋がいた部屋】10部
ヒ:疲れた?
ミ:うううん・・・。
ミンスが笑顔でヒョンジュンを見る。
ヒ:どこかで座ろうか?
ミ:大丈夫・・・。せっかくだもん。もう少し見たいわ。
ヒ:そう?
二人はまた歩き出す。
ヒ:いい絵がいっぱいで、胸が痛くなるよ・・・。
ミ:また、絵を描きたい?
ヒ:・・・できるかな・・・。
ミ:できるわよ。あなたは才能に満ち溢れてるわ。(他を見ながら言う)
ヒ:だといいけど・・・。
ミ:力のある人は、急には駄目にはならないわよ・・・。8ヶ月? 描かなかったの? そんな人、いくらでもいるでしょ?
ヒ:うん・・・。
ミ:(ヒョンジュンの顔を見る)元気出して。大丈夫よ。
ヒ:・・・。
ヒョンジュンは寂しげに、ミンスを見つめる。
ヒ:ねえ、今日は一緒にご飯食べない? オレも一人だし・・・。いいだろう?
ミ:・・・。(見つめる)最後の晩餐・・・?
ヒ:・・・。
ミ:ラスト・ディナーね・・・。
ヒ:おまえがよければ・・・。
ミ:・・・いいわよ。(笑う)
ミ:そうだ・・・。私、まだ、お土産買ってないの。空港でもいいかしら・・・。チェスクさんの仕事で来たから、何か買っていきたいわ。
ヒ:じゃあ・・・そろそろ、出る?
ミ:うん・・・名残惜しいけど・・・。
ヒ:うん。
二人は連れ立って、ルーブルの外へ出た。そのまま、手はつないだまま、みやげ物店へ入った。
ミ:何がいいかしらねえ・・・。かさばらないものがいいわね。う~ん・・・。空港でブランドのスカーフでもいいんだけど・・・。
二人は手をつないだまま、店の中を見て歩く。
ミ:あら・・・。ちょっと待ってね。
ミンスは手を振り解いて、エッフェル塔が小柄模様になっているネクタイを手に取る。
ミ:かわいい・・・。
ヒ:・・・。
ミ:いいわね。(笑う)
ヒ:・・・男の人に買うの・・・? (ちょっと声がかすれる)
ミ:うん、そうよ。ちょっと当ててみていい? (ヒョンジュンに当ててみる)これ、楽しいわね。
ヒ:子供っぽくない・・・?
ミ:そうお? いいのよ、あなたより若いんだから。う~ん。(色を選ぶ)
ヒ:・・・付き合ってるの・・・?
ミ:まあねえ・・・。(色を考えている)う~ん、どうしよう・・・。
ヒ:・・・いくつ?
ミ:私より一つ上。あなたより、ハンサム。
ミンスは、ヒョンジュンを見ないで、真剣に考えている・・・。
ミ:う~ん。ネクタイ・・・ネクタイ・・・あなたに首ったけ・・・。やっぱり、やめるわ。あ、あっちのにする。
ミンスは、置物売り場のほうへ行って、丸い球の中に閉じ込められたエッフェル塔を見る。
ミ:やっぱり、これにするわ。(ヒョンジュンのほうを振り返る)
ミンスは透明なボールを振ってみせた。中で、小さな鳩が天高く舞い上がり、沈んだ。
ミ:チェスクさんもこれにするわ・・・。あの人は、何度もパリに来てるんだものね。こういうかわいいもののほうがいいかも・・・。あと、お姉ちゃんの分・・・。
ミンスは、同じものを3つ持って、レジへ向かった。
ミ:ごめんなさい。待たせちゃって。
ヒ:うううん。
ミ:あなたはいいわよね。ソルミさんは来ちゃったんだし。お土産はいらないでしょ?
ヒ:うん・・・。オフィスの子たちには、ストラップを買った。
ミ:それもいいかも。(笑う)
店を出て、二人はパリの街を歩く。
ヒ:どんな人?
ミ:何が?
ヒ:・・・その・・・付き合ってる人。
ミ:ああ。
ヒ:・・・。(苦しそうに、じっと見つめる)
ミ:背が高くて、ものすごくハンサムで・・・私より一つ年上って言った? そう。一つ上で、気が置けないの・・・すごくいい人・・・。
ヒ:何やってる人? (じっとミンスを見つめている)
ミ:お医者さん。小児科・・・彼らしいわ。(笑う)
ヒ:・・・好きなの・・・?
ミ:・・・ええ。
ヒ:・・・。
ミ:・・・。
ヒョンジュンがじっとミンスを見つめている。
ミ:ねえ、どこで食事する? フランス料理よね? パリだもん。
ヒ:・・・。
ミ:どこか連れてって。
ヒ:・・・。
ミ:あなたはフランス語できるから。私は大学の第2外国語でやっただけだから。
ヒ:・・・。うん。
ミ:おいしいもの、探して。(笑う)
ヒ:・・・。
二人は気のおけなそうなフランス料理店に入る。ヒョンジュンがメニューを見て注文した。
ミ:何、頼んだの?
ヒ:お楽しみ・・・。
ミ:・・・。(微笑む)
まずは、シャンパンがきた。
ヒ:乾杯しよう。
ミ:ええ・・・。
ヒョンジュンはぐいっと飲み干して、ミンスを見つめる。
ミ:食事だっていうのに、恐い顔してるわよ。
ヒ:・・・。そんなことはないよ。
エスカルゴが出てきて、二人はワインを飲みながら食べる。
ミ:ねえ、なんか話して。楽しい話・・・。
ヒ:う~ん・・・そうだなあ・・・。
ミンスはエスカルゴを口に運びながら、ヒョンジュンの顔を見る。
ヒ:オレに、生き別れの姉貴がいたの、知ってる? (エスカルゴを殻から出している)
ミ:え? 知らない。ホント?
ヒ:うん・・・。ヘスがそう言ったんだ。ソルミに。
ミ:・・・。(なぜ?)
ヒ:ゴルフ場でソルミを見かけて、妊娠していないのがわかって、「私はヒョンジュンの生き別れの姉です」ってそう言ったんだって。彼女、驚いてたよ。
ミ:そう・・・お姉ちゃんが・・・。
ヒ:きっと、お腹がペッチャンコのソルミを見て頭にきたんだ・・・。
ミ:・・・。
ヒ:おまえはなんか楽しい話、ある?
ミ:う~ん、別に・・・。こうして二人でいることが楽しいことかしら。
ヒ:うん。
ミ:ラストディナー イン パリス・・・。今、そんな感じ?(笑う)そういえば、昔、二人で、「ラストタンゴ イン パリ」見たわね。
ヒ:そうだったね。ベッドで見たんだ。よかったな。
ミ:あなた、あそこのシーンが好きだったじゃない。お風呂で洗うシーン。(笑う)
ヒ:ああ。雨に濡れた彼女を風呂に入れてあげるシーンね。スポンジで、お腹や尻を洗ってあげるところね。あのくらい、広いバスルームがほしかったよ・・・。
ミ:そうね。狭くて実行できなかったわね。(笑う)退廃的なのに、今でもキラキラして見えるのはなぜかしら? おもしろいわね、映画って。古びてしまうものと、輝きを持ち続けるものの違いって何かしらね。
ヒ:うん・・・。
ミ:デザインもそう?
ヒ:だろうね。
ヒョンジュンは、ミンスを見て、ちょっとにこっと笑ったが、また、恐い顔をして、ワインを飲み干した。
ミンスは、さっきからヒョンジュンが浮かない気分でいることに、気がついている。
本当の気持ちを話してあげたほうがいいのだろうか。
別れてしまうことには変わりはないけれど・・・少し、ジフンのことを嫉妬しているヒョンジュンがいじらしい。
ミ:そうだ。一つ、とっておきの話があるわ。
ミンスがそう言って、ヒョンジュンを見つめた時、メインの地鶏が出てきた。
ミ:おいしそう。(笑う)皮がパリパリしてるわね。
ヒ:ホントだ。(ナイフとフォークを持って)何? とっておきって?
ミ:どうしよう。食欲が無くなるかしら。
ヒ:いいよ。言って。何を言われても食べるから。
ヒョンジュンの目が少し怒っているので、やはり、本当のことを話してあげよう。
ただ、私は泣かない・・・。
神様、
最後まで泣かないで話せますように・・・。
ミ:とっておき・・・。これって、悲劇か喜劇か、危うい路線だけど。(笑う)
ヒ:・・・。
ヒョンジュンがじっとミンスを見つめている。
ミンスは心を決めて一気に話し始めた。
ミ:笑っちゃうかもしれないけど。私の今、付き合っている彼は、ものすごくハンサムで背が高いの。身長186cm。カッコいいったらないのよ。スッチーの友達なんか、彼と付き合いたくてあの手この手を使って大変・・・。でもね・・・彼は私を好きなの。おかしいでしょう?
ヒ:・・・。
ヒョンジュンが燃えるような目をして、ミンスを見つめている。
ミ:それに、頭もよくて、お医者様をしているの。その上、やさしくて縁の下の力持ち・・・。ガンの子供たちと一緒に戦ってるのよ。すごくいい人・・・。私が元彼のデザインした服を着ていても、そんなことで怒ったり嫌な顔をしたりなんてしないの。そんなことより、私の心が早く元気になることを願ってくれてる・・・。
ヒ:・・・。(じっと見つめる)
ミ:そんな人って・・・この世の中、そうそういないわ・・・。韓国中探しても、世界中探してもね・・・。
ヒ:・・・。
ミ:それほど素敵な人よ。(ヒョンジュンを見つめる)
ミ:でもね・・・。ここからが、悲劇か喜劇か。そんなすごい人に愛されているのに・・・私はパリから帰ったら、お土産を渡して、彼を振っちゃうの・・・。(じっと見る)
ヒ:・・・。なぜ?
ミ:そんな素敵な人を・・・私みたいなバカな恋をしている人間が関わっちゃいけないと思うの。彼には、もっと素敵な人と恋をしてほしいの。幸せになってほしいのよ。
ヒ:・・・。
ミ:そう思うでしょ?
ヒ:・・・。(胸が痛い)
ミ:これって、悲劇か喜劇かわからないわね。でも・・・私は、自分の気持ちに忠実に生きたいの。そういうこと・・・。
ヒ:・・・。
ヒョンジュンがまたワインを飲み干した。
ミ:飲みすぎよ。
ヒ:大丈夫。
ミ:うん・・・あなたは、お酒に強いけど、体には注意してね。
ヒ:うん。
ヒョンジュンの空いたグラスにワインが注がれる。
ヒ:じゃあ、オレのとっておきの話をしてやろう。
ミ:まだ、あるの?(笑う)
ヒ:うん。これは出来立てのほやほや。まだ、昨日の話だ。(じっと見つめる)おまえは、オレのスクープを手に入れることができるよ。
ミ:すごいわ。人気デザイナーの今ね・・・。何?
ヒ:うん・・・。昨日、長年好きだった女に振られた。
ミ:・・・。
ヒ:それと、妻に、離婚を申し出た・・・。その二つ。すごいだろ?
ミンスは驚いた顔をして、ヒョンジュンを見つめた。
ヒ:感想は? これ、酔って言ってるわけじゃないよ。
ミ:わかるわ・・・。あなたは酔わないもの・・・。
ヒ:そういうこと。
ミ:でも、振られたのはともかく、離婚して、仕事はどうするの? 大切な仕事だったんじゃないの?
ヒ:うん。まだわからない。また、画家に戻れるかどうか・・・。でも、もうデザイナーは続けられないから。
ミ:なぜ?
ヒ:ホントに好きな女に三行半を突きつけられたから。もうデザインする意味がないんだよ。
ミ:でも・・・。
ヒ:オレがやらなくても、誰でもできるよ、デザインなんて。愛情と仕事を秤にかけちゃいけなかったんだ・・・。(じっと見つめる)
ミ:・・・。
ヒ:ただ、これは実行するのに、時間がかかるかもしれない・・・。相手がノーと言ったからね。
ミ:そう。それはすごい話ね。私、まだ夫婦っていうのがわからないけど・・・きっと、恋人にはないものがあるんだと思う。そう簡単には別れられるものではないと思うわ。(極めて冷静に言う)
ヒ:・・・。(じっと見つめている)
ミ:でも・・・。そう・・・それは大変ね、あなたも。私は、もう誰とも付き合わないの。ずっと一人でいる決心をしたの。
ヒ:・・・なぜ?
ミ:人生をやり直したいのよ。もっとシンプルに・・・。笑顔がいっぱいだった頃にはもう戻れないかもしれないけど、なんとかやってみるわ。
ヒ:・・・。
ミ:だから、心配しないで。(見つめる)
ヒ:今、おまえを好きな人は別れてくれるんだろうか・・・。
ミ:・・・。
ヒ:・・・。
ミ:そんな目をしないで。もう妬くことなんてないんだから。ね。
ヒ:・・・。
ヒョンジュンは黙って、またワインを一気に飲み干した。
「最後の晩餐」を終えて、ヒョンジュンがビルにサインをし終えて、イスから立とうとすると、彼はふらついて、少し前かがみになった。
ミ:ヒョンジュン、大丈夫?
ヒ:(深呼吸して)大丈夫。メルシ。
ミ:・・・。タクシー呼んでもらう? 酔ってるもん。
ヒ:いや、歩こう。おまえのホテルまではそう遠くないだろ?
ミ:まあね・・・。そうね、歩いて少し酔いを醒ましたほうがいいわ。
二人は、レストランの外へ出た。
ミ:肌寒いわね。(夜空を見上げる)
ヒ:大丈夫?
ミ:ええ。このくらいの冷たい空気のほうが、なんかホッとするわ。不思議ね。
ヒ:歩こう。
二人は並んで歩く。もう手はつながない・・・。
ヒ:パリに住みたい・・・昔、おまえ、そう言ったよな。
ミ:そうだっけ? ああ、あなたが絵を描いて、私がフランス料理を習うっていう計画ね。うん・・・。
ヒ:バリにも住みたいって言った。
ミ:・・・もう、バリはいらないわ・・・。
ヒ:・・・。
ミ:・・・。
ヒ:とりあえずは、パリまで来たわけだ。
ミ:そうね。バラバラになってね。二人だった時は遠かったのに、今のあなたなんか、しょっちゅう、来られるでしょ? 私も来ようと思えば来られる・・・なんか、皮肉ね。(笑う)
ヒ:この通りを・・・こんな気持ちで歩くなんて思わなかった。
ミ:・・・。一緒にいても、そうだったかもしれないわ。(笑う)
ヒ:・・・。(足元を見る)
ミ:ヒョンジュン、月もキレイよ。
ヒ:(顔を上げる)ホントだ・・・。
ヒョンジュンは通りの反対側に立っている女を見る。
ヒ:夜の女が立ってるね。
ミ:ホントだ。
ヒ:あの人たちも恋をするのかな・・・?
ミ:人に歴史ありよ。
ヒ:うん・・・。
しばらく行って、脇に入る道がある。
ヒョンジュンが腕を引っ張った。
脇に入った通りの、もう閉まった商店の壁に、ミンスを押し付けた。横にあるショーウィンドーの薄暗いスタンドの照明がヒョンジュンの顔を映し出した。彼の表情は苦しさに満ちていた。
ミ:・・・。(ヒョンジュンを見上げる)
ヒ:本当に別れたいのか。
ミ:・・・。
ヒ:本当にオレを一人にするのか。(怒った顔をしている)
ミ:酔ってるわね?
ヒ:酔ってないよ。
圧し掛かるヒョンジュンはがっしりと重くて、ミンスは動きがつかない。
ミ:もう別れているでしょ。
ヒ:心の中には、いろよ。
ミ:・・・駄目よ。
ヒ:・・・。
ミ:・・・もう、あなたの近くに、私は何も残さない。
ヒ:おい。(もっと圧し掛かる)
ミ:重いわ。
ヒョンジュンはもっと二人の距離を縮めて、体をぴったりとつける。
ヒ:いろよ。心の中ぐらい、いろよ。
ミ:・・・。
ヒ:いるって返事をしろよ。
ミ:・・・。(答えない)
ヒ:なぜ、答えない!
ミ:・・・。
ヒ:・・・ホントにその男とは、別れられる?
ミ:酔ってる。(睨む)
ヒ:酔って何が悪い。こんなに苦しいのに・・・。(深く呼吸をする)
ミ:・・・私、一人になるって言ったでしょ?
ヒ:本当に、他の男を好きだったの?(苦しそうに呼吸する)
ミ:違うわ。私を助けてくれたの。私の壊れそうな心をね。
ヒ:・・・。
ミ:大切な友達よ。
ヒ:ホントかな・・・。そいつと寝た?
ミ:何を言うの!
ヒ:そいつと寝たの?
ミ:そんなこと、しないわ。
ヒ:だったら、そんなやつに、心なんて奪われないで。
ミ:だから・・・一人になって・・・。
ヒ:ミンス・・・。オレのミンス。
ヒョンジュンはミンスの首筋に顔をつけて、抱きしめる。
ミ:・・・。
ヒ:オレと一緒にいろよ・・・心ぐらい残していけよ。
ミ:・・・。
ヒョンジュンがミンスのスカートの中に手を入れた。
ミ:ヒョンジュン・・・やめて。ここは公道よ。
ヒ:どこでならいいの?
ミ:・・・。
ヒ:・・・。
ミ:もう帰りましょう。
ヒ:どこでならいいんだ?
ミ:酔ってる・・・。
ヒ:・・・。(じっと見下ろす)朝まで一緒にいよう。
ミ:・・・。
ヒョンジュンは、ミンスに体重をかけて抱きつくように立っている。
彼は酔っている。
もし、ここで彼を押したら、そのまま、この歩道に倒れて、朝を迎えてしまうだろう・・・。
ミンスは、ヒョンジュンを捨て置くわけにもいかず、自分のホテルへ連れて帰った。
薄っすらとほの暗い中で、ミンスは目が覚めた。
酔ったヒョンジュンを抱いたまま、寝てしまった。ミンスのシャツは胸がはだけて、そこにヒョンジュンの顔があった。少し胸を寄せると、乳房にヒョンジュンの唇が触れた。彼は軽く寝息を立てて眠っている。
夜明けまでにはまだ時間がある。
ミンスはゆっくり体を離して、起き上がった。
スタンドを一つだけつけて、帰国の準備をする。今日、着る服だけ出してハンガーにかけ、あとのものをスーツケースにしまう。今、着ている服を脱いでスーツケースにしまうと、ミンスは、シャワーを浴びにバスルームに入った。
ミンスがシャワーを浴びて、バスローブを着て、部屋に戻ってきた。
ヒョンジュンはまだ、寝息を立てて眠っていた。
静かに荷物を片付け、部屋に用意された魔法瓶から、紅茶を入れる。
カップを持って、窓の外を覗く。
まだ街は、眠りの中にあった。
日の出までには、少し時間がある。
今は、昨日と今日の始まりの狭間だ。
日が昇ったら、私は新しい人生を生きよう。
後ろから、ヒョンジュンの声がした。
ヒ:起きてたの?
ミ:うん?(振り返る)目が覚めた? まだ、5時前よ。日の出前。寝ていてもいいわよ。
ヒ:うん・・・。シャワー借りてもいい? 昨日は、久しぶりに酔ったよ。
ミ:うん、どうぞ。バスタオルもバスローブも、歯ブラシも2人分あるから、使っていいわよ。
ヒ:うん。
ヒョンジュンはゆっくり起き上がって、服を脱ぎ、下着になって、バスルームへ向かった。
ミンスはそのまま、窓のほうを向いて、一人がけのソファに座り、ゆっくりと紅茶を飲んだ。
ヒョンジュンがバスルームから出てきた。
ミンスは気配を感じて後ろを向いた。
ミ:出たの?
ヒ:うん。
ミ:紅茶のティバッグがあるの。飲む?
ヒ:うん。
ミンスは立ち上がって、紅茶を入れる。
ヒョンジュンが窓際へ来て、窓の外を覗く。
ヒ:まだ、街は寝てるんだ。
ミ:そうね。はい。お湯が熱いわよ。
ヒ:ありがとう。
ヒョンジュンがフーフーと冷まして、紅茶を飲む。それを、目の前でミンスが見ている。彼は猫舌のままだ・・・。
ヒョンジュンは半分ほど飲んで、近くのテーブルにカップを置いた。
目の前のミンスを見て、彼女のバスローブの紐を解いた。
紐が解け、前がはだける。彼女は下には何も着ていなかった。
ヒョンジュンは、自分のバスローブを脱いだ。
ミ:抱きたい?
ヒ:うん・・・。
ミ:・・・。
ヒョンジュンが、ミンスのバスローブを脱がす。
ヒ:・・・。(ミンスを眺める)
ミ:もうすぐ日が昇るわ。私は新しい道を行かなくちゃならないの・・・。
ヒ:・・・。
ヒョンジュンがミンスをベッドのほうへ手を引く。
ヒ:まだ、日の出まで時間はあるよ。
ミ:・・・。
ヒ:それまでは二人の時を過ごそう。
ヒョンジュンがベッドに座り、目の前のミンスを抱く。
ヒ:おまえは、キレイなままだね・・・。
ヒョンジュンがミンスを抱いたまま、二人はベッドへ倒れこんだ。
ヒ:ホントにおまえはキレイだ。
ミ:・・・。
ベッドの中から、オレンジ色の日の出を、ミンスは一人、眺めた。
もう、ヒョンジュンはここにはいない。
新しい日が始まった。
瞳はうるんだが、もう涙は流さなかった。
彼が心に愛を残していってくれたから・・・。
11部へ続く
注)「ルーブルの窓」のフォトは、「恋がいた部屋」を連載していた当時,
友人が実際に行って撮影したフォトをお借りしたものです。
Thanks for nanamaria ( nanakiara )