固体分散体の溶出に対する緩衝液の影響:炭酸とリン酸の比較

2021-12-21
生体消化管内におけるpHは炭酸緩衝液で維持されています。一方、現在の溶出試験では、ほとんどの場合、リン酸緩衝液が用いられています。炭酸は、CO2からH2CO3への反応が遅いため、pH応答速度が遅くなります。したがって、薬物や添加剤が溶出する際、表面pHは、リン酸緩衝液と炭酸緩衝液で異なり、溶出速度も異なってきます。特に、腸溶性製剤の崩壊時間は、リン酸と炭酸で何倍も異なることが知られております。固体分散体においても、腸溶性製剤と同様のポリマーが使用されておりますので、リン酸緩衝液と炭酸緩衝液で溶出挙動が異なると考えられます。
そこで、各種ポリマーを用いて調製した固体分散体について、リン酸緩衝液と炭酸緩衝液で溶出挙動を比較しました。
結果、イオン性ポリマーを用いた固体分散体では、炭酸緩衝液中での溶出速度は、リン酸緩衝液中よりも2倍程度遅くなりました。生体における溶出を反映するには、炭酸緩衝液を用いる必要があると考えられました。
本研究では、落し蓋法により炭酸緩衝液のpHを維持しています。従来の炭酸緩衝液は、CO2バブリングによるpH維持が必要であり操作が煩雑でコストもかかりました。本研究で使用した落し蓋法は、発泡スチロールの落し蓋を試験液表面に浮かべるだけの、極めて簡単な方法です。また、CO2バブリングをしないので、界面活性剤(胆汁酸など)が泡立つこともありません。
従来、溶出試験にはリン酸緩衝液が用いられてきましたが、今後は、生体を反映した炭酸緩衝液を用いる方が良いと思います(少なくとも原薬や製剤の研究段階においては。。。)

Dissolution Kinetics of Nifedipine—Ionizable Polymer Amorphous Solid Dispersion: Comparison Between Bicarbonate and Phosphate Buffers
https://link.springer.com/article/10.1007/s11095-021-03153-2