「恋がいた部屋」12部
2015-09-22
今、
どこにいるの?
どうしているの?
本当に
僕の前から
消えてしまうの?
どこ?
どこにいるの?
会って、
君と話したい
会って、
君を
抱きしめたい
「もしもし?」
「はい。どちら様ですか?」
「ヒョンジュンです」
「・・・」
ヘスは、電話の声に固まった。
主演:ペ・ヨンジュン
チョン・ジヒョン
キム・ヘス
【恋がいた部屋】12部
へ:何の用?
ヒ:君に聞きたいことがあるんだ・・・。
へ:・・・。
ヒ:今、ミンスがどこにいるか、知らない?
へ:なんで? なんでそんなことが知りたいの?
ヒ:いや、そのう、ミンスと会って話がしたいんだ。
へ:悪いけど、私には教えられないわ。
ヒ:・・・どうして?
へ:あなたのことで、ミンスは精神的にものすごく追い込まれたのよ。わかる? あなたは結婚して安泰かもしれないけど、ミンスは一人であなたをなくした悲しみに耐えなくてはならなかったの・・・。あなたを失ったのだって、あの子のせいじゃないでしょ? もう、そっとしておいてあげて。
ヒ:お願いだ。ヘス。
へ:・・・。
ヒ:教えてくれ。
へ:・・・。本当は、私もよく知らないの・・・。
ヒ:うそだ。パリで君へのお土産を買ったはずだよ。
へ:なんで、そんなこと、知ってるの?
ヒ:・・・。
へ:パリであの子に会ったの?
ヒ:偶然だけど。
へ:そうだったの・・・。あの子、何にも言ってなかったから。でも、もうあなたに会いたくないと思うわ。一人になりたいって言ってたから。
ヒ:・・・。
へ:その気持ち、わかってあげて。
ヒ:会いたいんだ。オレも家を出たからって。
へ:・・・ごめんなさい。
部屋のドアが開く音がする。
へ:ごめんなさい。主人だわ。電話、切るわね。
ヒ:ね! 元のマンションに戻ったって。そう伝えて!
へ:・・・。じゃあ。
ヒ:ヘス!
ミ:どうしたの?
へ:うん? ちょっとねえ。
ミ:お風呂、先に入ったわよ。
へ:そう。ビールでも飲もうか?
ミ:うん。
へ:今日は、彼も帰らないし、二人で飲もう。
ミ:全く、お姉ちゃんたら、不良主婦なんだから。(笑う)
へ:ふん。(笑う)いいでしょ?
ヘスが冷凍庫を開けてみる。
へ:ピザでも食べようか。
ミ:太るわよ。
へ:太っても食べるわ。
ミ:なんだかね。
へ:食べないの?
ミ:食べるわよ!(笑う)
ミンスは、本当に姿を消してしまった。
どこへ行ってしまったのか。
もっと早く探すべきだった・・・もっと早くに・・・。ミンスが決意する前に・・・。
翌日、ヒョンジュンはオフィスに出たが、もうする仕事もなくて、ぼんやりとしている。
ミンスが自分の部屋に住んでいたことも知らないで、ミンスを責めたりして・・・
あいつの心をズタズタにした・・・。
デ1:先生。次の新作のパターンなんですが。
ヒ:うん? うん・・・それは、チーフと話し合って決めてくれる? もう僕が見ても仕方ないから。
デ1:先生・・・。せっかく才能があるのに・・・。辞められるなんて勿体ないです。
ヒ:でも、仕方ないんだ。僕の場合は・・・もうわかっていると思うけど、仕事と結婚がセットだから。
ヒョンジュンが寂しそうに笑う。
デ1:残念です・・・。また、先生がアトリエを開いたら、呼んでください。
ヒ:・・・。ありがとう・・・。でも、僕のアトリエなんて・・・小さくて、君みたいな人は雇えないよ。
デ1:・・・。
ヒ:おかげでいい勉強ができたよ。
デ1:・・・。いつ、ここを去るんですか?
ヒ:いつかな・・・。(寂しそうに笑う)妻が戻ったら。かな? たぶん、もうすぐ。もうすぐ、日本から帰ると思うから。
デ1:そうですか・・・。
ヒョンジュンはオフィスの窓の景色を眺める。このソウルのどこかに、ミンスはいるはずなのに。
もう隠されて見つけようがない・・・。どこにいるんだ・・・。
チェスクさん・・・。
彼女の仕事をしていたな・・・。
ヒョンジュンは思いついて、チェスクに電話を入れる。
ヒ:ヒョンジュンです。ご無沙汰しております。あのう・・・。
チ:ちょうどよかったわ。私もあなたに連絡したかったの。この間、ちょっと噂を聞いてね。心配だったものだから・・・。
ヒ:ミンスのことですか?
チ:ミンス? いえ、違うわ。もう彼女とは別れたんでしょ?
ヒ:・・・。そのう・・・。
チ:それよりあなた。ソルミさん、どうしたの?
ヒ:ソルミ・・・ですか?
チ:ええ。
ヒ:彼女は今、日本へ・・・。
チ:日本で何してるの?
ヒ:・・・。
チ:何があったの?
ヒ:・・・彼女に離婚したいって申し出たんです・・・。
チ:・・・それで?
ヒ:それで・・・。家を出てしまいました。逃げたんです。でも、会長にはオレの気持ちを話して・・・黙って認めてくれました。あれだけの資産家ですからね。娘を大事にしない男には会長からも三行半ですよ。あとは、ソルミが帰ったら、離婚の話し合いをしたいと思っているんです。
チ:・・・。
ヒ:だから・・・もう、H・joonからも僕は撤退しました。
チ:そうだったの・・・。
ヒ:・・・。
チ:それがね。ソルミさん、ソウルにいるのよ・・・。
ヒ:え?
チ:それが心配で、あなたに電話しようか迷っていたの。会長もご心配だろうし・・・。
ヒ:会長も知らないんですか?
チ:ええ・・・。離婚ね・・・。うん、それもいいかもしれないわ。あの人、今、ちょっとゴロツキみたいのと一緒に住んでいて・・・。ちょっと危ないらしいの。
ヒ:危ないって?
チ:よくわからないけど・・・やくざみたいな男らしい・・・どこで知り合ったかわからないけど、一緒にいるらしいわ。あなたに離婚を切り出されて、自暴自棄になったのかしら・・・。
ヒ:どこにいるんですか?
チ:もう一度、確認するわね、正確な住所を。何事もなければいいけど。相手は普通の人じゃないから。
ヒョンジュンは頭から冷水を浴びせられた思いだ。
ソルミはソウルにいた。
それも、ゴロツキと一緒に。
日本で優雅に過ごしていたわけではなかった。
チェスクからの連絡を受け、ヒョンジュンはオフィスを早退して、その住所を訪ねた。
そこは、ソウルでもちょっと危険なニオイのする地域だった。
チェスクから聞いた住所のアパートの斜め前に車を止める。
その建物を見る。あの中に、ソルミはいるのだろうか・・・。
車に鍵をかけ、ヒョンジュンは、錆びた非常階段を2階へ上がる。
201号室・・・。
トントン!
トントン!
中からは返事がなかった。
ヒョンジュンはしばらく部屋の前で待った。
すると、階段を誰かが上がってくる音がする。
錆びた古い階段全体を揺らして、一歩ずつ上がってくる。
それはヒールのような音だ・・・。
ヒョンジュンが階段のほうを振り向くと、ソルミがスーパーの袋を提げて上がってきた。
ソルミは、ヒョンジュンを見て驚く。
ソ:!
ヒ:ソルミ!
ヒョンジュンが駆け寄ると、ソルミは急いで階段を下りていく。
ヒ:おい! 待てよ。 ソルミ! 待ってくれ!
ヒョンジュンがソルミを追いかけて階段を下りる。ソルミは持っていたスーパーの袋を捨てて走った。
袋の中からは、洗剤と菓子パンが出てきた。
ヒ:待って!
ソルミのミュールの片方が脱げて、彼女は立ち止まる。ヒョンジュンが彼女の肩を掴んだ。
ソルミがヒョンジュンを睨みつけた。
その目にヒョンジュンは驚いた・・・。お嬢様の仮面を取った彼女の目は・・・その顔は・・・「街の女」の顔だった。
驚いて、ヒョンジュンは手を放した。
ソ:誰に聞いたの?
ヒ:ソウルにいたのか・・・。
ソ:そうよ。
ヒ:ここで何をしてるんだ。
ソ:いい人と住んでるのよ。(にんまりとする)
ヒョンジュンは、その笑いの下品さに胸が痛くなる。
ヒ:いい人?
ソ:そうよ。あなたと違って、私を命みたいに愛してくれてる人なの。
ヒ:・・・。
ソ:だから、帰ってよ。
ヒ:・・・一度、自宅へ帰ろう。
ソ:・・・。
ヒ:お父さんも心配されてる。
ソ:帰ってどうするのよ。
ヒ:話し合おう。
ソ:あなたがほしいのは、私の返事でしょ? それは「ノー」よ。ノー!
ヒ:・・・それでもいい。まずは、帰って・・・。
ソ:嫌よ!
ヒ:ソルミ・・・。
今のソルミの姿を見ていると、ヒョンジュンは胸が苦しくなって、やっとの思いで腕を掴んだ。
着ているものは家を出たときのままだ。化粧も・・・。何も変わっていない・・・。
でも、その表情は荒んでいる。
この落差は何だ・・・。
もう誰も彼女を見ても、良家のお嬢様とは思わないだろう・・・。
いや、思ったとしても、もう、自分の目にはそうは見えない・・・。
オレが別れると言ったことが辛かったのか?
それほど愛していたというのか?
別れた後に会ったミンスを思い出す。
彼女は、一段と大人になって・・・表情が深かった。
理不尽な別れから、自分の生き方を探して、人として成長していた。そして、美しかった。
今のソルミは何だ・・・。
彼女から良家の子女という冠を取ったら、荒れた心をむき出しにした「ゴロツキ」と変わらない・・・。
ヒョンジュンは呼吸が苦しくなって、目頭が熱くなった。
ソ:何よ。何、泣いてるの? 私が離婚を拒否したから?
ヒ:・・・。
ソ:かわいそうにね。
ヒ:ソルミ。もうわかったから、一度帰ろう。・・・君が好きな人のところへ戻りたいなら、それはそれで、お父さんと話し合って。
ソ:お父さん、お父さんてうるさいわね。
ヒ:会長には、もう君に離婚の申し出をしたことは話したんだ。それで、僕は、もうH・joonからも撤退するんだ。
ソ:・・・。
ヒ:ソルミ。
男:おい!
後ろから男の声がした。振り向くと、20代後半か30頭の、ジゴロのような男が立っていた。
品行の悪そうな顔・・・。目が今のソルミとよく似ている。
ソ:あんた!
ヒョンジュンは、ソルミの「あんた」という言い回しに驚いた。話し方は上品だったのに・・・。
男:おまえ、何者だ。
ヒ:彼女の夫です。
男:なんだとお!
男は、凄んで、ヒョンジュンを見つめた。
ソ:スンジョン! やめて。
ス:あんたが来るところじゃねえよ。ソルミはもうオレの女なんだ。手を引けよ。
ヒ:・・・。(男とソルミを見つめる)
ソ:あんた。ちょっとあっちへ行っててよ。私、まだ彼と話をしたいの。
ス:話すって何をだよ。早く離婚してもらえよ。
ソ:あっちへ行っててよ!
ソルミは男を押し退けて、ヒョンジュンの胸を押す。
ソ:(小さな声で)早く帰ってよ。そして、お父様には言わないで! 言ったら最後、彼が何をされるかわからないわ。
ヒョンジュンは男を見つめた。
男は凄んだ顔をして、じっとヒョンジュンを見ている。その目は・・・狂っている・・・。
ソルミが考えているほど、生易しくはない。
愛している? そうだろうか・・・。
やくざ・・・。
でも、たぶん、会長の手下のほうが危ないのは確かだろう・・・。
ヒョンジュンは咄嗟にソルミの腕を掴む。
ヒ:ここにいたらいけない。帰ろう。まずは帰ろう。ここにいるのは危険だよ。
ヒョンジュンはソルミを掴んで引っ張り、自分の車のほうへ行く。
ソルミが驚いた顔をして、顔面蒼白になっている。
そう、ここにいたら、彼女は骨までしゃぶられて捨てられるだろう。
一人でこの世界からは脱出できないだろう・・・。
ソ:待って、待って、ヒョンジュン。
ヒ:駄目だ。危険すぎる! とにかく、ここを出るんだ!
ソ:でも!
ヒ:いいから! まずは、ここから出るんだ。
ヒョンジュンはソルミを車に押し込み、自分も車に乗り込もうとした。
ヒョンジュンは、背中に鈍い痛みを感じて、車に乗ろうとする意識とは逆に、彼は後ろへ倒れた。
ミ:チェスクさん。ありがとうございます。お陰様で、これで留学できます。テーブルコーディネーターとして、もうワンランクアップするように頑張ります。
チ:そうね。うん。あなたならできるわ。頑張って。うちのニューヨーク駐在のスタッフもいるし、わからないこと、困ったことがあったら、彼に言ってちょうだい。あなたの将来に期待しているわ。
ミ:ありがとうございます。
チ:ジフン君には言うの?
ミ:ええ。彼は、私の親友でもあるんです。ちゃんと自分の気持ちを話そうと思います。
チ:そう! まあ仕方ないわね。
ミ:今日、これから会います。この書類を見せて・・・よく話します。
チ:彼も元気になったの?
ミ:ええ。もう職場へ復帰していて。今日は、大学病院のほうへ行って、彼の患者さんたちに読み聞かせの日なんです。(笑う)その子たちにも、さよなら言わなくちゃ。(ちょっと寂しそうに俯く)
チ:全てを捨てるんだ。頑張ってね。
ミ:はい!
ミンスは、留学手続きの済んだ書類をバッグにしまうと、画廊を後にした。
今まで、ジフンに別れること、留学することを直隠しにしてきた。今日はちゃんと話さなければいけない。
ジフンがどう出るかわからないが、ミンスは自分で決めた道を進む決心をした。
画廊を出てから、ミンスはバッグからリングを取り出した。
これが結論だ。
彼女はそれをまた左手の薬指に嵌めて、地下鉄へ急いだ。
大学病院の裏の通用口から、ミンスは入った。
ミ:こんにちは。小児科病棟の子供学級のキム・ミンスです。
守:ああ、いらっしゃい。
守衛が笑顔でミンスにノートを差し出す。
ミンスは記帳して、首から臨時スタッフ用の名札を吊るした。
病院の裏口は、救急への通路でもある。ここを訪ねると、いつも慌しく救急車から搬送される人々がストレッチャーで運ばれていく。
ミンスがエレベーターのボタンを押していると、今日もまた、サイレンを鳴らして、救急車がやってきた。
これで、エレベーターは、一つ見送りね。
点滴をいっぱい吊るしたストレッチャーが搬送口からエレベーター目掛けて入ってきた。
ミンスが何気なく見ていると、そこに付き添っている女に見覚えがある。
あれは・・・。
ソルミ・さん・・・?
ミンスの目が釘付けになった。
ソ:はあ、はあ、ヒ、ヒョンジュン・・・ヒョンジュン・・・。
救:奥さんは少しヒステリー状態です。(引き継ぐ)
ソ:死んじゃう? 死んじゃうの?
医:大丈夫ですよ。(ナースに向かって)奥さんをよろしく。
ナ:はい。
ナースが、ソルミの肩を抱いた。
ヒョンジュン・・・?
ミンスの目の前を、血で真っ赤に染まったシーツの上に寝ているヒョンジュンが通った。
ヒョンジュン!
ヒョンジュン!
ミンスは目を見開いて、ヒョンジュンのストレッチャーがエレベーターに入っていくのを見つめた。
13部に続く
どこにいるの?
どうしているの?
本当に
僕の前から
消えてしまうの?
どこ?
どこにいるの?
会って、
君と話したい
会って、
君を
抱きしめたい
「もしもし?」
「はい。どちら様ですか?」
「ヒョンジュンです」
「・・・」
ヘスは、電話の声に固まった。
主演:ペ・ヨンジュン
チョン・ジヒョン
キム・ヘス
【恋がいた部屋】12部
へ:何の用?
ヒ:君に聞きたいことがあるんだ・・・。
へ:・・・。
ヒ:今、ミンスがどこにいるか、知らない?
へ:なんで? なんでそんなことが知りたいの?
ヒ:いや、そのう、ミンスと会って話がしたいんだ。
へ:悪いけど、私には教えられないわ。
ヒ:・・・どうして?
へ:あなたのことで、ミンスは精神的にものすごく追い込まれたのよ。わかる? あなたは結婚して安泰かもしれないけど、ミンスは一人であなたをなくした悲しみに耐えなくてはならなかったの・・・。あなたを失ったのだって、あの子のせいじゃないでしょ? もう、そっとしておいてあげて。
ヒ:お願いだ。ヘス。
へ:・・・。
ヒ:教えてくれ。
へ:・・・。本当は、私もよく知らないの・・・。
ヒ:うそだ。パリで君へのお土産を買ったはずだよ。
へ:なんで、そんなこと、知ってるの?
ヒ:・・・。
へ:パリであの子に会ったの?
ヒ:偶然だけど。
へ:そうだったの・・・。あの子、何にも言ってなかったから。でも、もうあなたに会いたくないと思うわ。一人になりたいって言ってたから。
ヒ:・・・。
へ:その気持ち、わかってあげて。
ヒ:会いたいんだ。オレも家を出たからって。
へ:・・・ごめんなさい。
部屋のドアが開く音がする。
へ:ごめんなさい。主人だわ。電話、切るわね。
ヒ:ね! 元のマンションに戻ったって。そう伝えて!
へ:・・・。じゃあ。
ヒ:ヘス!
ミ:どうしたの?
へ:うん? ちょっとねえ。
ミ:お風呂、先に入ったわよ。
へ:そう。ビールでも飲もうか?
ミ:うん。
へ:今日は、彼も帰らないし、二人で飲もう。
ミ:全く、お姉ちゃんたら、不良主婦なんだから。(笑う)
へ:ふん。(笑う)いいでしょ?
ヘスが冷凍庫を開けてみる。
へ:ピザでも食べようか。
ミ:太るわよ。
へ:太っても食べるわ。
ミ:なんだかね。
へ:食べないの?
ミ:食べるわよ!(笑う)
ミンスは、本当に姿を消してしまった。
どこへ行ってしまったのか。
もっと早く探すべきだった・・・もっと早くに・・・。ミンスが決意する前に・・・。
翌日、ヒョンジュンはオフィスに出たが、もうする仕事もなくて、ぼんやりとしている。
ミンスが自分の部屋に住んでいたことも知らないで、ミンスを責めたりして・・・
あいつの心をズタズタにした・・・。
デ1:先生。次の新作のパターンなんですが。
ヒ:うん? うん・・・それは、チーフと話し合って決めてくれる? もう僕が見ても仕方ないから。
デ1:先生・・・。せっかく才能があるのに・・・。辞められるなんて勿体ないです。
ヒ:でも、仕方ないんだ。僕の場合は・・・もうわかっていると思うけど、仕事と結婚がセットだから。
ヒョンジュンが寂しそうに笑う。
デ1:残念です・・・。また、先生がアトリエを開いたら、呼んでください。
ヒ:・・・。ありがとう・・・。でも、僕のアトリエなんて・・・小さくて、君みたいな人は雇えないよ。
デ1:・・・。
ヒ:おかげでいい勉強ができたよ。
デ1:・・・。いつ、ここを去るんですか?
ヒ:いつかな・・・。(寂しそうに笑う)妻が戻ったら。かな? たぶん、もうすぐ。もうすぐ、日本から帰ると思うから。
デ1:そうですか・・・。
ヒョンジュンはオフィスの窓の景色を眺める。このソウルのどこかに、ミンスはいるはずなのに。
もう隠されて見つけようがない・・・。どこにいるんだ・・・。
チェスクさん・・・。
彼女の仕事をしていたな・・・。
ヒョンジュンは思いついて、チェスクに電話を入れる。
ヒ:ヒョンジュンです。ご無沙汰しております。あのう・・・。
チ:ちょうどよかったわ。私もあなたに連絡したかったの。この間、ちょっと噂を聞いてね。心配だったものだから・・・。
ヒ:ミンスのことですか?
チ:ミンス? いえ、違うわ。もう彼女とは別れたんでしょ?
ヒ:・・・。そのう・・・。
チ:それよりあなた。ソルミさん、どうしたの?
ヒ:ソルミ・・・ですか?
チ:ええ。
ヒ:彼女は今、日本へ・・・。
チ:日本で何してるの?
ヒ:・・・。
チ:何があったの?
ヒ:・・・彼女に離婚したいって申し出たんです・・・。
チ:・・・それで?
ヒ:それで・・・。家を出てしまいました。逃げたんです。でも、会長にはオレの気持ちを話して・・・黙って認めてくれました。あれだけの資産家ですからね。娘を大事にしない男には会長からも三行半ですよ。あとは、ソルミが帰ったら、離婚の話し合いをしたいと思っているんです。
チ:・・・。
ヒ:だから・・・もう、H・joonからも僕は撤退しました。
チ:そうだったの・・・。
ヒ:・・・。
チ:それがね。ソルミさん、ソウルにいるのよ・・・。
ヒ:え?
チ:それが心配で、あなたに電話しようか迷っていたの。会長もご心配だろうし・・・。
ヒ:会長も知らないんですか?
チ:ええ・・・。離婚ね・・・。うん、それもいいかもしれないわ。あの人、今、ちょっとゴロツキみたいのと一緒に住んでいて・・・。ちょっと危ないらしいの。
ヒ:危ないって?
チ:よくわからないけど・・・やくざみたいな男らしい・・・どこで知り合ったかわからないけど、一緒にいるらしいわ。あなたに離婚を切り出されて、自暴自棄になったのかしら・・・。
ヒ:どこにいるんですか?
チ:もう一度、確認するわね、正確な住所を。何事もなければいいけど。相手は普通の人じゃないから。
ヒョンジュンは頭から冷水を浴びせられた思いだ。
ソルミはソウルにいた。
それも、ゴロツキと一緒に。
日本で優雅に過ごしていたわけではなかった。
チェスクからの連絡を受け、ヒョンジュンはオフィスを早退して、その住所を訪ねた。
そこは、ソウルでもちょっと危険なニオイのする地域だった。
チェスクから聞いた住所のアパートの斜め前に車を止める。
その建物を見る。あの中に、ソルミはいるのだろうか・・・。
車に鍵をかけ、ヒョンジュンは、錆びた非常階段を2階へ上がる。
201号室・・・。
トントン!
トントン!
中からは返事がなかった。
ヒョンジュンはしばらく部屋の前で待った。
すると、階段を誰かが上がってくる音がする。
錆びた古い階段全体を揺らして、一歩ずつ上がってくる。
それはヒールのような音だ・・・。
ヒョンジュンが階段のほうを振り向くと、ソルミがスーパーの袋を提げて上がってきた。
ソルミは、ヒョンジュンを見て驚く。
ソ:!
ヒ:ソルミ!
ヒョンジュンが駆け寄ると、ソルミは急いで階段を下りていく。
ヒ:おい! 待てよ。 ソルミ! 待ってくれ!
ヒョンジュンがソルミを追いかけて階段を下りる。ソルミは持っていたスーパーの袋を捨てて走った。
袋の中からは、洗剤と菓子パンが出てきた。
ヒ:待って!
ソルミのミュールの片方が脱げて、彼女は立ち止まる。ヒョンジュンが彼女の肩を掴んだ。
ソルミがヒョンジュンを睨みつけた。
その目にヒョンジュンは驚いた・・・。お嬢様の仮面を取った彼女の目は・・・その顔は・・・「街の女」の顔だった。
驚いて、ヒョンジュンは手を放した。
ソ:誰に聞いたの?
ヒ:ソウルにいたのか・・・。
ソ:そうよ。
ヒ:ここで何をしてるんだ。
ソ:いい人と住んでるのよ。(にんまりとする)
ヒョンジュンは、その笑いの下品さに胸が痛くなる。
ヒ:いい人?
ソ:そうよ。あなたと違って、私を命みたいに愛してくれてる人なの。
ヒ:・・・。
ソ:だから、帰ってよ。
ヒ:・・・一度、自宅へ帰ろう。
ソ:・・・。
ヒ:お父さんも心配されてる。
ソ:帰ってどうするのよ。
ヒ:話し合おう。
ソ:あなたがほしいのは、私の返事でしょ? それは「ノー」よ。ノー!
ヒ:・・・それでもいい。まずは、帰って・・・。
ソ:嫌よ!
ヒ:ソルミ・・・。
今のソルミの姿を見ていると、ヒョンジュンは胸が苦しくなって、やっとの思いで腕を掴んだ。
着ているものは家を出たときのままだ。化粧も・・・。何も変わっていない・・・。
でも、その表情は荒んでいる。
この落差は何だ・・・。
もう誰も彼女を見ても、良家のお嬢様とは思わないだろう・・・。
いや、思ったとしても、もう、自分の目にはそうは見えない・・・。
オレが別れると言ったことが辛かったのか?
それほど愛していたというのか?
別れた後に会ったミンスを思い出す。
彼女は、一段と大人になって・・・表情が深かった。
理不尽な別れから、自分の生き方を探して、人として成長していた。そして、美しかった。
今のソルミは何だ・・・。
彼女から良家の子女という冠を取ったら、荒れた心をむき出しにした「ゴロツキ」と変わらない・・・。
ヒョンジュンは呼吸が苦しくなって、目頭が熱くなった。
ソ:何よ。何、泣いてるの? 私が離婚を拒否したから?
ヒ:・・・。
ソ:かわいそうにね。
ヒ:ソルミ。もうわかったから、一度帰ろう。・・・君が好きな人のところへ戻りたいなら、それはそれで、お父さんと話し合って。
ソ:お父さん、お父さんてうるさいわね。
ヒ:会長には、もう君に離婚の申し出をしたことは話したんだ。それで、僕は、もうH・joonからも撤退するんだ。
ソ:・・・。
ヒ:ソルミ。
男:おい!
後ろから男の声がした。振り向くと、20代後半か30頭の、ジゴロのような男が立っていた。
品行の悪そうな顔・・・。目が今のソルミとよく似ている。
ソ:あんた!
ヒョンジュンは、ソルミの「あんた」という言い回しに驚いた。話し方は上品だったのに・・・。
男:おまえ、何者だ。
ヒ:彼女の夫です。
男:なんだとお!
男は、凄んで、ヒョンジュンを見つめた。
ソ:スンジョン! やめて。
ス:あんたが来るところじゃねえよ。ソルミはもうオレの女なんだ。手を引けよ。
ヒ:・・・。(男とソルミを見つめる)
ソ:あんた。ちょっとあっちへ行っててよ。私、まだ彼と話をしたいの。
ス:話すって何をだよ。早く離婚してもらえよ。
ソ:あっちへ行っててよ!
ソルミは男を押し退けて、ヒョンジュンの胸を押す。
ソ:(小さな声で)早く帰ってよ。そして、お父様には言わないで! 言ったら最後、彼が何をされるかわからないわ。
ヒョンジュンは男を見つめた。
男は凄んだ顔をして、じっとヒョンジュンを見ている。その目は・・・狂っている・・・。
ソルミが考えているほど、生易しくはない。
愛している? そうだろうか・・・。
やくざ・・・。
でも、たぶん、会長の手下のほうが危ないのは確かだろう・・・。
ヒョンジュンは咄嗟にソルミの腕を掴む。
ヒ:ここにいたらいけない。帰ろう。まずは帰ろう。ここにいるのは危険だよ。
ヒョンジュンはソルミを掴んで引っ張り、自分の車のほうへ行く。
ソルミが驚いた顔をして、顔面蒼白になっている。
そう、ここにいたら、彼女は骨までしゃぶられて捨てられるだろう。
一人でこの世界からは脱出できないだろう・・・。
ソ:待って、待って、ヒョンジュン。
ヒ:駄目だ。危険すぎる! とにかく、ここを出るんだ!
ソ:でも!
ヒ:いいから! まずは、ここから出るんだ。
ヒョンジュンはソルミを車に押し込み、自分も車に乗り込もうとした。
ヒョンジュンは、背中に鈍い痛みを感じて、車に乗ろうとする意識とは逆に、彼は後ろへ倒れた。
ミ:チェスクさん。ありがとうございます。お陰様で、これで留学できます。テーブルコーディネーターとして、もうワンランクアップするように頑張ります。
チ:そうね。うん。あなたならできるわ。頑張って。うちのニューヨーク駐在のスタッフもいるし、わからないこと、困ったことがあったら、彼に言ってちょうだい。あなたの将来に期待しているわ。
ミ:ありがとうございます。
チ:ジフン君には言うの?
ミ:ええ。彼は、私の親友でもあるんです。ちゃんと自分の気持ちを話そうと思います。
チ:そう! まあ仕方ないわね。
ミ:今日、これから会います。この書類を見せて・・・よく話します。
チ:彼も元気になったの?
ミ:ええ。もう職場へ復帰していて。今日は、大学病院のほうへ行って、彼の患者さんたちに読み聞かせの日なんです。(笑う)その子たちにも、さよなら言わなくちゃ。(ちょっと寂しそうに俯く)
チ:全てを捨てるんだ。頑張ってね。
ミ:はい!
ミンスは、留学手続きの済んだ書類をバッグにしまうと、画廊を後にした。
今まで、ジフンに別れること、留学することを直隠しにしてきた。今日はちゃんと話さなければいけない。
ジフンがどう出るかわからないが、ミンスは自分で決めた道を進む決心をした。
画廊を出てから、ミンスはバッグからリングを取り出した。
これが結論だ。
彼女はそれをまた左手の薬指に嵌めて、地下鉄へ急いだ。
大学病院の裏の通用口から、ミンスは入った。
ミ:こんにちは。小児科病棟の子供学級のキム・ミンスです。
守:ああ、いらっしゃい。
守衛が笑顔でミンスにノートを差し出す。
ミンスは記帳して、首から臨時スタッフ用の名札を吊るした。
病院の裏口は、救急への通路でもある。ここを訪ねると、いつも慌しく救急車から搬送される人々がストレッチャーで運ばれていく。
ミンスがエレベーターのボタンを押していると、今日もまた、サイレンを鳴らして、救急車がやってきた。
これで、エレベーターは、一つ見送りね。
点滴をいっぱい吊るしたストレッチャーが搬送口からエレベーター目掛けて入ってきた。
ミンスが何気なく見ていると、そこに付き添っている女に見覚えがある。
あれは・・・。
ソルミ・さん・・・?
ミンスの目が釘付けになった。
ソ:はあ、はあ、ヒ、ヒョンジュン・・・ヒョンジュン・・・。
救:奥さんは少しヒステリー状態です。(引き継ぐ)
ソ:死んじゃう? 死んじゃうの?
医:大丈夫ですよ。(ナースに向かって)奥さんをよろしく。
ナ:はい。
ナースが、ソルミの肩を抱いた。
ヒョンジュン・・・?
ミンスの目の前を、血で真っ赤に染まったシーツの上に寝ているヒョンジュンが通った。
ヒョンジュン!
ヒョンジュン!
ミンスは目を見開いて、ヒョンジュンのストレッチャーがエレベーターに入っていくのを見つめた。
13部に続く