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 「恋がいた部屋」13部

2015-09-22
どうか

あの人の命を
救ってください


どうか

あの人の
苦しみを
取り除いて
ください


どうか

あの人を

私に
返して
ください









「ジフン! ジフン!」
「どうしたの? 慌てて」

小児科病棟でジフンにやっと出会えたミンスは、泣きそうになった。




主演:ペ・ヨンジュン
    チョン・ジヒョン
    チョ・インソン

「恋がいた部屋」13部





ジ:どうしたの? (驚く)
ミ:ああ・・・ジフン、どうしよう。(今にも泣き出しそうな目)

ジフンの目にもミンスの精神状態が普通ではないことは明白だ。


ジ:落ち着いて。(両肩に手を置く)落ち着いて話してごらん。
ミ:今、一階でエレベーターを待ってたら、救急車で、ヒョンジュンが運ばれてきたの。ストレッチャーの上のシーツが真っ赤に血で染まっていて・・・。
ジ:落ち着いて。(じっと見つめる)
ミ:ああ、どうしよう・・・。あの人、あの人、大丈夫かしら? ねえ、ジフン、わかる? 調べられる? 彼が行った先。(懇願するように見つめる)


ジフンの瞳が翳り、悲しい色になった。
ミンスが今、全身を震わせて安否を心配しているのは、彼女の元彼のヒョンジュンだ。結局、彼女の心は、ヒョンジュンの元に置かれたままだった。今の彼女は、その思いも隠さず、ジフンに助けを求めてきているのだ。

ジフンはじっとミンスの顔を見つめてから、おもむろに、そして寂しそうに微笑んだ。

ジ:大丈夫だよ、オレが探してやるよ。


ジフンはナースステーションの中に入り、電話をかけた。

ミンスにもわかっていた。
彼が今の瞬間、自分の心を読み取ったことを。私の愛の在り処を。
もう、ジフンに別れの言葉も言う必要はない・・・。
今、「親友である」私のために、問い合わせの電話をかけている・・・。


ジ:ミンス、今、H(アッシュ)さんは、3階の外科のオペ室に入っているそうだよ。
ミ:何が起きたの?
ジ:背中を刺されたらしい・・・。

ミ:・・・どうして? 普通、人が刺されるなんて、滅多にないことでしょう?
ジ:まだ理由はよくわからないけど・・・奥さんが事情聴取されてるらしい。
ミ:・・・ソルミさんが刺したの・・・? (愕然とする)
ジ:わからない・・・。
ミ:何てことなの。

ジ:まだまだ時間がかかるよ。どうする? 待つだろ? 
ミ:・・・。
ジ:少し、下の喫茶でお茶でも飲むか?
ミ:・・・ううん・・・。今日は、読み聞かせの日だもん・・・。子供学級へ行くわ。あっちで、子供たちと勉強して待つ・・・。
ジ:・・・大丈夫? 無理はしなくていいんだよ。

ミ:いいの。ありがとう。ここにいたほうが、気が休まるの。
ジ:そう?
ミ:うん。



ミンスは、ジフンと一緒に子供学級へ行き、約束の読み聞かせをした。


ミンスの周りに子供たちが集まり、ミンスの読むお話を聞いている。
ジフンもいつものように、後方にイスを持っていき、座って一緒に読み聞かせを聞いている。
ミンスの読み聞かせはいつもとても劇的なので、ジフンは、いつもそれを聞いて大笑いをした。そして、いつも幸せそうにミンスを見つめた・・・。しかし、今日のジフンは、途中で涙が滲んできて、席を立った。


ミンスもそれに気がついた・・・。彼女も途中胸がいっぱいになったが、笑顔で最後まで読み通した。


読み聞かせの後、子供たちの勉強を見てやっていると、ジフンが教室の入り口まで来て、ミンスを見つめている。

それに気がついたミンスは、皆に「今日はここまでね」と言って、ジフンのほうへ向かった。

ジフンは、ミンスに笑顔を向けた。


ジ:よかったな。手術は成功したよ。
ミ:・・・。(一瞬泣きそうになる)
ジ:なんとか命は繋がったよ。刺されたところも臓器を避けていたそうだから、まあ、よかった。
ミ:そう。
ジ:うん・・・。
ミ:いろいろ、ありがとう。(俯く)
ジ:・・・うん。

ジ:それから・・・刺したのは、奥さんじゃないそうだ。
ミ:そう。(ホッとする)
ジ:事情はよくわからないけど・・・奥さんの男らしい。刺したの。
ミ:・・・男って・・・。(驚く)
ジ:うん・・・なんか、一緒に暮らしてたらしいよ。
ミ:・・・。
ジ:・・・どうなってるんだろうね。
ミ:・・・。

ジ:大丈夫か?
ミ:・・・ごめんね。心配かけて。

ジ:いいんだよ・・・。・・・。友達じゃないか。
ミ:・・・。・・・。
ジ:・・・。

ミ:ごめんなさい。(涙が出る)

ジ:夜にでもまた来るか?
ミ:夜?
ジ:うん。奥さんやあっちの家族に会いたくないだろ?
ミ:・・・。

ジ:連れてってやるよ。Hさんのいる所。
ミ:・・・うん。
ジ:いずれにせよ、今日は献血していけよ。
ミ:・・・。(ジフンを見上げる)
ジ:今日、明日がヤマなのは確かだから。Hさん、O型だろ? オレもするけど、君もしたほうがいい。もしもの時のために。
ミ:・・・。

ミンスは驚いて言葉が出なかった。ただ、ジフンの言う言葉に頷くしかなかった。
命は繋がったが、今日、明日が山場なのだ・・・決して楽観的には考えてはいけない・・・。





手術室の横の処置室で、ジフンとミンスは献血をした。

この血がもしもの時は、ヒョンジュンの中へ流れ込む。ジフンとミンスの血が・・・。






夜になって、またミンスは大学病院を訪ねた。ジフンの計らいで、集中治療室にいるヒョンジュンに会いに行くことができた。

体にチューブをつけて寝ているヒョンジュン。朝剃ったであろう髭も伸びて彼は静かに眠っている。頬も心なしかこけて見える。

今朝はきっといつものように、元気に出かけていったに違いない。人は傷ついた瞬間から、その人が持っていた生気はみごとに奪われてしまう。


ミンスはベッドのヒョンジュンの姿を見て、涙がはらはらと流れた。
胸に走った痛みが全身へ広がっていく。泣き声を押し殺しても、体の震えは収まらなかった。ミンスは、真っ赤に泣きはらした目で呆然とヒョンジュンを見つめた。

ジフンがそんなミンスの肩をぎゅっと抱いた。


辛い思いをして別れた末がこれなのか。

今のヒョンジュンは声をかけることもできない・・・。
彼はひっそりとしているが、死と戦っている。


機械音が支配する部屋の中で、ミンスがむせび泣く声と、鼻をすすり上げる音が悲しげに響く。


ジ:手を握ってあげたら?
ミ:・・・いいの?
ジ:ああ。ここに座って。

ジフンはミンスをイスに座らせ、ミンスにヒョンジュンの手を握らせた。ミンスは手を握りしめ、彼の顔を見つめた。

ヒョンジュンの手は温かかった。

どうか、彼が、このまま、温かいままでありますように。
彼を助けてください。



ミ:ありがとう。
ジ:もういいの?
ミ:ええ・・・。


二人は集中治療室から出てきた。

暗い夜の廊下で、ジフンがミンスをじっと見つめた。


ジ:・・・ちょっと聞いたんだけどね、相手はやくざみたいだって。
ミ:・・・。
ジ:その男の所から、奥さんを連れ出そうとしたらしいよ。
ミ:なんでそんな人と・・・。

ジ:そこはよくわからないけど。なんか・・・離婚話があったみたい。やけになって、そんな男の所へ行っちゃったのかな・・・。わかんないけど。
ミ:そんな・・・。
ジ:結構、危ない所に住んでいたらしいよ・・・それで、Hさんがそこから連れ出そうとしたら、後ろから刺されたみたい。

ミ:・・・その男は捕まったの?
ジ:いや、逃げてるんだ。
ミ:・・・逃がしたのかしら・・・?
ジ:わからないな。
ミ:でも、あの人、救急車を呼んでくれたのよね・・・。

ジ:・・・。恨まない? 彼女を。
ミ:・・・。わからない・・・。でも。でも、命を救ってくれたことだけは・・・感謝するわ。

ジ:・・・。
ミ:・・・。

ジフンがミンスを抱き締めた。ミンスの頭を胸に抱くように、しっかりと抱いた。

ジ:・・・。
ミ:・・・。

ジ:・・・。きっと・・・(少し涙声になる)きっと、助かるよ。
ミ:・・・。うん・・・。

ミンスには背の高いジフンの顔は見えなかったが、彼が泣いているのはわかった。
ジフンと自分はまた、親友に戻った・・・戻ったのだろうか・・・。
いや、全てが終わったのかも知れない・・・。


ジ:またおいで。また、明日。担当の先輩に頼んでおくよ。
ミ:・・・ありがとう。
ジ:元気出せよ。
ミ:うん・・・。


ジフンは、病院を出ていくミンスの後ろ姿をやるせない目をして見送った。

「恋の終わり・・・」
ジフンがそっと呟いた。







翌朝早くに、会長が秘書やSPを引き連れて、ヒョンジュンの見舞いにやって来た。
ヒョンジュンは集中治療室の中でひっそりと眠っていた。今日の未明に患部から出血があり、緊急に輸血をしていた。

会長はじっと娘婿を見つめて、硬い面持ちで病室を後にした。


会:で、正直、どうなんでしょうか?
医:まあなんとか落ち着いてきました。今朝は少し危なかったのですが、出血が落ち着いてよかったです。背中と言ってもわき腹に近い所を刺されたので、幸いなことに臓器に損傷はありませんでした。ただ、運ばれてきた時にかなり出血があったので・・・とにかく、あとは、本人の回復する力を信じて待つしかないですね・・・。

会:そうですか。できる限りのことはしてやってください。よろしくお願いします。(頭を下げる)

医:わかりました。それで、こちらは完全看護ではありますが、大切な息子さんです。付き添いをつけますか?
会:(考える)そうですね・・・。しかし、今彼に付き添えるものが思い当たらないんです。
医:なんでしたら、こちらで、スタッフをご用意しますが。こちらの大学病院と契約している所が何軒かあるので、聞いてみましょうか?

会:先生。状況が状況なだけに、口の堅い確かな所でお願いしたいのだが・・・。
医:わかっています。
会:よろしくお願いします。

医:ところで、奥さんのほうはどうしましたか?
会:・・・知り合いのいるT病院の静養所にお世話になることにしました。・・・あちらには、精神科があるので・・・。
医:・・・そうですか。

会:では、よろしくお願いします。
医:わかりました。付き添いのほうは任せてください。決まり次第、またご連絡致します。
会:ありがとうございます。(頭を下げる)何かありましたら、逐次、秘書のほうへご連絡下さい。


会長は、秘書とSPとともに帰っていった。






ミンスは、画廊を訪ね、事の顛末をチェスクに話した。

ミ:すみません。私から頼んでおいて。留学をお断りするなんて。
チ:仕方ないわね・・・。とりあえず、3ヶ月の猶予をあげるわ。
ミ:でも・・・。
チ:治ってからどうなるかわからないじゃない。留学の道はキープしておきなさい。
ミ:・・・。
チ:先のことはあなたの気持ちだけでは決められないでしょ?
ミ:すみません・・・。
チ:それに・・・私にも、ちょっと責任があるのよ。(ミンスを見つめる)
ミ:・・・。

チ:彼がね、あなたのことを知りたくて電話をしてきた時に・・・ソルミさんがソウルで男と同棲してるって教えちゃったの。それも、危ない男とね。
ミ:・・・。(胸が痛い)
チ:それで、出かけていったのね・・・。ソルミさんを助けようとして・・・。
ミ:・・・。(泣きたい)





ミンスは姉のヘスにも、ヒョンジュンのことを報告した。

ヘ:なんですって?
ミ:・・・。
ヘ:何なの、あの女・・・。

ミ:それで、お姉ちゃん。私、ヒョンジュンの看護をしたいの。
ヘ:・・・。留学はどうするの? やめるの?
ミ:うん。お姉ちゃんから見たら、未練がましいのかもしれないけど、そうしてあげたいの。
ヘ:・・・。未練ね・・・。

ミ:うん。留学はまたの機会があるけど。ヒョンジュンは今傷ついてるのよ。
ヘ:・・・それも、ジフンさんに頼んだのね?
ミ:ええ。

へ:そっか・・・。ミンス・・・。実は、あなたに黙ってたけど、ヒョンジュンがあなたを探して、電話をかけてきたの。

ミ:いつ?
へ:少し前。あなたに会いたいって。会って話がしたいって。
ミ:それで?
ヘ:私、あなたのいる所は教えられないって言っちゃったのよ。
ミ:・・・。
ヘ:ごめんね。あの時は、あなたにとって大切な時期だと思ったから。
ミ:そう。(やるせない)
へ:彼が、今、家を出て、あのマンションに戻ってるって。そう、ミンスに伝えてほしいって。その時、そう言ったのよ。

ミ:そう言ったの!?(驚く)
ヘ:うん。
ミ:そう・・・。


ミンスは胸がいっぱいになった。
ヒョンジュンがソルミを連れ戻そうとしたのは、ケジメのためだった。ケジメのために彼女に会って、危険なところから連れ出そうとしたのだ・・・。


ミ:そう。話してくれてありがとう。私、決めたわ。やっぱり、迷わず彼のところへ行くわ。
ヘ:ミンス。
ミ:彼の気持ちがわかったから・・・。あの人は、ソルミさんを見殺しにはできなかったのよ。
ヘ:・・・。

ミ:(涙があふれる)やっぱり、お姉ちゃん。私には、ヒョンジュンが、ヒョンジュンがいなくちゃ駄目なの。ヒョンジュンが生きていてくれなくちゃ。そんなに私を探してたなんて。(涙が止まらない)

ヘ:ミンス!

ミ:彼を助けてあげなくちゃ。このままじゃ、かわいそうすぎるわ。
ヘ:・・・。

ヘスは思わず、ミンスが不憫で抱き締めた。






ソルミの父親が自宅のソルミの部屋を覗いて、ソルミに話しかけた。


父:明日の準備はできたのか?
ソ:ええ。だいたい。

父:うん。今日、大学病院に行ってきたが、ヒョンジュンは、なんとか命を繋いだぞ。
ソ:そう・・・。(抜け殻のようになってベッドに座り込む)


父親が部屋の中へ入ってきた。


父:おまえ、あの男とは何処で知り合ったんだ?
ソ:日本で・・・。日本のバーで・・・。
父:・・・。あんなやくざと。
ソ:それで意気投合して・・・。彼と一緒にソウルへ帰ってきたの・・・。最初はやくざだなんて思わなかった・・・。

父:なんであんな男の所へ行ったんだ。
ソ:私たち、相性もよかったし、彼といると楽しかったの。それに・・・家には帰りたくなかったの。

父:ここは、おまえの家だよ。
ソ:でも、戻ったら、ヒョンジュンが私の返事を待っていたもの・・・。彼に別れようなんて言われたくなかった。別れたくなかったのよ! ヒョンジュンと、別れたくなかった・・・。彼を困らせたかったの・・・。でも・・・私がいけなかったのよね・・・。

父:あの男をどうした?
ソ:・・・。
父:なぜ、逃がした?

ソ:あの人も好きなのよ。ヒョンジュンは、私がいつも追いかける方で・・・でも、あの人は・・・。
父:・・・。

ソ:あの人は、私が全てだったから。私しか見えないって言ったから。
父:そんな言葉を信じて・・・。おまえをおもちゃにした男だぞ。

ソ:お願い! お父様、彼を見逃して。
父:・・・無理だ。
ソ:・・・。

父:おまえがこんなことになって・・・おまえがよくても、私は許さない。
ソ:お父様!

父:ヒョンジュンには大きな借りを作った・・・。あれをもう自由にしてやりなさい。
ソ:・・・。

父:これは、命令だ。
ソ:その代わり・・・彼を逃がして下さる?

父:それは別の話だ。ソルミ、これは生涯おまえに、いや、末代まで祟ってくるぞ。まともに生きたくても生きられないようになる・・・。不運の目は早めに摘まないと。
ソ:お父様!
父:こっちが捕まえなくても、警察が捕まえるだろう。どっちが先か・・・。
ソ:そんな・・・。お願い!

父:居場所を知っているのか?
ソ:いいえ。でも・・・。

父:おまえがあの男と心中したいのなら、それも仕方がない・・・。その時は。
ソ:その時は、この家を出ていけということ?
父:その時は、キチンと縁を切ってな。

ソ:つまり、財産は残さないということ?

父:おまえがあの男と二人でやっていくというなら、それもよかろう・・・。ただし、家族を巻き込むな。
ソ:・・・。

父:自分で生きるすべも持たないくせに・・・。
ソ:ひどい!

父:私の言うことを聞きなさい。もう十分好きなように生きてきたはずだ。あの男は今までおまえが付き合ってきた男とは違う。あいつにはプライドも何もない。わかるか?
ソ:・・・。
父:・・・。

ソ:私を捨てるの? あっちの家の子に家を継がせるつもり・・・?
父:それも考えなくてはならんだろう。おまえが今のままでは・・・。それに、あの男がうちに付きまとってきたら、おまえを切るしかない。あんな男を甘やかしたら、財産を食い尽くして終わるだけだ。
ソ:そんな・・・。

父:自分で結論を出しなさい。・・・ただし、ヒョンジュンは駄目だ。

ソ:お父様!

父:これ以上、あいつを不幸にするな・・・。もう十分だろう。おまえがこうなった原因はあいつかも知れないが、それなりに悩んだ。我が家には、あれなりに尽くしてくれただろう。ソルミ、おまえも自分で出直すことを考えるんだ。
ソ:・・・。

父:あのやくざは許さん! もうわがままは許さん。

ソ:お父様!

父:もっと、まっとうに生きる。それを考えなさい。


父親は、そういい残して席を立った。
ソルミは悔しさに、涙で目が潤んだ。



クローゼットの中から、コートを掴み、着ようとする。

しかし、彼女の手にはもうクレジットカードも現金もない・・・。
クレジットカードは全て、もう停止されてしまった。
男に散々貢いだあげく、彼女は全てを没収された。


何も持たない私・・・。
何も持ってなかった私。
いったい私に、何が残るの・・・。





リビングに下りてきた会長を見て、シンジャが心配そうな目をした。


父:明日から、ソルミを静養に出す。あなたも行ってくれるね?
シ:はい。
父:あなたは、あれの母親のようなものだ・・・。落ち着くまで一緒にいてやってください。自分を探し出せるまで。
シ:はい。旦那様。(目に涙が滲む)
父:今日はもういい。あとは、警備がソルミを見張るから。
シ:はい・・・。旦那様! お嬢様はまたここに戻ってこられるのでしょうか? 追い出されるのではありませんよね?

父:シンジャ。それは、あの子の心がけ次第だよ。


会長はそう言って、苦しそうな表情で仕事に出かけていった。








午後7時を回って、ヒョンジュンが眠りから目を覚ますと、昼と夜の付き添いが引き継ぎをしている声が聞こえてきた。



「今日お昼過ぎに、意識が回復したんですよ」
「そうでしたか。それはよかった。夕飯は自分で食べられたんですか?」
「ええ、重湯を少し。経過も良好だそうだから、明日から少しずつ固形物もいただけるみたい。明日あたりから体も拭けるかしら」
「そうですか・・・わかりました」
「カテーテルは今しばらく使うそうです」
「わかりました」
「経過を見て、明後日あたりから車イスを使おうかなんていう話まで出てましたよ、今日は」
「それはすごいですね・・・。わかりました。お疲れ様でした」




今日の昼、ヒョンジュンが目を覚ますと、そこは病院だった。
2日間、ヒョンジュンは眠り続けた。



ソルミを乗せて、車に乗り込もうとしたところに、背中に鈍い痛みが走って、自分の意思とは逆に後ろへ倒れた。それから、動けなくなった。

ソルミが飛んできて顔を覗き込み、「誰か助けて!」と叫んだのは覚えている。
寒気が襲ってきて、体の震えが止まらなかった。

そこへ男がやって来てオレを見下ろした。 ソルミが男を押しやって、少しもみ合った。そして、彼女がバッグを手渡して、男を逃がした。

それから、ソルミがオレの横にすがって、「ヒョンジュン!ヒョンジュン!」と泣き叫んだ。
意識が朦朧とする中、オレは「内ポケットに携帯がある・・・」と言って、力尽きた。


医者の話では、その後、救急車でここへ運ばれてきたわけだ。





付き添いはどうも昼夜に分かれているらしい。
夜の付き添いがカーテンの横で、何かしている。消毒だろうか・・・。


割烹着を着た手が見えて、カーテンを開ける。付き添いが入ってきた。

振り返ったその顔は、とても見覚えがあった・・・。

それは懐かしい顔だった。・・・愛しい顔だった。



ヒ:ミンス。
ミ:・・・起きてたの?
ヒ:・・・。
ミ:よかったわ。あなたに意識が戻って。
ヒ:なぜ、君がここにいるんだ。

ミ:うん? 夜の付き添いのバイトをしてるの・・・。
ヒ:・・・。

ミ:あなたが運ばれてくるのを見たのよ。


ミンスがイスをヒョンジュンの顔の近くへ持っていき、座る。


ミ:もう私が来たから、大丈夫。
ヒ:・・・。(涙が流れる)
ミ:あなたの世話は得意中の得意だから。(微笑む)
ヒ:でも・・・。

ミ:実はね。ここはジフンが勤めている大学病院なの。それで、ストレッチャーに乗ったあなたを見かけたの。それで・・・ジフンにあなたの居所を探してもらったの。
ヒ:・・・彼に?
ミ:うん。あなたの主治医の先生は彼の先輩なの。それで頼んでもらって、夜の付き添いとして、雇ってもらったの。

ヒ:・・・そんなことして、よかったの?
ミ:だって、あなたが一番大切だから。
ヒ:・・・。
ミ:心配しないで。大丈夫だから。
ヒ:・・・。

ミ:ソルミさんは、どこか他へ静養に出るらしいわ・・・。
ヒ:そうか・・・。

ミ:何があったか、よくわからないけど、今は治ることが一番ね。臓器は傷ついてないって。ほんの数ミリ、ズレてたら、腎臓を一つ取らなくちゃいけなかったって。
ヒ:そうか。

ミ:ソルミさんのお父様が、あなたにできることは全てやってあげてほしいって言ってらしたって。だから、安心して。

ヒ:・・・あいつは捕まったの?
ミ:まだ、わからない・・・。


ソルミが男にバッグを渡していた・・・。
誰があいつを捕まえるのだろう・・・。


ミ:ゆっくり寝るといいわ。
ヒ:おまえがいるのに?

ミ:ずっといるから。大丈夫だから。安心して寝てちょうだい。
ヒ:・・・。もう消えないで。
ミ:・・・。
ヒ:約束して。
ミ:・・・。ヒョンジュン、これは仕事だもん。いるわよ。(笑う)


ヒ:じゃあ、手を握って。一晩中握って。
ミ:ふふん。(笑う)いいわよ。私のかわいい・・・。


そういって、ふざけようとしたが、ミンスは涙が出て言葉に詰まった。
そして、手をしっかり握った。


彼が治った後の事はわからない・・・。
彼は私の元へ戻ってくるのか。
それとも、ソルミさんのところへいってしまうのか。
どんな結論が待っているのか・・・。

でも、少なくとも、事件の前、ヒョンジュンは家を出て、私を探していた。


そのあなたの気持ちがわかるの。
私だって・・・本当は、あなたの近くにいたかったから・・・。


ミ:寝て。
ヒ:うん。


ミンスが立ち上がって、片手でヒョンジュンの頬を撫でた。

ヒョンジュンもミンスの頬を撫でた。


ミ:背中が痛くなったら、教えてね。今は薬で痛みはないと思うけど・・・。薬が切れると、途端にすごく痛いみたいだから・・・。
ヒ:うん・・・。

ミンスはまた座った。


そして、ヒョンジュンの手をやさしく握って、彼が眠りにつくのを見届けた。







14部へ続く