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創作を書いたり読んだりと思い思いの時をネット内でゆったりと過ごしています。

 「恋の病2」6部

2015-09-22
人は、

こんな私を見て、
なんと思うだろう


心に空いていた穴に
ぴったりと嵌ったような恋心

恋をすることも
すっかり忘れていたのに

でも・・・

この胸のざわめき

あの人を抱きしめたいと思う気持ち

あの人が触れる女の指を憎らしいと思うジェラシー


これは分析せずともわかる

恋だ


バカげた恋だといわれても

今の私を止めることはできない・・・




ペ・ヨンジュン主演
「恋の病2」6部





「JJ・・・?」
「う~ん・・・」

「JJ・・・」


翌朝は、私は久しぶりに朝食を作った。

食べてくれる人のいる幸せに胸が弾んだ。
昨日のウンスの襲撃で、店のドアは壊され、JJの二の腕は20針も縫う大ケガをした。JJにとっては、最悪の日になったはずだった・・・。でも、私とJJの間には、新しい絆ができた日でもあった。

昨夜もJJとともに眠り、私は充足感で満ちあふれていた。


「おはよう」
「今日は早いねえ・・・」

JJがベッドの中から眠そうな目をして、私を見上げた。


「今朝はね、朝ごはんを作ったの。あなたに食べさせたくて・・・」
「うん・・・」

彼はやさしい目をして私を見て、頷いた。


「でも、ゆっくり寝ていていいのよ。JJはケガしてるんだもん。あなたが起きられる時間でいいの・・・後で一緒に食べよう」
「うん・・・。なんか、すごく体が重いんだ・・・。ちょっと貧血ぎみだからかな」
「そうね・・・。薬も飲まなくちゃね」

「ふん・・・。それなのに。 夕べ、頑張ってしまった僕がいけないんです・・・」

そういって、JJが笑った。

私は、恥ずかしそうに彼を見た。今も甘えたい気分でいっぱいだ・・・。


「うん・・・。・・・。後で、朝ご飯をベッドに持ってきてあげる」
「ありがとう・・・。ユナも、少し隣で寝て」
「・・・いいわよ」


私は笑いながら、JJの横に寝そべった。


「ジーンズぐらい脱げよ」
「・・・うん・・・」


二人はベッドの中で足を絡ませた。



「こうしてるだけで、なんか幸せだよなあ・・・」
「うん・・・」
「もう少しだけ寝かせて・・・」
「いいわよ。仕事も休みなんだし、ゆっくり寝て・・・」
「でも、今日はいっぱいやることがあるんだ・・・もう少しだけ・・・まどろみたい」

私はJJの頭の下に腕を入れて、腕枕をした。

二人はじっと見つめ合った。



「ユナは・・・ずっとここに住んでくれるのかな・・・」
「・・・」
「だといいねえ・・・」
「・・・」

「少し寝るよ・・・」

「お休み・・・」


JJが目を瞑った。



私はあなたのところにずっといるわ・・・。
本当はすぐに、そういいたかったけど・・・。
それは、あなたにとって重荷かもしれないから・・・口には出せなかった。
元気になっても、あなたがそう思ってくれるように・・・私は祈っている。





午後になってからのJJは忙しかった。
酒屋に電話を入れて、今週は休業するので、配達は休んでほしいと伝えた。理由は、JJが説明する前から相手はわかっていた。
そして、知り合いの大工に電話を入れた。ドリアンの内装を手がけた人だ。玄関のドアが壊されたので、至急直してもらいたいと伝え、前のものより頑丈なものにしてがほしいとJJが付け足した。大工は、夕方には、ドリアンへ顔を出せるという話だった。



「ケガをしたっていうのに、いろいろやることがあるのね」
「そうだね・・・あと、医者だ。消毒にいかなくちゃな」



JJは着替えをしながら、クローゼットの中を何かごそごそとやっている。
私はJJがクローゼットにこもる度に、動悸が激しくなる。

彼が私に昔の恋人の写真を突きつけそうな気がするのだ・・・。



「JJ?」
「少し待ってね」

「なんか・・・手伝おうか?」
「いや・・・自分でできる・・・」
「うん・・・」

しばらくして、JJが出てきた。



「ユナの引き出し、作ったからね。ここにしまうといいよ。ジャケット類はこっちのハンガーにかけて」


JJが私のために、引き出しを開けてくれた。

私はうれしかった。

「ありがとう・・・」


私はボストンバッグの中身をJJの引き出しの中にしまった。
あの子の写真を見られないように、一人で片付けたんだ・・・。

でも・・・これで、JJが私にあの写真を見せるなんてことは考えなくてよくなった・・・彼は、そんなことはしない・・・。




「それから、ユナ。これ、着てごらん」
「何?」
「バーテン用のベスト」
「え~え!」

私はちょっと気恥ずかしかったが、幸せな気分になった。


「JJのでしょ? 大きくない?」
「まずは着てみて」

「うん」


その黒のベストは、シックで、脇がサテン地に切り替わっており、なかなか、おしゃれな作りになっていた。
私が着てみると、少し長めで、脇が緩々だった。


「そうかあ・・・。でも、似合うよ。少しつめれば、着られそうだな・・・」
「つめて着るの?」
「そう」
「でも、私、そんなに縫い物が上手じゃないの」
「大丈夫。いい人がいるんだ。OK。これを直して着る。元々はこれを作った人だから。直してもらうよ」
「これって、オーダーメイドなの?」
「そうだよ」
「そんな・・・直すなんて、勿体ない・・・」
「いいんだよ。買うより安く作ってくれるんだ。これ、生地がいいだろ? あ、ユナは生地屋さんじゃない」
「うん・・・生地はいいよ、これ。どっしりしてるもん・・・高かったでしょ?」
「それを安く作ってもらうんだ」
「へえ・・・」

「あとで、行こう。これに、白のYシャツを着て、黒のパンツをはいて、蝶ネクタイ。かっこいいなあ」
「またまた、煽てて」
「ホントに似合うよ」
「うん・・・」

「後は、カクテルだね」
「そうだった・・・」

「ドリアンからシェーカーを持ち帰って練習しよう」
「うん」

「うまくできるかな・・・」
「大丈夫だよ。カクテルの中身の配合が覚えられなくても、オレが言った通りに作ればいいから。おまえがやらなくちゃいけないのは、シェイクだ」

JJが右手を振ってみせた。

「メニューを覚えるのはたいへんだからさ。まずは、これね」
「シェイクね」
「そう。シェーカーの中に入れた氷が解けないように、すばやくシェイク!」
「そうなの? あれって氷が入ってるの?」
「そうだよ。飲むと冷たいだろ? でも、水っぽくないだろ? 氷を解かさないで、カクテルだけ冷やして仕上げるんだ」
「そうなんだあ・・・。勉強になるね」
「だろ?」
「うん・・・そうなのかあ・・・花嫁修業になるな・・・」


私がそういいながら、ベストを脱いでリビングに向かうと、JJがその後ろ姿をじっと見つめていた。

「なあに?」

私は振り向いて、JJに聞いた。


「ううん・・・別に」
「そうお?」


私は、ベストをたたみながら、ふと、あの人のことを思った。

彼女もそう言ったのだろうか・・・。
でも、その時は、亡くなっていたはず・・・。
それとも・・・私の姿に、あの人を思い出したのだろうか・・・。

少し・・・幸せな気分が後退した。





「ええと、そのベストを持って、それから、病院だろ。大工だろ。カクテル。あと、レジはどうなってるんだ・・・。おじさんに聞かなくちゃ・・・」

JJがおじさんに電話をしている。

私は、JJの姿を見た。



全て、JJのせいじゃない・・・。
私がかってに、あの人のことを思い出したのだ・・・。
幸せを感じるのも、幸せを壊すのも、全て、私の気持ちにかかっている・・・。

JJは今、私に幸せをくれている・・・。
愛してくれている・・・そう、彼は、ユナを愛しているはずだから・・・。



電話が終わって、JJが私を見た。

「レジはそのままだって・・・。お金が入ったままだ」
「・・・大丈夫かしら・・・」
「まあ、行ってみよう」
「うん」



玄関まで来て、私はJJに聞いた。

「車のカギ、持ってる?」
「ああ、家のカギとセットだからね」
「そうか・・・。私、練習してみる。車の運転」
「・・・」

「5年前までは乗ってたんだもん。軽自動車だけど。通勤に使ってたんけど、引っ越してから電車になっちゃったから」
「通勤に乗ってたんだったら、すぐ運転できるよ」
「そうかなあ・・・。まずは、やってみる。あとで、練習するね」
「うん・・・。でも、他の車にぶつけないようにね。また、お金がかかっちゃうから・・・」

そう言って、JJは笑った。

「もう!」

私はJJの肩を叩いた。



私は今まで臆病だった。転ぶ前に、転ぶ心配ばかり・・・。
試しもしないで、駄目出しばかりしていた。
最初の結婚が失敗だったから・・・?

でも、今回は成り行きとはいえ、もうJJとの生活は始まっている。
私は恋の真っ只中にいるはずだ・・・。

こんなに好きな人の前で、臆病になっていたのでは、チャンスを逃してしまう・・・。
チャンス・・・好きな人と幸せになることだ・・・。

JJは私に幸せをくれる。守ってくれる・・・。それに、甘んじていては駄目よ・・・。
私が彼にできることはいっぱいあるはずだもん・・・。




「車はドリアンの裏の駐車場だから、あとで練習しようか」
「うん」

私たちは連れ立って出かけた。

まずは、JJがドリアンの様子を見にいった。玄関のドアが打ち付けてあったので、ケガをした今の彼には自力で入れないことがわかって、早速、大工にその状況を電話した。後で、大工に開けてもらい、中の様子を見ることにした。

次に、ドリアンの近くの細い道をくねくねと歩いて、小さな民家の前に立った。



「ここは?」
「ここはね・・・」


JJが戸を開けた。


「おばさ~ん、いる?」
「は~い、ちょっと待ってて・・・」


ちょっとしゃがれた声がして、中から、60過ぎの太った女性が出てきた。


「ああ、JJ。久しぶり。どうしたの?」
「ちょっと直してほしいものがあるんだ」
「どれ、見せてごらん。お連れもいるの?」
「うん」

JJと中の女性が私を見た。私は軽く会釈をして、JJの後をついていった。

ここは仕立て屋で、中の工房は、たぶんだが・・・オカマのための衣装がたくさんかかっていて、どうも彼女がそれらを作っているようだ。


「どれだい?」
「このベスト」
「ああ、懐かしいねえ。JJがバーテンで勤めに出た時に作ったやつだね」
「うん。これをさ、彼女が着られるように直してほしいんだ」

「ふ~ん。ああ、そういえば、そのケガ。聞いたよお。たいへんだったねえ・・・」
「まあね・・・」

「それで、女のバーテンさんを雇ったのかい」
「うん・・・まあ」

「ちょっと姉さん、おいで。これ着てごらん」
「あ、はい・・・」

「ずいぶん、細いねえ・・・」

おばさんは、私の体のサイズを測り、ピンで、ベストを補正していく・・・。


「かわいい人が来てくれてよかったじゃないか」
「ええ・・・」

「こんな感じかな。丈も7cm切るかね・・・」

おばさんは手際よく、チャコで印をつけてピンを打っていく。






JJの携帯が鳴って、JJが部屋の外へ出た。


「あんた、JJのこれ?」

おばさんが小指を出した。私は顔を赤くした。

「そうなんだ。ふ~ん。彼を助けて、バーテンをするのかい?」
「・・・はい・・・」
「そりゃあ、いい心がけだ・・・」
「あのう、ここはあ・・・?」

「ここは、見ての通りのオカマの衣装屋さ。あの人たち、ちょっと派手な衣装でショーをやったりするだろ? それに、皆、ほしい服があってもなかなかサイズが合わなかったりするからさ。ほら、元が男だから、細いって言っても、肩なんかぜんぜん違うんだよ。それで、ここで直したり、安く作ってやるんだよ」
「へえ・・・なんで、JJが・・・」

「姉さんの紹介。オカマの姉さん、知ってるかい?」
「ええ。私もよくしてもらっています」
「そうかい。姉さんがね、ここなら、安く作れるからって、JJを連れてきたのさ。ホストは、ちょっと変わったもん着てると、客の視線を引くからさ」

「へえ・・・。どんな? 今の彼しか知らないから」

「う~ん・・・。シャツなんかよく作ったよ。ほら、オパール加工した生地とか、わかるかい。柄が透けてるやつ」
「ええ」
「そういうのや、レース風の生地でシャツを作るんだよ。それをあの子が着ると、すごくセクシーなんだ」

おばさんが笑った。

JJはそんなものを着ていた。

「ふ~ん・・・。一点物っていうわけですね?」
「そうそう、つまり、安いってことよ。そういうもので、ブランドものは高いから」
「ふ~ん・・・」
「あの子、高いもん買わないでうまくやってたよ」
「そうですか・・・」

JJは無駄を省いて、できるだけ安く仕上げていたんだ・・・。

私が感心していると、JJが入ってきた。


「大工さんだった。夕方、5時過ぎるって。それでどう?いつ頃までにできる?」
「早くしろってか?」
「まあねえ・・・」

JJが笑った。

「仕方ないねえ。あんたの店がかかってるんだ。明後日でいいかい?」
「ああ。ありがとう」
「加工料はたんまりいただくよ」

「OK。じゃあ、明後日取りにきます」
「ああ、お姉さんに一枚、プレゼントしてやるよ」
「何を?」
「パンツ。黒でサイドにサテンのラインが入ってるんだ。待ってて」


おばさんが棚を探す。

「ああ、これ。若い子に頼まれたけど、結局取りに来なかった。やめちまったのかな。あんたにやるよ。このベストにぴったりだから」
「いいんですか?」

「ああ、その代わり、ちゃんとJJを助けるんだよ」
「はい」

「おばさん。ありがとう」

そう言って、JJがおばさんの頬にキスをした。
JJの何気ないその仕草に、私は驚き、ちょっと胸がざわめいた。




おばさんの工房を出ると、JJが「ユナ」と呼んで、軽くキスをした。
私は店の外だったので、「いやん・・・」と小さく言って、俯いた。
JJは笑って、「ユナの顔がおばさんにちょっとヤキモチ妬いてたよ」と言った。


JJには、私の気持ちが全部見えていた・・・うん・・・女の気持ちがわかるのよね・・・。

私は気恥ずかしくて、JJのシャツの下のほうを掴んで、俯いて歩いた。





ここ数日で、JJを通して知り合った人たちは、皆親切で心の温かい人たちばかりだった。
ウンスのような男もいるが、オカマの姉さんも仕立て屋のおばさんもあったかくて、人に思いやりがある。
私が今まで知らなかった世界に、こんな人たちが住んでいた・・・。

私の知っていた世界は小さい。会社と叔母と、元夫・・・。

JJが住んでいる世界は特殊かもしれないが、私にはJJのそばにいるほうが心が和む・・・。





私は少し心が温かく豊かになった。幸せな気分で病院まで行ったが、JJの傷口の消毒をしているナースの目は、まるで奇異なものを見るようで、ふと、叔母のことも思い出し、少し切なくなった。

JJは医師に、「忙しいので、消毒だけなら自宅でしたい」と言って、一週間分の薬の処方箋を書いてもらった。

JJにはこの人たちの目がわかっていたのだ・・・。






それから3日後、私はJJを車に乗せ、ドリアンへ出勤した。
ドリアンの裏の駐車場に車を止めると、JJが「ふ~」とため息をついた。

「なあに?」
「ああ! 命拾いした・・・」
「やだあ・・・」
「でも、なんとかここまで来たよな」

「ひどい! ぜんぜん平気だったじゃない」
「まあね」
「でしょ?」
「うん。よかったよ。ユナがまともに運転できて」

JJが笑った。


「もう、やだあ」

私も笑いながら、車から降りた。




今日から初出勤だ。
私もなんとかバーテンの仲間入り・・・。見かけだけだが・・・。



昨日、ドリアンのドアが直されて、前より厚く、カギも強化された。
閉めきっていた窓を大きく開けて、JJと私は、血が茶色に変色したままの床を何度も何度も拭いた・・・。
新鮮な花を少し多めに買ってきて、今までドライフラワーがかかっていたところに、かけ直す。
空気が一転して爽やかになった。



「また、やり直しだな・・・」

JJがぽつりと漏らした・・・。


ドリアンの掃除を済ませ、私は奥で着替えをした。
しばらくはJJの体調も考えて、バーだけを開店することにした。


裏で着替えをして出てくると、JJがにっこり笑った。

「どうお?」
「いいねえ」

「そう? ちょっとメイクを直してくれるね」


私は化粧室で、アイラインを引いてマスカラを丁寧につけた。化粧がくどくなるといけないので、口紅はピンクがかったベージュを塗り、抑え目にした。

鏡に向かって髪を直しながら、もう少し栗色に髪を染めようかなと思っている自分に、私は驚いた。
ほんの少し前まで髪を染めるのも億劫がっていたから・・・。

メイクを仕上げて、鏡に映る全身をチェックすると、意外と様になっていた。白シャツに、黒のベストとパンツ。
それに、ダークグリーンの蝶ネクタイ。普段の私より、アグレッシブで生き生きとしている・・・。


「JJ、見て!」

JJがカウンターの中から仕上がった私を見た。
ちょっとぼうっとした顔をして、やさしく微笑んだ。

「ホントによく似合うねえ。ユナは何をやっても上品な感じなんだなあ・・・」

私も微笑んだ。


この言葉は私への賛辞だ・・・きっと。
品良く、上品にまとまっているのは・・・私だ。 
・・・それとも。もし、彼女が私の年齢になれば、こんな感じに収まるのか・・・。




「こっちへおいで。手順を確認しよう」
「うん・・・」


カウンターの中へ入ると、JJが私の髪を撫でて、にっこり笑った。 そして、顔を寄せて、私にキスしようとした。

「待って」

私は口紅を軽く拭った。
JJの顔が近づいて、私にキスをした。私はJJに捕まって、長いキスをした。

「この格好、気に入った?」
「うん・・・。キレイだ・・・」

JJは、私を見つめて満足そうな顔をした。


私はJJに教わった通りの手順でおさらいする。カウンターにおしぼりとコースターを出し、注文を聞く。
水割りの酒と水の割合を確認して、カクテルの酒の確認をする。
いずれにせよ、ずっとJJがカウンターの中に座っていてくれるので、私はそれほどナーバスにはならなかった。

つまみの野菜スティックも作り、冷蔵庫にしまう。基本的に、JJのバーは飲むのが主体なので、料理は作らない。
出すものといえば、キスチョコやナッツ、野菜スティックに生ハム、フルーツ程度だった。





時間が来て、私は一階に看板を出し、明かりのスイッチを入れた。

そして、JJとともに、カウンターの中で、客が来るのを待った。午後6時過ぎ、ドアが開いた。

姉さんだった。


「開店おめでとう!」

「ああ」

「あら、キレイなお姉さんも一緒? ユナ、バーテンになっちゃったの?」
「・・・ええ」
「そうかあ・・・じゃあ、難しいの、頼んじゃお」
「困ったわ」

「テストよ。じゃあ、マルゲリータ」
「かしこまりました」


私がシェーカーに氷を入れて逆さにして水を切ると、JJが横から酒を量って入れる。
私はシェイクをして、グラスに注ぎ、お姉さんの前に出した。


「なあんだ。ずるい。二人で作るんだ。・・・う~ん、でも、おいしい」
「そう? 成功?」
「うん、愛がい~っぱい入ってて、ご馳走様」

「姉さんたら!」

JJが睨んで笑った。


「ふん。うまくできてるわよ。ホントにおいしい・・・。そうか、しばらくは二人でやるのね・・・それがいいわ・・・。ユナ、あんた、エライわ・・・。その格好、かっこいいよ!」
「ありがとう・・・」

「あんたはそんな格好をしても濃い化粧でも、清楚なんだ・・・不思議。いいわ、清潔な感じで。バーテンはきりっとしてるのが一番だもん」
「・・・」

「JJ、それにしても大変だったね」
「まあね・・・」

「とりあえず、よかったわ。ユナがいて、ちょっとしゃくだけど。(笑う)ああ、手伝いたかった!」
「そんなあ。 よその店の看板娘を借りてきたら、あとが大変だよ」
「まあ、そうね。私がそこに立ったら、オカマバーになっちゃうもんね」

姉さんはそう言って笑った。


ひとしきり、姉さんは話してから、出勤していった。
姉さんが席を立ったあと、スカーフが落ちていたので、私は拾って、姉さんを追いかけた。




「姉さ~ん!」

「・・・?」

「スカーフ!」

私は走って、姉さんの元へ歩み寄った。


「あ、ありがとう。スルスルしているから、落ちちゃうのね・・・ピンで留めるか・・・」


「姉さん・・・」
「なあに?」

「・・・」
「何?」

「姉さんはJJの彼女、ご存知でしたよね?」
「・・・」

「仕立て屋のおばさん紹介したり、JJに協力してるもん・・・」
「仕立て屋のババアが言ったの? やだ・・・。私が惚れてるだけよお」

「でも、私が似てるって最初からわかってたんでしょ?」

「それで何を聞きたいの?」

「今の私をどう思いますか? JJにとって彼女の身代わりですか?」

「・・・。だったらどうすんの?」
「・・・」

「そんなこと、考えたって仕方がないわ。今のあんたは輝いてる。それでいいじゃない・・・。今、JJのそばにいんのは、ユナ、あんたよ。あの子はもう、この世にはいないんだから」

「・・・」

「JJにそんなこと、聞きなさんなよ。あの子だって答えられないから・・・。あんたを好きな理由を探させたら、堂々巡りになっていくわ・・・。あんたがJJを好きじゃないなら聞く。好きなら・・・あんただけを好きになる時間を作ってあげたらいいじゃない・・・」

「・・・」

私は、姉さんの言葉に涙がこみ上げた。



「化粧が崩れるよ。ユナ! あんた、安心しちゃ駄目よ!」

私は顔を上げた。

「JJだって、この5年間、無傷なわけないんだから。自分が好きなら、頑張らないと。他へ行っちゃうわよ! あんたが大切なものは何?」

「・・・」

「頑張んな!」

最後に、姉さんはやさしい声で私を励まして、笑顔で去っていった。

姉さんのやさしさが心に沁みた。


初めて結ばれた日から、私はずっとJJと一緒にいる・・・。
これも運命よね?
ただの成り行きじゃなくて、そこに愛があるからよね?




くるっと方向を変えて、ドリアンに戻りながら、私はふと、ドリアンの窓を見上げた。

JJが複雑な顔で、私をじっと見つめていた・・・。

じいっと・・・。


きっと私の心の葛藤を知っている・・・。



私もJJを見つめて・・・JJに微笑みかけた。

JJは、それを見てやさしく笑った。






7部に続く