共結晶表面析出とバルク析出では有効なポリマーが違う

2021-12-22
これまで、本ブログでも紹介してきましたように、塩や共結晶などの過飽和型原薬(supersaturable active pharmaceutical ingredient (sAPI))の溶出性には、原薬粒子表面におけるフリー体の析出(Particle surface solution mediated phase transformation (PS-SMPT))が大きく影響しています。したがって、PS-SMPTの抑制は製剤化にとって極めて重要です。また、PS-SMPTにおいては、sAPIの表面における不均一核形成が関与していることも明らかになってきました。

一方、有名な、スプリング&パラシュートアプローチ、という考え方によれば、sAPI粒子の溶出(=スプリング)は速やかであり、析出防止剤(パラシュート)によりバルク溶液中の析出防止することで、過飽和が形成&維持されるとされています。この考え方には、粒子の場合、表面析出が起きる前に粒子が溶出する、という暗黙の仮説が含まれています(粒子と比べて桁違いに大きなサイズの圧縮ディスクを用いた実験では、溶出時間が長いため表面析出が起きる。粒子の場合、溶出時間が数百倍も短いため、表面析出が起きないと仮定している。実際には、PS-SMPTが数秒以内に発生する場合も多数ある。溶出試験中のPS-SMPTの証明は、そう簡単ではなかったのですが。。。)
おそらくこの考え方に基づいて、析出抑制剤は、溶媒析出法(Solvent-shift法)により選択されてきたと思います。溶媒析出法では、バルク溶液中からのフリー体の析出に対する析出抑制剤の影響を測定しています。

そうすると、「PS-SMPTにおけるsAPI表面不均一核形成」と「バルク溶液中フリー体析出」では、析出抑制剤の影響が異なるのではないか?という疑問が出てきます。そこで、今回は、様々な析出防止ポリマーを用いて、両者への影響を比較しました。
結果、両者では、最も有効なポリマーが異なる可能性が示されました(原因はいくつか考えられ、現在検討中です。)

この実験結果は、溶媒析出法では最も有効なポリマーを選択できない可能性を示唆しており、処方設計に大きな意味を持っています。

Shigemura, M., Omori, M., & Sugano, K. (2021). Polymeric precipitation inhibitor differently affects cocrystal surface and bulk solution phase transformations. Journal of Drug Delivery Science and Technology, 103029.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1773224721007097