「愛しい人2部」第2部
2015-09-24
これはフィクションであり、ここに出てくる事故、補償、医療行為は実際とは異なります。また、人物、団体は実在しません。
ペ・ヨンジュン
キム・へス 主演
「愛しい人2部」2部
二人が
愛し合うのは
当たり前
私たちは
家族に
なる
家族
それは複雑で
それは
温かい・・・
【第2章 家族を形成するもの】
4月の暖かい日差しを受けながら、カメラマンのシンジャとテスがレストランのテラスで、おいしそうにシーフードを食べている。
シ:結構、いいお腹になっちゃってるわね。まん丸ね。8ヶ月?
テ:ええ。
シ:そんなに大きくなるんだ・・・。動きにくい? 辛い?
テ:まだフットワークは軽いですよ。だから、簡単な仕事ならできるのに。一度、知らない間に流産しちゃったでしょ。だから、ジュンスがうるさくて。
シ:なんかそういうとこ、あいつらしくないようで、あいつらしいわよね。(笑う)じゃあ、まだ動けるんだ。
テ:ええ。でも、デスクワークみたいに座りっきりは、腰が痛くなっちゃって辛いんですよ。同じ姿勢が続く仕事はだめかな。
シ:へえ、そうなんだ。それにしても、お腹がボンと前に突き出して見えるわね。
テ:やっぱり?(お腹を見る) ジュンスのお母さんが言うには、こういう突き出したお腹って、男の子なんですって。
シ:そうなのお?(楽しそうに笑う) じゃあ、ジュンス似かしら? コッキリじゃなくても、テス似の男の子でもかわいいけど。
テ:さあ、どっちが生まれるのやら。(笑う)ああ、おいしかった! もうお腹いっぱい!
シ:もうおしまい? これから、デザートが出てくるのよ。
テ:ええ! どうしよう・・・今食べられないな。
シ:赤ちゃんがお腹にいるのに、お腹空かないの?
テ:今、ちょうど胃を圧迫しているところなんです。もう少ししたら、赤ちゃんが降りてきて、いくらでも食べられるようになるんだけど・・・。今は一回に食べられる量が限られちゃって。
シ:そうか・・・。
テ:だから、コッキリから見ると、私が一日中なんか食べているみたいに見えて、しまりがないって。
シ:ハハハ。そうか。あいつ、わりときちんとしているのが好きだもんね。
テ:そう。(頷く)だから、オレの前であまり口を動かすなって言うんです。見てて気持ちが悪くなるって言われちゃうんです。
シ:ハハハ。あいつらしい! でも、それなら、後でお腹が空くわね。もう少ししてから、なんかおいしいケーキでも食べにいこ。
テ:ええ。ところで、シンジャ先生・・・。今日は何かお話があるんですか?
シ:ねえ、その「先生」はもうやめよ。恥ずかしいから。コッキリと同じく「先輩」でいいわ。現に後輩の奥さんなんだから。
テ:はい。(頷いて笑う)そうします。
シ:これからは、友達として付き合おう。いいでしょ? まあ、あんたが離婚でもしたら、使ってあげるけど。(笑う)
テ:やだあ!(笑う)
シ:今日はさあ、テスに聞いてほしいことがあるんだ。
テ:なんですか?
シ:うん・・・。(ちょっと言いよどむが)ホントはね、誰にも言わないで、一人で実行しようと思ってたんだけど、それもちょっと心配で、心もとないというか・・・。
テ:なんですか? (真顔になる)
シ:うん・・・。実はね。私も赤ちゃんができたの。(テスを見つめる)
テ:え?
シ:驚いた? そうよね。43歳まで、独身でやってきて・・・。
テ:付き合ってる人がいたんですか? 気がつかなかった・・・。
シ:うん・・・付き合っているというか・・・昔の彼なの。大学時代のね。私は仕事をしたかったから、彼を振って仕事に邁進したのよ。
テ:・・・じゃあ、その人と結婚するんですか?
シ:うううん。一人で産もうと思って。
テ:その人はどう思っているんですか? 先生、いえ、先輩のこと、心配じゃないんですか!
シ:さあ・・・きっと、もっと若い子が好きなのよ。
テ:なのに、そういう関係だったんですか!(解せない)
シ:なんていうかな・・・。彼は私の分身みたいにとても身近な人なの。だから、ちょっと気分が乗るとね・・・うん・・・。彼とのことは、別に構えなくていいというか・・まるで、自分のうちみたいな気分ていうかな。そういうことしても、気分的に負担にならないの・・・。ただ気持ちいいって感じ。
テ:(ちょっと首を傾げる)・・・。よくわからないけど・・・。お互いが気持ちいい関係なら、あちらだって、先輩と結婚するのが当たり前だと思っているんじゃないですか?
シ:う~ん、説明するのが難しいわね・・・。ただね、基本的には、あっちは、私とは結婚したいとは思ってないと思うわ。
テ:なんでそう言い切れるの? そんなに長い関係なのに!
シ:テス?
テ:はい。
シ:あなた、相手がぜんぜんわからないで、話しているの?
テ:ええ。私が知ってる人なんですか?
シ:・・・驚いたわ・・・コッキリって・・・、ホントに口が堅いのね。
テ:・・・コッキリ? 彼がなんか、関係しているんですか?
シ:だって、彼、私たちのこと、よく知ってるから。
テ:・・・でも、なんで私が知ってると思ったんですか?
シ:それは・・・相手がさ・・・あなたも知ってる人で・・・。
テ:私が知ってる?
シ:そう・・・彼・・・。
テ:ええ? 彼って・・・私たちが共通して知ってる人?
シ:うん。
テ:ええ?・・・う~ん・・・。(考える)もしかして・・・ドンヒョン先生?
シ:うん、そう・・・。
テスは驚いた。
シンジャは何も知らないが、ドンヒョンは、テスの元彼でもある。
10年前、前の夫と結婚する前に付き合っていたオトコだ。
シ:驚いた?
テ:ええ。
シ:私、コッキリがあなたに話していて、知っているのかと思ってた。
テ:ぜんぜん・・・。でも、話す必要もないと思っていたのかもしれません。終わったことだと思ってたのかもしれないし。
シ:そうね・・・。そうか・・・。
それにしても、オトコというものは、いや、ジュンスとドンヒョンだ。
彼らの口の堅さには驚いた。
二人は、ドンヒョンとシンジャ、そしてドンヒョンとテスの関係を知っていて、共に、寝物語にもそのことを話さない。
プレーボーイというものはそういうものなのか・・・。
テ:それなら、ドンヒョン先生と話をしたほうがいいですよ。あちらだって、独身なんだし。
シ:そうはいかないのよ。
テ:なぜ?
シ:テスも見てわからない? あいつは家庭に収まるようなオトコじゃないわ・・・。そりゃあ、若いころは、ものすごく情熱的だったけど・・・今は・・・彼は、若い子とのアバンチュールを楽しんでいて・・・私は茶飲み友達みたいだもん。
テ:茶飲み友達とは・・・そんな関係にはならないでしょ?
シ:やっぱり、テス、あなたは若いわよ。(笑う)
テ:・・・そうかなあ・・・。
シ:ねえ、コッキリとドンヒョンてちょっと似てると思わない?
テ:どうかなあ・・・そう感じたこともあったけど・・・。
シ:違う?
テ:ええ・・・。
シ:やっぱり、そう? うん・・・。あなたたちが結婚した時に、私も気がついたの。一見似ていても非なるもの、全く違ったわね。コッキリはやっぱり「コッキリ」だった。
テ:「コッキリ」だった?
シ:そう。「コッキリ」って私がつけたあだ名。知ってた?
テ:ええ。でも、その理由が知らないんです。
シ:あいつって、見た目はかなりかっこいいくせに、結構、頑固で、よ~くものを見たり考えてから行動するほうでしょ? 一見、どんどん女の子なんかタラシコミそうだけど。
テ:やだ! 先輩! (笑う)
シ:だって、あれでなかなかセクシーよ。(笑う)そっか、それでテスは捕まっちゃったんだもんね。・・・それでも、中身は意外と真面目なのよね・・・。だから、黙って静かに考えて、大胆に大きく一歩踏み出す。まるで、象みたいだから、コッキリ!(笑う) でも、その通りだったね。これって、彼が23の時につけたあだ名だけど、ホントにそうだったね・・・。
テ:・・・。
シ:あいつも若い時、いろいろあったけど、結局、テス、あんたを探して歩いていたわけだよね。
テ:・・・。
シ:それを見つけて、ちゃんと手に入れて・・・。テスが再婚でも、ぜんぜん気にしないで結婚しちゃうし。でも、ドンヒョンは違う・・・。私たち、ぜんぜん違う道を歩いていちゃったのよ・・・。確かに私たちは過去に最高に素敵なカップルだったけど・・・手を放した途端に、あいつ、凧みたいな風来坊になっちゃった! きっと元々、そういう人だったのよね。
テ:それでいいんですか・・?
シ:・・・うん・・・。彼を・・・私と私の子供に縛りたくないの・・・。
テ:ふ~ん・・・。
シ:でも、テス! あれでもいいやつ! そこは信じてるから、この子を産むわ。きっといつか、子供が道に迷った時、相談に乗ってくれるような気がするの。その時は彼に相談する。ねえ、テス。先輩ママとして、いろいろ教えて!
テ:・・・はい・・・。
テスはちょっと切ない気分になった。
そんなものなのだろうか?
ドンヒョンも同じ気持ちなのだろうか? シンジャ先輩が手に入らなくて、次から次へと女の子を渡り歩いているだけかもしれないのに・・・。
なんか勿体無いな・・・。
でも、自分とは違う大人の考えというものがあるのかしれない。
そう思っても、シンジャの決意は切なかった。
帰りに、夕食の材料を買って、テスは家路を急いだ。
スタジオに帰ってみると、まだ5時だというのに、スタジオの電気が消えていて、ジュンスはいなかった。
テスは、買い物袋を提げて、2階へ上がっていく。
テ:ジュンス? ジュンス?
返事がない。
冷蔵庫に三枚肉と野菜をしまって、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出して、飲みながら、寝室のほうへ歩いて行く。
リビングから入る引き戸を開けると、ベッドの上にジュンスがいた。
テ:あ、驚いた! ジュンスいたの? 返事がないから、出かけてるのかと思ったわ。
一瞬、ジュンスの目が涙で光っているように見えた・・・。
でも、それは一瞬で、次の瞬間、ジュンスは笑顔でテスを見つめた。
ジ:帰ったの?
テ:うん。
ジ:先輩、元気だった?
テ:うん。
ジ:何食べたの?
テ:シーフード。カニさんよ!
テスが楽しそうに指をチョキチョキと動かした。
テ:おいしかったわよお。今度、一緒に行こう。すごくいいお店。ねえ、夕食のお肉も買ってきたわ。(寝ているジュンスをじっと見て)・・・ねえ、どこか具合が悪いの?
ジ:別に。ちょっと疲れただけ・・・。おまえも疲れただろう。来いよ。一緒に寝よ・・・。
テ:うん。
ジュンスは笑顔を作ったが、それはどことなく寂しさが漂っていて、テスの心にジュンスのウエットな気分が伝わってくる。
テスはペットボトルを冷蔵庫にしまって、ジャケットとスカートを脱ぎ、薄手のカットソーとペチコートだけになって、ベッドまでやってきた。
ベッドサイドに座り、パンストを脱ぎながら、ジュンスの顔を見た。少し疲れが見える。
テ:ねえ、大丈夫?
ジ:うん・・・。
ジュンスがぼうっとした目で、テスを見ているので、テスはちょっと心配になった。
確かに寝室には電気がついていなかったので、瞳孔が開いて見えるが、それだけではないような気がする。
テスはジュンスの横に寝転び、ジュンスが腕枕をした。
まるで、ジュンスの膝に、テスが腰掛けるように、テスの背中がジュンスの胸へお腹に密着して抱かれている。
ジュンスが後ろから、「ふ~」とため息をついて、テスを抱きしめ、うなじに顔を当て、テスの香りを嗅いだ。
テ:ジュンス?
ジ:・・・何?
テ:ホントになんでもない?
ジ:しばらくこうして寝よう。
テ:うん・・・。
背中に感じるジュンスの空気は重く、どことなく湿っぽい・・・。
しかし、ジュンスが何も切り出さないので、テスは黙ったまま、抱きしめるジュンスの腕を抱きかかえるようにして眠りについた。
テスも久々の遠出から帰って疲れていたので、二人はそのまま、8時近くまでぐっすりと眠ってしまった。
9時過ぎに遅い夕食の準備をして、二人はダイニングテーブルで向き合った。
お互いの顔を見て、ちょっとため息をついた。
ジ:どうしたんだよ?
テ:こっちが聞きたい・・・。留守の間、何かあった?
ジ:別に。
テ:そうお? なあんか変よ。ちょっとおかしい。
ジ:そんなこと、ないよ。
テ:だって・・・。
ジ:・・・。(じっとテスの顔を見る)
テ:なあに?
ジ:・・・。(じっと見ている)
テ:あなたって本当になんか言いたい時、そういう顔するのよね。
ジ:そんなことはないよ・・・。いただきます。(食べ始める)
テ:なんか気になる・・・。ねえ、浮気なんかしてないわよね?
ジ:(顔を上げる)おまえ、バカじゃないの?
テ:そう? じゃ違うんだ。(少し微笑む)
ジ:(嫌な顔をする)あんまり意味のないこと、聞くなよ。
テ:だってえ、なんか怪しいもん。(食べる)あ、これ、おいしくできた!
ジ:(呆れた顔をする)ホントに心配してんの?
テ:え? なんで? さっきから気になるって言ってるじゃない。
ジ:それなのに、おいしくできたとか、言っちゃうわけね。
テ:あら、だっておいしいわよ。食べてみて。
テスが箸でお惣菜を摘んで、ジュンスの口の中へ入れる。
テ:ね?
ジ:うん、うまい。
テ:(笑う)ほ~らね。
ジ:そういうことじゃないだろ?
テ:じゃ何?
ジ:おまえがホントに心配してるかだよ?
テ:してるわよ! でも、これもおいしいでしょ?
ジ:二つのことを、同時に言うなよ・・・。なんか、言葉に誠意がなくなるからさ。
テ:あら、そう? ごめんなさい。それで、なんかあったの?
ジ:ないよ。(嫌な顔をする)
テ:なら、いいじゃない。なんか勿体ぶっちゃって。(鼻にシワを寄せる)
ジ:やな言い方。
テ:ねえ、これもうまくできちゃった! はい! (ジュンスの口に入れる)
ジ:ホント、うまい。(笑う)
テ:奥さんが料理上手でよかったわね。(笑う)
ジ:でも、ここの奥さんは誠意がないからね。(今のおかずを食べる)
テ:ヒドイわね。こんなに思いやりがあって、やさしくしてるのに・・・。(睨む)
ジ:どこが?
テ:全く! 無理解な夫を持ってかわいそう。
ジ:ホントだね、ご愁傷様。
テ:どう致しまして。・・・なんか今日の料理は全体的にいい感じね。
ジ:そうだね、料理屋になればよかった。
テ:ホントよ。お客さんのほうがやさしくていいわよ。
ジ:じゃあ、ママさん、一本ちょうだい。
テ:だめ。
ジ:なんで?(驚く)
テ:ジュンスが決めたのよ。赤ちゃんが生まれるまで禁酒するって。
ジ:それはおまえだろ?
テ:一人で禁酒なんてイヤよ。(睨む)
ジ:わかったよ。
ジ:ところで、おまえはなんかあったの?
テ:え?
ジ:さっき、ちょっとため息ついたじゃない。
テ:う~ん・・・いいわ。特になし。(おかずを摘む)
ジ:なんだよ。
テ:ジュンスに習って、右に同じく、特になし!
ジ:言えよ。
テ:・・・。(じっとジュンスを見る)
ジ:どんな話?
テ:・・・。(言い出しにくい)
ジ:今日、あった話だろ?
テ:・・・。
ジ:浮気したの?
テ:バカ!
ジ:お返し。
テ:(呆れる)・・・。
ジ:(食べながら)何だよ、早く言えよ。あ、これ、うまいわ。
テ:ジュンス。
ジ:何?
テ:あなた、聞く気があるの?
ジ:どうして?
テ:食べながらじゃない・・・うまいとか言っちゃって。
ジ:おまえだって、さっき言ってただろ?
二人はちょっと睨み合って笑う。
テ:ジュンス・・・。シンジャ先輩ね・・・赤ちゃんができたんだって。
ジ:ホント? へえ・・・。結婚するの?
テ:しないで、一人で産むんだって。
ジ:へえ・・・。
テ:相手、誰だか、わかる?
お互いをじっと見つめる。
ジ:誰?(ちょっと覚悟する)
テ:・・・ドンヒョン。
ジ:・・・そう・・・。
テ:二人の関係知ってて、私には言わなかったのね。
ジ:・・・。言いたくない話もあるだろ?
テ:・・・。「昔の彼女のこと」があるから?
ジ:「あいつ」の昔の彼女のことがあるから。(じっと見る)
テ:ごめん。
ジ:だから、ドンヒョンの話はしたくないんだよ。
テ:そう・・・。シンジャ先輩は、私のこと知らないでしょ?
ジ:話すなよ。
テ:それはもちろん話すはずがないでしょ・・・。
ジ:おまえは・・・オレと結婚したんだからさ。
テ:うん。
ジ:・・・。(じっとテスを見る)
テ:ジュンス。(ちょっと皿のおかずを見て)私には、ジュンスだけだから・・・。これからもずっと・・・。
ジ:うん・・・。
テ:先輩がね、先輩ママとして、私にいろいろ教えてほしいって・・・。だから、これから、うちにちょくちょく来ると思う・・・。
ジ:うん・・・。
テ:大きなお腹してね・・・。
ジ:うん・・・。
テ:そういうこと。
ジ:そうか・・・。今、どのくらいなの?
テ:16週とか言ってた。つわりも収まって、食欲が出てきて、今、気分がいいんだって。
ジ:そう・・・。
テ:この事、ドンヒョンには話してないんだって。
ジ:そう・・・。
テ:話すべきかしら?
ジ:おまえが頭を突っ込むことはないだろ?
テ:うん、でも・・・。
ジ:ドンヒョンに近づくな。
テ:じゃあ、ジュンスが話してくれる?
ジ:そんな必要、ないだろ? 二人とも大人なんだから。
テ:・・・大人なら・・・一人で産んでいいの?
ジ:・・・そう決めるには、それだけの理由があるんじゃないの? 二人の関係がどんなものかは二人しかわからないだろ?
テ:そうかもしれないけど・・・大人同士だから、返って、気恥ずかしくて、思いが口に出せないかもしれないじゃない?
ジ:いずれにしても、先輩のお腹が大きくなれば、ドンヒョンだって気がつくさ。あいつだってバカじゃないんだから・・・。おまえから言うなよ。そのために会いに行くなよ。
テ:ジュンス・・・。
ジ:わかったね。(念を押す)
テ:わかったわ・・・。
テスはジュンスをじっと見つめた。その視線を無視して、ジュンスはご飯を食べている。
こんな大きなお腹を抱えて、ドンヒョンに会っても、浮気なんかしないのに。
向こうだって、こんな妊婦なんて相手にしないのに。
私たちの関係が壊れるはずはないのに・・・。
でも。
きっと昔のオトコに親しげに話しにいくことは、夫としては耐えられないことなのかもしれない。
テスは、シンジャのことが気にかかりながらも、しばらく様子を見ることにした。
しばらくして、またテジョンがスタジオへ遊びにきた。
テジ:こんちは~。
ジ:よう! 最近、よく顔を出すなあ。
テジ:まあね。
テ:テジョンさん、こんにちは。
テスが2階から降りてきた。
テ:今、コーヒー入れたことなの。テジョンさんもご一緒に2階へどうぞ。ジュンス、コーヒー入ったわよ。
ジ:うん。サンキュ!
3人で2階へ上がる。
ジュンスはテジョンに子供部屋を見せている。
ジ:一応、壁紙は水色にしてあるんだけどね。子供が生まれたら、張り替えてもいいかなと思ってるんだ。それに合わせて、カーテンもね。女の子だったら、花柄とかのほうがいいだろ?
テジ:ずいぶん念入りだね。(笑う)男の子でも女の子でもこれでいいじゃない。
ジ:・・・そうか?
テジ:うん。水色ならどっちでもいいんじゃない? 「スタジオコッキリ」のドアの色だし、いいと思うけど。
ジ:そう・・・。ふ~ん・・・。(部屋の中を見回す)
後ろで、テスが笑った。
テジョンも、テスを見て一緒に笑った。
テジ:おかしいですよね、この人。なんでこんなに凝っちゃってるのかな?
テ:でしょ? もう一つ一つ子供のもの確認されちゃうから、困ってるの。(笑う)
ジ:なんだよ。ちょっと小奇麗に作ってやろうと思ってるだけじゃない。
テジ:それにしてもさ。わざわざ壁紙まで張り替えることはないよ。
ジ:そうかなあ。雰囲気って大切だよ。
テジ:まだ赤ん坊だろ?
ジ:まあな。(笑う)
皆でダイニングへやってくる。
テスがコーヒーを入れて、クッキーを出した。
テ:どうぞ。(テジョンに出す)ジュンス、子供部屋はしばらく使わないんだから、ゆっくりでもいいのよ。
ジ:まあな。でも、赤ん坊が寝ている家で接着剤のニオイをさせたりするの、やだからさ。おまえが入院中にでも、できれば壁紙とかやりたいんだよね。
テジ:もうアニキ。ヤバイよ、それ。親バカ、入ってるよ。
ジ:そんなことないって。おまえって、やな奴だな。
コーヒーを一口飲んで、ジュンスがテジョンを見た。
ジ:ところで、今日は何の用で来た?
テジ:うん・・・お袋がね、テスさんのこと、心配してるからさ。産後、一人じゃたいへんだろうって。よかったら、最初のうちは、こっちへ来て面倒見たほうがいいのかなあって。心配して、オレのところへ電話してきたの。直接、こっちへ電話すればいいんだけどさ。
ジ:・・・そう・・・。
テジ:なんか、アニキ、冷たいな。
ジ:・・・なんで?
テジ:だって、ぜんぜん、ありがたそうじゃないじゃない?
ジ:うん・・ありがとう・・・。
テジ:なんか、気が抜けるな・・・。
テ:テジョンさん、ありがとう。(笑顔で)すごく助かるわ。私にとっては二人めだし、なんとか一人でもできそうだけど、最初の2週間くらいは手伝って下さると、ホントに助かるわ。
テジ:そう? なら、そう言うよ。きっとお袋も喜ぶと思うよ。(微笑む)とにかく、初孫で楽しみにしてるからね。ちょっとでも、手伝いたいんだよ。
テ:ありがとう。・・・あとで私からもお礼の電話を入れておくわ。
テジ:うん。そうしてくれる? よかった。
そういいながら、テジョンはジュンスの顔を見た。ジュンスがぼんやりとした顔をしていた。
テジ:アニキ?
ジ:え?
テジ:大丈夫?
ジ:何が?
テジ:ちょっと変だよ。
ジ:大丈夫だよ。(笑う)
テジ:お袋が来てもいいんだろう?
ジ:え?・・・ああ・・・。ありがとう・・。
テジ:来てほしくないの?
ジ:そういうわけじゃないよ。
テジ:・・・ねえ、そんなことでも、親孝行してやってくれよ。
ジ:うん・・・わかってるよ。よろしくお願いしますって、お袋に伝えておいて。
テジ:うん。(じっとジュンスを見る)
テ:テジョンさん、子供部屋に泊まれるから、お母様には、いつでもお気軽にいらして下さいって言って。
テジ:(微笑んで)うん、ありがとう。
テジョンが帰る時、テスも夕飯の買い物がてら、一緒に家を出た。
テジ:ねえ、アニキ、ちょっと変じゃない?
テ:そう思う?
テジ:やっぱり、なんか変なの?
テ:うん。最近、ちょっとね。考え事してるのか・・・少しね。でも、聞いてもなんにも言ってくれないの。
テジ:そうか・・・。ねえ、交通事故の後遺症とかで、ぼんやりしちゃうのかな?
テ:ええ! やだ、テジョンさん! 怖い! そうだったらどうしよう・・・。(心配そうに見つめる)
テジ:違うよね。そうじゃないよね?
テ:やだ、心配になってきちゃった。
テジ:ごめん、大丈夫だよ。きっと大丈夫。
テ:そうお?
テジ:うん・・・たぶん。
テスとテジョンは、不安そうに顔を見合わせた。
ジュンスは、一人スタジオの窓を開けて、ぼうっと街の往来を見ている。
そして、やるせなさそうに、ため息をついて、窓を閉めた。
テスが帰ってくると、ジュンスはいつもとわからず、てきぱきと仕事をしている。
ルーペでポジを覗いている。
テ:ただいま~。ジュンス?
ジ:うん?
テ:・・・別に。元気ならいいの・・・。
ジ:え?(ルーペから顔をあげて、テスを見る)なんか言った?
テ:別に。
ジ:今日の夕飯は?
テ:お豆腐のチゲ。
ジ:そう、サンキュ!
テ:うん・・・。
ジュンスはまた仕事を続ける。
テスは、ジュンスの変わりない姿を見て、交通事故の後遺症というのも考えすぎかもしれないと、ちょっと安堵して2階へ上がっていった。
スタジオの仕事からすっかり足を洗ったテスは、ゆったりと昼を過ごしている。
今日は、朝早くからジュンスもロケに出かけていて、一人でのんびりとしている。
テスはダイニングテーブルでお茶を飲みながら、ベビー用品のレンタルカタログを眺め、必要なものに付箋を貼る。
ええと、これは買わないで借りるとして・・・。
ベビーベッドでしょ。マットレスに・・・ええと・・・。ああ、車のベビーシートもネンネの赤ちゃん用は借りるでしょ・・・。それから・・・。へえ・・・こんな、おもしろいものもあるんだ・・・。
レンタルでも結構かかるな。
ああ、それに、お母様用にお客布団も買わなくちゃ。
テスはとりあえず必要なものを書き出して、電卓をたたいて、合計金額を出す。
やだ・・・ずいぶん、かかっちゃうのね・・・。
チェストの引き出しから、預金通帳を取り出して、預金残高を確認する。
さて、どれだけ、使えるでしょうか・・・。
あれ・・・。
これって・・・。
500万ウォン?
最近の日付で、お金が引き出されている。
仕事関係のお金の出入りは、それ用の口座を使っているので、ここから流用するということはまずない。
カメラや機材の購入も減価償却が絡んでいるから、そっちの口座を使っている。
これはプライベートな口座だ。
こんな大金。何に使ったの?
ジュンスからは、お金をおろすとは、テスは一言も聞いていなかった。
今まで、二人の間で隠し事などなかった。
大きな買い物をする時は必ず二人で話し合ってきたのに・・・。
でも、こんな代金を支払う買い物をした形跡もなかったし・・・。それに、普段はカードを使うから、大金をおろすということは、ほとんどない。
出産費用だって、ちゃんと分けたし。
税金だって引き落としだ。
いったい、何に使ったのかしら・・・。
テスはその通帳をじっと見つめた。
夜遅く、外で車が止まる音がした。
ジュンスが帰ってきた。
テスはベッドから起き上がり、窓の外を見る。
ジュンスが車から出てきた。
預金通帳を取り出して、ダイニングテーブルに座り、テスは、ジュンスが2階へ上がってくるのをじっと待った。
3部へ続く。
ペ・ヨンジュン
キム・へス 主演
「愛しい人2部」2部
二人が
愛し合うのは
当たり前
私たちは
家族に
なる
家族
それは複雑で
それは
温かい・・・
【第2章 家族を形成するもの】
4月の暖かい日差しを受けながら、カメラマンのシンジャとテスがレストランのテラスで、おいしそうにシーフードを食べている。
シ:結構、いいお腹になっちゃってるわね。まん丸ね。8ヶ月?
テ:ええ。
シ:そんなに大きくなるんだ・・・。動きにくい? 辛い?
テ:まだフットワークは軽いですよ。だから、簡単な仕事ならできるのに。一度、知らない間に流産しちゃったでしょ。だから、ジュンスがうるさくて。
シ:なんかそういうとこ、あいつらしくないようで、あいつらしいわよね。(笑う)じゃあ、まだ動けるんだ。
テ:ええ。でも、デスクワークみたいに座りっきりは、腰が痛くなっちゃって辛いんですよ。同じ姿勢が続く仕事はだめかな。
シ:へえ、そうなんだ。それにしても、お腹がボンと前に突き出して見えるわね。
テ:やっぱり?(お腹を見る) ジュンスのお母さんが言うには、こういう突き出したお腹って、男の子なんですって。
シ:そうなのお?(楽しそうに笑う) じゃあ、ジュンス似かしら? コッキリじゃなくても、テス似の男の子でもかわいいけど。
テ:さあ、どっちが生まれるのやら。(笑う)ああ、おいしかった! もうお腹いっぱい!
シ:もうおしまい? これから、デザートが出てくるのよ。
テ:ええ! どうしよう・・・今食べられないな。
シ:赤ちゃんがお腹にいるのに、お腹空かないの?
テ:今、ちょうど胃を圧迫しているところなんです。もう少ししたら、赤ちゃんが降りてきて、いくらでも食べられるようになるんだけど・・・。今は一回に食べられる量が限られちゃって。
シ:そうか・・・。
テ:だから、コッキリから見ると、私が一日中なんか食べているみたいに見えて、しまりがないって。
シ:ハハハ。そうか。あいつ、わりときちんとしているのが好きだもんね。
テ:そう。(頷く)だから、オレの前であまり口を動かすなって言うんです。見てて気持ちが悪くなるって言われちゃうんです。
シ:ハハハ。あいつらしい! でも、それなら、後でお腹が空くわね。もう少ししてから、なんかおいしいケーキでも食べにいこ。
テ:ええ。ところで、シンジャ先生・・・。今日は何かお話があるんですか?
シ:ねえ、その「先生」はもうやめよ。恥ずかしいから。コッキリと同じく「先輩」でいいわ。現に後輩の奥さんなんだから。
テ:はい。(頷いて笑う)そうします。
シ:これからは、友達として付き合おう。いいでしょ? まあ、あんたが離婚でもしたら、使ってあげるけど。(笑う)
テ:やだあ!(笑う)
シ:今日はさあ、テスに聞いてほしいことがあるんだ。
テ:なんですか?
シ:うん・・・。(ちょっと言いよどむが)ホントはね、誰にも言わないで、一人で実行しようと思ってたんだけど、それもちょっと心配で、心もとないというか・・・。
テ:なんですか? (真顔になる)
シ:うん・・・。実はね。私も赤ちゃんができたの。(テスを見つめる)
テ:え?
シ:驚いた? そうよね。43歳まで、独身でやってきて・・・。
テ:付き合ってる人がいたんですか? 気がつかなかった・・・。
シ:うん・・・付き合っているというか・・・昔の彼なの。大学時代のね。私は仕事をしたかったから、彼を振って仕事に邁進したのよ。
テ:・・・じゃあ、その人と結婚するんですか?
シ:うううん。一人で産もうと思って。
テ:その人はどう思っているんですか? 先生、いえ、先輩のこと、心配じゃないんですか!
シ:さあ・・・きっと、もっと若い子が好きなのよ。
テ:なのに、そういう関係だったんですか!(解せない)
シ:なんていうかな・・・。彼は私の分身みたいにとても身近な人なの。だから、ちょっと気分が乗るとね・・・うん・・・。彼とのことは、別に構えなくていいというか・・まるで、自分のうちみたいな気分ていうかな。そういうことしても、気分的に負担にならないの・・・。ただ気持ちいいって感じ。
テ:(ちょっと首を傾げる)・・・。よくわからないけど・・・。お互いが気持ちいい関係なら、あちらだって、先輩と結婚するのが当たり前だと思っているんじゃないですか?
シ:う~ん、説明するのが難しいわね・・・。ただね、基本的には、あっちは、私とは結婚したいとは思ってないと思うわ。
テ:なんでそう言い切れるの? そんなに長い関係なのに!
シ:テス?
テ:はい。
シ:あなた、相手がぜんぜんわからないで、話しているの?
テ:ええ。私が知ってる人なんですか?
シ:・・・驚いたわ・・・コッキリって・・・、ホントに口が堅いのね。
テ:・・・コッキリ? 彼がなんか、関係しているんですか?
シ:だって、彼、私たちのこと、よく知ってるから。
テ:・・・でも、なんで私が知ってると思ったんですか?
シ:それは・・・相手がさ・・・あなたも知ってる人で・・・。
テ:私が知ってる?
シ:そう・・・彼・・・。
テ:ええ? 彼って・・・私たちが共通して知ってる人?
シ:うん。
テ:ええ?・・・う~ん・・・。(考える)もしかして・・・ドンヒョン先生?
シ:うん、そう・・・。
テスは驚いた。
シンジャは何も知らないが、ドンヒョンは、テスの元彼でもある。
10年前、前の夫と結婚する前に付き合っていたオトコだ。
シ:驚いた?
テ:ええ。
シ:私、コッキリがあなたに話していて、知っているのかと思ってた。
テ:ぜんぜん・・・。でも、話す必要もないと思っていたのかもしれません。終わったことだと思ってたのかもしれないし。
シ:そうね・・・。そうか・・・。
それにしても、オトコというものは、いや、ジュンスとドンヒョンだ。
彼らの口の堅さには驚いた。
二人は、ドンヒョンとシンジャ、そしてドンヒョンとテスの関係を知っていて、共に、寝物語にもそのことを話さない。
プレーボーイというものはそういうものなのか・・・。
テ:それなら、ドンヒョン先生と話をしたほうがいいですよ。あちらだって、独身なんだし。
シ:そうはいかないのよ。
テ:なぜ?
シ:テスも見てわからない? あいつは家庭に収まるようなオトコじゃないわ・・・。そりゃあ、若いころは、ものすごく情熱的だったけど・・・今は・・・彼は、若い子とのアバンチュールを楽しんでいて・・・私は茶飲み友達みたいだもん。
テ:茶飲み友達とは・・・そんな関係にはならないでしょ?
シ:やっぱり、テス、あなたは若いわよ。(笑う)
テ:・・・そうかなあ・・・。
シ:ねえ、コッキリとドンヒョンてちょっと似てると思わない?
テ:どうかなあ・・・そう感じたこともあったけど・・・。
シ:違う?
テ:ええ・・・。
シ:やっぱり、そう? うん・・・。あなたたちが結婚した時に、私も気がついたの。一見似ていても非なるもの、全く違ったわね。コッキリはやっぱり「コッキリ」だった。
テ:「コッキリ」だった?
シ:そう。「コッキリ」って私がつけたあだ名。知ってた?
テ:ええ。でも、その理由が知らないんです。
シ:あいつって、見た目はかなりかっこいいくせに、結構、頑固で、よ~くものを見たり考えてから行動するほうでしょ? 一見、どんどん女の子なんかタラシコミそうだけど。
テ:やだ! 先輩! (笑う)
シ:だって、あれでなかなかセクシーよ。(笑う)そっか、それでテスは捕まっちゃったんだもんね。・・・それでも、中身は意外と真面目なのよね・・・。だから、黙って静かに考えて、大胆に大きく一歩踏み出す。まるで、象みたいだから、コッキリ!(笑う) でも、その通りだったね。これって、彼が23の時につけたあだ名だけど、ホントにそうだったね・・・。
テ:・・・。
シ:あいつも若い時、いろいろあったけど、結局、テス、あんたを探して歩いていたわけだよね。
テ:・・・。
シ:それを見つけて、ちゃんと手に入れて・・・。テスが再婚でも、ぜんぜん気にしないで結婚しちゃうし。でも、ドンヒョンは違う・・・。私たち、ぜんぜん違う道を歩いていちゃったのよ・・・。確かに私たちは過去に最高に素敵なカップルだったけど・・・手を放した途端に、あいつ、凧みたいな風来坊になっちゃった! きっと元々、そういう人だったのよね。
テ:それでいいんですか・・?
シ:・・・うん・・・。彼を・・・私と私の子供に縛りたくないの・・・。
テ:ふ~ん・・・。
シ:でも、テス! あれでもいいやつ! そこは信じてるから、この子を産むわ。きっといつか、子供が道に迷った時、相談に乗ってくれるような気がするの。その時は彼に相談する。ねえ、テス。先輩ママとして、いろいろ教えて!
テ:・・・はい・・・。
テスはちょっと切ない気分になった。
そんなものなのだろうか?
ドンヒョンも同じ気持ちなのだろうか? シンジャ先輩が手に入らなくて、次から次へと女の子を渡り歩いているだけかもしれないのに・・・。
なんか勿体無いな・・・。
でも、自分とは違う大人の考えというものがあるのかしれない。
そう思っても、シンジャの決意は切なかった。
帰りに、夕食の材料を買って、テスは家路を急いだ。
スタジオに帰ってみると、まだ5時だというのに、スタジオの電気が消えていて、ジュンスはいなかった。
テスは、買い物袋を提げて、2階へ上がっていく。
テ:ジュンス? ジュンス?
返事がない。
冷蔵庫に三枚肉と野菜をしまって、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出して、飲みながら、寝室のほうへ歩いて行く。
リビングから入る引き戸を開けると、ベッドの上にジュンスがいた。
テ:あ、驚いた! ジュンスいたの? 返事がないから、出かけてるのかと思ったわ。
一瞬、ジュンスの目が涙で光っているように見えた・・・。
でも、それは一瞬で、次の瞬間、ジュンスは笑顔でテスを見つめた。
ジ:帰ったの?
テ:うん。
ジ:先輩、元気だった?
テ:うん。
ジ:何食べたの?
テ:シーフード。カニさんよ!
テスが楽しそうに指をチョキチョキと動かした。
テ:おいしかったわよお。今度、一緒に行こう。すごくいいお店。ねえ、夕食のお肉も買ってきたわ。(寝ているジュンスをじっと見て)・・・ねえ、どこか具合が悪いの?
ジ:別に。ちょっと疲れただけ・・・。おまえも疲れただろう。来いよ。一緒に寝よ・・・。
テ:うん。
ジュンスは笑顔を作ったが、それはどことなく寂しさが漂っていて、テスの心にジュンスのウエットな気分が伝わってくる。
テスはペットボトルを冷蔵庫にしまって、ジャケットとスカートを脱ぎ、薄手のカットソーとペチコートだけになって、ベッドまでやってきた。
ベッドサイドに座り、パンストを脱ぎながら、ジュンスの顔を見た。少し疲れが見える。
テ:ねえ、大丈夫?
ジ:うん・・・。
ジュンスがぼうっとした目で、テスを見ているので、テスはちょっと心配になった。
確かに寝室には電気がついていなかったので、瞳孔が開いて見えるが、それだけではないような気がする。
テスはジュンスの横に寝転び、ジュンスが腕枕をした。
まるで、ジュンスの膝に、テスが腰掛けるように、テスの背中がジュンスの胸へお腹に密着して抱かれている。
ジュンスが後ろから、「ふ~」とため息をついて、テスを抱きしめ、うなじに顔を当て、テスの香りを嗅いだ。
テ:ジュンス?
ジ:・・・何?
テ:ホントになんでもない?
ジ:しばらくこうして寝よう。
テ:うん・・・。
背中に感じるジュンスの空気は重く、どことなく湿っぽい・・・。
しかし、ジュンスが何も切り出さないので、テスは黙ったまま、抱きしめるジュンスの腕を抱きかかえるようにして眠りについた。
テスも久々の遠出から帰って疲れていたので、二人はそのまま、8時近くまでぐっすりと眠ってしまった。
9時過ぎに遅い夕食の準備をして、二人はダイニングテーブルで向き合った。
お互いの顔を見て、ちょっとため息をついた。
ジ:どうしたんだよ?
テ:こっちが聞きたい・・・。留守の間、何かあった?
ジ:別に。
テ:そうお? なあんか変よ。ちょっとおかしい。
ジ:そんなこと、ないよ。
テ:だって・・・。
ジ:・・・。(じっとテスの顔を見る)
テ:なあに?
ジ:・・・。(じっと見ている)
テ:あなたって本当になんか言いたい時、そういう顔するのよね。
ジ:そんなことはないよ・・・。いただきます。(食べ始める)
テ:なんか気になる・・・。ねえ、浮気なんかしてないわよね?
ジ:(顔を上げる)おまえ、バカじゃないの?
テ:そう? じゃ違うんだ。(少し微笑む)
ジ:(嫌な顔をする)あんまり意味のないこと、聞くなよ。
テ:だってえ、なんか怪しいもん。(食べる)あ、これ、おいしくできた!
ジ:(呆れた顔をする)ホントに心配してんの?
テ:え? なんで? さっきから気になるって言ってるじゃない。
ジ:それなのに、おいしくできたとか、言っちゃうわけね。
テ:あら、だっておいしいわよ。食べてみて。
テスが箸でお惣菜を摘んで、ジュンスの口の中へ入れる。
テ:ね?
ジ:うん、うまい。
テ:(笑う)ほ~らね。
ジ:そういうことじゃないだろ?
テ:じゃ何?
ジ:おまえがホントに心配してるかだよ?
テ:してるわよ! でも、これもおいしいでしょ?
ジ:二つのことを、同時に言うなよ・・・。なんか、言葉に誠意がなくなるからさ。
テ:あら、そう? ごめんなさい。それで、なんかあったの?
ジ:ないよ。(嫌な顔をする)
テ:なら、いいじゃない。なんか勿体ぶっちゃって。(鼻にシワを寄せる)
ジ:やな言い方。
テ:ねえ、これもうまくできちゃった! はい! (ジュンスの口に入れる)
ジ:ホント、うまい。(笑う)
テ:奥さんが料理上手でよかったわね。(笑う)
ジ:でも、ここの奥さんは誠意がないからね。(今のおかずを食べる)
テ:ヒドイわね。こんなに思いやりがあって、やさしくしてるのに・・・。(睨む)
ジ:どこが?
テ:全く! 無理解な夫を持ってかわいそう。
ジ:ホントだね、ご愁傷様。
テ:どう致しまして。・・・なんか今日の料理は全体的にいい感じね。
ジ:そうだね、料理屋になればよかった。
テ:ホントよ。お客さんのほうがやさしくていいわよ。
ジ:じゃあ、ママさん、一本ちょうだい。
テ:だめ。
ジ:なんで?(驚く)
テ:ジュンスが決めたのよ。赤ちゃんが生まれるまで禁酒するって。
ジ:それはおまえだろ?
テ:一人で禁酒なんてイヤよ。(睨む)
ジ:わかったよ。
ジ:ところで、おまえはなんかあったの?
テ:え?
ジ:さっき、ちょっとため息ついたじゃない。
テ:う~ん・・・いいわ。特になし。(おかずを摘む)
ジ:なんだよ。
テ:ジュンスに習って、右に同じく、特になし!
ジ:言えよ。
テ:・・・。(じっとジュンスを見る)
ジ:どんな話?
テ:・・・。(言い出しにくい)
ジ:今日、あった話だろ?
テ:・・・。
ジ:浮気したの?
テ:バカ!
ジ:お返し。
テ:(呆れる)・・・。
ジ:(食べながら)何だよ、早く言えよ。あ、これ、うまいわ。
テ:ジュンス。
ジ:何?
テ:あなた、聞く気があるの?
ジ:どうして?
テ:食べながらじゃない・・・うまいとか言っちゃって。
ジ:おまえだって、さっき言ってただろ?
二人はちょっと睨み合って笑う。
テ:ジュンス・・・。シンジャ先輩ね・・・赤ちゃんができたんだって。
ジ:ホント? へえ・・・。結婚するの?
テ:しないで、一人で産むんだって。
ジ:へえ・・・。
テ:相手、誰だか、わかる?
お互いをじっと見つめる。
ジ:誰?(ちょっと覚悟する)
テ:・・・ドンヒョン。
ジ:・・・そう・・・。
テ:二人の関係知ってて、私には言わなかったのね。
ジ:・・・。言いたくない話もあるだろ?
テ:・・・。「昔の彼女のこと」があるから?
ジ:「あいつ」の昔の彼女のことがあるから。(じっと見る)
テ:ごめん。
ジ:だから、ドンヒョンの話はしたくないんだよ。
テ:そう・・・。シンジャ先輩は、私のこと知らないでしょ?
ジ:話すなよ。
テ:それはもちろん話すはずがないでしょ・・・。
ジ:おまえは・・・オレと結婚したんだからさ。
テ:うん。
ジ:・・・。(じっとテスを見る)
テ:ジュンス。(ちょっと皿のおかずを見て)私には、ジュンスだけだから・・・。これからもずっと・・・。
ジ:うん・・・。
テ:先輩がね、先輩ママとして、私にいろいろ教えてほしいって・・・。だから、これから、うちにちょくちょく来ると思う・・・。
ジ:うん・・・。
テ:大きなお腹してね・・・。
ジ:うん・・・。
テ:そういうこと。
ジ:そうか・・・。今、どのくらいなの?
テ:16週とか言ってた。つわりも収まって、食欲が出てきて、今、気分がいいんだって。
ジ:そう・・・。
テ:この事、ドンヒョンには話してないんだって。
ジ:そう・・・。
テ:話すべきかしら?
ジ:おまえが頭を突っ込むことはないだろ?
テ:うん、でも・・・。
ジ:ドンヒョンに近づくな。
テ:じゃあ、ジュンスが話してくれる?
ジ:そんな必要、ないだろ? 二人とも大人なんだから。
テ:・・・大人なら・・・一人で産んでいいの?
ジ:・・・そう決めるには、それだけの理由があるんじゃないの? 二人の関係がどんなものかは二人しかわからないだろ?
テ:そうかもしれないけど・・・大人同士だから、返って、気恥ずかしくて、思いが口に出せないかもしれないじゃない?
ジ:いずれにしても、先輩のお腹が大きくなれば、ドンヒョンだって気がつくさ。あいつだってバカじゃないんだから・・・。おまえから言うなよ。そのために会いに行くなよ。
テ:ジュンス・・・。
ジ:わかったね。(念を押す)
テ:わかったわ・・・。
テスはジュンスをじっと見つめた。その視線を無視して、ジュンスはご飯を食べている。
こんな大きなお腹を抱えて、ドンヒョンに会っても、浮気なんかしないのに。
向こうだって、こんな妊婦なんて相手にしないのに。
私たちの関係が壊れるはずはないのに・・・。
でも。
きっと昔のオトコに親しげに話しにいくことは、夫としては耐えられないことなのかもしれない。
テスは、シンジャのことが気にかかりながらも、しばらく様子を見ることにした。
しばらくして、またテジョンがスタジオへ遊びにきた。
テジ:こんちは~。
ジ:よう! 最近、よく顔を出すなあ。
テジ:まあね。
テ:テジョンさん、こんにちは。
テスが2階から降りてきた。
テ:今、コーヒー入れたことなの。テジョンさんもご一緒に2階へどうぞ。ジュンス、コーヒー入ったわよ。
ジ:うん。サンキュ!
3人で2階へ上がる。
ジュンスはテジョンに子供部屋を見せている。
ジ:一応、壁紙は水色にしてあるんだけどね。子供が生まれたら、張り替えてもいいかなと思ってるんだ。それに合わせて、カーテンもね。女の子だったら、花柄とかのほうがいいだろ?
テジ:ずいぶん念入りだね。(笑う)男の子でも女の子でもこれでいいじゃない。
ジ:・・・そうか?
テジ:うん。水色ならどっちでもいいんじゃない? 「スタジオコッキリ」のドアの色だし、いいと思うけど。
ジ:そう・・・。ふ~ん・・・。(部屋の中を見回す)
後ろで、テスが笑った。
テジョンも、テスを見て一緒に笑った。
テジ:おかしいですよね、この人。なんでこんなに凝っちゃってるのかな?
テ:でしょ? もう一つ一つ子供のもの確認されちゃうから、困ってるの。(笑う)
ジ:なんだよ。ちょっと小奇麗に作ってやろうと思ってるだけじゃない。
テジ:それにしてもさ。わざわざ壁紙まで張り替えることはないよ。
ジ:そうかなあ。雰囲気って大切だよ。
テジ:まだ赤ん坊だろ?
ジ:まあな。(笑う)
皆でダイニングへやってくる。
テスがコーヒーを入れて、クッキーを出した。
テ:どうぞ。(テジョンに出す)ジュンス、子供部屋はしばらく使わないんだから、ゆっくりでもいいのよ。
ジ:まあな。でも、赤ん坊が寝ている家で接着剤のニオイをさせたりするの、やだからさ。おまえが入院中にでも、できれば壁紙とかやりたいんだよね。
テジ:もうアニキ。ヤバイよ、それ。親バカ、入ってるよ。
ジ:そんなことないって。おまえって、やな奴だな。
コーヒーを一口飲んで、ジュンスがテジョンを見た。
ジ:ところで、今日は何の用で来た?
テジ:うん・・・お袋がね、テスさんのこと、心配してるからさ。産後、一人じゃたいへんだろうって。よかったら、最初のうちは、こっちへ来て面倒見たほうがいいのかなあって。心配して、オレのところへ電話してきたの。直接、こっちへ電話すればいいんだけどさ。
ジ:・・・そう・・・。
テジ:なんか、アニキ、冷たいな。
ジ:・・・なんで?
テジ:だって、ぜんぜん、ありがたそうじゃないじゃない?
ジ:うん・・ありがとう・・・。
テジ:なんか、気が抜けるな・・・。
テ:テジョンさん、ありがとう。(笑顔で)すごく助かるわ。私にとっては二人めだし、なんとか一人でもできそうだけど、最初の2週間くらいは手伝って下さると、ホントに助かるわ。
テジ:そう? なら、そう言うよ。きっとお袋も喜ぶと思うよ。(微笑む)とにかく、初孫で楽しみにしてるからね。ちょっとでも、手伝いたいんだよ。
テ:ありがとう。・・・あとで私からもお礼の電話を入れておくわ。
テジ:うん。そうしてくれる? よかった。
そういいながら、テジョンはジュンスの顔を見た。ジュンスがぼんやりとした顔をしていた。
テジ:アニキ?
ジ:え?
テジ:大丈夫?
ジ:何が?
テジ:ちょっと変だよ。
ジ:大丈夫だよ。(笑う)
テジ:お袋が来てもいいんだろう?
ジ:え?・・・ああ・・・。ありがとう・・。
テジ:来てほしくないの?
ジ:そういうわけじゃないよ。
テジ:・・・ねえ、そんなことでも、親孝行してやってくれよ。
ジ:うん・・・わかってるよ。よろしくお願いしますって、お袋に伝えておいて。
テジ:うん。(じっとジュンスを見る)
テ:テジョンさん、子供部屋に泊まれるから、お母様には、いつでもお気軽にいらして下さいって言って。
テジ:(微笑んで)うん、ありがとう。
テジョンが帰る時、テスも夕飯の買い物がてら、一緒に家を出た。
テジ:ねえ、アニキ、ちょっと変じゃない?
テ:そう思う?
テジ:やっぱり、なんか変なの?
テ:うん。最近、ちょっとね。考え事してるのか・・・少しね。でも、聞いてもなんにも言ってくれないの。
テジ:そうか・・・。ねえ、交通事故の後遺症とかで、ぼんやりしちゃうのかな?
テ:ええ! やだ、テジョンさん! 怖い! そうだったらどうしよう・・・。(心配そうに見つめる)
テジ:違うよね。そうじゃないよね?
テ:やだ、心配になってきちゃった。
テジ:ごめん、大丈夫だよ。きっと大丈夫。
テ:そうお?
テジ:うん・・・たぶん。
テスとテジョンは、不安そうに顔を見合わせた。
ジュンスは、一人スタジオの窓を開けて、ぼうっと街の往来を見ている。
そして、やるせなさそうに、ため息をついて、窓を閉めた。
テスが帰ってくると、ジュンスはいつもとわからず、てきぱきと仕事をしている。
ルーペでポジを覗いている。
テ:ただいま~。ジュンス?
ジ:うん?
テ:・・・別に。元気ならいいの・・・。
ジ:え?(ルーペから顔をあげて、テスを見る)なんか言った?
テ:別に。
ジ:今日の夕飯は?
テ:お豆腐のチゲ。
ジ:そう、サンキュ!
テ:うん・・・。
ジュンスはまた仕事を続ける。
テスは、ジュンスの変わりない姿を見て、交通事故の後遺症というのも考えすぎかもしれないと、ちょっと安堵して2階へ上がっていった。
スタジオの仕事からすっかり足を洗ったテスは、ゆったりと昼を過ごしている。
今日は、朝早くからジュンスもロケに出かけていて、一人でのんびりとしている。
テスはダイニングテーブルでお茶を飲みながら、ベビー用品のレンタルカタログを眺め、必要なものに付箋を貼る。
ええと、これは買わないで借りるとして・・・。
ベビーベッドでしょ。マットレスに・・・ええと・・・。ああ、車のベビーシートもネンネの赤ちゃん用は借りるでしょ・・・。それから・・・。へえ・・・こんな、おもしろいものもあるんだ・・・。
レンタルでも結構かかるな。
ああ、それに、お母様用にお客布団も買わなくちゃ。
テスはとりあえず必要なものを書き出して、電卓をたたいて、合計金額を出す。
やだ・・・ずいぶん、かかっちゃうのね・・・。
チェストの引き出しから、預金通帳を取り出して、預金残高を確認する。
さて、どれだけ、使えるでしょうか・・・。
あれ・・・。
これって・・・。
500万ウォン?
最近の日付で、お金が引き出されている。
仕事関係のお金の出入りは、それ用の口座を使っているので、ここから流用するということはまずない。
カメラや機材の購入も減価償却が絡んでいるから、そっちの口座を使っている。
これはプライベートな口座だ。
こんな大金。何に使ったの?
ジュンスからは、お金をおろすとは、テスは一言も聞いていなかった。
今まで、二人の間で隠し事などなかった。
大きな買い物をする時は必ず二人で話し合ってきたのに・・・。
でも、こんな代金を支払う買い物をした形跡もなかったし・・・。それに、普段はカードを使うから、大金をおろすということは、ほとんどない。
出産費用だって、ちゃんと分けたし。
税金だって引き落としだ。
いったい、何に使ったのかしら・・・。
テスはその通帳をじっと見つめた。
夜遅く、外で車が止まる音がした。
ジュンスが帰ってきた。
テスはベッドから起き上がり、窓の外を見る。
ジュンスが車から出てきた。
預金通帳を取り出して、ダイニングテーブルに座り、テスは、ジュンスが2階へ上がってくるのをじっと待った。
3部へ続く。